スライムに見つかりづらい場所を求めて、四匹は茂みの奥に入っていった。昼夜問わず、橙色は目立つ。ダニエルはこれからの自分の色とのつきあい方に頭を悩ませた。
道なき道を、サマンサが落ち着きなく右に左にそれてゆく。木の後ろを覗き込み、雑草に目を凝らし、空を仰いだ。雲間からのぞく茜色の空に、感嘆の声を上げた。
「あの子、いつもああなんです。目が離せなくて困っちゃいます」
エラ姉が、ダニエルとレベッカを振り返って、苦笑した。
「あった!」
サマンサはレベッカに駆け寄って、一輪の花を差し出した。きれいな青い花弁に目を奪われているようで、レベッカはうっとりとして頭頂部の先端で受け取った。
「わたしに?」
「そーだよ。ピンクのリボンに似合うだろ?」
「ありがとう」
レベッカは、なんとか青い花をリボンに挿そうとしたが、うまくいかない。目視できないせいで、か弱く、細い茎が不安そうに揺れ動く。
苦戦するレベッカを見かねて、サマンサが頭頂部の先端を自在に湾曲させた。リボンと青い花の間で、ふたつの先端が縦横に乱れる。
そうしてようやく、リボンの上に青い花が咲いた。
「やっぱりなー、似合うと思ったんだー」
満足したように頷くと、サマンサはまた先頭に駆けていった。
「騒がしくてごめんなさいね」
「別に……」とレベッカ。
「リボンはかわいいし、あなたのホクロも素敵ですね」
「僕のチャームポイントだ」
エラ姉は微笑んで、再びサマンサの忙しない行動を見守りはじめた。
レベッカは上目遣いにダニエルのホクロを見つめた。
「ごめんね、もらっちゃって」
「かわいいよ」
それからしばらくの間、レベッカのリズミカルな鼻歌が止まらなかった。たびたびダニエルのホクロを見つめては「うふふ」と微笑んだ。レベッカの世界には、ダニエルしか存在していないようだったが、ダニエルは姉妹を警戒して意識を張りつめていた。先を行く姉妹と、周囲の茂みに目を光らせる。
できるだけ木が密集し、茂みが多い場所を寝床に選んだ。草木に圧迫され、少し息苦しくもあるが、身の安全のためには我慢も必要だ。
夜が更け、姉妹は大木の根元で、早々に寝静まっていた。姉妹と少し離れた木の下で、ダニエルとレベッカは寄り添い、密やかに言葉を交わしていた。彼女が寝ぼけた目つきで、大きなあくびをひとつ。
「キミは眠って。僕が見張るから。ベスは信用できない」
「襲ってくるってこと?」
「大丈夫、そうなったら僕が守るよ」
「ダニエルが起きてるなら、わたしも。お話しましょ」
その口調には覇気がなく、頭頂部の先端がこくりこくりと舟をこいでいる。
「おやすみ、レベッカ」
「でも……」
それきりレベッカが言葉を紡ぐことはなかった。可愛らしい、微かな寝息を聞きながら、ダニエルは考える。
僕たちには味方がいない。いまやスライムは敵だ。ほかのモンスターも人間も襲ってくる。信頼できるのはレベッカだけだ……これからどうやって生きていけばいいんだろう。
レベッカのあどけない寝顔が、ダニエルの胸をたまらなく搔き乱した。
「レベッカだけは守らないと」
一方で、自分と恋をして橙色に染まった彼女に、幸福を感じた。無垢な彼女を見つめているうちに、自然とにやけてしまっていた。
「あら、まだ起きてたの?」
闇の中、突然声をかけられて、ダニエルは驚きに震えた。知らぬ間に、エラ姉が近づいてきていたのだ。彼女の、眠そうに細められた双眸がおぼろに光り、闇夜に浮かびあがる。
「見張りだ」
「交代しますわ。悪いもの」
「おまえたちから身を守るために起きてるんだ」
「私たち?」
エラ姉は悲しそうに目を伏せた。
「私たちは味方です。信じて」
「うるさい! それ以上、言ったら許さないからな!」
「わかりました。だから、そんなに怒らないで。……おやすみなさい」
エラ姉は気落ちした足取りで、サマンサが寝入る木の根元に帰っていった。エラ姉の後ろ姿が闇に呑み込まれ、ダニエルの視界から消えると、ダニエルは安堵の吐息を漏らした。
どうにかして、もう一度仲間に会えないだろうか。何度謝っても構わない、許しをもらいたいのだ。しかし、とダニエルは思う。また仲間として受け入れてくれるだろうか。拒絶されるのではと恐怖で胸が苦しくなる。
昼間は仲間のもとから去ってしまったが、次に会うときには互いが冷静に向き合い、話をしたいものだ。
「仲間たちから、また拒絶されたら、僕たちは本当に死ぬ覚悟が必要になるかもしれない。この厳しい世界で、長く生きられるとは思えない」
狭く切り取られた夜空に、眩く光る星々が昨夜と変わらぬ位置で瞬いていた。ダニエルはしばらくの間、羨望の眼差しで眺めていたが、やがてため息と共に顔をうつむけた。