ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第七十四話 赦し

 

 

 メツが剣を肩へ担ぐ。

 紫色のエーテルが管理区画を満たし、世界樹そのものが低く唸りを上げていた。

 

「さあて」

 

 不敵な笑みを浮かべる。

 

「そろそろ終幕といこうぜ」

 

 その瞬間だった。

 

「待ちなさい」

 

 静かな声が響く。

 クラウスだった。

 メツは面倒そうに肩を竦める。

 

「まだ何かあるのか」

「あるとも」

 

 クラウスは穏やかな眼差しのまま、一人の少女を見つめた。

 

「ホムラ」

 

 その名を呼ばれ、ホムラの肩が僅かに震える。

 

「こちらへ来てくれるか」

 

 レックスは黙って見守る。

 ホムラは小さく頷くと、ゆっくりクラウスの前まで歩み寄った。

 その足取りは重い。

 一歩進むごとに、五百年という歳月を踏み締めているようだった。

 

「……申し訳ありません」

 

 クラウスの前へ立つなり、ホムラは深く頭を下げた。

 誰よりも先に。

 誰よりも深く。

 

「私は……」

 

 声が震える。

 

「あなたが託してくださった力を」

「正しく使うことが出来ませんでした」

 

 俯いたまま続ける。

 

「私は世界を滅ぼしかけました」

「多くの命を奪いました」

「ラウラも」

「アデルも」

「皆を悲しませました」

 

 その声は次第に小さくなっていく。

 

「……私は」

「赦されてはいけない存在です」

 

 長い沈黙が訪れた。

 クラウスは静かにホムラを見つめる。

 やがて、小さく首を横へ振った。

 

「違う」

 

 その一言に、ホムラは顔を上げる。

 

「ですが……」

「違う」

 

 もう一度。

 優しく繰り返す。

 

「責任は君にはない」

「え……?」

「君は、生まれたばかりだった」

 

 クラウスは穏やかに微笑む。

 

「世界を知らず」

「人を知らず」

「ただ、与えられた力だけを持っていた」

 

 失われた半身へ視線を落とす。

 

「そんな君へ」

「何も教えなかったのは私だ」

 

 ホムラは目を見開く。

 

「私は」

「創造主などではない」

「愚かな研究者だ」

「君たちは」

 

 静かにホムラのコアクリスタルを見る。

 

「私が生み出した子どもだ」

 

 その言葉に。

 ホムラの瞳が大きく揺れた。

 

「子ども……」

 

 呆然と呟く。

 その言葉を。

 五百年間。

 誰一人として口にしたことはなかった。

 

「そうだ」

 

 クラウスは頷く。

 

「だから」

「親として言わせてほしい」

 

 一歩だけ近付く。

 

「すまなかった」

 

 その謝罪は。

 五百年という時間の重さを持っていた。

 

「君に」

「こんな重い罪を背負わせてしまった」

「私の責任だ」

「違います!」

 

 ホムラは思わず叫ぶ。

 

「違いません!」

 

 初めて感情を露わにする。

 

「私は!」

「私が!」

「自分で選んでしまったんです!」

 

 涙が零れる。

 

「もっと早く止まれたはずだった!」

「もっと早く誰かを信じられたはずだった!」

「なのに私は!」

 

 言葉が続かない。

 嗚咽だけが漏れる。

 

「ホムラ」

 

 レックスが一歩踏み出そうとする。

 しかし。

 クラウスは静かに手で制した。

 

「彼女自身に歩かせてあげなさい」

 

 レックスは足を止める。

 クラウスは再びホムラを見る。

 

「確かに」

「君は過ちを犯した」

「だが」

「君は逃げなかった」

 

 ホムラは涙で滲んだ瞳を向ける。

 

「五百年」

「君は罪を抱え続けた」

「そして」

「再び人を信じることを選んだ」

 

 クラウスは静かにレックスを見る。

 

「彼を信じ」

「仲間を信じ」

「もう一度、生きようとしている」

「それが」

「何よりの答えではないか」

 

 ホムラは何も言えなかった。

 涙だけが止まらない。

 五百年間。

 自分を責め続けてきた。

 誰よりも。

 自分自身が自分を赦さなかった。

 その自分へ。

 初めて、もういいと言ってくれる人が現れた。

 

「……ごめんなさい」

 

 小さく呟く。

 

「ずっと」

「謝りたかったんです」

 

 クラウスは穏やかに微笑んだ。

 

「もう謝らなくていい」

「これからは」

「未来を見なさい」

「未来……」

 

 ホムラはゆっくりと振り返る。

 そこには。

 レックスが立っていた。

 何も言わず。

 ただ笑っている。

 その笑顔を見た瞬間。

 ホムラも、少しだけ笑った。

 泣きながら。

 それでも確かに。

 笑うことが出来た。

 その時だった。

 

「実に感動的ですね」

 

 拍手が響く。

 マルベーニだった。

 その笑顔は先ほどまでと変わらない。

 いや。

 どこか愉快そうですらある。

 

「ですが」

「それでは終われない」

 

 紫色のコアクリスタルが妖しく輝く。

 

「ホムラ」

 

 その名を呼ぶ。

 

「あなたは最後まで」

「聖杯としての役目を果たしていただきます」

 

 空間が歪む。

 紫色のエーテルが鎖のように伸びる。

 

「ホムラ!」

 

 レックスが叫ぶ。

 ホムラが振り向く。

 だが。

 もう遅かった。

 無数の鎖が彼女の身体へ絡みつく。

 

「きゃっ……!」

「ホムラ!」

 

 レックスが飛び出す。

 しかし。

 その前へ。

 一つの巨大な影が降り立った。

 

「悪いな、坊主」

 

 メツだった。

 大剣を肩へ担ぎ、不敵な笑みを浮かべる。

 

「こっから先は通行止めだ」

 

 レックスは聖杯の剣を握り締める。

 ホムラは鎖に囚われたまま、必死に首を振った。

 

「レックス!」

「来てはいけません!」

「お願いです!」

 

 しかし。

 レックスは一歩も退かなかった。

 

「迎えに行く!」

 

 その一言だけだった。

 だが。

 その言葉を聞いたホムラは、静かに目を閉じる。

 涙を流しながら。

 ほんの少しだけ。

 嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 五百年抱え続けた罪は赦された。

 そして今、新たな約束が生まれる。

 

 

 ――必ず迎えに行く。

 

 

 

 

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