ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第八十二話 友へ

 

 

 白銀の刀が軋む。

 紫黒の大剣が唸る。

 二つの刃が噛み合ったまま、互いに一歩も譲らない。

 管理区画の床には幾筋もの亀裂が走り、世界樹そのものが悲鳴を上げていた。

 

「はぁ……」

 

 シンは静かに息を吐く。

 肩で息をしている。

 傷は深い。

 それでも刀を握る手だけは、一切震えていなかった。

 

「へっ」

 

 メツが笑う。

 

「そんな身体で、まだ立つか」

「当然だ」

 

 短い返事。

 その声は驚くほど穏やかだった。

 

「なぁ、シン」

 

 メツが剣を肩へ担ぐ。

 

「俺ぁ一つだけ聞きてぇ」

 

 シンは黙って見つめ返す。

 

「何でだ」

「何で今さら、人間なんか信じられる」

 

 怒鳴っているわけではない。

 純粋な疑問だった。

 

「ラウラは死んだ」

「俺達は全部失った」

「世界は何も変わらなかった」

 

「なのに」

 

「何で笑える」

 

 その問いに。

 シンはしばらく答えなかった。

 やがて。

 静かに口を開く。

 

「俺も」

「昔はお前と同じだった」

「……」

「全部壊してしまえばいいと思っていた」

「そうだろ」

 

 メツが笑う。

 

「それが正しい」

「違う」

 

 シンは首を横へ振った。

 

「それでは」

「ラウラが泣く」

 

 メツの表情が止まる。

 シンは続ける。

 

「俺は」

「ラウラの願いを」

「一度も聞こうとしなかった」

 

 その声には深い後悔が滲んでいた。

 

「ラウラは」

「最後まで人を信じていた」

「俺だけが」

「その願いから目を逸らした」

「だから」

 

 刀をゆっくり構える。

 

「ようやく」

「迎えに行ける」

 

 その言葉を聞き。

 ファンは静かに目を閉じた。

 涙が、一筋だけ頬を伝う。

 

「迎えに行くだぁ?」

 

 メツが怒鳴る。

 

「死ぬ気か!」

「そうだ」

 

 迷いなく答える。

 

「俺は」

「もう十分生きた」

「シン!」

 

 レックスが叫ぶ。

 だが。

 シンは振り返らない。

 

「レックス」

「聞け」

 

 その声だけで。

 レックスは足を止めた。

 

「お前は」

「生きろ」

「……」

「未来を見ろ」

「俺達は」

「もう十分」

「過去を見続けた」

 

 レックスは拳を握る。

 その言葉の意味が分かってしまった。

 

「やめろ……」

 

 小さく呟く。

 

「そんな終わり方」

「認めねぇ」

 

 シンは少しだけ笑った。

 

「お前らしいな」

「だったら!」

 

 レックスは一歩踏み出す。

 

「一緒に帰ろう!」

「ホムラも!」

「ファンも!」

「ニアも!」

「みんなで!」

「帰ろう!」

 

 シンは目を閉じた。

 その言葉は。

 五百年前なら。

 きっと。

 何よりも欲しかった言葉だった。

 

「……ありがとう」

 

 静かな声だった。

 

「だが」

「俺には」

「やるべきことがある」

 

 ゆっくりと。

 刀を正眼へ構える。

 冷気が刃を包み込む。

 管理区画の温度が、一気に下がっていく。

 メツも笑みを消した。

 

「そうか」

 

 大剣を握り直す。

 

「だったら」

「最後まで付き合ってやる」

 

 紫黒のエーテルが天井を覆う。

 白銀の冷気が床を凍らせる。

 二人は同時に踏み込んだ。

 その瞬間。

 クラウスは静かに目を閉じる。

 

「……これが」

 

 小さく呟く。

 

「君達が選んだ結末か」

 

 ファンはシンだけを見つめていた。

 もう止めない。

 もう引き留めない。

 それが。

 今のシンが、自分自身で選んだ未来だから。

 だから最後くらいは。

 笑顔で送り出そうと思った。

 

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