ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第八十六話 世界の終わり

 

 

 眩い光が管理区画を包み込む。

 クラウスの姿は、もうどこにもなかった。

 制御装置の前には、無数の光の粒子だけが静かに舞い、それもやがて世界樹の光へ溶け込むように消えていく。

 誰も言葉を発しない。

 最後の管理者は、その役目を終えた。

 静寂は、ほんの数秒しか続かなかった。

 

『――管理者消失を確認』

『――統合管理システム停止』

『――軌道エレベーター、全域崩壊開始』

 

 耳をつんざくような警報音が鳴り響く。

 直後、世界樹全体が大きく傾いた。

 

「伏せろ!」

 

 メレフが叫ぶ。

 天井が崩れた。

 巨大な瓦礫が轟音とともに降り注ぎ、一行の頭上へ迫る。

 

「トラ!」

「任せるも!」

 

 ハナが跳び上がり、両腕を広げる。

 エーテル障壁が展開され、落下してきた瓦礫を受け止める。

 しかし、その衝撃で床が砕けた。

 

「長くは保たないも!」

「急ぐぞ!」

 

 ジークが叫ぶ。

 崩れ始めた通路を、全員が一斉に駆け出した。

 世界樹は泣いていた。

 いや。

 悲鳴を上げていた。

 幾千年もの間、この世界を支えてきた巨大な構造体が、自らの役目を終えようとしている。

 壁が裂ける。

 天井が崩れる。

 遠くでは巨大な塔が横倒しになり、白い都市そのものが崩れ落ちていく。

 

「レックス!」

 

 ホムラが前を指差す。

 

「右です!」

「分かった!」

 

 聖杯の剣を振るう。

 蒼白い光が瓦礫を切り裂き、辛うじて人一人が通れる道が開いた。

 

「先へ!」

 

 レックスが叫ぶ。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 その時だった。

 

「……シン?」

 

 ファンが足を止める。

 誰もいない。

 先ほどまで歩いていたはずのシンの姿が見当たらなかった。

 レックスも振り返る。

 

「シン!」

 

 返事はない。

 崩れ落ちる瓦礫の向こう。

 遠くで、一人の男が膝をついているのが見えた。

 白銀の刀を支えに。

 静かに呼吸を整えている。

 

「シン!」

 

 レックスは駆け出そうとした。

 しかし。

 その肩を、ファンが掴む。

 

「私が行きます」

「でも!」

「お願いします」

 

 その声は穏やかだった。

 

「少しだけ」

「二人きりにしてください」

 

 レックスは拳を握る。

 シンを置いて行きたくない。

 そんな思いが胸を締め付ける。

 しかし。

 ファンの瞳を見た瞬間、その言葉を飲み込んだ。

 あの瞳は。

 五百年前からシンを見守り続けてきた者だけが持つ覚悟だった。

 

「……分かった」

 

 静かに頷く。

 

「必ず戻ってきてくれ」

 

 ファンは優しく微笑んだ。

 

「ええ」

「約束します」

 

 

     ◇◇◇

 

 

 ファンは崩れゆく通路を、一人歩いていく。

 瓦礫が降る。

 床が割れる。

 それでも足は止まらない。

 やがて。

 シンの前まで辿り着いた。

 

「……来たか」

 

 シンは苦笑する。

 

「危険だ」

「危険なのは」

 

 ファンも静かに膝をつく。

 

「あなたの方です」

 

 シンは何も答えなかった。

 胸元からは血が流れ続けている。

 凍結能力で傷を押さえているとはいえ、それも限界が近い。

 

「やはり」

 

 ファンは小さく呟く。

 

「無茶をしましたね」

「最後くらい」

 

 シンは静かに笑う。

 

「格好を付けたかった」

 

 その笑顔を見た瞬間。

 ファンも思わず笑ってしまう。

 

「ラウラ様なら」

「きっと笑っています」

「……そうかもしれないな」

 

 

     ◇◇◇

 

 

 一方。

 レックスたちは出口へ向かって走り続けていた。

 世界樹の崩壊は加速している。

 残された時間は、もうほとんどない。

 それでも。

 レックスは一度だけ振り返る。

 遠く。

 崩れゆく管理区画の中で、小さく向かい合う二つの影が見えた。

 

「シン……」

 

 その名を小さく呟く。

 そして。

 前を向く。

 未来へ進むこと。

 それが今、自分に託された役目なのだと、ようやく理解していた。

 

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