翌朝。
目が覚めても、夢の内容は消えなかった。
普通なら忘れているはずなのに。
ラウラの顔。
シンの顔。
あの草原。
あの夕日。
全部が妙にはっきりしている。
「レックス?」
ホムラが不思議そうな顔をした。
「大丈夫ですか?」
「え?」
「少し顔色が悪いです」
そう言われて初めて気付く。
昨夜はほとんど眠れなかった。
「大丈夫だよ」
そう答えたものの。
本当は大丈夫じゃなかった。
夢の最後。
確かに誰かが言った。
――助けて。
あれは誰だったんだろう。
◇◇◇
遺跡群を抜けた頃。
トラが突然立ち止まった。
「どうした?」
「何かあるも」
耳をぴくぴく動かしている。
その先を見る。
崖の下。
半ば土砂に埋もれた巨大な構造物があった。
「船……か?」
違う。
船に似ている。
だがどこか違う。
巨神獣文明のものとも思えない。
「こんな技術体系は見たことがありません」
カグツチが呟く。
メレフも珍しく眉をひそめていた。
「アーケディアにも記録は無い」
全員で近付く。
金属だ。
しかも。
何百年も放置されていたとは思えないほど頑丈だった。
「不思議だな」
俺が触れた瞬間だった。
――ピッ。
小さな音。
全員が固まる。
「今の何だ?」
「レックス!」
ホムラが叫んだ。
次の瞬間。
壁面が青白く光る。
見たことのない文字。
見たことのない映像。
そして。
知らない都市。
空を飛ぶ乗り物。
巨大な建造物。
人、人、人。
見たこともない世界。
「何だよ……これ」
誰も答えられない。
映像は数秒で消えた。
静寂だけが残る。
「今の……」
ニアが呟く。
「巨神獣の上じゃなかったよね?」
俺もそう思った。
あれは。
アルストじゃない。
少なくとも今の世界ではない。
まるで。
全く別の世界だった。
◇◇◇
その日の夜。
ホムラは一人で眠れずにいた。
焚火の火が小さく揺れている。
視線は世界樹の方向。
その瞳には不安があった。
「やはり始まっていますか……」
誰にも聞こえない声。
昨夜。
レックスが見た夢。
そして今日。
遺跡で起きた現象。
偶然ではない。
そんな気がしていた。
「レックス」
小さく名前を呼ぶ。
今眠っている少年を。
「あなたは一体……」
言葉は続かない。
アデルの面影はない。
性格も違う。
生き方も違う。
なのに。
時々。
どうしようもなく重なって見える。
「困りましたね」
ホムラは苦笑した。
「本当に」
その時だった。
風が吹く。
焚火が揺れる。
そして。
一瞬だけ。
ホムラの隣に誰かが座っているように見えた。
金色の髪。
金色の瞳。
もう一人の自分。
だが。
次の瞬間には消えていた。
「まだですよ」
ホムラは静かに言う。
「もう少しだけ待ってください」
返事はない。
当然だ。
けれど。
ホムラには分かっていた。
眠っているわけではない。
ずっと見ている。
ずっと待っている。
もう一人の天の聖杯が。
◇◇◇
一方。
世界樹へ続く別ルート。
シン達もまた進んでいた。
珍しく。
シンの足が止まる。
「どうした?」
メツが振り返る。
シンは答えない。
ただ。
遠くを見る。
そこには何もない。
荒野しかない。
しかし。
シンの表情が僅かに変わった。
「……」
驚き。
戸惑い。
そして。
安堵。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
そんな感情が浮かんだ。
「気のせいか」
そう呟く。
だが。
その声には迷いがあった。
五百年。
そんなはずはない。
あるはずがない。
なのに。
今。
確かに懐かしい気配を感じた。
「シン?」
「何でもない」
歩き出す。
だが。
無意識に胸元へ手が伸びていた。
そこには。
古い花飾りがしまわれていた。
そして。
誰も知らない場所で。
一輪の白い花が風に揺れる。
まるで。
遠い再会の日を待つように。