世界樹内部の朝は奇妙だった。
窓など無い。
空も見えない。
それなのに。
壁の一部が淡く発光し、まるで朝になったことを知らせるように周囲を照らしている。
「不思議な場所だな」
レックスが呟く。
「今さらかいな?」
ジークが笑った。
「昨日からずっと不思議やったろ」
確かにそうだ。
木の中とは思えない施設。
金属の壁。
古代文明の痕跡。
ここが本当に世界樹の内部なのか、未だに信じられない。
◇◇◇
一行はさらに上層を目指していた。
巨大な昇降機を利用し、何層も上へ進む。
途中。
何度も古代の機械を見つけた。
動かないものが大半だったが、中には今も稼働している設備も存在する。
「五百年以上前のものなんだろ?」
レックスが聞く。
「もっと古いかもしれません」
ホムラが答える。
「少なくとも聖杯大戦以前から存在していました」
「そんなにか」
レックスは周囲を見回した。
いったい誰が作ったのか。
何のために。
考えれば考えるほど謎は増える。
◇◇◇
その時だった。
警報のような音が響いた。
甲高い電子音。
誰も聞いたことがない音だった。
「何や!?」
ジークが叫ぶ。
直後。
通路の奥が光る。
赤い光。
そして。
金属の身体を持つ異形が姿を現した。
「敵だも!」
トラが叫ぶ。
全員が武器を構える。
異形は人型だった。
だが。
明らかに生物ではない。
全身を覆う金属装甲。
赤く光る瞳。
機械だった。
「何だこいつ!?」
「迎撃兵器だろう」
メレフが剣を抜く。
次の瞬間。
敵が動いた。
◇◇◇
戦闘は激しかった。
敵の動きは異常なほど速い。
しかも連携している。
「ちっ!」
ジークが吹き飛ばされる。
カグツチが受け止めた。
「厄介やなあ!」
「数も多いも!」
通路の奥から次々現れる。
まるで侵入者を排除するために作られた守護者。
そんな印象だった。
「ホムラ!」
「はい!」
炎が走る。
敵が吹き飛ぶ。
だが。
その瞬間だった。
「っ!」
ニアが膝をついた。
「ニア!」
レックスが振り返る。
顔色が悪い。
昨日より明らかに。
呼吸も荒い。
「大丈夫か!?」
「平気だよ!」
即答だった。
だが。
平気には見えない。
「無理すんな!」
「してない!」
言い返す。
しかし、立ち上がった瞬間——身体がふらついた。
ビャッコが慌てて支える。
「ニア様」
「大丈夫」
そう言いながら。
胸元を押さえる。
何かを隠すように。
その様子を、ファンは静かに見ていた。
「限界ですね」
誰にも聞こえないほど小さな声。
ホムラだけが振り返る。
視線が合う。
二人とも何も言わない。
だが。
理解していた。
何が起きようとしているのか。
◇◇◇
戦闘は何とか終わった。
敵は全て沈黙した。
しかし、一行の消耗も激しい。
「今日はここまでにしよう」
メレフが言う。
反対する者はいなかった。
誰もが疲れていた。
そして。
ニアは特に。
◇◇◇
夜。
レックスは眠れなかった。
昼間のニアが気になっていた。
明らかにおかしい。
病気なのか。
怪我なのか。
それとも。
別の何かなのか。
「……」
天幕を抜ける。
少し歩く。
すると、案の定だった。
ニアがいた。
一人で。
壁にもたれかかっている。
「ニア」
声を掛ける。
ニアが顔を上げた。
「レックス……」
その顔を見て、レックスは息を呑んだ。
青白い。
まるで別人だった。
「やっぱりおかしいじゃないか!」
「うるさいね」
弱々しく笑う。
「だから平気だって」
「平気な奴がそんな顔するかよ」
ニアは返事をしない。
沈黙。
長い沈黙。
やがて。
「怖いんだよ」
ぽつりと呟いた。
「え?」
「もし知られたら」
震える声。
「みんな離れていくんじゃないかって」
レックスは眉をひそめる。
意味が分からない。
だが。
ニアはそれ以上言わない。
言えない。
そんな顔だった。
◇◇◇
その時だった。
突然。
警報が鳴り響く。
昨日よりも大きい。
施設全体を揺らすような音。
「何だ!?」
レックスが立ち上がる。
直後。
壁が爆発した。
轟音。
衝撃。
吹き飛ばされる二人。
「レックス!」
ニアの叫び。
煙の向こう——現れたのは。
昼間とは比べ物にならない巨大な機械兵器だった。
赤い瞳が光る。
侵入者排除。
その意思だけを宿した怪物。
「嘘だろ……」
レックスが剣を握る。
しかし、怪物は真っ直ぐニアを見ていた。
まるで。
何かに反応したように。