393に転生しました   作:ヨロシサン製薬

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その3 ひと山超えた393

雨の中、傘もささずにトボトボと墓地を歩いていた小日向未来は、とあるお墓の前で足を止めた。

そしてそのお墓に花を供えると、そのまま泣き崩れた。

 

「会いたいよ、響……!」

 

 

 

 

 

 

「なんでー! いきなり私が死んでるー! 酷いよ、未来!」

「大丈夫、実は生きてるから」

「そ、そうなんだぁ、よかったぁ」

「響は主人公だからね」

 

せっかく小説を書いたのだから、まず一番に響に読んで貰おうと近所の漫画喫茶でデータをプリントアウトして学校へ持ってきた。

そして現在、お昼休みを利用して響へお披露目中である。

 

「み、未来ー! さっそく私、死にかけてるんだけど! しかも来月だよ、これ!」 

「フィクションだから」

「なんか私、未来に嫌われるようなことした?」

 

涙目の響はとても可愛らしく、保護欲をそそられてしまう。

だから最近育ってきた胸に響を抱き寄せて囁いた。

 

「そんなはずないでしょ。大好きだよ、響」

「未来ー!」

 

ちなみに育ってきた胸というのは、おっぱいというより大胸筋である。

数年間のやり投げ鍛錬と成長期が合わさり、ようやく体が出来上がってきたのだ。

だから響が元気いっぱいに抱き着いて来ても、そんなに苦しくない。

 

「響、そろそろお昼休みが終わっちゃうから、続きは後で読んで」

「これ、一人で読むのヤだよぉ。また私が酷い目に会いそうなんだもん」

「……そんなこと、ないよ?」

「未来、ちゃんと私の目を見て答えてっ!」

 

物語の起点を変えてしまった以上、もう起こり得ないルートである。

響に見せているのも、僕がせっかく1ヶ月間も頑張ったのだからという理由が大きい。

しかし念のため、本当に万が一の可能性を考えると、やはり響には一通り小説を読んでおいて欲しかった。

 

「じゃあ、今晩泊りに来ない? 一緒に読もう」

「それならいいよ! エヘヘ、楽しみー!」

 

ウェヒヒと笑う響は、たぶん世界一可愛い。

この娘のイジメフラグを折って、本当に良かったと思った。

 

 

 

 

 

 

部活が終わった僕は、一度家に帰った響と合流して自宅へ戻った。

響とはお互いの家に何度もお泊りしたことがある。

だから問題なく両親と一緒に夕食を食べて一緒にお風呂に入り、今は一緒にベッドで転がっているところだ。

 

「未来、未来! 私、なんかスゴイよっ!」

「そうでしょう。私の自慢の響だもの」

「この衝動に、塗り潰されてなるものかー!」

「格好いいよ、響」

 

なんだかんだで続きが気になったのか、響は放課後も一人で読み進めていたらしい。

だから僕の家では最後の辺りをすぐに読み終えて、今は余韻に浸っている所だ。

原作ありとはいえ、こんなに気に入ってくれている響を見ていると、この1ケ月の努力が報われた気分になる。

 

「これ、インターネットで公開しているんでしょ? 感想を見てみようよ」

「でも昨日アップロードしたばかりだから、まだ全然アクセス数が伸びてないと思うよ?」

 

そう言いながら、自分のアカウントにログインしようとする。

しかし残念ながら、既にBANされていた。

予想以上に早い。

 

「えー、なんでー?」

「ツヴァイウイングの2人を実名で使っちゃったからかな」

「あー、そうなんだぁ」

 

勿論、それだけではないのだろう。

その証拠に、こんな夜遅くなのに家の前で車の止まる音がした。

 

「お迎えが来たみたい。すぐに戻るから、心配しないで」

「未来?」

「じゃあ、ちょっとだけ行ってくるね」

「ふへ? どこに?」

「秘密基地、かな?」

 

頭にクエスチョンマークを浮かべている響をそのままに、僕はパジャマの上からコートを羽織って部屋を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

原作の響のようにゴツい手錠こそ掛けられなかったものの、僕は黒い服の人々によってリディアン音楽院の地下に連れ去られてしまった。

それは最初から分かりきっていた展開であるため、僕に焦りはない。

尋問室のようなところに風鳴司令本人が1人で待ち受けていたあたり、むしろ期待通りの展開である。

 

