ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第七十七話 託された剣

 

 

 管理区画へ、静寂が落ちた。

 シンの切っ先は、まっすぐメツへ向けられている。

 長い旅だった。

 五百年。

 絶望だけを信じて歩き続けた二人が、今、初めて互いに違う未来を見ていた。

 

「……本気か」

 

 メツが静かに口を開く。

 シンは答えない。

 ただ刀を構えたまま、一歩前へ出る。

 

「本当に」

 

 メツの声から笑みが消える。

 

「そっちへ行くってのか」

「違う」

 

 ようやくシンが口を開く。

 

「俺は誰の側にも立たない」

「なら」

「俺自身の答えを選ぶ」

 

 メツはしばらく黙っていた。

 やがて。

 小さく笑う。

 

「はっ」

「そうか」

 

 肩を震わせる。

 

「そういうことか」

 

 笑いは次第に大きくなり、やがて豪快な笑い声へ変わった。

 

「面白ぇじゃねぇか!」

 

 紫色のエーテルが爆発的に噴き上がる。

 

「ようやく本気になったか!」

 

 巨大な剣を肩へ担ぎ直す。

 

「だったらまとめて相手してやる!」

「レックス」

 

 シンが静かに呼ぶ。

 

「え?」

「勘違いするな」

 

 視線はメツから逸らさない。

 

「お前を認めたわけじゃない」

 

 レックスは苦笑した。

 

「知ってる」

「だが」

 

 刀を構え直す。

 

「奴だけは止める」

「それで十分だ」

 

 レックスはゆっくり頷く。

 

「ああ」

「一緒に止めよう」

 

 その言葉に、シンは僅かに眉をひそめる。

 

「……やはり変な奴だ」

 

 その時だった。

 

「レックス!」

 

 ホムラの叫び声が響く。

 拘束されたまま、必死に首を振る。

 

「無茶です!」

「メツは……!」

「分かってる!」

 

 レックスは笑う。

 

「でも」

「約束したから」

 

 その笑顔を見た瞬間。

 ホムラは五百年前を思い出していた。

 アデルも。

 同じ顔で笑っていた。

 誰かを守る時。

 誰かを信じる時。

 いつも。

 こんな笑顔だった。

 

「……本当に」

 

 涙が零れる。

 

「似ていませんね」

 

 その呟きに。

 ファンが優しく微笑んだ。

 

「ええ」

「でも」

「だからこそ、レックスさんなのです」

「来い!」

 

 メツが床を蹴る。

 一瞬で距離を詰める。

 その速度は、先ほどまでとは比較にならない。

 

「速い!」

 

 レックスが叫ぶ。

 しかし。

 シンは動かなかった。

 いや。

 見えていた。

 

「右だ!」

 

 短い声。

 レックスは反射的に身体を捻る。

 次の瞬間。

 紫色の斬撃が頬を掠めた。

 

「今だ!」

 

 シンが踏み込む。

 居合。

 白銀の一閃がメツの肩口を切り裂く。

 

「ちっ!」

 

 メツが初めて後退した。

 

「やるじゃねぇか」

 

 肩の傷を見ながら笑う。

 

「久しぶりだ」

「こんな傷」

 

 シンは静かに刀を構え直す。

 

「まだ終わっていない」

「そうだな!」

 

 レックスも飛び出す。

 シンが正面から斬り込む。

 レックスは側面へ回る。

 一人では敵わない。

 だから。

 二人で道を切り開く。

 それは五百年前。

 ラウラとシンが幾度となく戦場で見せた連携にも、どこか似ていた。

 

「ほう」

 

 クラウスが静かに目を細める。

 

「面白い」

 

 その視線の先では、二人の剣がまるで長年連れ添った戦友のように噛み合っていた。

 

「憎しみではなく」

「未来を選んだからこそ、生まれた共闘か」

 

 その言葉に、ファンは小さく頷く。

 

「シンは」

 

 戦いを見つめながら微笑む。

 

「ようやく前を向けました」

 

 しかし。

 その時だった。

 メツの表情が変わる。

 笑みが消える。

 瞳から感情が抜け落ちる。

 

「……なるほど」

 

 静かな声。

 

「もう遊びは終わりだ」

 

 紫色のエーテルが、これまでとは比べものにならない密度で身体へ集まり始める。

 世界樹全体が軋みを上げる。

 床が割れる。

 天井が震える。

 クラウスが険しい表情を浮かべた。

 

「まずい」

「レックス!」

「そこから離れなさい!」

 

 しかし。

 もう遅かった。

 メツの足元から黒紫色の光が噴き上がり、その姿を巨大な奔流が包み込んでいく。

 その圧倒的な力を前に、レックスもシンも思わず足を止めた。

 

「ここからが本番だ」

 

 メツの声だけが、轟音の中で不気味なほどはっきりと響く。

 アルスト最強のイーターが、ついに本気の姿を現そうとしていた。

 

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