紫色の鎖がホムラの身体を拘束していく。
聖杯の力を封じるように、幾重もの光が彼女の四肢へ巻き付き、その自由を奪っていた。
「レックス!」
ホムラの叫びが管理区画へ響く。
「来てはいけません!」
「お願いです!」
しかし。
レックスは立ち止まらなかった。
一歩。
また一歩。
真っ直ぐホムラへ向かって歩く。
「迎えに行く」
ただ、それだけを口にして。
「……いい目だ」
メツが笑う。
肩へ担いでいた大剣をゆっくりと構える。
「やっぱり、お前は面白ぇ」
紫色のエーテルが刃へ集まり始める。
「だったら試してやる」
不敵な笑み。
「その覚悟が……本物かどうかをな!」
床を蹴る。
一瞬でレックスの間合いへ飛び込む。
「レックス!」
ジークが叫ぶ。
しかし。
レックスは逃げなかった。
聖杯の剣を真正面から振り抜く。
轟音。
白と紫の光が激しくぶつかり合った。
衝撃波が吹き荒れる。
管理区画全体が震え、床へ幾筋もの亀裂が走った。
「ぐっ……!」
レックスは歯を食いしばる。
重い。
シンとは違う。
技ではない。
純粋な暴力。
圧倒的な力だけで押し潰そうとしてくる。
「はっ!」
メツが剣を振り抜く。
レックスは大きく吹き飛ばされ、床を転がった。
「レックス!」
ニアが駆け出そうとする。
しかし。
「駄目だ」
シンが静かに腕を伸ばし、その前へ立った。
「シン?」
「これは」
レックスから視線を逸らさない。
「奴自身が越えなければならない戦いだ」
レックスはゆっくり立ち上がる。
口元から血が流れていた。
「痛ぇな……」
苦笑する。
「もう終わりか?」
メツが肩を竦める。
「その程度なら期待外れだぜ」
「違う」
レックスは剣を握り直した。
「まだ終わってない」
「そうか?」
「終わらせない」
真っ直ぐメツを見る。
「ホムラを迎えに行くって約束したんだ」
その言葉を聞き。
シンは静かに目を閉じた。
『必ず迎えに来る』
遠い昔。
ラウラも、同じことを言っていた。
「約束」
メツが笑う。
「そんなもんで世界が救えるなら苦労しねぇよ」
「救える」
レックスは即答する。
「は?」
「約束だから守るんだ」
「守れなかったら?」
「また約束する」
「馬鹿か、お前」
「そうかもな」
照れ臭そうに笑う。
「でも」
剣を構える。
「俺はそういう奴だから」
その瞬間だった。
ホムラは涙を流していた。
五百年前。
アデルも同じだった。
誰かのために剣を振るい。
誰かとの約束を最後まで守ろうとした。
けれど。
レックスは違う。
誰かを守るためだけではない。
誰かと一緒に生きるために剣を振るっている。
「レックス……」
その名前を、小さく呟く。
「気に入らねぇな」
メツの笑みが消える。
「そういう希望に満ちた面はよ」
紫色のエーテルが爆発する。
「全部叩き潰してやる!」
凄まじい速度で踏み込む。
レックスも同時に床を蹴った。
白い光。
紫色の光。
二つの閃光が管理区画の中央で激突する。
轟音。
衝撃。
世界樹そのものが揺れる。
その戦いを見つめながら。
クラウスは静かに微笑んでいた。
「見えるかい」
誰へともなく呟く。
「もう一人の私」
その視線は遥か遠く。
この世界ではない、もう一つの世界を見つめているようだった。
「私は」
小さく息を吐く。
「ようやく」
「人を信じられそうだ」
一方。
シンは静かに刀の柄を握る。
メツ。
長い間、共に歩いてきた男。
世界を終わらせようとする友。
そして。
レックス。
未来を信じ続ける少年。
「……答えは」
誰にも聞こえない声。
「もう」
小さく目を閉じる。
「決まっているのかもしれないな」
その一言を。
ファンだけが静かに聞いていた。
そして。
ほんの少しだけ微笑んだ。