ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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最終章 One Last You
第六十八話 世界の扉


 

 

 警報が鳴り響く。

 耳をつんざくような電子音が、世界樹の最上層へ反響していた。

 

『警告』

『管理区域への無許可侵入を確認』

『防衛システム起動』

 

 無機質な女性の声が繰り返される。

 白かった通路は赤い警告灯に照らされ、不気味な色へと変わっていた。

 

「何だ、この声……!」

 

 レックスが辺りを見回す。

 ホムラは険しい表情のまま天井を見上げていた。

 

「この施設が……私達を侵入者と判断したのでしょう」

「施設そのものが動いてるってことか」

 

 メレフが静かに剣を構える。

 その時だった。

 世界樹全体を震わせるような重低音が響く。

 ゴゴゴゴ……。

 通路の先。

 巨大な隔壁がゆっくりと左右へ開き始めた。

 誰も動かない。

 ただ、その先を見つめていた。

 そして。

 隔壁の向こうに広がっていた景色を見て、全員が息を呑む。

 

「……何だよ」

 

 レックスが呟く。

 そこは、街だった。

 空へ向かって伸びる無数の建造物。

 透明な橋。

 白銀の塔。

 見たこともない乗り物が、何本もの光の帯の上を滑るように走っている。

 だが。

 そこには誰もいない。

 静まり返った都市。

 時間だけが止まってしまったような世界だった。

 

「都市……なのか」

 

 ジークが信じられないというように呟く。

 

「アルスの上に、こんなもんが……」

「違います」

 

 ホムラはゆっくり首を振った。

 

「アルスの上ではありません」

 

 その言葉に全員が振り向く。

 

「こここそが」

 

 ホムラは目を細める。

 

「かつて人が住んでいた世界です」

 

 レックスは目を見開いた。

 

「人が……住んでた?」

「五百年前」

 

 ホムラは静かに続ける。

 

「いいえ」

「もっと、ずっと昔」

「この場所には、人々の文明がありました」

 

 風が吹く。

 ガラスの破片が静かに転がる。

 

「じゃあ……」

 

 ニアが呟く。

 

「あたし達が住んでるアルストは?」

「滅びた世界の上に築かれた、新しい世界です」

 

 誰も言葉を失った。

 アルストは世界そのものではない。

 世界の"あと"だった。

 

「……面白いだろ」

 

 静かな声だった。

 シンが通路の先へ歩き出す。

 

「これが人間だ」

 

 彼は朽ちた都市を見渡す。

 

「栄え」

「奪い」

「争い」

「最後には、自ら世界を滅ぼした」

「違う!」

 

 レックスが叫ぶ。

 

「まだそんなこと言うのか」

 

 シンは振り返らない。

 

「現実を見ろ」

 

 静かな声。

 

「これが答えだ」

「だからって!」

「また滅ぼすのか!」

 

 レックスの声が響く。

 シンは何も答えない。

 

「シン」

 

 ファンが静かに呼び掛ける。

 

「あなたは、この街を見て何を思いましたか」

「……」

「悲しかったのではありませんか」

 

 シンの肩がわずかに震えた。

 

「私は」

 

 ファンは瓦礫へ手を添える。

 

「悲しいです」

「誰もいない街は」

「とても寂しい」

 

 風だけが答える。

 

「だから」

 

 ファンはシンを見つめた。

 

「もう一度、同じ景色を見たいのですか」

 

 シンは目を閉じる。

 答えられなかった。

 その時。

 突然、通路の奥から柔らかな光が灯る。

 青白い光。

 それは一つではない。

 床。

 壁。

 天井。

 街全体に灯がともっていく。

 

『認証完了』

 

 女性の声が響いた。

 

『管理者権限を確認』

 

 ホムラが目を見開く。

 

「管理者……?」

『第三低軌道ステーション』

『中央制御区画を開放します』

 

 都市の中央。

 ひときわ大きな白い塔が静かに輝き始めた。

 その光は、まるで彼らを導くように空へ向かって伸びていく。

 

「レックス」

 

 ホムラが小さく呟く。

 

「この先です」

 

 その声は震えていた。

 

「楽園があるのか?」

「……分かりません」

 

 ホムラはゆっくり首を振る。

 

「ですが」

「世界の真実は、この先にあります」

 

 レックスは仲間達を見回した。

 ニア。

 トラ。

 ジーク。

 メレフ。

 ファン。

 そしてホムラ。

 誰も引き返そうとは言わなかった。

 

「行こう」

 

 レックスが一歩踏み出す。

 

「俺達の答えを見つけに」

 

 その背中を見送りながら。

 シンは静かに目を閉じた。

 レックスの歩き方が、一瞬だけラウラと重なって見えた。

 まっすぐで。

 迷いがなくて。

 誰かを信じることをやめない背中。

 

「……本当に」

 

 小さく漏らす。

 

「未来は、お前達の中にあるのか」

 

 その呟きは誰にも届かなかった。

 ただ、シンだけが、自分の心に生まれ始めた小さな揺らぎを否定できずにいた。

 滅びた文明。

 失われた世界。

 そして、その最奥で待つ最後の管理者。

 旅は、いよいよアルスト最大の秘密へと辿り着こうとしていた。

 

 

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