ゼノブレイド2 五百年の約束   作:natsuki

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第八十九話 そして、新しい世界へ

 

 

 眩い光が、すべてを包み込んだ。

 世界樹は崩れ落ちる。

 白亜の都市は音を立てて砕け、その破片は雲海へ吸い込まれるように消えていく。

 まるで。

 長い夢が終わるように。

 

 

     ◇◇◇

 

 

「急げ!」

 

 ジークが叫ぶ。

 レックスたちは崩壊する通路を全力で駆けていた。

 足元は次々と崩れ、後ろから押し寄せる衝撃波が背中を叩く。

 

「左だ!」

 

 メレフが叫ぶ。

 レックスは聖杯の剣を振るい、崩れた壁を切り裂く。

 辛うじて開いた通路へ全員が飛び込む。

 その直後。

 今までいた場所が轟音とともに崩落した。

 

「危なかったも……」

 

 トラが息を切らす。

 ハナも肩で息をしていた。

 もう誰にも余裕はない。

 レックスは走りながら振り返る。

 そこにはもう。

 シンの姿はなかった。

 ただ。

 崩れゆく白い光だけが広がっている。

 

「……シン」

 

 小さく呟く。

 その声は爆発音に掻き消えた。

 それでも。

 不思議と寂しさだけではなかった。

 あの男は。

 最後に笑っていた。

 だから。

 前を向かなければならない。

 

「レックス」

 

 隣へ並んだホムラが静かに声を掛ける。

 

「……何だい?」

「シンさんは」

 

 少しだけ間を置く。

 

「救われたのでしょうか」

 

 レックスはすぐには答えなかった。

 崩壊する世界樹を見つめながら考える。

 そして。

 

「救われたんじゃない」

「え?」

「自分で歩き出したんだ」

 

 ホムラは静かに目を見開く。

 

「五百年間」

「ずっと止まってた時間を」

「最後に自分の足で歩けた」

「だから」

 

 笑う。

 

「きっとラウラさんも喜んでる」

 

 ホムラは何も言えなかった。

 ただ。

 静かに頷く。

 

 

     ◇◇◇

 

 

 一行は巨大な昇降施設へ辿り着く。

 しかし。

 その床は半ば崩れ落ちていた。

 

「飛び移るしかないようやな」

 

 ジークが向こう岸を見る。

 距離はある。

 普通なら届かない。

 

「私が橋を作ります」

 

 ホムラが一歩前へ出る。

 コアクリスタルが蒼く輝く。

 聖杯の力が空中へ光の足場を生み出した。

 

「今です!」

「行こう!」

 

 レックスが先頭を駆ける。

 続いてニア。

 トラ。

 ハナ。

 メレフ。

 ジーク。

 最後にファン。

 全員が光の橋を渡り切った、その瞬間だった。

 橋が音もなく消える。

 直後。

 昇降施設そのものが崩壊した。

 

 

     ◇◇◇

 

 

「間に合った……」

 

 ニアが大きく息を吐く。

 だが。

 安堵する暇はなかった。

 世界樹全体が激しく揺れる。

 

『――最終防衛機構、起動』

『――緊急脱出シークエンス開始』

 

 聞き覚えのない機械音声が響く。

 クラウスが最後に残した安全機構。

 管理者が消えた今、自動で作動したのだ。

 巨大な隔壁が開く。

 その向こうには。

 青空が広がっていた。

 

「出口だ!」

 

 レックスが叫ぶ。

 全員が外へ飛び出した。

 その瞬間。

 思わず息を呑む。

 眼下には。

 アルスト全土が見えていた。

 世界樹の根元。

 巨神獣たち。

 雲海。

 そのすべてが。

 ゆっくりと姿を変え始めている。

 雲海が引いていく。

 まるで。

 長い眠りから世界そのものが目を覚ましていくようだった。

 

「これは……」

 

 メレフが目を見開く。

 

「世界が」

「変わっていく」

 

 その様子を見つめながら。

 レックスは胸へ手を当てる。

 そこにはまだ。

 シンとの約束が残っていた。

 

『未来を頼む』

 

 短い一言。

 だが。

 それは五百年という歳月の重みを持つ言葉だった。

 

「任せろ」

 

 誰へともなく呟く。

 

「俺たちが」

「この世界を繋いでいく」

 

 

     ◇◇◇

 

 

 その時だった。

 ファンが空を見上げる。

 穏やかな風が吹いていた。

 崩壊の中とは思えないほど、優しい風だった。

 その風に乗って。

 一枚の白い花弁が舞う。

 それはレックスたちの間を静かに通り抜け、遥かな空へ消えていく。

 ファンはそっと目を閉じた。

 

「……お帰りなさい」

 

 その小さな呟きを聞いた者はいなかった。

 けれど。

 風だけが、優しくその言葉を運んでいった。

 

 

 

 

 世界は終わった。

 だが。

 それは滅びではない。

 新しい世界の、最初の一歩だった。

 

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