ゼノブレイド2の小説的な何か   作:natsuki

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第五十八話 届かない言葉

 世界樹はもう目の前だった。

 見上げるだけで首が痛くなるほど巨大な幹。

 雲海を貫き。

 天を支える柱のようにそびえている。

 その姿を見ながら。

 レックスはふと呟いた。

 

「ここまで来たんだな」

 

 長かった。

 グーラを出て。

 インヴィディアへ行き。

 スペルビアを越え。

 テンペランティアを渡った。

 色んな人と出会った。

 色んな人と別れた。

 そして。

 ようやくここまで来た。

 

「感慨深いですか?」

 

 隣を歩くファンが微笑む。

 

「うん」

 

 レックスは頷いた。

 

「正直まだ実感ないけど」

「そうでしょうね」

「ファンさんは?」

 

 何気なく聞く。

 すると。

 ファンは世界樹を見上げた。

 少しだけ。

 寂しそうに。

 

「私もです」

 

 その横顔は。

 どこか遠くを見ているようだった。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 昼過ぎ。

 一行は古い監視塔跡へ辿り着いた。

 世界樹周辺を見渡せる高台だ。

 ここでしばらく休憩を取ることになった。

 

「景色いいな」

 

 レックスは柵へ寄りかかる。

 遥か下には雲海。

 遠くには各アルスの姿も見えた。

 

「世界って広いんだな」

「今さらかいな」

 

 ジークが笑う。

 

「いや、何となく」

 

 そう言った時だった。

 

「広いですよ」

 

 ファンが呟いた。

 皆が振り返る。

 

「世界も」

 

 静かな声。

 

「人の心も」

 

 その言葉に。

 何故だろう。

 レックスはシンの顔を思い出していた。

 

「なあ」

 

 気付けば口にしていた。

 

「ファンさん」

「はい」

「もしさ」

 

 少し迷う。

 でも聞いてみたかった。

 

「大切な人が間違ったらどうする?」

 

 空気が少しだけ変わる。

 ホムラが視線を上げる。

 ファンは驚かなかった。

 

「難しい質問ですね」

 

 穏やかに答える。

 

「止める」

 

 レックスは言う。

 

「俺なら止めると思う」

 

 ファンは微笑んだ。

 

「そうですね」

「だって」

 

 レックスは続ける。

 

「放っておけないだろ」

 

 当たり前のように。

 そう言った。

 ファンは少し目を伏せる。

 そして。

 

「きっと」

 

 小さく呟いた。

 

「その方も喜びます」

 

 誰のことを言ったのか。

 レックスには分からなかった。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 一方。

 世界樹へ続く別のルート。

 シン達もまた進んでいた。

 夕暮れ。

 風が吹く。

 メツは欠伸をしながら歩いていた。

 

「退屈だな」

「そうか」

「そうだ」

 

 シンは相変わらず無愛想だった。

 だが。

 最近のメツは気付いている。

 こいつは変わった。

 レックスに会ってから。

 少しずつ。

 

「なあ」

 

 メツが笑う。

 

「もし世界を壊した後さ」

「……」

「何も無かったらどうする?」

 

 シンは足を止めた。

 珍しい。

 本当に珍しい反応だった。

 

「どういう意味だ」

「そのまんまだ」

 

 メツは肩を竦める。

 

「全部終わった後」

「……」

「何も無かったら?」

 

 シンは答えない。

 答えられない。

 そんなこと。

 考えたことも無かった。

 否。

 本当は違う。

 考えないようにしていただけだ。

 

「くだらん」

 

 それだけ言って歩き出す。

 だが。

 メツは見逃さなかった。

 その声に迷いが混じっていたことを。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 夜。

 野営地。

 皆が眠りについた後。

 ホムラは一人で空を見上げていた。

 

「眠れませんか?」

 

 後ろから声。

 振り返る。

 ファンだった。

 

「少しだけ」

 

 ホムラは苦笑する。

 

「昔を思い出していました」

「私もです」

 

 ファンが隣へ座る。

 二人の間に沈黙が落ちる。

 長い沈黙。

 だが不思議と苦ではない。

 五百年という時間を共有した者同士だからだ。

 

「怖いですか?」

 

 ファンが聞く。

 ホムラはしばらく答えなかった。

 そして。

 

「はい」

 

 正直に頷いた。

 

「また誰かを傷付けるのではないかと」

 

 聖杯大戦。

 災厄。

 失われた命。

 忘れられるはずがない。

 ファンは静かに聞いている。

 

「でも」

 

 ホムラは小さく笑った。

 

「少しだけ安心しています」

「レックスさんですか?」

「それもあります」

 

 そして。

 ホムラはファンを見る。

 

「あなたがいるので」

 

 ファンは目を丸くした。

 数秒。

 そして。

 穏やかに笑う。

 

「光栄です」

 

 

     ◇◇◇

 

 

 その夜遅く。

 レックスはまた夢を見る。

 夕暮れの草原。

 ラウラとファン。

 いつもの二人。

 だが。

 今日は少し違った。

 二人とも。

 どこか嬉しそうだった。

 

「近いね」

 

 ラウラが言う。

 

「はい」

 

 ファンも頷く。

 

「もうすぐです」

 

 レックスは首を傾げる。

 

「何が?」

 

 二人は顔を見合わせる。

 そして。

 同時に微笑んだ。

 

「再会です」

 

 その言葉だけが。

 妙に心へ残った。

 

 

 

 

 止まっていた時間が動き始める。

 再会の日は。

 もう遠くなかった。

 

 

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