1.スライムの衝撃~友の声~   作:清水一二

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5と6話

スライムに見つかりづらい場所を求めて、四匹は茂みの奥に入っていった。昼夜問わず、橙色は目立つ。ダニエルはこれからの自分の色とのつきあい方に頭を悩ませた。

 

道なき道を、サマンサが落ち着きなく右に左にそれてゆく。木の後ろを覗き込み、雑草に目を凝らし、空を仰いだ。雲間からのぞく茜色の空に、感嘆の声を上げた。

 

「あの子、いつもああなんです。目が離せなくて困っちゃいます」

 

エラ姉が、ダニエルとレベッカを振り返って、苦笑した。

 

「あった!」

 

サマンサはレベッカに駆け寄って、一輪の花を差し出した。きれいな青い花弁に目を奪われているようで、レベッカはうっとりとして頭頂部の先端で受け取った。

 

「わたしに?」

「そーだよ。ピンクのリボンに似合うだろ?」

「ありがとう」

 

レベッカは、なんとか青い花をリボンに挿そうとしたが、うまくいかない。目視できないせいで、か弱く、細い茎が不安そうに揺れ動く。

 

苦戦するレベッカを見かねて、サマンサが頭頂部の先端を自在に湾曲させた。リボンと青い花の間で、ふたつの先端が縦横に乱れる。

 

そうしてようやく、リボンの上に青い花が咲いた。

 

「やっぱりなー、似合うと思ったんだー」

 

満足したように頷くと、サマンサはまた先頭に駆けていった。

 

「騒がしくてごめんなさいね」

「別に……」とレベッカ。

「リボンはかわいいし、あなたのホクロも素敵ですね」

「僕のチャームポイントだ」

 

エラ姉は微笑んで、再びサマンサの忙しない行動を見守りはじめた。

 

レベッカは上目遣いにダニエルのホクロを見つめた。

 

「ごめんね、もらっちゃって」

「かわいいよ」

 

それからしばらくの間、レベッカのリズミカルな鼻歌が止まらなかった。たびたびダニエルのホクロを見つめては「うふふ」と微笑んだ。レベッカの世界には、ダニエルしか存在していないようだったが、ダニエルは姉妹を警戒して意識を張りつめていた。先を行く姉妹と、周囲の茂みに目を光らせる。

 

できるだけ木が密集し、茂みが多い場所を寝床に選んだ。草木に圧迫され、少し息苦しくもあるが、身の安全のためには我慢も必要だ。

 

夜が更け、姉妹は大木の根元で、早々に寝静まっていた。姉妹と少し離れた木の下で、ダニエルとレベッカは寄り添い、密やかに言葉を交わしていた。彼女が寝ぼけた目つきで、大きなあくびをひとつ。

 

「キミは眠って。僕が見張るから。ベスは信用できない」

「襲ってくるってこと?」

「大丈夫、そうなったら僕が守るよ」

「ダニエルが起きてるなら、わたしも。お話しましょ」

 

その口調には覇気がなく、頭頂部の先端がこくりこくりと舟をこいでいる。

 

「おやすみ、レベッカ」

「でも……」

 

それきりレベッカが言葉を紡ぐことはなかった。可愛らしい、微かな寝息を聞きながら、ダニエルは考える。

 

僕たちには味方がいない。いまやスライムは敵だ。ほかのモンスターも人間も襲ってくる。信頼できるのはレベッカだけだ……これからどうやって生きていけばいいんだろう。

 

レベッカのあどけない寝顔が、ダニエルの胸をたまらなく搔き乱した。

 

「レベッカだけは守らないと」

 

一方で、自分と恋をして橙色に染まった彼女に、幸福を感じた。無垢な彼女を見つめているうちに、自然とにやけてしまっていた。

 

「あら、まだ起きてたの?」

 

闇の中、突然声をかけられて、ダニエルは驚きに震えた。知らぬ間に、エラ姉が近づいてきていたのだ。彼女の、眠そうに細められた双眸がおぼろに光り、闇夜に浮かびあがる。

 

「見張りだ」

「交代しますわ。悪いもの」

「おまえたちから身を守るために起きてるんだ」

「私たち?」

 

エラ姉は悲しそうに目を伏せた。

 

「私たちは味方です。信じて」

「うるさい! それ以上、言ったら許さないからな!」

「わかりました。だから、そんなに怒らないで。……おやすみなさい」

 

エラ姉は気落ちした足取りで、サマンサが寝入る木の根元に帰っていった。エラ姉の後ろ姿が闇に呑み込まれ、ダニエルの視界から消えると、ダニエルは安堵の吐息を漏らした。

 

どうにかして、もう一度仲間に会えないだろうか。何度謝っても構わない、許しをもらいたいのだ。しかし、とダニエルは思う。また仲間として受け入れてくれるだろうか。拒絶されるのではと恐怖で胸が苦しくなる。

 

昼間は仲間のもとから去ってしまったが、次に会うときには互いが冷静に向き合い、話をしたいものだ。

 

「仲間たちから、また拒絶されたら、僕たちは本当に死ぬ覚悟が必要になるかもしれない。この厳しい世界で、長く生きられるとは思えない」

 

狭く切り取られた夜空に、眩く光る星々が昨夜と変わらぬ位置で瞬いていた。ダニエルはしばらくの間、羨望の眼差しで眺めていたが、やがてため息と共に顔をうつむけた。

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