新訳桃太郎   作:ロッシーニ

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雉と殺し屋

さて、桃太郎達がやってきたのは雉の住む村。

田んぼが一面に広がるのどかな農村です。

 

田んぼの真ん中に一本だけ整備された農道を歩く桃太郎一行。

 

桃太郎と女子高生は猿の住む倉敷市についた時のようにベタベタはしていませんでした。秘書が仲間に加わった事で二人の距離感にも変化が生まれていたのです。

 

しかし、それは決してどちらかが秘書の目を気にして遠慮している訳ではありません。むしろ女子高生の方は隙あらば桃太郎に近づいていこうとしている位です。

 

では、なぜそうならないのかというと、それは秘書の仕業でした。

彼は女子高生が桃太郎の身体に触れようとする度に胸ポケットからナイフを取り出して彼女を威嚇するのです。

 

「ちょっと、あなた、どういうつもり何ですか? さっきから私の邪魔ばかり…」

 

何度も威嚇され、業を煮やした女子高生が秘書に向かって言うと、秘書は「はい、それではご説明致しましょう」と自身の行動について解説を始めました。

 

「私は偉大なる社長様から『桃太郎様のお供をしろ、怪しい虫一匹近づけるな』という命を受けています。ですから…」

「その怪しい虫が私だとでも言うんですか!」

 

女子高生が叫ぶと、秘書は間髪入れずに頷きました

「ええ。勿論です。いいですか? 私にとって『怪しい虫』とは私と社長以外の者、全ての事ですから」

「あぁー! コイツ、遂に馬脚を現しましたよ。ダーリン、こんな奴、放って置いていいんですか!?」

 

女子高生は桃太郎に訴えかけましたが、桃太郎は表情一つ変えません

「気にするな。放って置け」

 

女子高生には無関心を装い、そう言いましたが、桃太郎自身、彼の事を全く気にしていない訳ではありませんでした。

では何故、文句の一つも言わなかったのかというと、この男は敵に回したくない。そう思ったからです。

 

決して彼の上司である猿に遠慮しての行動ではありません。

先程からナイフをポケットから出し入れするその仕草。無駄のない動き。

只者ではありません。

 

当代随一の剣豪である桃太郎には見ただけでそれがわかったのでした。

もしかしたら自分が刺されかねない程の使い手。

味方なら心強い彼も一旦、敵に回れば恐ろしい相手になります。

特に、彼が掴みどころのない老獪な資本家に成長した猿の秘書であるという事実が一層、桃太郎の危機感を煽っていました。

 

ひょっとしたら女子高生に対する言葉も単なる言い訳で、先程からみせるあの動きは自分への牽制なのかもしれない。

 

そう考えた桃太郎。彼の事はあまり刺激しないようにする事にしました。

 

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そんな殺伐とした一同がしばらく歩くと、雉の家が見えてきました。

 

から拭き屋根の一般的住居。

雉は三匹のお供達の中で唯一、三年前と同じ場所に住んでいました。

 

さすが、旧桃太郎一行の参謀的役割をこなした雉。

急に落ちぶれた犬とも、急に成り上がった猿とも違い、地に足がついている。

桃太郎はそう思いました。

 

桃太郎は門をくぐって玄関の戸の前に立つと中に向かって

「おーい、おーい。雉ィー。いるー?!」

と呼びかけました。

 

しかし、中からは何の応答もありません。

呼び方が悪かったのかな。プライドの高い奴だったからな…。

 

そう思って

「すいませーん。雉さん、いらっしゃいますかぁ?」

という風にいってみましたが、それでも応答はありません。

 

「妙だな。留守かな」

桃太郎が立ち止まっていると横から秘書が助言しました

 

「桃太郎様。あちらを…」

秘書の指摘に従って庭の方向を見てみると、そこには洗濯物を干す女性の姿がありました。

 

女性は数年間着古した事が一目でわかるシワだらけの和服を身にまとい、髪は乱雑に後ろに纏めています。

 

