轟音が響く。
聖杯の剣とメツの大剣が正面からぶつかり合い、白と紫の光が管理区画いっぱいに弾け飛んだ。
衝撃だけで床が砕ける。
吹き荒れるエーテルの奔流が、周囲の機器を次々と破壊していく。
「まだだぁぁぁっ!」
レックスは雄叫びを上げながら剣を押し込む。
しかし。
「甘ぇ」
メツは鼻で笑った。
片腕だけで剣を受け止め、そのまま力任せに振り払う。
凄まじい衝撃。
レックスの身体は宙を舞い、何度も床を跳ねながら壁へ叩きつけられた。
「レックス!」
ホムラが叫ぶ。
拘束されたまま必死にもがくが、紫色の鎖はびくともしない。
「お願い……!」
「もう、やめてください……!」
「こんなもんか」
メツはゆっくり歩き出す。
倒れたレックスの前へ立つと、肩へ担いでいた大剣を静かに下ろした。
「期待してたんだけどな」
冷たい声だった。
「結局、お前もそこらの人間と変わらねぇ」
レックスは返事をしない。
いや。
出来なかった。
全身が悲鳴を上げている。
腕も。
脚も。
もう思うように動かない。
「ほら」
メツは剣先を向ける。
「立てよ」
「……」
「それとも終わりか?」
レックスはゆっくりと顔を上げた。
視界が滲む。
血が流れ込んでいるのか、片目はほとんど見えない。
それでも。
遠くにホムラの姿が見えた。
泣いている。
五百年間、自分を責め続けてきた少女が。
今も。
自分のせいだと思って泣いている。
「……違う」
小さく呟く。
これは。
ホムラのせいじゃない。
誰のせいでもない。
だから。
立たなければならない。
「レックス!」
ニアが叫ぶ。
その声に、レックスは僅かに顔を向ける。
ニアは拳を握り締めていた。
瞳には涙が滲んでいる。
「立ちな!」
その声は震えていた。
「そんな所で終わる奴じゃないだろ!」
レックスは苦笑する。
「ニア……」
「約束したじゃん!」
涙を拭いながら叫ぶ。
「みんなで帰るって!」
「ホムラも!」
「あたしも!」
「みんな!」
「置いていかないって!」
「そうだも!」
今度はトラだった。
「レックスなら勝てるも!」
「トラ信じてるも!」
「レックス!」
ジークが豪快に笑う。
「こんな所で寝てる暇があるかい!」
「立て!」
メレフも静かに剣を掲げる。
「君なら出来る」
「私は信じている」
レックスはゆっくりと笑った。
「みんな……」
不思議だった。
痛みは消えていない。
身体も重い。
なのに。
立てる気がした。
いや。
立たなければと思えた。
「一人じゃねぇんだよな」
小さく呟く。
剣を支えに身体を起こす。
膝が震える。
それでも。
立ち上がる。
「へぇ」
メツは笑った。
「やっぱ面白ぇな」
レックスは剣を構える。
その瞳から迷いは消えていた。
「俺は」
静かに言う。
「お前みたいに強くはない」
「知ってる」
「シンみたいに速くもない」
「それも知ってる」
「でも」
聖杯の剣が蒼く輝き始める。
「一人じゃない」
その瞬間。
ホムラのコアクリスタルが共鳴した。
続いて。
ニアの胸元から黄金色の光が漏れ始める。
誰もまだ気付いていない。
だが。
その光は先ほどよりも遥かに強く輝いていた。
シンは静かに目を細める。
「メツ」
低く呟く。
「……何だ」
「もう終わりだ」
メツが振り返る。
「何?」
「俺達の旅は」
その言葉に。
メツの表情から笑みが消えた。
「シン。お前……」
長い沈黙。
そして。
シンはゆっくり刀を抜く。
その切っ先は。
レックスではなく。
メツへ向けられていた。
「これ以上、未来を歩こうとする者の邪魔はさせない」
ファンは静かに目を閉じる。
五百年。
ようやく。
本当にようやく。
シンは、自分自身の意志で未来を選んだ。