轟音が世界樹の内部を揺らした。
崩れた壁の向こうから姿を現した機械兵器は、ゆっくりと赤い単眼を光らせながらレックス達を見据えている。
人の倍はあろうかという巨体。
分厚い装甲。
そして、両腕には巨大な砲身が備え付けられていた。
「何だよ……あれ」
レックスが思わず息を呑む。
「昨日の奴らとは比べ物にならんぞ」
メレフが剣を抜く。
カグツチも炎を纏い、いつでも飛び出せる姿勢を取る。
「全員、散開!」
その声と同時に。
怪物が腕を持ち上げた。
「来るも!」
トラが叫ぶ。
次の瞬間。
眩い閃光が通路を貫いた。
轟音。
衝撃。
床が砕け、金属片が飛び散る。
「くっ!」
レックスは身を翻して直撃を避ける。
しかし。
敵は止まらない。
砲撃。
突進。
鋼鉄の拳が床を砕きながら迫る。
「ホムラ!」
「はい!」
炎が奔る。
爆炎が敵を包む。
だが。
煙が晴れると、その装甲にはほとんど傷が付いていなかった。
「硬いなぁ!」
ジークが舌打ちする。
「これじゃ埒が明かんわ!」
怪物が再び赤い瞳を輝かせる。
その視線が止まった先。
そこにいたのは。
「ニア!」
レックスが叫ぶ。
怪物は一直線にニアへ向かっていた。
「しまっ――」
ニアが構える。
だが。
身体が動かない。
昨日から続く違和感。
世界樹へ入ってから激しくなる胸の痛み。
力が上手く巡らない。
「くっ……!」
ビャッコが飛び出す。
しかし。
間に合わない。
巨大な腕が振り下ろされる。
「ニア!」
ガキィンッ!
金属音が響く。
レックスだった。
聖杯の剣で怪物の一撃を受け止めている。
「ぐっ……!」
重い。
今まで戦ってきたどの敵よりも重い。
足元の床が軋み、靴が滑る。
「レックス!」
ホムラが駆け寄ろうとする。
だが。
その瞬間。
怪物の胸部が開いた。
「何だ?」
内部から光が集まる。
「しまった!」
ホムラの表情が変わる。
「レックス! 離れてください!」
間に合わない。
光が——一直線にレックスへと放たれる。
避けられない。
そう思った、その瞬間。
「レックス!」
誰かが背中を押した。
身体が弾き飛ばされる。
光が通り過ぎる。
代わりに。
その直撃を受けたのは。
「ニア!」
レックスの叫びが響いた。
ニアの身体が吹き飛ぶ。
壁へ叩き付けられる。
「ニア様!」
ビャッコが駆け寄る。
レックスも立ち上がる。
「何やってんだよ!」
ニアは苦しそうに笑った。
「だって……」
息が乱れる。
「放っとけ……ないだろ」
その笑顔は痛々しかった。
「ニア!」
レックスが抱き起こす。
服が破れ、肩口が露わになる。
そして。
その拍子だった。
胸元まで裂けた服の奥から。
淡い黄金色の光が漏れた。
「……え?」
レックスの視線が止まる。
胸の中央。
そこには。
見慣れた結晶が埋め込まれていた。
コアクリスタル。
「ニア……」
誰も動かなかった。
ホムラも。
メレフも。
ジークも。
ビャッコでさえ。
静まり返る。
「見ちゃったね」
ニアは力なく笑った。
もう隠せない。
そう諦めたような笑顔だった。
「……ごめん」
小さく呟く。
「ずっと黙ってて」
レックスは何も言えない。
頭が追い付かない。
「ニア……お前」
「そうだよ」
ニアは静かに頷く。
「……あたしは」
そこで言葉が途切れる。
胸のコアクリスタルが激しく明滅を始めた。
「なっ……!」
ニア自身が驚く。
身体中を光が駆け巡る。
苦しそうに胸を押さえる。
「うっ……!」
「ニア!」
ファンが駆け寄る。
その表情は険しかった。
「抑え込めなくなっています」
「何だって?」
「世界樹の力に共鳴しています」
ホムラが息を呑む。
「まさか……」
怪物が再び動く。
赤い瞳が光る。
今度こそ。
ニアへ照準を合わせる。
「対象確認」
無機質な声が響く。
「高エネルギー反応」
「排除開始」
巨大な砲身が展開される。
レックスが剣を構える。
だが。
間に合わない。
その時だった。
ニアのコアクリスタルが眩く輝く。
金色の光。
部屋中を満たすほどの、温かな光だった。
ファンはその光を見つめ、小さく微笑む。
「ようやく……」
誰にも聞こえないほど小さな声。
「その時が来たのですね」
次の瞬間。
光は世界樹の内部すら飲み込むほどに膨れ上がった。