光だった。
世界樹の内部を埋め尽くすほどの、優しい黄金の光。
機械兵器の赤い瞳が一瞬だけ揺らぐ。
まるで。
その光を警戒しているかのように。
「ニア!」
レックスは思わず叫んだ。
しかし返事はない。
ニアは苦しそうに胸を押さえたまま、その場に膝をついている。
黄金色のコアクリスタルは、まるで鼓動するように明滅を繰り返していた。
「もう……駄目なんだね」
ニアが小さく笑う。
その笑顔は、どこか吹っ切れたようにも見えた。
「ずっと隠してきた」
ぽつりと呟く。
「誰にも知られないように」
視線を落とす。
「怖かったから」
レックスは何も言えなかった。
ただ黙って聞いている。
「ブレイドだって知られたら」
ニアは震える声で続ける。
「きっと皆、あたしを見る目が変わると思ってた」
その言葉に。
ファンは静かに目を閉じた。
五百年という時を生きた彼女には、その孤独が痛いほど分かっていた。
「ニア」
レックスが一歩前へ出る。
「違う」
ニアは首を振った。
「違わないよ!」
少しだけ強い声になる。
「人間じゃないんだ」
「……」
「化け物なんだよ」
その一言が。
彼女がどれほど自分を責めてきたのかを物語っていた。
「だから」
苦しそうに笑う。
「レックス達と旅する資格なんて――」
「ある」
レックスは即座に答えた。
ニアが目を見開く。
「え……?」
「あるに決まってるだろ」
「でも!」
「ニアはニアだ」
真っ直ぐな瞳だった。
迷いは一つもない。
「俺が一緒に旅してきたのは、お前だ」
「……」
「ブレイドでも、人間でもない」
一歩近付く。
「ニアなんだ」
ニアの瞳が揺れる。
信じられない。
そんな顔だった。
「気持ち悪く……ないの?」
恐る恐る尋ねる。
「何で?」
レックスは本気で首を傾げた。
「だって」
「ニアがブレイドだったからって、昨日までのニアが変わるわけじゃないだろ」
その言葉に。
ニアは唇を震わせた。
涙が滲む。
「レックス……」
「俺はさ」
照れ臭そうに頭を掻く。
「難しいことは分かんない」
笑う。
「でも、一緒に旅してきた仲間だってことだけは分かる」
その笑顔は。
あまりにも真っ直ぐだった。
「そうですね」
ファンが静かに口を開く。
「私も同じです」
ニアが振り返る。
「ファンさん……」
「あなたは、あなたですよ」
穏やかな笑み。
「誰かが決めるものではありません」
「……」
「自分で決めることです」
その言葉に。
ホムラも小さく頷いた。
「きみは私達の仲間だ」
「ホムラ……」
メレフが剣を肩へ担ぐ。
「今さら正体一つで驚きはせん」
ジークが豪快に笑う。
「むしろ納得したわ」
「ニア強かったも!」
トラも笑う。
誰もが受け入れてくれる、そんな状態に。
ニアはとうとう堪え切れなくなった。
「何なんだよ……」
涙が止まらない。
「何で」
嗚咽が漏れる。
「何で誰も怒らないんだよ……」
ずっと怖かった。
ずっと隠してきた。
いつか知られる日が来る。
その日が来たら。
全部終わると思っていた。
なのに。
誰も離れていかない。
「そんなの……」
泣きながら笑う。
「反則じゃないか……」
その瞬間だった。
轟音。
機械兵器が再び砲身を展開する。
「対象排除」
赤い光が収束する。
「危ない!」
ホムラが叫ぶ。
だが。
ニアはゆっくり立ち上がった。
涙を拭う。
「……ありがと」
静かな声。
「もう」
黄金の光が身体を包む。
「隠さない」
コアクリスタルが強く輝く。
世界樹全体が共鳴するように震えた。
「これが」
光が弾ける。
長い銀髪がふわりと舞う。
純白の衣。
黄金の光を纏う姿。
慈愛に満ちた瞳。
「本当の」
機械兵器が突進する。
ニアは静かに右手を掲げた。
柔らかな光が広がる。
その一瞬で。
敵の動きが止まる。
「私だ!」
黄金の光が奔る。
音もなく。
巨大な機械兵器は真っ二つに断ち切られた。
静寂。
誰も声を出せない。
ただ、レックスだけが。
嬉しそうに笑った。
「やっぱり」
ニアが振り返る。
少し照れ臭そうに。
少し泣きそうに。
「何だい」
「ニアはニアだった」
一瞬きょとんとした後。
ニアは吹き出した。
「ほんっと」
涙を拭いながら笑う。
「あんたって馬鹿だね」
「そうか?」
「最高の馬鹿だよ」
その笑顔は。
旅に出てから一番晴れやかだった。
◇◇◇
一方、その頃。
世界樹のさらに上層。
監視装置に映る黄金の光を見て、一人の男が静かに目を細めていた。
「覚醒したか」
シンだった。
その隣でメツが肩を竦める。
「やれやれ。ますます面白くなってきたじゃねぇか」
シンは答えない。
ただ静かに、レックス達のいる方向を見つめていた。
隠されていた真実は、仲間達に受け入れられた。
そして、新たな力を得た一行は、世界樹のさらに深部へと歩みを進める。
そこには、アルストという世界の根幹を揺るがす真実が待ち受けていることを、まだ誰も知らなかった。