ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第六十九話 最後の管理者

 

 

 静寂だった。

 街は眠っている。

 人の姿はない。

 吹き抜ける風すら、この場所では遠慮がちに音を潜め、ただ白い建造物だけが、遥か昔に失われた文明の面影を静かに残していた。

 

「不思議な場所だね……」

 

 ニアがぽつりと呟く。

 

「誰もいないも……」

 

 トラも辺りを見回す。

 建物は朽ちていない。

 機械も止まってはいない。

 それなのに。

 街だけが、住む者を失っていた。

 一行は都市の中央へと歩みを進める。

 やがて、その中心にそびえる巨大な塔へ辿り着いた。

 白く、どこまでも高い塔。

 世界樹の最奥に築かれた、その建造物は、まるでこの世界すべてを支える柱のような存在感を放っていた。

 

「ここが……」

 

 レックスは思わず息を呑む。

 ホムラは静かに頷いた。

 

「最後の管理区画です」

「五百年前、私達はここまで辿り着けませんでした」

 

 その声には、長い時を経てもなお消えない悔恨が滲んでいた。

 レックスが一歩前へ出る。

 その瞬間、巨大な扉の中央に埋め込まれた結晶が淡く輝きを放った。

 

『管理者権限照合』

『第三低軌道ステーション』

『管理区画、解放します』

 

 無機質な女性の声が響き渡る。

 同時に、ホムラのコアクリスタルが静かに輝き始めた。

 

「ホムラ……」

「ええ」

 

 彼女も、この反応には覚えがあるようだった。

 重々しい駆動音とともに、巨大な扉が左右へと開いていく。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 その先に広がっていたのは、円形の広大な空間だった。

 幾重にも重なる光の輪。

 星空のように瞬く無数の光点。

 そして、その中心。

 一人の男が静かに佇んでいた。

 白衣を纏った男。

 穏やかな眼差し。

 しかし、その姿を見た瞬間、レックスは思わず息を呑む。

 

「……っ」

 

 男の身体は完全ではなかった。

 肩から先の左腕は存在せず、胸から下へ視線を移せば、その肉体は途中から空間へ溶け込むように消失している。

 まるで、この世界そのものと繋がってしまったかのように。

 それでも男は苦しむ様子もなく、静かにレックス達を見つめていた。

 

「ようこそ」

 

 柔らかな声だった。

 

「私は、君達を待っていた」

 

 ホムラが一歩前へ出る。

 

「あなたは……」

 

 男は小さく微笑む。

 その視線はホムラからヒカリへ、そしてレックスへとゆっくり移った。

 

「君が、新しいドライバーだね」

 

 レックスは思わず問い返す。

 

「俺を知ってるのか?」

「いや」

 

 男は穏やかに首を横へ振る。

 

「君自身を知っているわけではない」

「だが、君達がここへ辿り着くことは知っていた」

 

 その言葉には、不思議な確信があった。

 

「……貴様が」

 

 シンがゆっくりと刀を構える。

 

「世界を造った者か」

 

 男は少しだけ困ったように笑った。

 

「そのように呼ばれることもある」

「だが」

 

 一瞬だけ、寂しそうに目を伏せる。

 

「正しくは、世界を壊してしまった人間だ」

 

 その一言で、空気が凍りついた。

 男は静かに振り返り、中央に浮かぶ光の柱へ手を伸ばす。

 その瞬間。

 部屋全体に無数の光が走り、空間そのものが巨大な映像装置へと姿を変えていく。

 青い空。

 果てしない海。

 空を飛び交う乗り物。

 地平線まで続く巨大都市。

 人々の笑い声。

 それは、アルストとはまったく異なる世界だった。

 

「これが……」

 

 男は静かに告げる。

 

「私達がかつて暮らしていた世界だ」

 

 その光景を見た瞬間。

 レックスの脳裏に、あの夢が蘇る。

 白い閃光。

 燃え上がる都市。

 逃げ惑う人々。

 聞こえない悲鳴。

 

「……ここだ」

 

 思わず膝をつく。

 

「俺は、この景色を知ってる……!」

 

 男は静かにレックスを見つめた。

 

「そうか」

 

 その声音には驚きはなかった。

 まるで、そのことさえ予期していたように。

 

「君は、私の記憶を見たのだね」

 

 レックスは顔を上げる。

 

「どういうことなんだ!」

「何で俺なんだ!」

 

 男は静かに頷いた。

 

「その答えを話そう」

 

 そして。

 ゆっくりと名乗る。

 

「私の名は、クラウス」

 

 その名が告げられた瞬間。

 ホムラは静かに目を閉じた。

 五百年前。

 アデルと共に最後まで辿り着けなかった場所。

 その果てで待っていた男と、今ようやく相まみえたのだった。

 

 

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