ゼノブレイド2の小説的な何か   作:natsuki

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第五十四話 夕暮れの草原

 

 風が吹いていた。

 暖かい風だった。

 どこまでも続く草原。

 夕日に染まる空。

 揺れる草。

 そして。

 一人の少女。

 ラウラはそこにいた。

 まるで最初から待っていたみたいに。

 穏やかに笑っている。

 

「やっと来たね」

 

 俺は言葉を失った。

 夢だ。

 たぶん。

 だけど。

 今までの夢とは何かが違う。

 妙に現実感がある。

 

「えっと……」

 

 何から聞けばいいのか分からない。

 ラウラは少しだけ笑った。

 

「そんな顔しなくても大丈夫だよ」

「大丈夫って言われても」

「うん」

 

 くすくす笑う。

 何故だろう。

 初めて会うはずなのに。

 昔から知っている人みたいだった。

 

「俺のこと知ってるのか?」

 

 最初に聞いたのはそれだった。

 ラウラは少し考える。

 そして。

 

「知ってるとも言えるし」

「うん」

「知らないとも言えるかな」

「どっちだよ」

 

 思わず突っ込む。

 ラウラは楽しそうに笑った。

 その笑顔を見ていると。

 何だか調子が狂う。

 

「少なくとも」

 

 ラウラは言った。

 

「レックスっていう男の子は知ってる」

「俺?」

「うん」

「会ったことないだろ」

「そうだね」

 

 不思議な答えだった。

 

「でも知ってる」

 

 夕日の中。

 ラウラは遠くを見る。

 どこか寂しそうに。

 

「ずっと前から」

「ここは何なんだ?」

 

 俺は周囲を見回した。

 風。

 草原。

 夕暮れ。

 どこまでも穏やかな景色。

 

「思い出の場所だよ」

「誰の?」

「私達の」

 

 私達。

 その言葉に引っ掛かる。

 ラウラは少しだけ微笑んだ。

 

「シンと」

 

 懐かしそうに。

 

「みんなとの」

 

 優しい声だった。

 五百年前。

 まだ全てが終わっていなかった頃。

 きっと。

 ここで笑い合ったのだろう。

 

「シンのこと」

 

 ラウラが言う。

 俺は顔を上げた。

 

「どう思う?」

「敵だ」

 

 即答だった。

 ラウラは少し困った顔をする。

 

「うん」

「でも」

 

 俺は続けた。

 

「それだけじゃない気もする」

 

 ホムラの話。

 夢の中のシン。

 そして。

 あの日の表情。

 どれも今のシンとは違った。

 

「悲しそうなんだ」

 

 ラウラは静かに聞いている。

 

「ずっと昔から」

「うん」

「何かを失ったままみたいに」

 

 言葉が終わる。

 しばらく沈黙。

 風だけが吹く。

 

「ありがとう」

 

 ラウラは小さく言った。

 

「え?」

「そう思ってくれて」

 

 そして。

 少しだけ目を伏せる。

 

「優しいね」

「別に」

 

 照れ臭くなって目を逸らした。

 ラウラは笑った。

 どこかホムラに似た笑い方だった。

 

「お願いがあるの」

 

 不意に。

 ラウラの声が真剣になる。

 俺は顔を上げた。

 

「お願い?」

「うん」

 

 夕日が揺れる。

 風が止まる。

 世界そのものが静かになったようだった。

 

「もし」

 

 ラウラは言う。

 

「もし、シンが間違ったとしても」

 

 その瞳は真っ直ぐだった。

 

「嫌わないであげて」

 

 俺は答えられなかった。

 簡単な話じゃない。

 シンは敵だ。

 沢山の人を傷付けてきた。

 その事実は変わらない。

 

「許してなんて言わない」

 

 ラウラは言った。

 

「でも」

 

 その笑顔は少し悲しかった。

 

「本当は優しい人だから」

 

 胸が痛んだ。

 何故なのか分からない。

 けれど。

 その言葉には嘘が無かった。

 

「ラウラ」

「なに?」

「俺は何なんだ?」

 

 気付けば聞いていた。

 

「どうして俺がこんな夢を見るんだ」

「どうして予言官は俺を知ってるんだ」

「どうして――」

 

 ラウラは静かに首を振る。

 

「ごめんね」

 

 その声は優しかった。

 

「今はまだ言えない」

 

 またそれだ。

 最近みんなそればっかりだ。

 思わず苦笑する。

 ラウラも笑った。

 

「でも一つだけ」

 

 夕日が揺れる。

 

「あなたはあなただよ」

 

 真っ直ぐな声だった。

 

「誰かの代わりじゃない」

「……」

「誰かの生まれ変わりでもない」

 

 その言葉に。

 何故だろう。

 少しだけ安心した。

 

「レックスはレックス」

 

 ラウラは笑う。

 

「だから大丈夫」

 

 景色が白く染まり始める。

 夢が終わる。

 

「待って!」

 

 思わず叫んだ。

 

「また会えるのか!?」

 

 ラウラは振り返る。

 夕日の中で。

 穏やかに。

 優しく、笑った。

 

「うん」

 

 そして。

 最後に一言だけ残した。

 

「今度はお友達も連れてくるね」

「え?」

 

 その意味を聞く前に。

 世界は光に包まれた。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 目が覚める。

 朝だった。

 眩しい朝日。

 いつもの天幕。

 いつもの仲間達。

 夢だった。

 たぶん。

 だけど。

 胸の奥には確かな温もりが残っていた。

 そして。

 理由も分からないまま。

 俺は一つの名前を呟く。

 

「ファンさん……?」

 

 何故そんな名前が出たのか。

 自分でも分からなかった。

 

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