ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第六十四話 五百年を越えて

 

 

 静寂が訪れていた。

 先ほどまで激しい戦いが繰り広げられていたとは思えないほど、世界樹の内部は静まり返っている。

 真っ二つになった機械兵器は火花を散らしながら沈黙し、その赤い単眼も、やがて完全に光を失った。

 

「終わった……のか」

 

 レックスが聖杯の剣を下ろす。

 

「どうやら、そのようですね」

 

 ホムラも息を吐いた。

 ようやく全員の肩から力が抜ける。

 

「ニア」

 

 レックスは振り返る。

 そこには、まだ黄金の光をまとったニアが立っていた。

 覚醒した姿は、これまでとはどこか雰囲気が違う。

 神秘的でありながら、それでも彼女らしい気の強さは変わらない。

 

「……そんなに見るな」

 

 照れ臭そうに視線を逸らす。

 

「いや」

 

 レックスは笑う。

 

「綺麗だなって思って」

「なっ……!」

 

 ニアの耳まで赤く染まる。

 

「ば、馬鹿!」

 

 勢いよくレックスの肩を叩く。

 

「こんな時に何言ってんだい!」

「痛っ!」

「自業自得だも」

 

 トラが呆れたように呟く。

 ジークは豪快に笑い出した。

 

「相変わらず天然やな、レックスは!」

「はは……」

 

 レックスは頭を掻くしかなかった。

 そんな様子を見ながら。

 ファンは静かに微笑んでいた。

 

「良かったですね」

 

 小さく呟く。

 誰に向けた言葉でもない。

 あるいは。

 五百年前の、もう会えない誰かへ向けた言葉だったのかもしれない。

 

「ファン」

 

 ホムラが近付く。

 二人は少し離れた場所へ歩いていった。

 

「あなたは気付いていたのですね」

「ええ」

 

 ファンは頷く。

 

「初めてお会いした時から」

「……」

「隠していることも」

「苦しんでいることも」

 

 ホムラは小さく息を吐く。

 

「私は、言い出せませんでした」

「当然です」

 

 ファンは責めない。

 

「秘密とは、本人が話すから意味があるものです」

 

 ホムラは静かに目を伏せた。

 その言葉に救われるような気がした。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 先へ進む。

 世界樹の内部は、上層へ行くほど人工的になっていく。

 壁一面を覆う配線。

 ガラスのような素材で造られた隔壁。

 誰も見たことのない文字。

 

「まるで別世界だね」

 

 ニアが辺りを見回す。

 

「これが全部、昔の人間の造った物なのかい?」

「少なくとも、私達の知る文明ではありません」

 

 ホムラの表情は険しい。

 

「この場所は、五百年前ですら『古代遺跡』と呼ばれていました」

「そんな昔から……」

 

 レックスは思わず周囲を見渡した。

 いったい何千年。

 何万年。

 この場所は存在していたのだろう。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 その時だった。

 通路の奥に、大きな扉が見えた。

 他の設備とは明らかに違う。

 純白の金属で造られた巨大な扉。

 中央には円形の紋章が刻まれている。

 

「これは……」

 

 メレフが近寄る。

 だが。

 誰も触れていないにもかかわらず。

 低い駆動音が鳴り響いた。

 

『認証開始』

 

 聞き慣れない声。

 機械的な女性の声だった。

 

「何や!?」

 

 ジークが身構える。

 紋章が青く光る。

 そして。

 ゆっくりと回転し始めた。

 

『エネルギー反応確認』

『第三低軌道エレベーター、稼働準備』

「エレ……ベーター?」

 

 誰一人、その言葉の意味を知らない。

 だが。

 ホムラだけは目を見開いていた。

 

「まさか……」

「ホムラ?」

 

 レックスが振り返る。

 ホムラは震える声で呟いた。

 

「この先は……」

 

 五百年前。

 アデル達と共に辿り着くことのできなかった場所。

 その入口だった。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 重々しい音を立てながら、巨大な扉が左右へ開いていく。

 その先には。

 どこまでも続く一本の通路。

 そして。

 遥か彼方まで伸びる巨大な昇降装置が姿を現した。

 まるで。

 天へ続く道。

 

「これが……」

 

 レックスは息を呑む。

 

「楽園へ続く道……」

 

 誰も答えない。

 ただ静かに、その光景を見つめていた。

 だが、その最奥。

 誰にも見えない暗闇の中で、一つの人影がゆっくりと立ち上がる。

 

「来たか」

 

 低い声が響く。

 その瞳は、まっすぐ入口を見据えていた。

 

「レックス」

 

 シンは静かに聖杯の剣へ手を添える。

 

「今度こそ……決着をつけよう」

 

 世界樹の最深部。

 そこで待つのは、五百年前から続く因縁。

 そして、アルストの真実であった。

 

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