化粧っけが全くなく、やや地味な印象ですが、そこから覗く白い肌と切れ長の目は古き良き大和撫子のそれを思わせるモノでした。

 

たぶん、化粧して服もまともにしたら絶対美人だわぁ。

むしろ俺好みにカスタマイズしたいわぁ。

 

桃太郎にそう思わせるような美人です。

 

桃太郎はいつものようにそんな下心を秘めつつ、女性に話しかけます。

 

「すみません、ここは雉の家じゃありませんか?」

「ええ。そうですが…。えっと、申し訳ございません。あなた方は一体…」

「私、岡山県議会議員、桃から生まれた桃太郎と申します」

「あなたが!」

 

そう声を上げて驚く女性に対して桃太郎はお決まりの台詞を言います。

 

「ええ、いかにも。サイン書きましょうか?」

「いいえ。そんなのいけません。ただでさえ主人がお世話になっているのに…」

「え?」

「あっ、申し遅れました。私、雉の妻です」

「えっ! 雉の!」

 

桃太郎は思わず目を丸くしました。あの堅物がまさか結婚しているとは。

 

「驚いたな…。あの雉がねぇ…」

「あの、不躾ですみませんが主人に何か御用でしょうか?」

「ああ…。実はこの度、また鬼退治に行くところでしてね。是非ご主人にもご協力頂きたいと…」

「それでは、犬さんや猿さん。また、みんな一緒に旅をなさるんですね…」

「まぁ、二人はそれぞれ事情があって参加できないのですが、代わりに彼らの身内が手伝ってくれる事になりました」

 

桃太郎はそう言い、女子高生と秘書を指します。

痛い所をつかれた動揺を見せないようにサラッと言ったつもりでしたが、雉の妻は残念そうに呟きます。

 

「そうですか。またみなさん一緒に旅をする事を知ったら、きっと主人も…」

「え?」

「はるばる来ていただいて申し訳ないのですが、主人は今回、お伴する事はできないと思います。実は…」

 

妻がそう言いかけた時でした。

 

――ガラガラッ ドン! 

 

大きな音と同時に、家の玄関ドアが乱暴に開き、そこから女の甲高い声が聞こえてきました。

 

「ねえ、お酒ははどこ!? お酒は!? いつもの所にねぇじゃんかよ!」

 

声のした方向を見てみると、そこには一羽の鳥が立っていました。

しかし、それは女の夫である雉ではありません。

 

扇型に広がった瑠璃色の羽。派手なボディー。

ギャル風、見ようによってはキャバ嬢風のその鳥は、孔雀でした。

 

その姿を見ると、雉の妻は怯えるように声を震わせながら言いました。

 

「あ、あの、すみません。実は、お酒は切らしていて…」

「あ!? じゃあ、買ってきてぇー!」

「もう今月はお金が…」

「知んないし! 私ぃ、今ぁ、『相棒』の再放送がまた幸子の回だったから機嫌が悪いんだぁー。もう10回くらい見たわよ! だから、飲まずにはやってらんないの!」

 

孔雀があまりにもキツい口調で雉の妻を責めたてるので、見かねた桃太郎は事情を聞くことにしました。

 

「奥さん、いったいこれはどういう…」

「あっ…これは…」

 

すっかり怯えて話す事すらままならない様子の雉の妻。

代わって、孔雀がベラベラと喋りだしました。

 

「アンタがあの桃太郎…。こんな所まで何しに来たの?」

「雉を探しに来た。お前の方こそ、いったい何だ!?」

「雉…雉ねぇ…! キャハハハハハ!」

 

その名前を聞いて急に笑いだした孔雀に桃太郎は思わず怒鳴ります。

「何が可笑しい! 気味悪いんだよ! ハッキリ言いやがれ!」

 

すると孔雀は急に冷静になって言い放ちました。

 

「アンタ達、雉には会えないよ」

「は? 何を根拠に?」

「雉はねぇ…、私が殺したの!」

 

