鋼と鋼がぶつかり合う。
乾いた金属音が世界樹の通路へ幾重にも響き渡った。
レックスとシン。
二人の剣が何度も交錯する。
踏み込み。
斬撃。
受け流し。
距離を取る。
互いに一歩も譲らない。
「速い……!」
レックスは歯を食いしばる。
以前よりも。
明らかにシンは速かった。
いや。
本気なのだ。
今まで何度も戦ってきたが、これほど迷いなく剣を振るうシンを見るのは初めてだった。
だが。
その瞳には、不思議と怒りは宿っていない。
「どうした」
シンが踏み込む。
一閃。
レックスは咄嗟に受け止める。
「その程度か」
「まだまだ!」
聖杯の剣が蒼白い光を放つ。
押し返す。
シンは後ろへ跳び、着地と同時に再び距離を詰めた。
「いい動きだ」
淡々とした声。
「以前より強くなった」
「旅の途中で色んな奴に鍛えられたからな!」
「そうか」
再び剣が交わる。
「だが」
シンは静かに言う。
「それだけでは世界は変わらない」
冷気が迸る。
床一面が瞬く間に凍り付き、白い霜が広がっていく。
「散開!」
メレフの声に全員が飛び退く。
ホムラが炎を放ち、氷を溶かして道を作る。
しかし。
シンはレックスから視線を逸らさない。
「レックス」
「何だ!」
「お前は人を救えると思っている」
「思ってる!」
「……なら聞こう」
刀を構える。
「ラウラは救えたか」
レックスの動きが止まる。
その一瞬。
刀が頬を掠めた。
赤い血が一筋流れる。
「レックス!」
ニアが叫ぶ。
「大丈夫だ!」
傷は浅い。
しかし。
シンの言葉は深く胸へ刺さった。
「救えなかった」
シンは静かに続ける。
「誰一人」
「……」
「ラウラも」
「……」
「ファンも」
ファンは静かに目を伏せる。
「アデルも」
その名に。
ホムラの肩が僅かに震えた。
「だから俺は知っている」
シンは剣を下ろさない。
「人は救えない」
「違う!」
レックスが叫ぶ。
「違わない」
「違う!」
踏み込む。
全力の斬撃。
シンが受け止める。
「俺だって!」
剣を押し込む。
「助けられなかった人はいる!」
「……」
「でも!」
さらに力を込める。
「だから助けるのをやめるのか!」
シンの瞳が揺れた。
「俺は」
レックスは叫ぶ。
「ホムラも!」
「ニアも!」
「ファンも!」
「皆も!」
「絶対助ける!」
剣が弾ける。
二人が大きく距離を取る。
「シン!」
息を切らしながら、それでも笑う。
「お前もだ!」
通路が静まり返った。
ジークも。
メレフも。
誰も言葉を発しない。
シンだけが、レックスを見つめていた。
「……似ていないな」
ぽつりと呟く。
「え?」
「アデルとは」
レックスは首を傾げる。
「そうなのか?」
「まるで違う」
シンは苦笑する。
本当に僅かだった。
五百年の間、誰にも見せなかった笑み。
「アデルは」
遠くを見る。
「もっと理性的だった」
レックスは思わず苦笑する。
「じゃあ俺は失格だな」
「いや」
シンは首を振った。
「お前は、お前だ」
その言葉を聞いたホムラは、小さく目を見開いた。
シンが。
初めて。
レックスをアデルと比べることをやめた。
しかし。
その空気を裂くように、重い拍手が響く。
「感動の再会は終わったか?」
聞き慣れた声だった。
全員が振り向く。
通路の奥。
柱へ寄り掛かるように立っていた男が、ゆっくりと歩き出す。
黒い衣。
紫色のコアクリスタル。
口元には、人を小馬鹿にしたような笑み。
「メツ……!」
レックスが剣を構える。
メツは肩を竦めるだけだった。
「シンよ」
横目で見る。
「随分と甘くなったじゃねぇか」
シンは答えない。
「まさか昔の仲間に会って情でも湧いたか?」
「……」
「らしくねぇ」
その瞬間だった。
メツの視線がファンへ向く。
「へぇ」
笑みが深くなる。
「生き返ってまで邪魔しに来たのか」
空気が変わる。
シンの瞳から、僅かに浮かんでいた穏やかさが消える。
再び。
冷たい戦士の目へ戻っていく。
五百年前の因縁。
そして今。
その全てを知る者が、一堂に会した。