世界が変わってから、一か月が過ぎた。
雲海は姿を消し、巨神獣たちは静かに大地の一部となった。
人々は戸惑いながらも、新しい世界での暮らしを始めている。
これまで海によって隔てられていた国々は、一つの大地で繋がり、人々は新たな街道を築き始めていた。
戦争のためではない。
互いを知り、助け合うための道だった。
◇◇◇
港では、トラが新しい船の整備に夢中になっていた。
「ここの推進機構を改良すれば、もっと遠くまで航海できるも!」
工具を片手に目を輝かせる。
その隣ではハナが静かに設計図を広げていた。
「航行性能は二十三パーセント向上します」
「いいも!」
トラは嬉しそうに頷く。
「これからは戦うためじゃないも!」
「世界中の人を繋ぐ船をいっぱい作るも!」
ハナは穏やかに微笑んだ。
「はい」
「きっと素敵な船になりますも」
◇◇◇
ルクスリアでは、瓦礫の撤去が進んでいた。
「思ったより壊れちまったなあ」
ジークが腕を組みながら苦笑する。
その隣で、サイカも静かに街を見渡していた。
「でも」
「皆、前を向いているようやで」
「ああ」
ジークは笑う。
「だったらワイらも前を向くしかねぇなあ」
「今度は」
「守るための王様になるんや」
サイカは優しく微笑んだ。
「そのお手伝いはするで」
「もちろん」
「ずっと」
◇◇◇
メレフは帝国の執務室で書類に目を通していた。
机の上には各国との共同復興計画。
交易路の整備。
移住支援。
新たな行政区画。
以前なら考えられなかった書類ばかりだった。
「特務長」
部下が声を掛ける。
「アヴァリティア商会より共同港湾建設の提案です」
メレフは静かに頷く。
「承認しよう」
「これからは」
「国境を守るだけでは足りない」
「国同士を繋ぐ時代だ」
◇◇◇
夕暮れ。
レックスの船は、新しい港へ静かに停泊していた。
潮風が吹く。
船首ではニアが海を眺めている。
「静かだね」
「そうだな」
レックスも隣へ立つ。
「旅が終わると」
「こんなに静かなんだ」
「終わっちゃったね」
ニアは少し寂しそうに笑う。
レックスは首を横へ振った。
「終わってない」
「俺達は」
「今から始まるんだ」
その言葉に。
ニアも自然と笑みを浮かべた。
「……そうだね」
◇◇◇
少し離れた場所では。
ホムラとヒカリが並んで夕焼けを眺めていた。
「こうして」
ホムラが静かに言う。
「別々に景色を見る日が来るなんて思いませんでした」
ヒカリは照れ臭そうに肩を竦める。
「私も」
「でも」
レックスへ視線を向ける。
「悪くない」
「ええ」
ホムラも微笑む。
「とても素敵な未来です」
◇◇◇
そして。
船首に立つファンは、新しい世界を静かに見つめていた。
風が髪を揺らす。
遠くには、どこまでも続く緑の大地。
「ラウラ様」
小さく呟く。
「シンさん」
「世界は」
「ちゃんと未来へ進み始めました」
その時。
「ファーン!」
レックスが船尾から大きく手を振る。
「飯だぞー!」
思わず笑みが零れる。
「はい!」
元気よく返事をして駆け出す。
その背中は軽かった。
もう彼女は五百年前へ囚われたブレイドではない。
新しい世界を生きる、一人の仲間だった。
旅は終わった。
だが。
未来は、ここから始まる。
それが、レックスたちが辿り着いた、本当の『楽園』だった。