それを聞くと、雉の妻は青ざめながらヒステリックに叫びました

 

「嘘です! あの人の言っている事は嘘です! 主人は…主人は生きてます!」

「キャキャキャ! いいねー、健気ぇー、キャキャキャ!」

 

何やら、二人で盛り上がっていますが、桃太郎にはさっぱり意味がわかりません。

桃太郎は今一度、雉の妻に問いかけます

 

「奥さん、教えてください。コレは、アイツはいったいなんなんだ!」

「奴は…奴は…主人の仇です…!」

「仇…?」

 

桃太郎の言葉をうけて、雉の妻は語り出します。

 

「夫は、前回の鬼退治が終わった後も、ずっと、街のヤクザやヤンキーと戦い、人助けをして暮らしてきました。この村は主人が守ってきたんです…。ですが、それをよく思わない連中がいました」

「なるほど。そりゃあ、やられた方は根に持つわな」

 

「ええ。奴は、孔雀は村のヤクザから主人を殺すように命を受けたスナイパー…。夫はヤツと戦い、その最中、ヤツの必殺技『天まで届け! メガ盛りMAX! マシンガン孔雀ニードル! 痙攣、拷問、地獄鬼突き100連発!…』えっと…ちょっと続き忘れたんですけど…、」

 

「まだ続きあるんだ…」

 

「ええ。勿論。まぁ、何にせよ、そんな感じの名前の技を食らい、主人はその爆煙の中に消えました…。生きているのか、死んでいるのか。今は、それすらもわかりません。」

 

そこまで聞くと、今度は孔雀が話し始めます

「でも、困ったのがその後。私は自分を雇った組織に『雉は殺した』と報告したわ。だけど、組織は殺した証拠『雉の首を持ってこい』の一点張りで報酬は貰えずじまい。ケチくさいわよねー。死体が出てこないってことはヤツは私の必殺技…」

 

そこまで言うと孔雀の口調が急にたどたどしくなりました。

 

「えっと…『天まで届け! 鬼盛り…」

「違いますよ、『メガ盛り』です」

 

雉の未亡人に注意されると孔雀は「あ、ごめん…」と小さく呟くように謝って続けます。

 

「『メガ盛りMIX…」

「違います、『MAX』です」

「あ、ごめん…。『MAX…サブマリン…』」

「違います、『マシンガン』です」

 

そんなやりとりに業を煮やして桃太郎は叫びます。

 

「どうでもいいよ、何でそんな長ったらしい技名にしたんだ!」

「だって…。格好いいかなって…。もう暗殺特許庁に商標登録もしちゃったから、今更変えられないし…」

 

そう言い訳をすると、孔雀の口調はまた先程までのいかにも生意気そうなあのしゃべり方へ戻りました

 

「どこまで話したっけ?」

「組織がケチくさいってトコ!」

 

「そうそう。死体がないってことは雉のヤツ、私の技を受けて粉々になったに決まってる。あるいは、私が怖くて逃げだした。どっちにしろ、雉がいなくなって好き勝手できるようになったんだからさ。首があろうが無かろうが、組織にとっては同じことじゃない? なのにアイツら、びた一文よこさないし…。あーあ。フリーの暗殺者になってからこんなことばっかり…。独立なんてしなきゃ良かったぁー」

 

孔雀のアホさ加減についてはだいたい分かってきましたが、それでも納得できないことがいくつかあります。桃太郎はその一つを孔雀にぶつけました

 

「で、なんで今、お前が雉の家に住んでるんだ?」

 

「もし雉が生きているなら、戻ってくるかもしれないから待ち伏せて、今度こそ首をいただく…と、いうのが理由の一つ…」

と、そこまで言って孔雀はにやりと笑います。

 

「だけど、それ以上に…雉の財産、全部もらっちゃおうと思って。てへっ☆」

「何だと?」

「だって、私、今回の任務、全く報酬受け取ってないのよ? で、その代わりに雉の財産を丸ごともらって全部売っぱらっちゃおうって訳。家も酒も女もね。だって、いらないでしょ? たぶんだけど、雉はもう戻って来ないんだから…」

