静寂が訪れていた。
先ほどまで激しい戦いが繰り広げられていたとは思えないほど、世界樹の内部は静まり返っている。
真っ二つになった機械兵器は火花を散らしながら沈黙し、その赤い単眼も、やがて完全に光を失った。
「終わった……のか」
レックスが聖杯の剣を下ろす。
「どうやら、そのようですね」
ホムラも息を吐いた。
ようやく全員の肩から力が抜ける。
「ニア」
レックスは振り返る。
そこには、まだ黄金の光をまとったニアが立っていた。
覚醒した姿は、これまでとはどこか雰囲気が違う。
神秘的でありながら、それでも彼女らしい気の強さは変わらない。
「……そんなに見るな」
照れ臭そうに視線を逸らす。
「いや」
レックスは笑う。
「綺麗だなって思って」
「なっ……!」
ニアの耳まで赤く染まる。
「ば、馬鹿!」
勢いよくレックスの肩を叩く。
「こんな時に何言ってんだい!」
「痛っ!」
「自業自得だも」
トラが呆れたように呟く。
ジークは豪快に笑い出した。
「相変わらず天然やな、レックスは!」
「はは……」
レックスは頭を掻くしかなかった。
そんな様子を見ながら。
ファンは静かに微笑んでいた。
「良かったですね」
小さく呟く。
誰に向けた言葉でもない。
あるいは。
五百年前の、もう会えない誰かへ向けた言葉だったのかもしれない。
「ファン」
ホムラが近付く。
二人は少し離れた場所へ歩いていった。
「あなたは気付いていたのですね」
「ええ」
ファンは頷く。
「初めてお会いした時から」
「……」
「隠していることも」
「苦しんでいることも」
ホムラは小さく息を吐く。
「私は、言い出せませんでした」
「当然です」
ファンは責めない。
「秘密とは、本人が話すから意味があるものです」
ホムラは静かに目を伏せた。
その言葉に救われるような気がした。
◇◇◇
先へ進む。
世界樹の内部は、上層へ行くほど人工的になっていく。
壁一面を覆う配線。
ガラスのような素材で造られた隔壁。
誰も見たことのない文字。
「まるで別世界だね」
ニアが辺りを見回す。
「これが全部、昔の人間の造った物なのかい?」
「少なくとも、私達の知る文明ではありません」
ホムラの表情は険しい。
「この場所は、五百年前ですら『古代遺跡』と呼ばれていました」
「そんな昔から……」
レックスは思わず周囲を見渡した。
いったい何千年。
何万年。
この場所は存在していたのだろう。
◇◇◇
その時だった。
通路の奥に、大きな扉が見えた。
他の設備とは明らかに違う。
純白の金属で造られた巨大な扉。
中央には円形の紋章が刻まれている。
「これは……」
メレフが近寄る。
だが。
誰も触れていないにもかかわらず。
低い駆動音が鳴り響いた。
『認証開始』
聞き慣れない声。
機械的な女性の声だった。
「何や!?」
ジークが身構える。
紋章が青く光る。
そして。
ゆっくりと回転し始めた。
『エネルギー反応確認』
『第三低軌道エレベーター、稼働準備』
「エレ……ベーター?」
誰一人、その言葉の意味を知らない。
だが。
ホムラだけは目を見開いていた。
「まさか……」
「ホムラ?」
レックスが振り返る。
ホムラは震える声で呟いた。
「この先は……」
五百年前。
アデル達と共に辿り着くことのできなかった場所。
その入口だった。
◇◇◇
重々しい音を立てながら、巨大な扉が左右へ開いていく。
その先には。
どこまでも続く一本の通路。
そして。
遥か彼方まで伸びる巨大な昇降装置が姿を現した。
まるで。
天へ続く道。
「これが……」
レックスは息を呑む。
「楽園へ続く道……」
誰も答えない。
ただ静かに、その光景を見つめていた。
だが、その最奥。
誰にも見えない暗闇の中で、一つの人影がゆっくりと立ち上がる。
「来たか」
低い声が響く。
その瞳は、まっすぐ入口を見据えていた。
「レックス」
シンは静かに聖杯の剣へ手を添える。
「今度こそ……決着をつけよう」
世界樹の最深部。
そこで待つのは、五百年前から続く因縁。
そして、アルストの真実であった。