ゼノブレイド2の小説的な何か   作:natsuki

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第五十二話 受け継がれた想い

 その日も空は晴れていた。

 テンペランティアの荒野を抜け、世界樹へ向かう道を進む。

 以前より近付いているはずなのに。

 世界樹は相変わらず巨大で。

 まるで空そのものを支えているように見えた。

 

「本当にあそこまで行くんだよな……」

 

 思わず呟く。

 

「今さら何を言ってるんだい」

 

 ニアが呆れたように笑った。

 

「いや、だってさ」

 

 改めて見上げる。

 

「でかすぎるだろ」

「それは否定できませんわね」

 

 カグツチも苦笑していた。

 少しだけ。

 皆の空気が和らぐ。

 けれど。

 俺の胸の奥にある違和感は消えなかった。

 夢。

 ラウラ。

 予言官。

 そして。

 イーラ王家の紋章が刻まれた金属片。

 あれからずっと考えている。

 だが答えは出ない。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 昼。

 一行は小さな渓谷で休憩を取っていた。

 俺は一人、水辺に腰を下ろす。

 冷たい水が流れている。

 顔を映してみる。

 そこにいるのはいつもの自分だ。

 けれど。

 最近は時々思う。

 本当に俺は俺なのだろうか、と。

 

「レックス」

 

 振り返る。

 ホムラだった。

 

「隣、よろしいですか?」

「もちろん」

 

 ホムラは静かに腰を下ろした。

 しばらく沈黙。

 水音だけが聞こえる。

 

「夢を見たのですね」

 

 不意に言われた。

 

「……分かる?」

「何となくです」

 

 少しだけ微笑む。

 俺は苦笑した。

 どうやら隠し事は苦手らしい。

 

「またラウラだった」

 

 ホムラの表情が僅かに変わる。

 

「どんな夢でしたか?」

「家だった」

「家?」

「小さな家」

 

 思い出しながら話す。

 

「暖炉があって」

「うん」

「ラウラとシンがいて」

 

 ホムラは黙って聞いている。

 

「二人とも笑ってた」

 

 そこで言葉を切る。

 胸の奥が少し苦しくなった。

 

「今のシンじゃ考えられないくらい」

 

 ホムラは目を閉じた。

 風が吹く。

 赤い髪が揺れた。

 

「そうですね」

 

 小さな返事だった。

 

「昔のシンは、よく笑う人でした」

 

 俺は思わず振り返る。

 

「本当に?」

「ええ」

 

 少しだけ懐かしそうに笑う。

 

「無口でしたけれど」

「今も無口だな」

「そうですね」

 

 ホムラが笑った。

 珍しい。

 本当に珍しい笑い方だった。

 

「ラウラの前では少し違いました」

「そうなんだ」

「はい」

 

 その声は優しかった。

 まるで遠い昔を思い出しているように。

 

 

     ◇◇◇

 

 

「ラウラって」

 

 俺は聞いた。

 

「そんなに凄い人だったのか?」

 

 ホムラは少し考える。

 そして。

 

「強い人でした」

 

 と言った。

 

「優しくて」

「うん」

「弱い人を放っておけなくて」

「うん」

「誰かのために泣ける人でした」

 

 静かな声だった。

 

「だから皆、彼女が好きでした」

「皆?」

「シンも」

 

 ホムラは少し笑う。

 

「私も」

 

 その言葉に嘘は無かった。

 

「アデルも」

 

 懐かしそうに。

 

「ミノチも」

 

 少し寂しそうに。

 

「ファンも」

 

 そう言った。

 俺はその名前に反応する。

 

「ファンさん?」

「ええ」

「知り合いだったんだな」

 

 ホムラは頷いた。

 

「大切な友人です」

 

 その言葉に。

 何故だろう。

 少しだけ違和感を覚えた。

 友人。

 それだけじゃない気がした。

 けれど。

 うまく言葉にはできない。

 

「昔から知ってるのか?」

「はい」

「どれくらい?」

 

 何気なく聞いた。

 すると。

 ホムラは少し困ったような顔になる。

 

「とても長く、です」

 

 それだけだった。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 その夜。

 レックス達が眠った後。

 ホムラは一人で焚火を見つめていた。

 揺れる炎。

 静かな夜。

 誰も起きていない。

 

「ファン……」

 

 小さく呟く。

 返事はない。

 当然だ。

 けれど。

 ホムラの顔はどこか安堵していた。

 

「あなたなら」

 

 炎を見つめながら言う。

 

「きっと大丈夫ですね」

 

 その言葉の意味を知る者はここにはいない。

 

 

 

     ◇◇◇

 

 

 

 一方。

 世界樹へ続く別の道。

 シン達もまた歩いていた。

 夜営の最中。

 メツは珍しく酒瓶を片手に空を見上げていた。

 

「なあ」

 

 不意に言う。

 

「五百年って長かったか?」

 

 シンは答えない。

 

「俺は長かった」

 

 メツは笑う。

 

「退屈で死にそうだったぜ」

「そうか」

「そうだ」

 

 しばらく沈黙。

 そして。

 メツは何気なく続けた。

 

「お前はどうだ?」

 

 シンは空を見上げる。

 夜空。

 遠い星。

 昔と何も変わらない景色。

 

「……分からない」

 

 その答えに。

 メツは少しだけ目を細めた。

 

「そうかよ」

 

 それ以上は聞かなかった。

 聞く必要が無かったからだ。

 シンの手が。

 無意識に胸元へ伸びていた。

 そこに何があるのか。

 メツは知っていた。

 だから何も言わなかった。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 そして。

 誰も知らない場所。

 月明かりの下で。

 一人の女性が白い花へ水をやっていた。

 静かな夜だった。

 女性は空を見上げる。

 世界樹の方角を。

 

「もう少しですね」

 

 穏やかな声。

 誰へ向けた言葉なのか。

 その答えを知る者はまだいない。

 ただ。

 長い長い時間を越えて。

 止まっていた運命が少しずつ動き始めていた。

 

 

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