「なるほど」

「これで納得した? 今は、この家を売り払う手続きの最中。その間、奥さんが余計な事しないように見張りがてら、好き勝手やらせてもらってるワケ。初めは抵抗されたけど、少し脅したら、奥さんもとても良くしてくれるようになったわ。だから、一切問題無し。わかったら、もう帰ってよ」

 

「ああ。わかった。よくわかったよ。お前のクズさ加減がな…! 昼間っから人の家にお邪魔して『相棒』の再放送視聴とはいい御身分だ。成敗してやる!」

 

桃太郎はそう言うと、スラリと刀を抜いて無形の位に構えます

 

「は? まさか私と戦う気?」

「さてね」

孔雀の問いかけに対して、不敵に笑う桃太郎。

 

互いに臨戦態勢になって暫く睨み合った後、先に仕掛けたのは孔雀でした

 

「身の程知らずのバカめ! 雉と同じ技で地獄に堕ちるといいわ! えっと…『天まで届け! 大和撫子…サブマシンガン…』えっーと、」

 

――バンッ!

 

そう音が響いたのは、孔雀が技をくり出そうとした次の瞬間でした。

 

何? この音? 桃太郎が何か仕掛けてきた…? 

 

そう思った孔雀は一旦技を止めて、桃太郎の様子を確認して見ましたが、特段、変化はみられません。

 

変だな…。

 

そんな風に考えていると、何故だかズキズキと脇腹の辺りが痛み始めました。

それでも敵から目は離せないので暫くは桃太郎の様子をじっと見ていましたが、痛みは段々と強くなり、どうにも我慢できそうにありません。

 

仕方なく、痛む個所を確認しようと素早く首を左にひねると、孔雀はそこで信じられない光景を目の当たりにしました。

 

なんと、自慢の瑠璃色の羽で覆われたボディが赤く染まっていたのです

 

「えっ?」

 

慌てて首を上げると、視線の先には銃を構えた少女の姿。

桃太郎の連れてきた女子高生です。

 

「私の桃太郎さんに何をするんですか? アナタ、ゴミですね」

 

まさかの不意打ち。孔雀は叫びます。

「桃太郎ッ…! アンタ…騙したわね…。謀ったな! 桃太郎!」

 

「オイオイ、なんで責められなきゃならない? 『俺が戦う』なんて一言も言ってないだろう?」

 

「畜生! 畜生! 畜…」

 

得意げな桃太郎に向かってデタラメに喚く孔雀。

そんな事をしている内に、その身体に二度目の衝撃が走りました。

 

「夫の仇!」

 

桃太郎と女子高生に気を取られた孔雀の隙を突き、後ろから近づいた未亡人が懐から取り出した短刀で孔雀の首に斬りつけたのでした。

 

「ひぐっ…!」

 

孔雀の首は一刀のもとに斬り伏せられ、コロリと地面に落ちました。

 

「奥さん、やったな、凄い一撃だったぜ」

 

未亡人に駆け寄る桃太郎でしたが、それを思いっきり無視して未亡人は叫びます。

 

「やった…! ぃやったぁぁぁぁぁ! 遂に、遂にあの悪魔を始末できた! アハハハ!」

 

狂った様に笑う未亡人のあまりのテンションに桃太郎はヒいてしまいましたが、そんな彼女に秘書が優しく声をかけます。

 

「ところで奥様、我々はこれから、今回の鬼退治を世間に知らしめるべく、記者会見を行う予定です。もし宜しければ、奥様も仲間に加わり、記者会見にご出席なさってはどうでしょうか。もし、雉様が生きているのなら、それを見て何か連絡を下さるかもしれません」

 

それを聞くと未亡人はコクリと頷きます。

 

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こうして未亡人を仲間に加えた一行は会見の行われる岡山市へと旅立ちました。

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