ゼノブレイド2の小説的な何か   作:natsuki

45 / 46
第四十五話 五百年前の亡霊①

 結局。

 シンともメツとも決着は付かなかった。

 巨神獣兵器の動力炉が停止したことで兵器そのものは機能を失い、俺たちは暴走を止めるという本来の目的だけは達成した。

 だけど。

 胸の奥には妙な違和感だけが残っていた。

 シンの言葉。

 メツの言葉。

 そして――ホムラの沈黙。

 あれからホムラはほとんど喋っていない。

 何かを考え込んでいるようだった。

 だから俺も無理に聞くことはしなかった。

 聞けなかった、と言った方が正しいかもしれない。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 夜。

 テンペランティアの遺跡地帯。

 岩陰で野営をしていると、焚火の向こうからニアの声が聞こえてきた。

 

「……で?」

「え?」

「だから、どう思ったのさ」

 

 どう思ったのか。

 そう聞かれても困る。

 

「何が?」

「シンの話」

「ああ……」

 

 俺は少し考える。

 

「よく分からなかった」

「はあ?」

「だってそうだろ」

 

 俺は頭を掻いた。

 

「楽園は無いって言いたいのかと思ったら違うし」

「うん」

「ホムラのことを責めてるみたいだったけど、それとも違う気がするし」

「うん」

「結局何が言いたかったんだ?」

 

 すると。

 ニアは深い溜息を吐いた。

 

「それ、本気で言ってる?」

「え?」

「レックスってたまに信じられないくらい鈍いよね」

「何でだよ!」

「何ででもだよ!」

 

 何故怒られたのか分からない。

 俺は思わず助けを求めるようにビャッコを見る。

 しかし。

 ビャッコは視線を逸らした。

 裏切ったな。

 

「でも」

 

 ニアが少しだけ真面目な顔になる。

 

「一つだけ分かる」

「何が?」

「あいつはホムラを恨んでるわけじゃない」

「……」

「むしろ逆」

「逆?」

「あいつ、今でもホムラのことを心配してる」

 

 俺は言葉を失った。

 敵なのに。

 何度も戦った相手なのに。

 そんなことがあるのだろうか。

 

「昔の知り合いなんだろ」

 

 ニアは空を見上げる。

 

「それも、たぶん私らが想像してるよりずっと長い付き合いの」

 

 五百年前。

 聖杯大戦。

 その言葉が頭をよぎる。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 夜も更けてきた頃。

 俺は一人で少し離れた場所へ来ていた。

 眠れなかったからだ。

 空には満天の星。

 テンペランティアには草木が少ない。

 だからだろうか。

 空がやけに近く感じた。

 

「……寝ないのですか?」

 

 振り返る。

 そこにはホムラがいた。

 

「あ、ホムラ」

 

 少しだけ気まずい。

 いや。

 かなり気まずい。

 シンの話があった後だからだ。

 ホムラも同じことを思ったのか、小さく苦笑した。

 

「何だか変な感じですね」

「そうかな?」

「そうですよ」

 

 そう言って俺の隣に腰を下ろす。

 しばらく沈黙。

 焚火の音だけが遠くで聞こえている。

 やがて。

 ホムラがぽつりと言った。

 

「レックス」

「ん?」

「あなたは私を信じていますか?」

 

 その質問は予想外だった。

 

「当たり前だろ」

 

 即答だった。

 考えるまでもない。

 

「ホムラを信じなかったら誰を信じるんだよ」

「……」

 

 ホムラは黙った。

 顔は見えない。

 けれど。

 肩が少しだけ震えているように見えた。

 

「ありがとうございます」

 

 それだけ言う。

 だけど。

 何故だろう。

 その声は少しだけ悲しそうだった。

 

「ホムラ」

「はい」

「シンが言ってたことだけどさ」

 

 俺は意を決して聞いた。

 

「五百年前に何があったんだ?」

 

 風が吹いた。

 長い赤髪が揺れる。

 ホムラは答えない。

 ただ静かに星空を見上げていた。

 

「……話したくないなら無理には聞かない」

「いいえ」

 

 ホムラは首を振った。

 

「いつかは話さなければならないことです」

 

 その言葉に俺は息を呑む。

 ホムラはゆっくりと続けた。

 

「レックス」

「うん」

「もし」

 

 その声音はどこか遠かった。

 

「もし、私があなたの思っているような存在ではなかったとしても」

「?」

「もし、私がこの世界に災厄をもたらした存在だったとしても」

 

 俺は眉をひそめる。

 何を言っているんだろう。

 

「それでも」

 

 ホムラは俺を見る。

 紅い瞳。

 どこか怯えているような瞳。

 

「あなたは私を信じてくれますか?」

 

 俺は少しだけ考えた。

 本当に少しだけ。

 そして答える。

 

「うん」

「……」

「だってホムラはホムラだろ」

「え?」

「昔何をしたとか関係ないよ」

 

 俺は笑った。

 

「今のホムラを俺は知ってる」

 

 料理が得意で。

 優しくて。

 ちょっと心配性で。

 たまに無茶をして。

 困っている人を放っておけなくて。

 そういうホムラを。

 俺は知っている。

 

「だから大丈夫」

「レックス……」

 

 ホムラは目を伏せた。

 そして。

 小さく。

 本当に小さく呟いた。

 

「あなたはずるいです」

「え?」

「いえ」

 

 ホムラは立ち上がった。

 

「何でもありません」

 

 そう言って微笑む。

 だけど。

 その笑顔はどこか泣きそうに見えた。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 その夜。

 誰も知らない場所で。

 一人の少女が目を開いた。

 深い深い意識の底。

 光も音も届かない場所。

 そこに彼女はいた。

 

「……レックス」

 

 黄金の瞳。

 金色の髪。

 ホムラによく似た少女。

 彼女は静かに呟く。

 

「困ったな」

 

 そして小さく笑った。

 

「そのままだと、本当に全部受け止めちゃうじゃない」

 

 少女は目を閉じる。

 まだ早い。

 まだ出る時ではない。

 だけど。

 確実にその時は近付いていた。

 五百年前の記憶。

 天の聖杯の真実。

 そして――。

 世界を焼いた光の記憶が。

 再び動き始めようとしていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。