393に転生しました   作:ヨロシサン製薬

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その3.5 わたしの、最高の友達

私の親友は、ちょっと変な子だ。

 

 

 

初めてクラスが同じになった時の第一印象は、お地蔵様だった。

クラスの片隅で、いつでも同じ微笑を浮かべて私達を見守っているような雰囲気が、なんだかとても大人びて見えたことを覚えている。

 

「未来ちゃん、私、立花響って言うの! よろしくね!」

「……うん。こちらこそ、よろしく」

 

今思い返すと、未来の返事はだいぶ素っ気なかった。

でもその冷たい返事とは裏腹に、彼女はまるでたった今その命を吹き込まれたかのような、とても素敵な笑みを浮かべていた。

その瞬間から、私にとって彼女はとても気になる女の子になった。

 

よくよく観察してみると、未来は自分から人に話しかけたりはしない子のようだった。

相槌も言葉足らずで声も小さく話を広げようともしないし、表情も変わらない。

でもそれは別に悪意があるわけじゃなくて、まるで世界に半分だけ所属しているような、うまく言えないけれども本人もどうにも出来ない距離感がある感じだった。

 

それは私に対しても同じなんだけど、唯一の違いはその表情だ。

といっても、普段のように微笑を浮かべているだけなんだけど、私にはわかる。

未来はなぜか私と話す時だけ、その笑みに命が宿るような気がするからだ。

その微笑みが見たくて、私はたくさん彼女に話しかけるようになった。

 

「響」「未来」とお互いを呼び合うようになった頃には、暖かい彼女の傍から離れられないようになっていた。

 

 

 

 

 

 

そんな未来が、何を思ったのか陸上を始めた。

彼女は声が小さく控えめな性格だが、運動神経はとても良い。

体育のドッヂボールでも、いつも最後まで残っているタイプの人間だ。

でもそこまで運動が好きというわけでもなさそうだったのにと、不思議に思ったことを覚えている。

 

部活に入部出来ない低学年の頃は、自宅の周りを毎日一生懸命走っていた。

そして上級生になって陸上部に入部してからは、なぜかやり投げを練習したがった。

学校にMY槍を持参し、否定的な顧問の先生を相手に粘り強く説得していた。

一度、なんでそこまでやり投げをしたいのか聞いたことがある。

 

「心配しないで。この槍で響の役に立てるようになるから」

「何故そこで槍ッ!?」

 

私を守る(物理)というつもりなのだろうか?

怖くてそれ以上聞けなかった私は、休みの日にジョギングを始めた。

未来が私を守って犯罪者になる前に、危険から逃げられるよう脚力と体力を鍛えるためだ。

 

未来は私がジョギングを始めた理由を、自分と同じことをやりたがったと思っている節がある。

そのことには釈然としないけど、日曜日に公園を一緒に走るのは気持ちがいいし、その後お風呂に一緒に入るのも気持ちが良かった。

 

「あいたたた! 未来、押しすぎだよ!」

「ごめん響、このくらいでどう?」

「あー、そこそこ。くぅん。気持ちいいよぉ」

「だいぶ足に筋肉がついてきたね」

 

そしてお風呂上がりの未来のマッサージは、もう最高だった。

強張った足腰が、彼女の指で大胆にほぐされていく。

気が付くと寝ていることも多くて、そういう時はいつも枕が涎まみれになってしまう。

 

ホントは交代でやれればいいんだけど、たくさん未来にほぐされてグデグデになった私にマッサージをお返しする余力は残っていない。

だから次に走った時には、私が彼女の足腰を揉む約束になっている。

マッサージされるのも好きだけど、するのもそれに負けないくらい好きだ。

 

何と言っても、未来が私の指で気持ちよさげにうっとりしている所が見られるから。

ついつい余計なサービスをしてしまって、私の番の時はいつも最後には擽り合いになってしまう。

 

今でもやり投げに執着する未来を不思議に思うが、そのお陰でこんな休日が日常に追加されたと思えば悪くなかった。

 

 

 

 

 

 

未来がまた妙なことを言い出した。

小説を書くのだそうだ。

 

やり投げほど突拍子のないものではなかったので、私は素直に応援した。

それが如何に甘い考えだったか、その時の私はまったく分かっていなかった。

 

1ヶ月後に未来が持ってきた小説は、なんと私が主人公だったのだ。

しかも一番最初の場面が私のお墓って……。

その後も私がいきなり重症を負ったり、人気アイドル・ツヴァイウイングの風鳴翼さんに目の敵にされていたりと、碌な目に合ってなかった。

 

それでも読みやすい文章と早い展開に引き込まれ、結局その日のうちに全部読んでしまった。

読み終わってみればアニメ化されてもおかしくないような完成度で、感想は最高の一言だ。

序盤のダメダメな私は、まさに自分そのままだった。

けれど終盤の私は、こんな風になりたい自分が凝縮されていた。

理想そのものと言ってもいいくらいだ。

 

もしかして未来の目には、私はこんな風に映っているのかな。

それを聞くのは恥ずかしくって、でももし過大評価されてると困るし、と内心でジタバタしながら未来と話しているうちに、何故か彼女はどこかに連行されていった。

と思ったら、翌朝ひょっこりと帰ってきた。

 

一体何だったんだろう。

 

 

 

 

 

 

最近の未来が一番力を入れているのは、腹式呼吸だ。

やり投げの槍を振り回しながら、「恋の桶狭間」を歌い切りたいらしい。

 

え、もしかして小説に出てきた歌って、ド演歌なの?

私、演歌を歌いながら戦ってたの?

 

私の中で戦姫絶唱シンフォギアの世界観が、ガラガラと音を立てて崩れていく。

でもそんな私の気持ちなどつゆ知らず、仰向けに寝そべった未来は一生懸命お腹を膨らませている。

 

 

 

私の親友は、ちょっと変な子だ。

でも、最高の友達だ。

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