ベル・クラネルにレアスキル【ヌケボー】が生えたのは間違っているのだろう   作:銀剣士

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ヌケた先

 アイズはダンジョンに単身乗り込んでいた、モンスターの血と灰を体に一滴一粒たりとも纏う鎧衣装に付着させずに居られるのは、その場所がレベル5の彼女には緩すぎるからだろう。

 

 目的はミノタウロスの角、ギルドに立ち寄った際頼まれた緊急の依頼、何でも武器に使いたいがストックを切らしてしまったという、ありふれながら緊急の依頼としては少し珍しい。

 

(……早く終わらせてスケボーの練習したい)

 

 思考は他の者が聞けば呆れるようなもの、逆にアイズをよく知っている者からは驚愕の目を向けられるだろう。実際この階層に来るまでの移動はスケボーで行った、途中出てきたモンスターの魔石の回収を煩わしく思いながらではあるが。

 

「……ミノタウロス」

 

 これで述べ十体目だ、そろそろ(上質な物を)落として欲しいと思いつつ一刀に切り捨てる。

 

(そう言えば……やっぱりあの日『ゴミ箱先輩』がミノタウロスを食べてたのって……)

 

 ある日ベルが白い円筒状の物に飲み込まれていた、それを目撃した時大いにあわてふためいたが、次の瞬間にはベルが隣に立っていた事にもっと驚いたのは記憶に新しい。

 

 色々説明されたが、纏めると『死ぬけど死なない』という事らしい、正直今もよく分からないが。

 

 ともかくその時教えて貰ったのが『ゴミ箱先輩』と『ベニヤ板先輩』の二つ、特に興味を引いたのがベニヤ板先輩、折れない割れない切れない燃えない、端的に言えば無敵の板である。試しに『風』を纏って『必殺の一撃』をベニヤ板に繰り出したが、剣は刺さること無く吹き飛んだだけだった、ベルを巻き込んで。

 

(……あのときは本当に焦った)

 

 しかし、ベルはやはりさもそれが当たり前のように戻っていた、正直羨ましく思う。あの能力があれば、どれだけ深くダンジョンに戻ってもすぐに地上に戻れるのだから。

 

 事実、ベルはダンジョンに潜る際はホームにマーカーを置いており、死んでしまった際にはホームに戻れるようにしてある。してあるが、ヘスティアにはかなり不評である事はアイズは知らない。

 

「……これなら良いかな」

 

 かなり上質な『ミノタウロスの角』を手に入れることが出来、さあ戻ろうと思いスケボーを下ろして足を乗せ……た所で白い何かが目の前を『落ちて』行った。

 

 常識で考えれば驚きで声も出なくなるのだろう、だがそこは『見慣れたもの』だ、アイズは欠片の躊躇いもなく決めた、落ちていった何かをそっとしておこうと。

 

 

 

 

 それから数日後、とんでもないニュースがオラリオを駆け巡った、なんと『剣姫』の昇格記録を遥かに超える速さでレベル2に至った者が居ると言う。

 

「うわー登録から半年経ってないってさー」

 

 話を聞き付けて実際にギルドに張り出された情報を見に来たのはアイズと、アイズと同じくロキファミリアに所属するティオナであった、レフィーヤも付いてきたそうではあったがリヴェリアの勉強会があるため抜けだせなかったのだ。

 

「……ベルが、レベル2……」

 

 何があったのかはわからない、もしかしたら先日ダンジョンを『落ちていった』先で何かがあったのかもしれないし、それとは別で何かがあったのかもしれない。

 

(聞いてみよう)

 

 アイズは知らないことだが、彼が所属するファミリアの主神は何時ものようにホームでリスポーンするベルに色々と文句はあったそうだが、彼が持ち帰った『それ』に度肝を抜かれホームが吹き飛ぶかのような叫び声が起こっていた。

 

 

 

 

 オラリオに衝撃が走った翌日、アイズは何時ものように市壁を上りベルと二人でスケボーの練習に励む、少し違うのはベルが妙に苦戦していることだろうか。レベルが上がる、言葉にすればこんなにも簡単なのに、その上昇した能力に感覚が追い付かないという事態が待ち受け、これを克服するのが存外大変なのだ。

 

「いてて……」

 

「大丈夫?」

 

 気を抜くとオーリーもノーリーも出来ない程に感覚が狂っているのだろう、でもコケるついでにヌケる辺りやはり自分とは何かが大いに違うと思うアイズ。

 

「まさかレベルアップしたらこんなに違うなんて思いませんでした……」

 

 本来であれば冒険者はその感覚の乱れをダンジョンやファミリア内での訓練で修正していくのだが、ベルが所属するファミリアは団員がベルのみの極零細ファミリアであり、本人もダンジョンでの探索よりもスケボーをしている時間の方が長い始末、正直どうやってファミリアの運営と生活を行っているのかわからない。

 

 それでも唐突に昇格を果たしたと言うのだから、もっとわからないものである。

 

「……一度訓練で慣らしてみる?」

 

「訓練で……って」

 

 それは勿論と、言葉ではなく愛用の剣を鞘のまま構えるアイズに、ベルは『ですよね』と苦笑を浮かべてギルドの配布品である初心者用のナイフを構えて受けてたつ、がそれに驚いたのは先に構えたアイズであった。

 

「まだ……鍛治系ファミリアに行ってないの?」

 

「あー……はい、このナイフを構えるのも正直数える程しか」

 

「……どうやってレベル上げたの?」

 

