響の体の負荷を軽くするには、適合係数を上げなければならない。
適合係数を上げるためには、響が愛に目覚めなければならない。
響に愛を教えるためには、まず僕が愛とは何かを理解しなければならない。
幸い「愛」という題材は、本だけに限定しても世の中に溢れかえるほど存在している。
僕は片っ端から参考資料を読み漁った。
その結果分かったのだが、愛情とは心だけでなく体の触れ合いも重要らしい。
とはいえ、僕達は日頃からスキンシップも多い。
心も体も十分に触れ合っているはずだ。
ということは、僕の気づかないうちに響との間には愛が芽生えているのだろうか。
例えそうだとしても、現時点で響の適合係数はクリスや翼さんの水準には達していない。
つまりまだ向上の余地があるということだ。
時計を見ると、そろそろ補習の終わった響が帰ってくる時間だった。
僕は読みかけの「蜜の味」に栞を挟んで、おさんどんの準備を始めた。
今夜は響の愛を一杯増やせるよう、努力しようと思う。
「ど、どうしたの、未来?」
「たまには気分を変えようと思って」
色々な参考文献に共通していたのが、マンネリは愛情の敵だという所だ。
そして視覚というのは、人間の感覚の中では突出して情報を受け取りやすいらしい、
だから今日は、ちょっとセクシー路線でおさんどんをしてみたのだ。
「気分転換で裸エプロンなの!?」
「うん。どうかな?」
「……こうして見ると、未来って広背筋が凄いよね」
「槍、投げてるから」
なんか、思っていたのと違う。
「後、お尻がすっごく綺麗。ギリシャ彫刻みたい」
「ありがと。陸上の成果かな」
思っていたのと、やや近くなってきた気がする。
「よーし、私も未来みたいな引き締まったお尻を目指すぞー!」
「明日は一緒に走ろっか」
でも残念ながら響は安産型なので、引き締まったお尻は難しいと思う。
いい加減に寒くなってきたので、服を着て夕食を食べる。
お片付けの後は、響とのスキンシップをいつもより多めにしてみた。
べったりと体を密着させて、響のお腹に頭をグリグリと押し付ける。
「うひゃー、今日の未来はひっつき虫だぁー」
「響は温かいね」
「未来は冷たいね。さっきまで裸だったからだよ」
「極楽、極楽」
「まったくもう。風邪引かないでね」
相変わらず響の肌は、ぷにぷにで触り心地がいい。
しかしこれが愛なのかどうか、相変わらず僕には分からない。
だから響に聞いてみた。
「これって愛かな?」
「あはは、私も未来を愛してるよー」
どうやら大成功だったらしい。
今後も色々と続けていきたいと思う。
僕が響のサポート役として多大な成果を上げていた頃、2課も響のために大手柄を立てていた。
なんとアメリカのFISからウェル博士謹製のリンカー及びそのレシピ、負担の少ない体内洗浄方法の情報などを入手したのだ。
もちろん対価は莫大なものだった。
完全聖遺物デュランダルの譲渡である。
というか順序が逆で、そもそも強腰なアメリカ外交の圧力に屈した日本政府がデュランダルの譲渡を決定したらしい。
しかし日本政府もただの無能ではない。
あちらが棍棒外交ならこちらは搦め手外交とばかりに2課も交えて策を練り、アメリカ相手に色々な仕込みをしたそうだ。
賛否両論あると思うが、僕は政府の方針が間違っているとは思わない。
先日のノイズ襲撃は主犯がフィーネだとしても、ほぼ間違いなくアメリカも絡んでいたはずだ。
例えばそれを暴露したとしよう。
国連によって認定特異災害に指定されているノイズをソロモンの杖で操っていることが知られたら、アメリカは世界の敵となる。
そして最悪の場合に行きつく先は、第2次太平洋戦争であり第3次世界大戦である。
あの事件では、2課にも街の人々にも少なくない犠牲が出た。
実際に交渉の席についた風鳴司令も、腸が煮えくり返るような思いだっただろう。
しかしそれでも、これからのために耐え難きを耐えて相互協力を主張し、アメリカから可能な限りの譲歩を引き出してきたのだ。
誰が何と言おうと、僕は2課の大手柄だと主張したい。
具体的にアメリカから入手出来たのは、先のリンカー技術の他に聖遺物の欠片が数点だそうだ。
当然その中には神獣鏡も入っていたが、僕にそれを拒む気持ちはない。
むしろ響と同じ立場になれて嬉しいくらいである。
また仕込みとしては、フィーネの最終目的が月の破壊であることを暴露したそうだ。
アメリカの聖遺物研究の目的は、化石燃料や核を超えた新エネルギーにある。
決して大災害を引き起こすことが目的ではない。
カ・ディンギルの塔とデュランダルの組み合わせが、どういう結果を引き起こすのか。
風鳴司令から可能性を指摘された以上、どんなに言葉巧みにフィーネが言い繕ってもアメリカの不信感は拭えないだろう。
せいぜいお互いに足を引っ張り合えばいいのである。
というわけで、僕もシンフォギア奏者としてデビューを果たすことになった。
原作では1度しか戦ってないが、心配はしていない。
僕は実際にプレイしたことはないが、ソーシャルゲームの方ではバンバン戦闘していたはずだ。
グレ響を相手に容赦なく殴り掛かっていた動画を見た覚えがあるので、間違いないと思う。
しかし、やはりと言おうか適合係数は断トツで低かった。
響はもちろん奏さんよりも低く、ウェル博士の特製リンカーでやっとギアが起動するギリギリのレベルだった。
原作のように、愛の力でなんとかならないものだろうか。
2課の訓練室で悩んでいた僕に、クリスが声を掛けてきた。
「未来じゃねーか、どうしたんだ?」
「うん、シンフォギアの適合がね」
「あー、そりゃアタシにはわかんねーな」
「何か適合係数を上げる切っ掛けがあればいいのだけれど」
「お前らには借りがあるから、アタシに出来ることがあれば力になりてーんだけどなぁ。うーん……」
僕は腕を組んで首を傾げるクリスの、その胸に注目した。
昔から胸は母性の象徴だと言われる。
それはすなわち、愛の象徴と言い換えることが出来る。
愛の塊とも言うべきそれを揉みしだいたのなら、僕の中で愛の力が爆発しないだろうか。
試してみる価値はあるかもしれない。
「クリスが協力してくれるのなら、1つお願いしたいことがあるのだけれど」
「おう、いいぜ。なんでも言えよ」
「クリスのおっぱい、触らせてもらっていい?」
「な、ななな、なんでだよっ!?」
「適合係数が上がりそうな気がするの」
「嘘つけっ! 適当なこと言ってんじゃねぇよ!」
真面目な提案だったのになぜか誤解をしたクリスは、顔を真っ赤にして訓練室から出て行ってしまった。
人に真意を伝えるというのは、本当に難しい。
バラルの呪詛を解きたいというフィーネの気持ちが、少しだけ分かったような気がした。
ともあれ今の僕では響と一緒に戦うどころか、足手纏いになりかねない。
愛を研究するのもいいが、シンフォギアに体を慣らすことも大事である。
ウェル博士のリンカーがある今なら、多少の無理は可能だ。
「明日から訓練、がんばろう……」
とりあえず明日は、シンフォギアを纏ってラヂオ体操第4をしようと思う。