衝撃の光景に、ダニエルの思考は停止し、攻撃の動作が鈍った。その隙を逃さず、ダニエルの頬を、パパズが思いっきり殴りつけた。ダニエルはぐらりとよろけつつ、後ずさる。
「こいつのは偽ホクロだ!」
パパズの背後で、かつての仲間がふてぶてしく片方の口角を吊り上げた。
「いいんだよ、ホクロ担当でさえあれば」
「じゃあ、僕じゃなくてもよかったってこと?」
「当然だろ。しかも橙色じゃな。ボクたちがどんな目に遭ったと思ってるんだよ!」
誰でも、よかった……どす黒い呪いの言葉が頭の中で渦を巻く。
そうして、自分は必要とされていなかったんだと、ようやく心にすとんと落ちてきた。
パパズの渾身の突進を避け、ダニエルは素早く自らの肉体を使って殴りつける。相手との攻防に向き合いながら、ダニエルはさっきの一件のことを考えていた。
橙色になる前の自分さえ、ろくに認めてもらえていなかった。自分だけが、彼らを友だちだと思っていた。だから、甘えや頼ることも許されるのだと。はじめから友だちでも、仲間でも何でもなかったのだ。
こんなヤツらの仲間になんか戻りたくない。となれば、この先どうしたらいいというのか。ベスとして生きていくしかないんだろうか。
「あなたのホクロは素敵です。偽物になんて負けないで!」
エラ姉の叫び声が、ダニエルの耳に抵抗なく入ってきた。
はじめて会ったときから姉妹は公平で、スライムの空色がすきだと言っていた。彼女たちはただスライムの醜い仕打ちに怯えているだけだ。色が何なのか、もはやダニエルにはわからなくなってきていた。
ダニエルとパパズは荒れた息を吐き出しながら、一旦距離を取った。
「こんなもの!」
パパズが顔を左右に揺らし、眉間からホクロを振るい落とした。そうして、地面に落ちたホクロを憎々しげに踏みつけた。
「ホクロをそんなふうに扱うな! たとえつけボクロでも愛してやってよ!」
ダニエルは悔し涙を流した。
「こんなんで泣くのかよ。おまえ、バカじゃねえの?」
パパズの下卑た笑い声も、見下した視線も、もはやダニエルの意識の外にあった。踏みにじられた偽物のホクロだけが、ダニエルの心を捉えていた。距離があり、はっきりとホクロの状態は知れなかった。しかし、無残な死に様は容易に想像できた。頭に浮かんだあまりにも痛ましい姿に、やりきれない思いがダニエルの心を満たした。
呆然としたダニエルの顔を、パパズが全身を使って殴りつけてきた。間髪入れず、何度もダニエルの体を蹴り上げる。ダニエルの体は中空に浮き上がり、猛烈な速度で地面に叩きつけられた。
「ダニエルー!!」
レベッカの悲鳴は、ダニエルの耳に届いていなかった。ダニエルは悲しみに囚われ、偽物のホクロを救えなかった自分を許せずにいた。肉体に打ち込まれる痛みは自分への罰だと、すべてを受け入れる気でいた。
とどめとばかりに、パパズが跳び上がったとき、何かがダニエルの前に立ちはだかった。
「もう十分でしょう!」
パパズの体の底で、エラ姉が押しつぶされたかと思うと、次の瞬間には中空に浮き上がり、勢いよくふっ飛ばされていた。パパズが思いっきり蹴り飛ばしたのだ。
木の幹に背中を打ちつけ、横たわるエラ姉に、サマンサが泣きながら駆け寄った。
ダニエルの瞳に生気が戻った。驚愕に目を見開き、いましがた眼前で起きたことが理解できないでいた。
なぜ体を張ってまで助けてくれるんだ。運が悪ければ死んでいたかもしれないのに。
地面に這いつくばって顔を上げると、パパズの背後で、かつての仲間たちがそろって残虐な笑みを浮かべていた。
「そんなやつに負けたら許さないぞ!」
サマンサの悲痛な叫びに、ダニエルの胸が震え立つ。
決めた。
ベスとして生きていこう。