眩い光が、すべてを包み込んだ。
世界樹は崩れ落ちる。
白亜の都市は音を立てて砕け、その破片は雲海へ吸い込まれるように消えていく。
まるで。
長い夢が終わるように。
◇◇◇
「急げ!」
ジークが叫ぶ。
レックスたちは崩壊する通路を全力で駆けていた。
足元は次々と崩れ、後ろから押し寄せる衝撃波が背中を叩く。
「左だ!」
メレフが叫ぶ。
レックスは聖杯の剣を振るい、崩れた壁を切り裂く。
辛うじて開いた通路へ全員が飛び込む。
その直後。
今までいた場所が轟音とともに崩落した。
「危なかったも……」
トラが息を切らす。
ハナも肩で息をしていた。
もう誰にも余裕はない。
レックスは走りながら振り返る。
そこにはもう。
シンの姿はなかった。
ただ。
崩れゆく白い光だけが広がっている。
「……シン」
小さく呟く。
その声は爆発音に掻き消えた。
それでも。
不思議と寂しさだけではなかった。
あの男は。
最後に笑っていた。
だから。
前を向かなければならない。
「レックス」
隣へ並んだホムラが静かに声を掛ける。
「……何だい?」
「シンさんは」
少しだけ間を置く。
「救われたのでしょうか」
レックスはすぐには答えなかった。
崩壊する世界樹を見つめながら考える。
そして。
「救われたんじゃない」
「え?」
「自分で歩き出したんだ」
ホムラは静かに目を見開く。
「五百年間」
「ずっと止まってた時間を」
「最後に自分の足で歩けた」
「だから」
笑う。
「きっとラウラさんも喜んでる」
ホムラは何も言えなかった。
ただ。
静かに頷く。
◇◇◇
一行は巨大な昇降施設へ辿り着く。
しかし。
その床は半ば崩れ落ちていた。
「飛び移るしかないようやな」
ジークが向こう岸を見る。
距離はある。
普通なら届かない。
「私が橋を作ります」
ホムラが一歩前へ出る。
コアクリスタルが蒼く輝く。
聖杯の力が空中へ光の足場を生み出した。
「今です!」
「行こう!」
レックスが先頭を駆ける。
続いてニア。
トラ。
ハナ。
メレフ。
ジーク。
最後にファン。
全員が光の橋を渡り切った、その瞬間だった。
橋が音もなく消える。
直後。
昇降施設そのものが崩壊した。
◇◇◇
「間に合った……」
ニアが大きく息を吐く。
だが。
安堵する暇はなかった。
世界樹全体が激しく揺れる。
『――最終防衛機構、起動』
『――緊急脱出シークエンス開始』
聞き覚えのない機械音声が響く。
クラウスが最後に残した安全機構。
管理者が消えた今、自動で作動したのだ。
巨大な隔壁が開く。
その向こうには。
青空が広がっていた。
「出口だ!」
レックスが叫ぶ。
全員が外へ飛び出した。
その瞬間。
思わず息を呑む。
眼下には。
アルスト全土が見えていた。
世界樹の根元。
巨神獣たち。
雲海。
そのすべてが。
ゆっくりと姿を変え始めている。
雲海が引いていく。
まるで。
長い眠りから世界そのものが目を覚ましていくようだった。
「これは……」
メレフが目を見開く。
「世界が」
「変わっていく」
その様子を見つめながら。
レックスは胸へ手を当てる。
そこにはまだ。
シンとの約束が残っていた。
『未来を頼む』
短い一言。
だが。
それは五百年という歳月の重みを持つ言葉だった。
「任せろ」
誰へともなく呟く。
「俺たちが」
「この世界を繋いでいく」
◇◇◇
その時だった。
ファンが空を見上げる。
穏やかな風が吹いていた。
崩壊の中とは思えないほど、優しい風だった。
その風に乗って。
一枚の白い花弁が舞う。
それはレックスたちの間を静かに通り抜け、遥かな空へ消えていく。
ファンはそっと目を閉じた。
「……お帰りなさい」
その小さな呟きを聞いた者はいなかった。
けれど。
風だけが、優しくその言葉を運んでいった。
世界は終わった。
だが。
それは滅びではない。
新しい世界の、最初の一歩だった。