黄金の光が管理区画を優しく照らしていた。
ニアの放つエーテルは、暴風のように荒れ狂うメツの力とは対照的に、傷付いた者たちの身体を静かに癒やしていく。
レックスは拳を握った。
さっきまで鉛のように重かった身体が、少しずつ軽くなっていく。
「ありがとな、ニア」
振り返る。
ニアは照れくさそうに笑った。
「あとで一発殴るからね」
「えぇ?」
「黙って無茶した分」
「勘弁してくれよ」
「嫌」
短いやり取り。
それだけで、張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
「……まったく」
シンは小さく息を吐いた。
「戦場とは思えんな」
その呟きに、レックスは笑う。
「だから勝てるんだ」
「何?」
「笑える奴の方が強いって、俺は思う」
シンは返事をしなかった。
だが、どこかラウラを思い出すように、小さく目を細める。
「終わったか?」
メツが大剣を肩へ担ぎ直す。
その顔から笑みは消えていた。
「だったら来い」
紫色のエーテルが再び噴き上がる。
管理区画の床が軋み、巨大な亀裂が蜘蛛の巣のように広がっていく。
レックスは聖杯の剣を構えた。
その隣へニアが並ぶ。
さらに。
シンが静かに刀を抜く。
黄金。
蒼。
白銀。
三つの光が一直線に並んだ。
「面白ぇ」
メツは獰猛に笑う。
「ようやく役者が揃ったか」
「レックス」
シンが低く呟く。
「俺が正面を引き受ける」
「分かった」
「ニア」
「任せて」
三人の返事は、それだけだった。
だが。
十分だった。
シンが駆ける。
凍気を纏った一閃がメツを襲う。
メツは大剣で受け止める。
「甘ぇ!」
轟音。
火花が散る。
そこへ。
「はぁっ!」
レックスが横から飛び込む。
聖杯の剣が蒼白い軌跡を描き、メツの脇腹を狙う。
「ちっ!」
大剣を引き戻して受ける。
だが、その一瞬。
「そこだよ!」
ニアの光が弾けた。
黄金色のエーテルがメツの動きを束の間だけ鈍らせる。
「今だ!」
レックスとシンが同時に踏み込む。
蒼い剣。
白銀の刀。
二つの刃が十字に閃く。
鈍い音。
メツの身体へ初めて深い傷が刻まれた。
「やるじゃねぇか……!」
メツは傷口を押さえながら笑う。
その笑みは怒りではない。
歓喜だった。
「これだ!」
「こうでなくちゃ面白くねぇ!」
紫色のエーテルが爆発する。
衝撃波が三人を吹き飛ばした。
「ぐっ!」
レックスが膝をつく。
シンも床を滑り、刀を突き立ててようやく勢いを殺した。
ニアだけは立ったまま、黄金色の光を絶やさない。
その姿を見たメツは、初めて僅かに眉をひそめた。
「その力……」
「ラウラの……」
思わず漏れたその言葉に。
シンの瞳が揺れる。
メツもまた、ラウラの光を忘れてはいなかった。
「メツ」
シンがゆっくり立ち上がる。
「お前は言ったな」
刀を構える。
「人は変われないと」
「そうだ」
「なら」
シンは静かに笑った。
本当に、ほんの少しだけ。
「俺は変わった」
メツの表情が固まる。
「お前……」
「五百年掛かった」
レックスを見る。
ファンを見る。
ホムラを見る。
そして。
ニアを見る。
「だが」
「ようやく答えが見つかった」
その言葉を聞いたファンは、静かに目を閉じた。
長かった。
本当に長かった。
五百年。
シンは、ようやくラウラへ胸を張れる場所まで歩いてきたのだ。
その時だった。
クラウスが静かに目を見開く。
「レックス!」
声を上げる。
「気を付けなさい!」
「彼はまだ、本当の力を残している!」
メツは笑った。
「さすが創造主」
ゆっくりと両腕を広げる。
紫黒のエーテルが天井へ向かって渦を巻き始める。
「なら見せてやる」
「俺達が選んだ」
「最後の答えを!」
管理区画全体が紫色に染まる。
その圧倒的な力を前に、レックスは聖杯の剣を握り締めた。
アルストの運命を懸けた決着の時が、ついに訪れようとしていた。