ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第七十話 世界の始まり

 

「私の名は、クラウス」

 

 その名が静かに響く。

 誰も言葉を返せなかった。

 世界樹の最奥。

 アルストという世界の果て。

 そこで待っていた男は、自らを世界の創造主ではなく、世界を壊した人間だと名乗ったのだから。

 

「世界を……壊した?」

 

 レックスが呟く。

 クラウスは静かに頷いた。

 

「そうだ」

 

 その声に後悔はあっても、言い訳はなかった。

 

「君達が立っているこの場所は、人類が築き上げた最後の文明だった」

 

 光が広がる。

 部屋いっぱいに映し出される映像。

 高層建築。

 青い空。

 海を渡る巨大な船。

 空を飛ぶ無数の機械。

 アルストとはまるで違う、人間だけの世界。

 

「綺麗……」

 

 ニアが思わず漏らす。

 

「これが、人間の世界だったんだね……」

「ああ」

 

 クラウスは穏やかに微笑む。

 

「豊かで、美しく、そして愚かな世界だった」

 

 映像が変わる。

 都市。

 兵器。

 燃え上がる建物。

 崩れていく大地。

 

「人類は争い続けた」

 

 クラウスは語る。

 

「より豊かな暮らしのために」

「より大きな力のために」

「より優れた未来のために」

 

 映像の中で、人々は笑っていた。

 次の瞬間。

 その笑顔は悲鳴へ変わる。

 

「私達は進歩を続けた」

「生命を自在に操り」

「世界そのものを書き換える技術へ辿り着いた」

 

 ホムラが静かに目を伏せる。

 

「ゲート……」

「そう」

 

 クラウスは頷く。

 

「君達が『聖杯』と呼ぶ存在も、その研究の果てに生み出されたものだ」

 

 レックスがホムラを見る。

 ホムラは小さく頷いた。

 

「私達は、人が生み出した管理システムです」

「世界を維持するための、最後の装置」

「でも」

 

 レックスは前へ出た。

 

「だったら何で世界は滅んだんだ!」

 

 クラウスは少しだけ笑った。

 

「簡単な話だよ」

 

 そして。

 静かに答える。

 

「私は、人間を信じ切れなかった」

 

 映像が変わる。

 一人の男。

 若き日のクラウス。

 巨大な白い装置の前に立っている。

 その周囲では、何人もの研究者が叫んでいた。

 

『やめろ!』

『まだ実験段階だ!』

『起動してはならない!』

 

 それでも。

 若きクラウスは手を伸ばす。

 

「私は願ってしまった」

 

 その声は震えていた。

 

「世界を、やり直したいと」

 

 レックスは息を呑む。

 夢と同じだった。

 白い光。

 叫び声。

 そして。

 世界を飲み込む閃光。

 

「俺が見た夢……」

「そうだ」

 

 クラウスは静かに頷く。

 

「あれは私の記憶だ」

「実験が始まった瞬間」

 

 白い光が世界を包む。

 空が裂ける。

 大地が崩れる。

 都市が消えていく。

 あの日。

 人類の世界は終わった。

 

 

     ◇◇◇

 

 

「実験によって」

 

 クラウスは続ける。

 

「私は半身を失った」

 

 静かに、自らの身体へ視線を落とす。

 

「いや」

「正確には」

「世界そのものが二つに分かれた」

 

 シンが僅かに目を細めた。

 

「二つ……?」

「一つは、この世界」

「そして」

 

 クラウスは遠くを見る。

 その瞳は、この場にはない何かを見つめているようだった。

 

「もう一つは、私とは別の半身が存在する世界だ」

 

 誰も、その言葉の意味を理解できなかった。

 ただ一人。

 ホムラだけが静かに目を閉じていた。

 しばらく沈黙が続く。

 やがて。

 

「じゃあ」

 

 レックスが口を開く。

 

「アルストは」

「あなたが作った世界なのか?」

「違う」

 

 クラウスはゆっくり首を振った。

 

「私は創ったのではない」

「可能性を残しただけだ」

 

 光が再び広がる。

 雲海。

 アルス。

 コアクリスタル。

 ブレイド。

 巨神獣。

 それらが一つの循環として映し出される。

 

「私は、滅んだ世界から生命を育て直す仕組みを残した」

「コアクリスタルは命を記録し」

「ブレイドは経験を積み」

「やがて巨神獣となり」

「新たな大地を生み出す」

 

 トラが目を丸くする。

 

「つまり……」

「アルスト全部が、一つの生命循環だったも?」

「その通りだ」

 

 クラウスは穏やかに答えた。

 

「私は、人間にもう一度やり直す機会を与えたかった」

 

 レックスは拳を握る。

 

「じゃあ!」

「まだ世界は救えるんだな!」

 

 クラウスは静かにレックスを見る。

 その目は、どこか懐かしそうだった。

 

「君は、本当に彼と似ていない」

「え?」

「それでも」

 

 小さく笑う。

 

「だからこそ、君なのだろう」

 

 レックスは首を傾げる。

 

「俺には難しいことは分からない」

「でも」

 

 真っ直ぐクラウスを見る。

 

「やり直せるなら、やり直した方がいい」

「誰だって」

「間違えることはあるから」

 

 その言葉に。

 クラウスは静かに目を閉じた。

 何百年。

 いや、何千年ぶりだろう。

 自分の罪を責めるでもなく。

 赦すでもなく。

 ただ、前を向こうと言ってくれた人間は。

 

「……ありがとう」

 

 小さく。

 本当に小さく呟く。

 その瞬間だった。

 世界樹全体を揺るがすほどの轟音が響き渡る。

 ゴォォォォン――――ッ!!

 部屋全体が激しく震えた。

 クラウスの表情が変わる。

 

「来たか」

「え?」

「この世界を終わらせようとする者が」

 

 ホムラも息を呑む。

 

「まさか……!」

 

 クラウスは静かに振り返る。

 その視線の先。

 管理区画へ続く巨大な扉が、ゆっくりと開き始めていた。

 扉の向こうから溢れ出すのは、禍々しい紫色の光。

 そして、一歩、また一歩と近付いてくる足音。

 レックスは聖杯の剣を握り締める。

 ついに。

 アルストの運命を決める最後の戦いが、その幕を開けようとしていた。

 

 

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