ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第六十六話 英雄の背中

 

 

 鋼と鋼がぶつかり合う。

 乾いた金属音が世界樹の通路へ幾重にも響き渡った。

 レックスとシン。

 二人の剣が何度も交錯する。

 踏み込み。

 斬撃。

 受け流し。

 距離を取る。

 互いに一歩も譲らない。

 

「速い……!」

 

 レックスは歯を食いしばる。

 以前よりも。

 明らかにシンは速かった。

 いや。

 本気なのだ。

 今まで何度も戦ってきたが、これほど迷いなく剣を振るうシンを見るのは初めてだった。

 だが。

 その瞳には、不思議と怒りは宿っていない。

 

「どうした」

 

 シンが踏み込む。

 一閃。

 レックスは咄嗟に受け止める。

 

「その程度か」

「まだまだ!」

 

 聖杯の剣が蒼白い光を放つ。

 押し返す。

 シンは後ろへ跳び、着地と同時に再び距離を詰めた。

 

「いい動きだ」

 

 淡々とした声。

 

「以前より強くなった」

「旅の途中で色んな奴に鍛えられたからな!」

「そうか」

 

 再び剣が交わる。

 

「だが」

 

 シンは静かに言う。

 

「それだけでは世界は変わらない」

 

 冷気が迸る。

 床一面が瞬く間に凍り付き、白い霜が広がっていく。

 

「散開!」

 

 メレフの声に全員が飛び退く。

 ホムラが炎を放ち、氷を溶かして道を作る。

 しかし。

 シンはレックスから視線を逸らさない。

 

「レックス」

「何だ!」

「お前は人を救えると思っている」

「思ってる!」

「……なら聞こう」

 

 刀を構える。

 

「ラウラは救えたか」

 

 レックスの動きが止まる。

 その一瞬。

 刀が頬を掠めた。

 赤い血が一筋流れる。

 

「レックス!」

 

 ニアが叫ぶ。

 

「大丈夫だ!」

 

 傷は浅い。

 しかし。

 シンの言葉は深く胸へ刺さった。

 

「救えなかった」

 

 シンは静かに続ける。

 

「誰一人」

「……」

「ラウラも」

「……」

「ファンも」

 

 ファンは静かに目を伏せる。

 

「アデルも」

 

 その名に。

 ホムラの肩が僅かに震えた。

 

「だから俺は知っている」

 

 シンは剣を下ろさない。

 

「人は救えない」

「違う!」

 

 レックスが叫ぶ。

 

「違わない」

「違う!」

 

 踏み込む。

 全力の斬撃。

 シンが受け止める。

 

「俺だって!」

 

 剣を押し込む。

 

「助けられなかった人はいる!」

「……」

「でも!」

 

 さらに力を込める。

 

「だから助けるのをやめるのか!」

 

 シンの瞳が揺れた。

 

「俺は」

 

 レックスは叫ぶ。

 

「ホムラも!」

「ニアも!」

「ファンも!」

「皆も!」

「絶対助ける!」

 

 剣が弾ける。

 二人が大きく距離を取る。

 

「シン!」

 

 息を切らしながら、それでも笑う。

 

「お前もだ!」

 

 通路が静まり返った。

 ジークも。

 メレフも。

 誰も言葉を発しない。

 シンだけが、レックスを見つめていた。

 

「……似ていないな」

 

 ぽつりと呟く。

 

「え?」

「アデルとは」

 

 レックスは首を傾げる。

 

「そうなのか?」

「まるで違う」

 

 シンは苦笑する。

 本当に僅かだった。

 五百年の間、誰にも見せなかった笑み。

 

「アデルは」

 

 遠くを見る。

 

「もっと理性的だった」

 

 レックスは思わず苦笑する。

 

「じゃあ俺は失格だな」

「いや」

 

 シンは首を振った。

 

「お前は、お前だ」

 

 その言葉を聞いたホムラは、小さく目を見開いた。

 シンが。

 初めて。

 レックスをアデルと比べることをやめた。

 しかし。

 その空気を裂くように、重い拍手が響く。

 

「感動の再会は終わったか?」

 

 聞き慣れた声だった。

 全員が振り向く。

 通路の奥。

 柱へ寄り掛かるように立っていた男が、ゆっくりと歩き出す。

 黒い衣。

 紫色のコアクリスタル。

 口元には、人を小馬鹿にしたような笑み。

 

「メツ……!」

 

 レックスが剣を構える。

 メツは肩を竦めるだけだった。

 

「シンよ」

 

 横目で見る。

 

「随分と甘くなったじゃねぇか」

 

 シンは答えない。

 

「まさか昔の仲間に会って情でも湧いたか?」

「……」

「らしくねぇ」

 

 その瞬間だった。

 メツの視線がファンへ向く。

 

「へぇ」

 

 笑みが深くなる。

 

「生き返ってまで邪魔しに来たのか」

 

 空気が変わる。

 シンの瞳から、僅かに浮かんでいた穏やかさが消える。

 再び。

 冷たい戦士の目へ戻っていく。

 

 

 

 

 五百年前の因縁。

 そして今。

 その全てを知る者が、一堂に会した。

 

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