「小日向未来君だね」

「はい」

「君が昨晩、インターネットに公開した小説について聞きたい」

「なんでも聞いて下さい」

「君はこの小説に出てくる登場人物、聖遺物などの言葉を、いったいどうやって知ったのだ」

「フィクションです」

「だが俺の名前や櫻井了子君、ツヴァイウイングの2人など、実在の人物が出てくるではないか」

「ナマモノというジャンルです」

 

わざと呼び出されるように仕組んだとはいえ、自分の転生に関することは出来るだけ誤魔化したい。

なぜなら櫻井了子の正体は「転生の巫女」フィーネであるからだ。

僕が転生者であることがバレれば、彼女に最大の障害物と誤解されかねない。

しかし煙に巻くような態度を続ければ、今後の信頼関係の構築に支障が出てしまう。

だから風鳴司令には出来るだけ誠実に回答しなければならない。

 

「電光刑事バンをご存知でしょうか?」

「うん? ああ、昔やっていたアニメだろう」

「私は最近DVDをレンタルして全話見ました。だからおやっさんが4話で裏切ることも、8話の置き引きカマキリが自分のアイデンティティーに悩むことも知っています」

「何が言いたい」

「それと同じように、櫻井了子が2年後に起こるルナアタックの黒幕であることを知っているのです。テレビで見たのか、夢や別次元で見たのか、あるいは私の妄想の中で見たのか。違いはそれだけです」

「……確かにハッキングなどを疑うには、君の得ている情報が多岐に渡り過ぎているとは思っていたが……」

 

言葉を詰まらせる風鳴司令。

中二病患者の少女の戯言で済ませたいのだろうが、それで一蹴するには僕の小説に国家機密情報だけでなくアメリカの陰謀やフィーネの思惑など、本来は知り得ない事柄が多く含まれ過ぎている。

 

「私の知っていることは、小説に書いてあるものが全てです。もちろん内容についての質問はいつでも受け付けますが、分からないことも当然あります」

「それで君は、俺にどうしろと言うのだ」

「何もありません。ライブの実施中止も、櫻井了子を拘束するしないも、全て風鳴司令にお任せします」

 

そう、こういうのは国家からお給料を貰っているOTONAの仕事である。

断じて女子中学生の抱え込むことではない。

 

「風鳴司令がその権限で国家プロジェクトである完全聖遺物の覚醒実験を中止出来るかどうか、私には分かりません。しかし仮にライブを中止出来なくても、そこに響は行きません。その物語のように私がライブに誘っていないからです」

「ふむ、つまり君は物語の主役である立花響君を、最初から舞台に上げないつもりなのか」

「はい。響の幸せだけが、私の願いですから」

「そうか。君が何を思ってこの小説を公開したのか、それが分かっただけでもこの面談を行って良かった」

 

その後は、小説の内容について質問された。

分かることだけ答えていったのだが、終わった頃には夜が明けていた。

 

「子供に夜通し無理をさせて済まなかったな。未来君の協力に感謝する」

「こちらこそ、私の荷物を押し付けてしまって申し訳ありません」

「ふっ、もともと俺達の荷物だ。君はそれを運ぶ手助けをしてくれたんだよ」

 

流石はOTONAである。

そこに痺れないし憧れないが、とても頼りになる。

特に自宅に送って行ってくれた時、両親に僕は犯罪容疑者などではなく極めて秘匿性と緊急性の高い事件の捜査協力者であり、とても協力的で役に立ったと説明してくれたのは助かった。

あと一晩拘束してしまったからと、中学生のお小遣いというにはちょっと多めの報酬が出た所も高評価である。

 

それから1ヶ月後、ツヴァイウイングのライブは平穏無事に終わった。

完全聖遺物の起動実験が上手くいったのか、それとも実施しなかったのか、僕は知らない。

しかし天羽奏が生きていることだけは確かで、その事実はこれから答えのない未来へ進んで行かなくてはならないことと同義である。

しかし今は、そんな先のことなど考えたくない。

 

「明日から少し、お休みしよう……」

 

とりあえず明日は、響に高級ホテルのケーキバイキングを奢ってあげようと思う。

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