ゼノブレイド2の小説的な何か   作:natsuki

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第五十六話 交わる運命

 

 夢から覚めた朝。

 レックスはしばらく天幕の中でぼんやりしていた。

 ラウラ。

 そしてファン。

 二人の言葉が頭から離れない。

 

 

 ――シン様を嫌いにならないでください。

 

 

 同じ願いだった。

 まるで。

 五百年という時間を越えて。

 二人がずっと同じものを見つめ続けているかのように。

 

「……シン、か」

 

 呟く。

 敵だ。

 それは間違いない。

 だけど。

 最近はどうしても、それだけでは片付けられなくなっていた。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 出発から数時間。

 一行はついにテンペランティア北部の高地へ到達していた。

 眼下には雲海。

 そして。

 これまでより遥かに大きく見える世界樹。

 

「おお……」

 

 思わず声が漏れる。

 巨大だった。

 今まで遠くから見ていた時とは違う。

 圧倒的な存在感。

 まるで世界そのものだった。

 

「ここまで来ると実感するな」

 

 ジークも感心している。

 

「いよいよだな」

「ええ」

 

 メレフが頷いた。

 

「世界樹の入口は近い」

 

 その時だった。

 ビャッコが耳を動かした。

 

「お待ちください」

 

 全員が足を止める。

 

「誰かいます」

 

 空気が変わる。

 戦闘態勢。

 ホムラが前へ出る。

 ニアも武器を構えた。

 そして。

 岩陰から現れた人物を見て。

 全員が固まった。

 

「え?」

 

 レックスが目を瞬く。

 

「ファンさん?」

 

 そこにいたのは。

 白い服を纏った女性だった。

 穏やかな笑み。

 長い髪。

 見間違えるはずがない。

 インヴィディアで出会った女性。

 ファン・レ・ノルン。

 

「お久しぶりです」

 

 柔らかく頭を下げる。

 まるで偶然出会ったかのように。

 

「え、ええっ!?」

 

 レックスが驚く。

 

「何でここに!?」

「少し用事がありまして」

 

 曖昧な返事だった。

 

「いや、用事って」

「ふふ」

 

 ファンは笑う。

 相変わらずだった。

 穏やかで。

 掴み所がない。

 

「お元気そうで何よりです」

「そ、それはこっちの台詞だよ!」

 

 思わず叫ぶ。

 ニアも呆れ顔だった。

 

「こんな場所に用事って何さ」

「秘密です」

「秘密かい!」

 

 即答だった。

 そんなやり取りを横で見ていたホムラは。

 静かに息を吐いた。

 

「お久しぶりです」

 

 ファンが微笑む。

 

「ホムラ」

「……はい」

 

 短い返事。

 それだけなのに。

 レックスは違和感を覚えた。

 二人とも平静だ。

 だが。

 それは逆に不自然だった。

 まるで。

 長い時間を越えた再会を無理やり平静に装っているような。

 

「ファンさん」

 

 ホムラが小さく言う。

 

「どうしてここへ?」

「見届けるためです」

「……」

「きっと、もうすぐですから」

 

 その言葉の意味を。

 レックス達は理解できなかった。

 ただ一人。

 ホムラだけが静かに目を伏せた。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 その日の夕方。

 ファンは自然な流れで一行へ同行することになった。

 特に反対する者はいない。

 そもそも。

 敵意が全く感じられなかった。

 そして。

 不思議なことに。

 ファンは誰よりも旅に馴染んでいた。

 

「はい、どうぞ」

 

 湯気の立つ茶を差し出す。

 

「ありがとう!」

 

 ニアが受け取る。

 

「美味しい!」

「よかったです」

 

 微笑む。

 トラも喜んでいる。

 ジークも普通に会話している。

 数時間前に合流したとは思えなかった。

 

「何なんだろうな」

 

 レックスが呟く。

 

「何がです?」

 

 隣に座ったファンが聞き返す。

 

「いや」

 

 少し考える。

 

「初めて会った気がしない」

 

 ファンが一瞬だけ目を見開く。

 本当に僅かに。

 そして。

 優しく笑った。

 

「そうですか」

 

 その声は。

 どこか嬉しそうだった。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 一方その頃。

 世界樹へ向かう別ルート。

 シン達もまた前進を続けていた。

 夕暮れ。

 風が吹く。

 シンは不意に足を止めた。

 

「どうした?」

 

 メツが聞く。

 シンは答えない。

 代わりに。

 遠くを見る。

 理由は分からない。

 だが。

 胸の奥がざわついていた。

 あり得ない。

 そんなはずはない。

 分かっている。

 分かっているのに。

 

「……気のせいだ」

 

 小さく呟く。

 

「?」

「何でもない」

 

 再び歩き出す。

 けれど。

 その表情には僅かな迷いが残っていた。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 夜。

 皆が眠りについた後。

 レックスは目を覚ました。

 何となく眠れなかった。

 焚火の方を見る。

 そこには、一人の女性が座っていた。

 ファンだった。

 炎を見つめている。

 静かな横顔。

 どこか寂しそうにも見えた。

 

「眠れないの?」

 

 レックスが声を掛ける。

 ファンは振り返る。

 そして。

 少しだけ驚いたように笑った。

 

「レックスさんもですか」

「まあ」

 

 苦笑する。

 しばらく沈黙。

 炎の音だけが響く。

 やがて。

 ファンがぽつりと言った。

 

「大切な人を失ったことはありますか?」

 

 レックスは少し考える。

 

「じっちゃんかな」

 

 そう答えた。

 ファンは頷く。

 

「そうですね」

「ファンさんは?」

 

 その瞬間。

 ファンの瞳が揺れた。

 本当に。

 一瞬だけ。

 

「あります」

 

 静かな声だった。

 

「とても大切な人でした」

 

 それだけ言って。

 ファンは再び炎を見る。

 レックスはそれ以上聞かなかった。

 聞けなかった。

 その横顔が。

 あまりにも寂しそうだったから。

 

 

 

 

 

 世界樹は近い。

 運命の日もまた。

 確実に近付いていた。

 

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