ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第八十話 五百年の決着

 

 

 紫黒のエーテルが天井を覆う。

 世界樹そのものが悲鳴を上げるように震え、管理区画の壁が次々と崩れ始めた。

 クラウスは静かに目を伏せる。

 

「やはり……」

 

 低く呟く。

 

「メツは、この世界そのものを道連れにするつもりか」

「だったら!」

 

 レックスは聖杯の剣を握り直す。

 

「止めるだけだ!」

「簡単に言うなよ」

 

 メツが笑う。

 その笑みには、もはや余裕ではなく狂気だけが残っていた。

 

「世界を壊すってのはな」

 

 両腕を広げる。

 

「思ってるより気持ちいいんだぜ」

 

 その言葉に。

 クラウスは静かに目を閉じた。

 かつて。

 自分もまた。

 似たような場所へ立ってしまったことを思い出しながら。

 

「メツ」

 

 静かな声だった。

 シンが一歩前へ出る。

 刀を下ろしたまま。

 真っ直ぐメツを見る。

 

「まだ何か言いてぇのか」

「ある」

 

 短く答える。

 

「俺は、お前に礼を言わなければならない」

 

 レックスが驚いて振り返る。

 メツも僅かに眉を上げた。

 

「礼だぁ?」

「お前がいたから」

 

 シンは静かに続ける。

 

「俺は五百年、生き続けた」

 

 その言葉には嘘はなかった。

 ラウラを失い。

 世界を憎み。

 絶望だけを抱えて歩き続けた日々。

 その隣には、いつもメツがいた。

 

「だから」

「感謝はしている」

 

 メツは黙って聞いている。

 

「だが」

 

 シンはゆっくり刀を構えた。

 

「ここで終わりだ」

「終わり?」

 

 メツが笑う。

 

「終わるのは世界だ」

「違う」

 

 シンは首を横へ振る。

 

「終わるのは」

 

 一歩踏み出す。

 

「俺達の旅だ」

 

 その瞬間。

 空気が変わった。

 レックスも。

 ニアも。

 ファンも。

 誰も動けない。

 シンの背中から漂う気配が、それまでとはまるで違っていた。

 もう迷いはない。

 もう立ち止まらない。

 五百年という時間に、自ら終止符を打とうとしていた。

 

「シン……」

 

 ファンが小さく名前を呼ぶ。

 シンは振り返らなかった。

 だが。

 

「ファン」

 

 穏やかな声だった。

 

「ありがとう」

 

 その一言だけで十分だった。

 ファンは静かに微笑む。

 

「こちらこそ」

「五百年間」

「本当に、お疲れ様でした」

 

 その言葉に。

 シンはほんの僅かだけ笑った。

 ラウラが亡くなって以来。

 初めて見せる、穏やかな笑顔だった。

 

「……チッ」

 

 メツが舌打ちする。

 

「そういう顔」

「一番嫌いなんだよ」

 

 大剣を振り上げる。

 紫黒のエーテルが刃へ集まり始める。

 

「だったら!」

「その笑顔ごと叩き潰してやる!」

「レックス!」

 

 シンが叫ぶ。

 レックスは反射的に顔を上げた。

 

「ここから先は」

「俺がやる」

「でも!」

「聞け」

 

 その声には、有無を言わせぬ強さがあった。

 

「お前には」

「未来がある」

「……!」

「俺には」

 

 静かに笑う。

 

「五百年前がある」

 

 レックスは言葉を失う。

 

「だから」

 

 刀を握る手に力が入る。

 

「これは」

「俺達の決着だ」

 

 メツが笑う。

 

「いいぜ」

「望むところだ」

 

 二人が同時に床を蹴る。

 白銀。

 紫黒。

 二つの閃光が真正面から激突した。

 轟音。

 世界樹全体を揺るがす衝撃が走る。

 レックスは思わず踏み出そうとした。

 しかし。

 肩へ手が置かれる。

 振り向く。

 クラウスだった。

 

「行ってはいけない」

「どうして!」

「これは」

 

 静かに首を横へ振る。

 

「彼らだけが終わらせられる物語だからだ」

 

 激突する二つの光を見つめながら。

 ファンは静かに目を閉じる。

 ラウラ。

 見ていますか。

 シンは。

 ようやく。

 ようやく前を向いて歩き始めました。

 あなたが命を懸けて守った人は。

 今、自分自身の意志で未来を選ぼうとしています。

 だから。

 もう大丈夫です。

 その祈りは、誰にも届かない。

 それでも。

 五百年前から止まっていた時間が、確かに今、動き始めていた。

 

 

 

 

 絶望と共に歩んだ五百年。

 その旅路は、今、一振りの刀によって終わりを迎えようとしていた。

 

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