ゼノブレイド2の小説的な何か   作:natsuki

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第四十八話 五百年前の亡霊④

 

 遺跡を出たのは昼前だった。

 空は高い。

 テンペランティア特有の乾いた風が吹いている。

 遠くには世界樹。

 相変わらず馬鹿みたいに大きい。

 近付いているはずなのに。

 まるで遠ざかっているみたいだった。

 

「あとどれくらいなんだろうな」

 

 思わず呟く。

 

「世界樹ですか?」

 

 ホムラが聞き返した。

 

「うん」

「さあ」

 

 少しだけ笑う。

 

「私も歩いて行くのは初めてですから」

「それもそうか」

 

 何だか変な感じだ。

 ホムラは楽園へ行きたいと言った本人なのに。

 実際の楽園を見たことはない。

 俺もない。

 ニアもない。

 誰もない。

 なのに。

 みんなそこを目指している。

 不思議な話だった。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 その日の夕方。

 一行は崖上の見晴らしの良い場所で休憩していた。

 メレフとジークは周辺警戒。

 ニアはビャッコと何やら話している。

 トラは相変わらず機械いじりだ。

 そして俺は。

 岩の上に座って空を眺めていた。

 

「隣、いいですか?」

 

 カグツチだった。

 

「もちろん」

 

 彼女は静かに腰を下ろした。

 しばらく沈黙。

 やがて。

 

「優しい方ですわね」

「え?」

「ホムラのことです」

 

 少し驚いた。

 

「そうかな」

「そうですわ」

 

 カグツチは微笑む。

 

「ですが、少々危うくもあります」

「危うい?」

「相手を信じ過ぎる」

 

 その言葉に。

 何故かシンの顔が浮かんだ。

 昨日。

 あいつも似たようなことを言っていた。

 何も知らないまま信じるな、と。

 

「俺は」

 

 少し考える。

 

「信じたいんだと思う」

「……」

「疑ってばかりだと寂しいだろ」

 

 カグツチは何も言わなかった。

 けれど。

 どこか困ったように笑っていた。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 その夜だった。

 また夢を見た。

 今度は前よりはっきりしていた。

 知らない場所。

 広い草原。

 夕日。

 風。

 そして。

 一人の少女。

 栗色の髪。

 優しそうな瞳。

 年は俺とそう変わらない。

 その少女は誰かに向かって笑っていた。

 

「シン」

 

 その名前を聞いた瞬間。

 胸が妙に苦しくなった。

 少女の隣には銀髪の少年。

 今よりずっと若いシン。

 穏やかだった。

 今のシンからは想像できないくらい。

 

「――」

 

 少女が何かを言う。

 でも聞こえない。

 声だけが届かない。

 その代わり。

 感情だけが伝わってきた。

 暖かい。

 優しい。

 そして――。

 大切だ。

 その瞬間。

 景色が崩れる。

 空が裂ける。

 光。

 白い光。

 何もかもを呑み込む終末の光。

 少女が振り返る。

 悲しそうな顔で。

 泣きそうな顔で。

 そして。

 

「お願い」

 

 今度は聞こえた。

 確かに。

 俺へ向かって。

 

「――を助けて」

 

 そこで夢は終わった。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 目を覚ます。

 真夜中だった。

 

「またか……」

 

 嫌な汗が出ている。

 胸も苦しい。

 夢なのに。

 夢とは思えなかった。

 

「ラウラ……」

 

 自然に名前が出た。

 会ったこともないのに。

 どうして分かったんだろう。

 

「それは夢ではありません」

 

 突然。

 声がした。

 俺は飛び起きる。

 誰もいない。

 みんな眠っている。

 ホムラも。

 ニアも。

 メレフも。

 誰も起きていない。

 

「誰だ?」

 

 返事はない。

 けれど。

 確かに聞こえた。

 少女の声だった。

 

「まだ思い出してはいけません」

「何をだ?」

「今はまだ」

 

 風が吹く。

 それだけだった。

 もう声は聞こえない。

 まるで最初から誰もいなかったみたいに。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 一方。

 遠く離れた場所。

 崩れた神殿の屋上で。

 シンは一人座っていた。

 月を見ている。

 静かな夜だった。

 その手には古びた花飾り。

 何度も修復された跡がある。

 五百年前のものではない。

 もっと新しい。

 せいぜい十年か二十年ほど。

 

「まだ持っていたのか」

 

 メツが現れる。

 シンは答えない。

 

「物持ちが良いな」

「……」

「らしくねえ」

 

 沈黙。

 やがて。

 シンは花飾りを見つめたまま呟く。

 

「捨てられなかった」

 

 それだけだった。

 メツは珍しく何も言わなかった。

 ただ。

 少しだけ視線を逸らした。

 まるで。

 それ以上は踏み込まない方が良いと知っているように。

 

 

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