管理区画へ、静寂が落ちた。
シンの切っ先は、まっすぐメツへ向けられている。
長い旅だった。
五百年。
絶望だけを信じて歩き続けた二人が、今、初めて互いに違う未来を見ていた。
「……本気か」
メツが静かに口を開く。
シンは答えない。
ただ刀を構えたまま、一歩前へ出る。
「本当に」
メツの声から笑みが消える。
「そっちへ行くってのか」
「違う」
ようやくシンが口を開く。
「俺は誰の側にも立たない」
「なら」
「俺自身の答えを選ぶ」
メツはしばらく黙っていた。
やがて。
小さく笑う。
「はっ」
「そうか」
肩を震わせる。
「そういうことか」
笑いは次第に大きくなり、やがて豪快な笑い声へ変わった。
「面白ぇじゃねぇか!」
紫色のエーテルが爆発的に噴き上がる。
「ようやく本気になったか!」
巨大な剣を肩へ担ぎ直す。
「だったらまとめて相手してやる!」
「レックス」
シンが静かに呼ぶ。
「え?」
「勘違いするな」
視線はメツから逸らさない。
「お前を認めたわけじゃない」
レックスは苦笑した。
「知ってる」
「だが」
刀を構え直す。
「奴だけは止める」
「それで十分だ」
レックスはゆっくり頷く。
「ああ」
「一緒に止めよう」
その言葉に、シンは僅かに眉をひそめる。
「……やはり変な奴だ」
その時だった。
「レックス!」
ホムラの叫び声が響く。
拘束されたまま、必死に首を振る。
「無茶です!」
「メツは……!」
「分かってる!」
レックスは笑う。
「でも」
「約束したから」
その笑顔を見た瞬間。
ホムラは五百年前を思い出していた。
アデルも。
同じ顔で笑っていた。
誰かを守る時。
誰かを信じる時。
いつも。
こんな笑顔だった。
「……本当に」
涙が零れる。
「似ていませんね」
その呟きに。
ファンが優しく微笑んだ。
「ええ」
「でも」
「だからこそ、レックスさんなのです」
「来い!」
メツが床を蹴る。
一瞬で距離を詰める。
その速度は、先ほどまでとは比較にならない。
「速い!」
レックスが叫ぶ。
しかし。
シンは動かなかった。
いや。
見えていた。
「右だ!」
短い声。
レックスは反射的に身体を捻る。
次の瞬間。
紫色の斬撃が頬を掠めた。
「今だ!」
シンが踏み込む。
居合。
白銀の一閃がメツの肩口を切り裂く。
「ちっ!」
メツが初めて後退した。
「やるじゃねぇか」
肩の傷を見ながら笑う。
「久しぶりだ」
「こんな傷」
シンは静かに刀を構え直す。
「まだ終わっていない」
「そうだな!」
レックスも飛び出す。
シンが正面から斬り込む。
レックスは側面へ回る。
一人では敵わない。
だから。
二人で道を切り開く。
それは五百年前。
ラウラとシンが幾度となく戦場で見せた連携にも、どこか似ていた。
「ほう」
クラウスが静かに目を細める。
「面白い」
その視線の先では、二人の剣がまるで長年連れ添った戦友のように噛み合っていた。
「憎しみではなく」
「未来を選んだからこそ、生まれた共闘か」
その言葉に、ファンは小さく頷く。
「シンは」
戦いを見つめながら微笑む。
「ようやく前を向けました」
しかし。
その時だった。
メツの表情が変わる。
笑みが消える。
瞳から感情が抜け落ちる。
「……なるほど」
静かな声。
「もう遊びは終わりだ」
紫色のエーテルが、これまでとは比べものにならない密度で身体へ集まり始める。
世界樹全体が軋みを上げる。
床が割れる。
天井が震える。
クラウスが険しい表情を浮かべた。
「まずい」
「レックス!」
「そこから離れなさい!」
しかし。
もう遅かった。
メツの足元から黒紫色の光が噴き上がり、その姿を巨大な奔流が包み込んでいく。
その圧倒的な力を前に、レックスもシンも思わず足を止めた。
「ここからが本番だ」
メツの声だけが、轟音の中で不気味なほどはっきりと響く。
アルスト最強のイーターが、ついに本気の姿を現そうとしていた。