ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第七十五話 譲れないもの

 

 

 紫色の鎖がホムラの身体を拘束していく。

 聖杯の力を封じるように、幾重もの光が彼女の四肢へ巻き付き、その自由を奪っていた。

 

「レックス!」

 

 ホムラの叫びが管理区画へ響く。

 

「来てはいけません!」

「お願いです!」

 

 しかし。

 レックスは立ち止まらなかった。

 一歩。

 また一歩。

 真っ直ぐホムラへ向かって歩く。

 

「迎えに行く」

 

 ただ、それだけを口にして。

 

「……いい目だ」

 

 メツが笑う。

 肩へ担いでいた大剣をゆっくりと構える。

 

「やっぱり、お前は面白ぇ」

 

 紫色のエーテルが刃へ集まり始める。

 

「だったら試してやる」

 

 不敵な笑み。

 

「その覚悟が……本物かどうかをな!」

 

 床を蹴る。

 一瞬でレックスの間合いへ飛び込む。

 

「レックス!」

 

 ジークが叫ぶ。

 しかし。

 レックスは逃げなかった。

 聖杯の剣を真正面から振り抜く。

 轟音。

 白と紫の光が激しくぶつかり合った。

 衝撃波が吹き荒れる。

 管理区画全体が震え、床へ幾筋もの亀裂が走った。

 

「ぐっ……!」

 

 レックスは歯を食いしばる。

 重い。

 シンとは違う。

 技ではない。

 純粋な暴力。

 圧倒的な力だけで押し潰そうとしてくる。

 

「はっ!」

 

 メツが剣を振り抜く。

 レックスは大きく吹き飛ばされ、床を転がった。

 

「レックス!」

 

 ニアが駆け出そうとする。

 しかし。

 

「駄目だ」

 

 シンが静かに腕を伸ばし、その前へ立った。

 

「シン?」

「これは」

 

 レックスから視線を逸らさない。

 

「奴自身が越えなければならない戦いだ」

 

 レックスはゆっくり立ち上がる。

 口元から血が流れていた。

 

「痛ぇな……」

 

 苦笑する。

 

「もう終わりか?」

 

 メツが肩を竦める。

 

「その程度なら期待外れだぜ」

「違う」

 

 レックスは剣を握り直した。

 

「まだ終わってない」

「そうか?」

「終わらせない」

 

 真っ直ぐメツを見る。

 

「ホムラを迎えに行くって約束したんだ」

 

 その言葉を聞き。

 シンは静かに目を閉じた。

 

『必ず迎えに来る』

 

 遠い昔。

 ラウラも、同じことを言っていた。

 

「約束」

 

 メツが笑う。

 

「そんなもんで世界が救えるなら苦労しねぇよ」

「救える」

 

 レックスは即答する。

 

「は?」

「約束だから守るんだ」

「守れなかったら?」

「また約束する」

「馬鹿か、お前」

「そうかもな」

 

 照れ臭そうに笑う。

 

「でも」

 

 剣を構える。

 

「俺はそういう奴だから」

 

 その瞬間だった。

 ホムラは涙を流していた。

 五百年前。

 アデルも同じだった。

 誰かのために剣を振るい。

 誰かとの約束を最後まで守ろうとした。

 けれど。

 レックスは違う。

 誰かを守るためだけではない。

 誰かと一緒に生きるために剣を振るっている。

 

「レックス……」

 

 その名前を、小さく呟く。

 

「気に入らねぇな」

 

 メツの笑みが消える。

 

「そういう希望に満ちた面はよ」

 

 紫色のエーテルが爆発する。

 

「全部叩き潰してやる!」

 

 凄まじい速度で踏み込む。

 レックスも同時に床を蹴った。

 白い光。

 紫色の光。

 二つの閃光が管理区画の中央で激突する。

 轟音。

 衝撃。

 世界樹そのものが揺れる。

 その戦いを見つめながら。

 クラウスは静かに微笑んでいた。

 

「見えるかい」

 

 誰へともなく呟く。

 

「もう一人の私」

 

 その視線は遥か遠く。

 この世界ではない、もう一つの世界を見つめているようだった。

 

「私は」

 

 小さく息を吐く。

 

「ようやく」

「人を信じられそうだ」

 

 一方。

 シンは静かに刀の柄を握る。

 メツ。

 長い間、共に歩いてきた男。

 世界を終わらせようとする友。

 そして。

 レックス。

 未来を信じ続ける少年。

 

「……答えは」

 

 誰にも聞こえない声。

 

「もう」

 

 小さく目を閉じる。

 

「決まっているのかもしれないな」

 

 その一言を。

 ファンだけが静かに聞いていた。

 そして。

 ほんの少しだけ微笑んだ。

 

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