ゼノブレイド2の小説的な何か   作:natsuki

53 / 53
第五十三話 英雄の残影

 

 翌朝。

 俺達は再び世界樹を目指して歩き始めた。

 空は快晴。

 テンペランティアの荒野も終わりが近い。

 順調な旅路。

 本来ならそう思うべきなのだろう。

 だが。

 俺の頭の中には別のことがあった。

 予言官。

 ラウラの夢。

 そして。

 イーラ王家の紋章が刻まれた金属片。

 俺はそれを取り出した。

 掌ほどの大きさ。

 古びているのに傷一つない。

 

「また見てるのかい?」

 

 ニアだった。

 

「うん」

「何か分かった?」

「全然」

 

 正直に答える。

 すると。

 

「それなら専門家に聞くのが一番だも」

 

 後ろからトラが言った。

 

「専門家?」

「ホムラなら知っているかもしれないも」

 

 確かにそうだ。

 五百年前を知っているんだから。

 俺は思わず振り返った。

 

 

     ◇◇◇

 

 

「イーラ王家の紋章です」

 

 ホムラは即答した。

 やっぱり知っていた。

 

「アデルの家系のものですよね?」

「はい」

 

 俺は金属片を見つめる。

 

「何でこんな物があの遺跡にあったんだろう」

「……」

 

 ホムラは答えない。

 

「ホムラ?」

「分かりません」

 

 そう言った。

 だが。

 少しだけ間があった。

 俺は見逃さなかった。

 

「本当に?」

 

 ホムラは困ったように笑う。

 

「レックス」

「うん」

「今はまだ、分からない方が良いこともあります」

「それは知ってる」

 

 俺は苦笑する。

 

「最近みんなそればっかりだ」

 

 予言官も。

 ホムラも。

 何かを知っている。

 だけど教えてくれない。

 それが少しだけもどかしかった。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 昼頃。

 一行は崖上の休憩所で足を止めた。

 風が強い。

 遠くに世界樹が見える。

 

「アデルってどんな人だったんだ?」

 

 ふと思って聞いてみた。

 ホムラがこちらを見る。

 

「英雄ですよね?」

「そうですね」

 

 少し考える。

 そして。

 

「優しい人でした」

 

 そう言った。

 

「ラウラと似たこと言うな」

「似ていましたから」

 

 ホムラは微笑む。

 

「誰かを見捨てることができなくて」

「うん」

「無茶ばかりして」

「うん」

「周りを振り回して」

「うん」

「最後には皆を助けてしまう人でした」

 

 何だか。

 どこかで聞いたような人物像だった。

 

「それって」

 

 ニアが俺を見る。

 

「誰かに似てないかい?」

「え?」

「気付いてないの?」

 

 ジークまで笑い始める。

 

「まさか」

「まさかだな」

 

 メレフまで頷いた。

 

「え、何?」

 

 全員が変な顔をしている。

 俺だけ分かっていない。

 

「鈍感だも」

 

 トラが呆れていた。

 ひどい。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 ホムラはそんな皆を見ながら静かに笑った。

 だが。

 その瞳の奥には複雑な色があった。

 似ている。

 確かに似ている。

 優しさも。

 危うさも。

 誰かのために無茶をするところも。

 けれど。

 決定的に違う。

 アデルは英雄だった。

 だが。

 レックスは。

 

「……」

 

 ホムラは言葉を飲み込む。

 まだ早い。

 今はまだ。

 彼自身が答えを見つけなければならない。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 一方。

 世界樹へ続く別ルート。

 シン達もまた進んでいた。

 珍しく、シンは足を止める。

 

「どうした?」

 

 メツが聞く。

 

「……」

 

 シンは答えない。

 視線は遠く。

 世界樹の方向。

 

「またレックスのことか?」

「違う」

 

 即答だった。

 だが。

 メツは笑った。

 

「分かりやすいな」

「黙れ」

「昔のお前なら放っておいた」

 

 シンは眉をひそめる。

 

「何が言いたい」

「気になってるんだろ」

 

 沈黙。

 図星だった。

 

「似てるからな」

 

 メツが言う。

 

「誰に?」

 

 シンは答えなかった。

 だが。

 脳裏には一人の少女がいた。

 夕暮れの草原。

 笑顔。

 優しい声。

 そして。

 どうしようもないほど真っ直ぐな生き方。

 

「……馬鹿だ」

 

 ぽつりと呟く。

 

「それは否定しねえ」

 

 メツが笑った。

 シンは少しだけ目を閉じる。

 何故なのか。

 分からない。

 だが。

 レックスを見ていると——五百年前を思い出す。

 忘れたはずのものを。

 捨てたはずの願いを。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 その夜。

 レックスは再び夢を見る。

 草原だった。

 夕暮れだった。

 そして。

 ラウラがいた。

 今までと違う。

 今度ははっきりとこちらを見ている。

 まるで。

 最初から俺がそこにいることを知っていたかのように。

 

「やっと来たね」

 

 ラウラが笑う。

 俺は息を呑んだ。

 夢なのに。

 夢ではない気がした。

 

「待ってたよ」

 

 その言葉と共に。

 景色がゆっくりと光に包まれていく。

 

 

 

 

 

 

 五百年前の記憶は。

 まだ終わらない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。