ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第八十一話 五百年の終わり

 

 

 轟音が響く。

 白銀の刀と紫黒の大剣が真正面からぶつかり合い、その衝撃だけで管理区画の床が大きく砕け散る。

 シンは一歩も退かない。

 メツもまた、一歩も退かない。

 互いに五百年という歳月を背負ったまま、静かに睨み合っていた。

 

「……強くなったな」

 

 メツがぽつりと呟く。

 

「昔のお前なら」

「ここまで俺を押せなかった」

 

 シンは答えない。

 ただ刀へ力を込める。

 

「何だよ」

 

 メツが笑う。

 

「最後くらい何か言え」

「……言うことはない」

「本当に?」

「もう終わった」

 

 その一言だった。

 メツの笑みが僅かに消える。

 

「終わっただぁ?」

 

 紫黒のエーテルが激しく吹き荒れる。

 

「俺達はまだ何も終わっちゃいねぇ!」

「世界は腐った!」

「人間は何も変わらなかった!」

「だから!」

「全部壊すしかねぇ!」

 

 その叫びは怒りだった。

 憎しみだった。

 そして。

 どうしようもない悲しみだった。

 シンは静かに目を閉じる。

 

「……そうだな」

 

 小さく頷く。

 

「……ラウラは死んだ」

「そして、世界も変わらなかった」

「俺も」

「そういう意味では……ずっと、お前と同じことを考えていた」

 

 ゆっくりと目を開く。

 

「だが」

「間違っていた」

「何?」

 

 メツが眉をひそめる。

 

「ラウラは」

 

 シンは静かに言う。

 

「世界を憎まなかった」

「……」

「最後まで」

「人を信じていた」

「だから」

 

 刀を構え直す。

 

「俺も」

「信じてみる」

「今さらか!」

 

 メツが怒鳴る。

 

「五百年も経って!」

「今さら希望だと!?」

「そうだ」

 

 シンは笑った。

 穏やかな笑みだった。

 

「五百年掛かった」

「だから」

「もう十分だ」

 

 その笑顔を見た瞬間。

 メツは息を呑んだ。

 思い出した。

 あの頃。

 ラウラと旅をしていたシンは。

 こんな顔で笑っていた。

 

「……チッ」

 

 大剣へさらに力を込める。

 

「その顔が」

「一番嫌いなんだよ!」

 

 轟音。

 二人が同時に飛び退く。

 床へ着地した瞬間。

 再び激突する。

 居合。

 斬撃。

 蹴り。

 拳。

 技術と力。

 互いに一歩も譲らない。

 レックスは黙って見つめていた。

 助けに行きたい。

 でも。

 クラウスの言葉が頭から離れない。

 

「これは彼らだけが終わらせられる物語だ」

 

 レックスは拳を握る。

 ここへ来るまで。

 シンが何を失い。

 何を抱え。

 何を諦めてきたのか。

 少しだけ。

 本当に少しだけ。

 分かった気がした。

 

「シン」

 

 ファンが小さく呟く。

 シンは戦いながら、ほんの少しだけ視線を向ける。

 ファンは微笑んでいた。

 泣いてはいない。

 悲しんでもいない。

 ただ。

 優しく。

 ラウラがいつも見せていた笑顔で。

 

「行ってらっしゃい」

 

 その一言だった。

 シンの瞳が静かに揺れる。

 

「……ああ」

 

 短く答える。

 その返事は。

 まるで五百年前の旅立ちへ返す返事のようだった。

 

「終わらせよう」

 

 シンが刀を構える。

 

「メツ」

「好きにしろ!」

 

 メツも大剣を振り上げる。

 二人は同時に踏み込んだ。

 白銀と紫黒。

 二つの閃光が交差する。

 一瞬。

 時間が止まったように見えた。

 次の瞬間。

 メツの肩口から鮮血が舞う。

 シンの胸元にも深い裂傷が刻まれる。

 互いに致命傷。

 それでも。

 どちらも倒れない。

 

「まだだ!」

 

 メツが咆哮する。

 

「まだ終われねぇ!」

 

 シンは静かに息を吐く。

 そして。

 刀を握る手へ最後の力を込めた。

 その瞳には、もう迷いはなかった。

 五百年前から続いた旅。

 その終着点は、もう目の前まで迫っていた。

 

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