393に転生しました   作:ヨロシサン製薬

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その1 目覚めたら393

目が覚めたら幼女だった。

 

もともと周囲に波風を立てないことを人生の第一目標に据えていた僕は、前世に未練などなかった。

前世どころか未使用だった股間のアレが無くなってしまったことにだって、別に未練はなかった。

強いて言えば、長い休載からやっと再開されたあのハンター漫画の続きとか、全く小学生は最高だぜでおなじみの今期の神作アニメ(候補)の続きが気になる、そんな程度の未練しか持てない人生を特に後悔せずに送っていたつまらない人間、それが僕だ。

 

そんな僕なので、環境が変わっても適応は早かった。

せっかく生まれ変わったんだから今度こそ充実した人生を、などとは欠片も思わない。

前世同様、周囲に流されながら人の輪の隅で静かに微笑んでいる。

 

ただし前世との違いというか、どうやら体のスペックはそこそこ高いようだ。

子供の遊びの定番である鬼ごっこでは負けたことがない。

顔の作りも大人しめだがそこそこ良く、将来は美人さんになりそうだ。

 

ちなみにクラスでの僕のあだ名は「未亡人」である。

上手いことを言うものだと思ったが、名付け親の少年には将来ハゲ散らかす呪いを掛けておいた。

 

そんな僕の平凡な日常に、最近とある変化が起こった。

クラスメイトの元気な女の子にやたらと構われるのだ。

一体僕のどこが彼女の琴線に触れたのだろうか?

 

ただ僕も別に嫌というわけではない。

嫌どころか、実はかなり嬉しかったりする。

 

もちろん彼女の人柄が好意を抱きやすいものであることも一因だが、最も大きな理由は彼女の声である。

前世で大好きだった魔法少女ものの主人公の声にそっくりなのだ。

そういう視点で見ると、性格も似ていないこともない。

前向きか控えめかという大きな部分は正反対なのだが、妙に自分に自信のないところとかはそっくりである。

 

「み~く! 一緒に帰ろっ!」

「響。うん、帰ろっか」

 

手をつなぎ、元気いっぱいに今日あった出来事を話す響。

そんな響に相槌を打つのが僕の役割だ。

響はたくさん喋って楽しそうだし、僕は響の声を聴いているだけで幸せになれるのでWin-Winの関係だと思う。

 

こんな日がずっと続けばいい。

響と笑いあいながら、柄にもなくそんなことを思っていた。

 

 

 

 

 

 

「今日は避難訓練をするよ。みんな、ちゃんと先生の話を聞いてね」

 

教壇で担任の先生が言うけれど、周りはざわざわと落ち着かない。

まぁ子供の頃ってそうだよね、などと思いながら僕は話の続きを待つ。

押さない駆けない喋らない、みたいな説明が来ると思い込んでいた僕は、その後に続いた先生の言葉に度肝を抜かれた。

 

「みんなはノイズって分かるかな? とても危ない災害だから、きちんと逃げる練習をしようね」

 

ノイズ?

なんだそれは、と自問自答する僕の頭の片隅に引っかかるものがある。

 

「……あっ!」

「ど、どうしたの小日向さん!?」

「……なんでもないです。ごめんなさい」

「そ、そう。それじゃ席に座って、先生のお話をきちんと聞いててね」

「……はい」

 

-少女の歌には、血が流れている。

 

そんなテーマのアニメが、前世で4期まで放映され5期の製作が決定されていた。

タイトルは戦姫絶唱シンフォギア。

思い出してみれば、なぜ今の今まで気づかなかったのかと頭を抱えそうになる。

僕はライブへ行ったり円盤を購入する程の適合者ではなかったが、オタクの嗜みとして一通りアニメを見てストーリーは大まかに把握している。

 

「……響の声があの声優さんとそっくりなはずだよ。ある意味、本人じゃないか」

「何か言った、未来?」

「……ううん」

「ほら、急ごう。先生に怒られちゃうよ」

「うん」

 

響に手を引っ張られながら、まだ混乱している頭で考える。

この世界は、僕の主観で言うと萌えより燃えが幅を利かせている。

そして一般人、いわゆるモブの命が安い。

幸い僕にとって唯一と言っていい大切な友達の響は、なんと主人公である。

そして前世ではモブ中のモブだった僕も、主人公の親友というポジションだ。

普通に考えれば、僕達の命は安泰である。

 

しかし繰り返すが、この世界では燃えこそが真理である。

燃えさえあればノイズも絶唱も浸食も、なんてことはない。

逆に言えば、燃えがなければストーリーの随所に仕込まれている死亡フラグが牙をむくことになる。

僕がシンフォギアにそれほどのめりこめなかったのは、まさにその点で感情移入が出来なかったからである。

あとOTONAの存在感。

 

つまり燃えの体現者である響はともかく、僕がBADENDを迎えることは十分に考えられる。

そして前世と違い、まるで太陽のような響のおかげで僕は今世に強い執着がある。

どうしよう、どうしよう、とそればかりが頭の中を駆け巡るが、体は響に手を引かれていつの間にか広域避難所でもある校庭の地下シェルターへと辿り着いていた。

 

「未来、さっきからどうしたの? 怖いの?」

「……うん」

「大丈夫だよ! ホントにノイズが出ても、私がまたこうして引っ張ってあげるから!」

 

響に抱きしめられながら、僕は何としてもこの先生きのこらなくてはと決意した。

 

 

 

「行っちゃえ響。ハートの全部で……」

 

これは無理だ。

鏡の前でセリフの練習をしていた僕は、燃えの習得を諦めた。

 

恥ずかしいセリフ回しは我慢するとしても、そもそも大声を出すという行為がきつい。

前世から今世までで一番大きな声を出していた時期は、たぶん赤ちゃんの頃にホギャホギャ言っていた辺りだと思う。

叫んだり怒鳴ったりという経験がないから、感情を高ぶらせるということ自体、どうやっていいのか分からないのである。

たぶん僕がボショボショと原作通りのセリフを言ったところで、響はもちろん誰の心も動かせない。

 

しかしこんな僕でも響のために出来ることは、きっとあるはずだ。

原作での小日向未来の役割はと言えば、

 

・中学生の時にツヴァイウイングのライブに響を誘う。

・行き倒れのクリスを拾う。

・要所要所で叫ぶ。

・神獣鏡のシンフォギアで響と戦う。

・やり投げ。

 

うろ覚えだが、こんなところだと思う。

僕は感情に訴えかけるとか勢いに任せるとかが苦手な分、日々コツコツと積み重ねるのは得意分野である。

この中で今から練習出来ることは、どれだろうか。

 

「明日からやり投げ、がんばろう……」

 

とりあえず明日は、小学校の陸上部を見学しに行こうと思う。

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