轟音が響く。
白銀の刀と紫黒の大剣が真正面からぶつかり合い、その衝撃だけで管理区画の床が大きく砕け散る。
シンは一歩も退かない。
メツもまた、一歩も退かない。
互いに五百年という歳月を背負ったまま、静かに睨み合っていた。
「……強くなったな」
メツがぽつりと呟く。
「昔のお前なら」
「ここまで俺を押せなかった」
シンは答えない。
ただ刀へ力を込める。
「何だよ」
メツが笑う。
「最後くらい何か言え」
「……言うことはない」
「本当に?」
「もう終わった」
その一言だった。
メツの笑みが僅かに消える。
「終わっただぁ?」
紫黒のエーテルが激しく吹き荒れる。
「俺達はまだ何も終わっちゃいねぇ!」
「世界は腐った!」
「人間は何も変わらなかった!」
「だから!」
「全部壊すしかねぇ!」
その叫びは怒りだった。
憎しみだった。
そして。
どうしようもない悲しみだった。
シンは静かに目を閉じる。
「……そうだな」
小さく頷く。
「……ラウラは死んだ」
「そして、世界も変わらなかった」
「俺も」
「そういう意味では……ずっと、お前と同じことを考えていた」
ゆっくりと目を開く。
「だが」
「間違っていた」
「何?」
メツが眉をひそめる。
「ラウラは」
シンは静かに言う。
「世界を憎まなかった」
「……」
「最後まで」
「人を信じていた」
「だから」
刀を構え直す。
「俺も」
「信じてみる」
「今さらか!」
メツが怒鳴る。
「五百年も経って!」
「今さら希望だと!?」
「そうだ」
シンは笑った。
穏やかな笑みだった。
「五百年掛かった」
「だから」
「もう十分だ」
その笑顔を見た瞬間。
メツは息を呑んだ。
思い出した。
あの頃。
ラウラと旅をしていたシンは。
こんな顔で笑っていた。
「……チッ」
大剣へさらに力を込める。
「その顔が」
「一番嫌いなんだよ!」
轟音。
二人が同時に飛び退く。
床へ着地した瞬間。
再び激突する。
居合。
斬撃。
蹴り。
拳。
技術と力。
互いに一歩も譲らない。
レックスは黙って見つめていた。
助けに行きたい。
でも。
クラウスの言葉が頭から離れない。
「これは彼らだけが終わらせられる物語だ」
レックスは拳を握る。
ここへ来るまで。
シンが何を失い。
何を抱え。
何を諦めてきたのか。
少しだけ。
本当に少しだけ。
分かった気がした。
「シン」
ファンが小さく呟く。
シンは戦いながら、ほんの少しだけ視線を向ける。
ファンは微笑んでいた。
泣いてはいない。
悲しんでもいない。
ただ。
優しく。
ラウラがいつも見せていた笑顔で。
「行ってらっしゃい」
その一言だった。
シンの瞳が静かに揺れる。
「……ああ」
短く答える。
その返事は。
まるで五百年前の旅立ちへ返す返事のようだった。
「終わらせよう」
シンが刀を構える。
「メツ」
「好きにしろ!」
メツも大剣を振り上げる。
二人は同時に踏み込んだ。
白銀と紫黒。
二つの閃光が交差する。
一瞬。
時間が止まったように見えた。
次の瞬間。
メツの肩口から鮮血が舞う。
シンの胸元にも深い裂傷が刻まれる。
互いに致命傷。
それでも。
どちらも倒れない。
「まだだ!」
メツが咆哮する。
「まだ終われねぇ!」
シンは静かに息を吐く。
そして。
刀を握る手へ最後の力を込めた。
その瞳には、もう迷いはなかった。
五百年前から続いた旅。
その終着点は、もう目の前まで迫っていた。