ゼノブレイド2の小説的な何か   作:natsuki

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第四十六話 五百年前の亡霊②

 

 

 翌朝。

 俺は妙な夢を見て目を覚ました。

 燃えていた。

 何かが。

 空も。

 大地も。

 海も。

 全部。

 真っ白な光に飲み込まれていた。

 悲鳴が聞こえる。

 誰かが泣いている。

 誰かが叫んでいる。

 なのに。

 俺はその声の主を見ることができない。

 ただ。

 光だけがあった。

 

「――ックス!」

 

 はっと目を開ける。

 

「レックス!」

 

 目の前にはニア。

 少し怒った顔をしている。

 

「やっと起きた」

「え?」

「何回呼んだと思ってるのさ」

 

 どうやらかなり深く眠っていたらしい。

 額には汗。

 心臓も妙に早く鼓動していた。

 

「大丈夫?」

「……ああ」

 

 自分でもよく分からない。

 ただ。

 妙な夢だった。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 出発してからしばらく。

 テンペランティアの荒野を歩きながらも、俺は昨夜のホムラとの会話を思い出していた。

 災厄。

 五百年前。

 聖杯大戦。

 シンの言葉。

 全部が繋がりそうで繋がらない。

 そんな時だった。

 

「レックス」

 

 隣を歩いていたホムラが声を掛ける。

 

「昨日の話ですが」

「うん」

 

 ホムラは少し迷うような表情を見せた。

 そして。

 

「少しだけ、お話しします」

 

 そう言った。

 俺は思わず足を止める。

 ホムラは前を向いたまま続けた。

 

「五百年前」

「うん」

「私は一度、世界を滅ぼしかけました」

 

 誰も喋らなくなった。

 風の音だけが聞こえる。

 ジークも。

 トラも。

 ニアも。

 全員が黙っている。

 

「えっと……」

 

 最初に口を開いたのはジークだった。

 

「今、とんでもねえこと言わんかったか?」

「事実です」

 

 ホムラは否定しなかった。

 

「聖杯大戦の末期。私の力は暴走しました」

「暴走……」

「多くの人が死にました」

 

 静かな声だった。

 感情を押し殺した声。

 何度も何度も自分を責め続けた人の声。

 

「その結果、私は眠ることを選びました」

「眠る?」

「二度と目覚めないつもりでした」

 

 俺は思い出す。

 古代船で見た棺。

 沈んでいた船。

 そしてホムラとの出会い。

 あの時。

 ホムラは確かに言った。

 楽園へ行きたいと。

 でも。

 それだけじゃなかったのかもしれない。

 

「レックス」

 

 ホムラが言う。

 

「あなたはアデルという名前を知っていますか?」

 

 もちろんだ。

 

「英雄アデルだろ?」

「はい」

 

 そこでホムラは少し微笑んだ。

 懐かしむような笑みだった。

 

「私のドライバーでした」

 

 その言葉に。

 俺は足を止めた。

 

「え?」

「へ?」

「は?」

「も?」

 

 全員の声が綺麗に重なった。

 ホムラが少し困った顔をする。

 

「そんなに驚くことですか?」

「驚くよ!」

 

 俺は叫んだ。

 

「英雄アデルって五百年前だぞ!?」

「そうですね」

「いや、そうですねじゃなくて!」

 

 ホムラは真面目に首を傾げる。

 本気で何がおかしいのか分かっていないらしい。

 ブレイドだから当然なんだけど。

 改めて考えると凄い話だ。

 伝説の英雄が。

 ホムラのドライバーだった。

 つまり。

 俺はその次。

 アデルの後継者みたいなものになるのだろうか。

 

「……違います」

「え?」

「アデルとあなたは違います」

 

 心を読まれた。

 

「顔に書いてありました」

 

 そんなに分かりやすいかな俺。

 ニアが思いっきり頷いていた。

 ひどい。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 昼過ぎ。

 一行は崩れた神殿跡で休憩を取っていた。

 テンペランティアにはこういう遺跡が多い。

 かつて戦争があった証拠だ。

 その時だった。

 

「ホムラ」

 

 メレフが声を掛ける。

 

「一つ聞いても良いかな?」

「はい」

「シンとの関係だ」

 

 空気が変わる。

 ホムラは少しだけ目を伏せた。

 

「……ラウラという女性がいました」

 

 知らない名前だった。

 

「シンのドライバーです」

「ドライバー」

「私達は仲間でした」

 

 その言葉に。

 どこか納得する。

 だからか。

 だから昨日のシンは。

 あんな顔をしていたのか。

 

「ラウラは優しい人でした」

 

 ホムラは遠くを見る。

 まるで昔を思い出しているように。

 

「誰よりも優しくて」

「……」

「誰よりも強い人でした」

「それからファンも」

 

 ホムラはそこで言葉を切った。

 まるで続きを話すべきか迷うように。

 

「ファン?」

「……いえ」

「その人は」

 

 俺は恐る恐る聞く。

 

「亡くなったのか?」

「はい」

 

 短い返事。

 だけど。

 それだけで十分だった。

 シンが抱えているものの重さが少しだけ分かる。

 五百年。

 五百年間ずっと。

 大切な人を失ったまま。

 生きてきた。

 

「だからシンは……」

「私を許せないのでしょう」

 

 ホムラが言う。

 しかし。

 俺は首を振った。

 

「違うと思う」

 

 ホムラが驚いたように俺を見る。

 

「昨日のシン」

「……」

「ホムラを憎んでるようには見えなかった」

 

 むしろ。

 もっと別の何かだった。

 怒りだけじゃない。

 悲しみだけでもない。

 ずっと昔に置いてきたはずの何かを。

 手放せない人の顔だった。

 

「たぶん」

 

 俺は空を見上げる。

 

「今でも仲間だと思ってるんじゃないかな」

 

 ホムラは何も言わなかった。

 ただ。

 少しだけ目を伏せた。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 その頃。

 テンペランティアのさらに奥地。

 崩れた戦艦の残骸の上。

 シンは一人で立っていた。

 風が吹く。

 静かな午後だった。

 

「らしくないな」

 

 背後から声がする。

 振り返らなくても分かった。

 

「メツ」

「何だよ」

 

 メツは笑う。

 

「説教でも始めるのかと思ったぜ」

「……」

「結局何も話さなかったじゃねえか」

 

 シンは答えない。

 しばらく沈黙。

 やがて。

 

「レックスは」

 

 ぽつりと呟く。

 

「あの頃とは違う」

「は?」

「ラウラとも」

「……」

「アデルとも違う」

 

 メツが珍しく黙った。

 シンは遠くを見る。

 雲海の彼方。

 世界樹が見える。

 

「だからこそ」

 

 その声は小さかった。

 

「少しだけ知りたくなった」

 

 何を。

 そう問う前に。

 シンは歩き出していた。

 

「行くぞ」

「どこへ?」

「世界樹だ」

 

 メツは肩を竦める。

 

「へいへい」

 

 そして。

 二人もまた。

 運命の待つ場所へ向かって歩き始めた。

 

 

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