ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第七十三話 託された世界

 

 紫色のエーテルが管理区画を満たしていく。

 床を走る光の筋が赤く染まり、天井からは警告音が絶え間なく鳴り響いていた。

 クラウスは静かに目を閉じる。

 

「始まってしまったか」

 

 その声には焦りよりも、長い年月を見届けてきた者だけが持つ諦観が滲んでいた。

 マルベーニは両手を広げ、まるで祈りを捧げるように天を仰ぐ。

 

「これでよいのです」

「人は滅びるべき存在」

「ならば」

「新たな世界など必要ありません」

 

 その言葉に、クラウスはゆっくりと首を振った。

 

「違う」

「私は、それを証明するために君たちを待っていたのではない」

 

 レックスはクラウスを見つめる。

 

「クラウス」

「一つだけ教えてくれ」

 

 クラウスは頷いた。

 

「何かな」

「俺たちは」

 

 一歩前へ出る。

 

「何のためにここまで来たんだ」

 

 その問いに、クラウスは穏やかに微笑んだ。

 

「その答えは」

「もう君自身が知っている」

「え……」

「楽園を探すためではない」

 

 クラウスはレックスを見る。

 

「誰かに与えられる未来を求めるためでもない」

「君たちは」

 

 一人ずつ仲間へ視線を向ける。

 ホムラ。

 ニア。

 トラ。

 ジーク。

 メレフ。

 ファン。

 

「未来を、自ら選ぶためにここへ来た」

 

 レックスは静かに目を閉じる。

 その言葉が胸へ落ちていく。

 旅を始めた頃の自分なら理解できなかっただろう。

 だが今は違う。

 

「……そうか」

 

 ゆっくりと笑う。

 

「俺、ずっと楽園を探してると思ってた」

「でも違ったんだな」

「そうだ」

 

 クラウスは頷く。

 

「楽園とは場所ではない」

「人が歩き続ける、その先にある希望のことだ」

「希望……ですか」

 

 ファンが静かに呟く。

 クラウスは彼女へ視線を向けた。

 

「君は、不思議な存在だ」

「本来なら、この場にはいないはずだった」

「はい」

 

 ファンは穏やかに微笑む。

 

「私もそう思います」

「怖くはなかったかい」

「再び目覚めることが」

 

 少しだけ考え、ファンは首を横へ振った。

 

「怖かったです」

「ですが」

 

 レックスを見る。

 

「この子たちに出会えました」

「それだけで」

「もう一度生きた意味はありました」

 

 クラウスは目を細める。

 

「そうか」

「ラウラは」

「本当に良い仲間を持ったのだね」

 

 その言葉に、ホムラは静かに俯いた。

 

「終わりです」

 

 マルベーニが右手を掲げる。

 紫色のエーテルが渦を巻き、管理区画全体を飲み込もうとしていた。

 

「この世界に希望などありません」

「人は何度生まれ変わっても」

「同じ過ちを繰り返す」

「だから」

「私は終わらせる」

 

 その瞬間。

 レックスは聖杯の剣を強く握り締めた。

 

「違う」

 

 静かな声だった。

 

「人は間違える」

「でも」

「間違えたらやり直せばいい」

「それだけだ」

 

 マルベーニは冷たく笑う。

 

「やり直せる者ばかりではありません」

「俺だってそうだ」

 

 レックスは叫ばない。

 ただ真っ直ぐに言葉を返す。

 

「助けられなかった人はいる」

「後悔したこともある」

「でも」

「だからって諦める理由にはならない」

 

 その瞳には迷いがなかった。

 

「俺は」

「もう一度立ち上がる」

「何度でも」

 

 その言葉を聞いたシンは、小さく目を閉じる。

 不思議な少年だ。

 理屈ではない。

 正しさでもない。

 それでも、人を信じ続ける。

 その姿が、遠い昔のラウラと重なる。

 

「……変わらないな」

 

 誰にも聞こえないほど小さく呟く。

 ファンだけが、その言葉に気付いて微笑んだ。

 突如。

 管理区画の壁が激しく揺れた。

 轟音。

 爆発。

 白い壁が内側から吹き飛び、紫色の炎が吹き上がる。

 その中から、ゆっくりと一つの影が歩み出る。

 

「おいおい」

 

 聞き慣れた声だった。

 

「勝手に始めるんじゃねぇよ」

 

 肩へ大剣を担ぎ、不敵な笑みを浮かべた男。

 メツ。

 その瞳は、真っ直ぐシンを見ていた。

 

「随分と長話だったじゃねぇか」

 

 シンは何も答えない。

 だが、その沈黙だけでメツには十分だった。

 

「なるほどな」

 

 小さく笑う。

 

「やっぱり、お前……」

 

 そこで言葉を切る。

 レックスへ視線を向けた。

 

「面白ぇ」

 

 紫色のエーテルが爆発的に膨れ上がる。

 世界樹全体が軋みを上げた。

 

「だったら最後くらい」

 

 メツは剣を構える。

 

「本気で遊ぼうぜ」

 

 

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