 話を訊くと先日ダンジョンでヌケたら『ゲッダン』してしまったようで、ベル自身気付いたらホームに居たので正直何があったのかはさっぱり理解していない。

 

 だが、何はなくとも『経験値』は嘘を吐かない。

 

『ステイタス更新でステイタス上昇値が合計で5000を超えていたら、流石に叫び声を上げずには居られないだろう!?』

 

 とはヘスティア談である、ぶっちゃけウラノスから直々にギルドに出頭を求められ、胃腸穿孔でも引き起こすかと思う程にお腹がヤバいと、ギルドから帰った直後にベルに倒れ込んだ。

 

 さておきベルが発現させ、選んだ発展アビリティは幸運である、取り敢えずスケボーに役立ちそうなのがそれだけだったと言うのが主な理由である。

 

「ふっ」

 

「うごっ」

 

 そんなやり取りの最中も勿論アイズとの特訓は行われており、一撃を受けたベルは勢いよく壁にぶつかり壁をヌケてしまう。

 

「べっ……!?」

 

 アイズはベルがヌケてしまった壁ではなく、先程までスケボー練習の合間のベンチ代わりに座っていた方を見る、すると何事もなかったかのようにベルが立っていた、どうやらリスポーンする程度に被害を被った様だ。

 

「ご、ごめん……ね?」

 

「い、いえいえ、落下地点にたまたま木があってそこに引っ掛かったので……」

 

 他に何かを巻き込んだということは無かった様である、スケボー関係無くリスポーンした事について訊いてみると、どうやら『そういう採点競技』もあるそうなのだとか。

 

(高所からの落下を誰が採点するんだろう……)

 

 流石にそれを訊く気にはならないアイズであった。

 

 

 

 

 アイズは今キックフリップに挑んでいる、ベル曰く今の能力であれば大きく派手な技も出来るのではと言うが、基本が大事ともベルに教わった為に今は基本動作の確認も兼ねての練習を優先させる。

 

 オーリー、ノーリー、ショービット、スイッチ等々。

 

 アイズに付き合う形でベルも同じくそれらの動作を確認していく、そうこうしている内に太陽は傾いていた。

 

「アイズさん、今日は本当にありがとうございました」

 

「えっと……?」

 

 自分は何か礼を言われるようなことをしただろうか、本格的にわからないと首を傾げるアイズを可愛いと想いながらも、ベルは礼の真意を告げる、基本動作の大切さを改めて教わったからだと。

 

「……そっか」

 

「ではアイズさん、また今度」

 

「待って、ダンジョンに潜る日を教えて欲しい」

 

「ええと……取り敢えず明後日ですかね?」

 

 明日は、エイナに呼ばれてギルドに赴くついでに『ゴミ箱先輩』がいつの間にか回収していた魔石の換金に行くつもりである。そう伝えると、アイズは少し考え何かを思い付いたのか、ベルに『明日、バベルの武具屋に向かって欲しい』とだけ告げると、軽く別れの挨拶を済ませて去っていった。

 

 

 

 

 明くる日ギルドでの所用の最中、どこか浮わついた様子のベルに何度かエイナの注意が入るも、どうにも落ち着かないベルの様子に何かあったかを訊いたエイナであったが、その内容には思わず目を点にしてしまうが、ふとベルの言葉に引っ掛かりを覚えた。

 

(向かって欲しいってだけで一緒に出掛けるとかじゃ無いんじゃ……いえ、止めておきましょう、余計なことを言って彼を混乱させる場じゃない……)

 

 故に反応は些か淡白な物となってしまったが、それは仕方がないことだろう。

 

 

 さておきそんな事とは露知らず、ベルは割とウッキウキでバベルの武具屋に着いている。

 

「あの……」

 

「は、はいって……えっと、どちら様でしょう?」

 

 期待した人の姿はなく、話し掛けてきたのは小人族の少女だった、思わず溜め息を溢しそうになるがそれは目の前の少女に失礼だろうと思えば我慢できた。

 

「あ、はい、私ロキファミリア所属のリリルカ・アーデと申します、同所属のアイズ・ヴァレンシュタイン氏からあなた様に言伝てがを預かっておりまして……確認ですがベルはクラネル氏で間違い御座いませんでしょうか?」

 

「は、はい、間違いありません」

 

「市壁で『オーリーに失敗』した?」

 

「うっ……しました」

 

「オーリーとやらに失敗したか訊けば解ると言われましたが、本当に解るとは……」

 

「そ、それでアイズさんからの伝言とは何でしょう?」

 

「ああ、そうでした『ヘファイストスファミリアでリリルカさんに武具を見繕って貰って』と言うことでして」

 

「ああ、リリルカさんに……え?」

 

「まあ、そう言うことなので早速行きましょうか」

 

「あの……良いんですか?」

 

「まぁ正直言うと何故私がとは思っていますが、他ならぬアイズさんからの頼みですし」

 

「じゃあ……お願いします」

 

「はい、予算以内で納められるようします」

 

 

 

 

 武具を新調してからも、ベルの生活は殆ど変わらなかった、むしろその生活ペースにアイズが加わり、そこにレフィーヤとリリルカが加わる事となった。

 

 リリルカからはいつダンジョンに潜っているのか尋ねられ、レフィーヤからはアイズとの関係を根掘り葉掘り尋ねられつつも、ベルはレベル2の身体能力を十全に使いこなせるようになり、ベルはいよいよ新しい技に挑む決意を固めるのだった……

 

 

 

 

「ダンジョンに潜らないんですか!?」

 

「……それがベルなんだよ、レフィーヤ」

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