1.スライムの衝撃~友の声~   作:清水一二

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9と10話

衝撃の光景に、ダニエルの思考は停止し、攻撃の動作が鈍った。その隙を逃さず、ダニエルの頬を、パパズが思いっきり殴りつけた。ダニエルはぐらりとよろけつつ、後ずさる。

 

「こいつのは偽ホクロだ!」

 

パパズの背後で、かつての仲間がふてぶてしく片方の口角を吊り上げた。

 

「いいんだよ、ホクロ担当でさえあれば」

「じゃあ、僕じゃなくてもよかったってこと?」

「当然だろ。しかも橙色じゃな。ボクたちがどんな目に遭ったと思ってるんだよ!」

 

誰でも、よかった……どす黒い呪いの言葉が頭の中で渦を巻く。

 

そうして、自分は必要とされていなかったんだと、ようやく心にすとんと落ちてきた。

 

パパズの渾身の突進を避け、ダニエルは素早く自らの肉体を使って殴りつける。相手との攻防に向き合いながら、ダニエルはさっきの一件のことを考えていた。

 

橙色になる前の自分さえ、ろくに認めてもらえていなかった。自分だけが、彼らを友だちだと思っていた。だから、甘えや頼ることも許されるのだと。はじめから友だちでも、仲間でも何でもなかったのだ。

 

こんなヤツらの仲間になんか戻りたくない。となれば、この先どうしたらいいというのか。ベスとして生きていくしかないんだろうか。

 

「あなたのホクロは素敵です。偽物になんて負けないで!」

 

エラ姉の叫び声が、ダニエルの耳に抵抗なく入ってきた。

 

はじめて会ったときから姉妹は公平で、スライムの空色がすきだと言っていた。彼女たちはただスライムの醜い仕打ちに怯えているだけだ。色が何なのか、もはやダニエルにはわからなくなってきていた。

 

ダニエルとパパズは荒れた息を吐き出しながら、一旦距離を取った。

 

「こんなもの!」

 

パパズが顔を左右に揺らし、眉間からホクロを振るい落とした。そうして、地面に落ちたホクロを憎々しげに踏みつけた。

 

「ホクロをそんなふうに扱うな! たとえつけボクロでも愛してやってよ!」

 

ダニエルは悔し涙を流した。

 

「こんなんで泣くのかよ。おまえ、バカじゃねえの?」

 

パパズの下卑た笑い声も、見下した視線も、もはやダニエルの意識の外にあった。踏みにじられた偽物のホクロだけが、ダニエルの心を捉えていた。距離があり、はっきりとホクロの状態は知れなかった。しかし、無残な死に様は容易に想像できた。頭に浮かんだあまりにも痛ましい姿に、やりきれない思いがダニエルの心を満たした。

 

呆然としたダニエルの顔を、パパズが全身を使って殴りつけてきた。間髪入れず、何度もダニエルの体を蹴り上げる。ダニエルの体は中空に浮き上がり、猛烈な速度で地面に叩きつけられた。

 

「ダニエルー!!」

 

レベッカの悲鳴は、ダニエルの耳に届いていなかった。ダニエルは悲しみに囚われ、偽物のホクロを救えなかった自分を許せずにいた。肉体に打ち込まれる痛みは自分への罰だと、すべてを受け入れる気でいた。

 

とどめとばかりに、パパズが跳び上がったとき、何かがダニエルの前に立ちはだかった。

 

「もう十分でしょう!」

 

パパズの体の底で、エラ姉が押しつぶされたかと思うと、次の瞬間には中空に浮き上がり、勢いよくふっ飛ばされていた。パパズが思いっきり蹴り飛ばしたのだ。

 

木の幹に背中を打ちつけ、横たわるエラ姉に、サマンサが泣きながら駆け寄った。

 

ダニエルの瞳に生気が戻った。驚愕に目を見開き、いましがた眼前で起きたことが理解できないでいた。

 

なぜ体を張ってまで助けてくれるんだ。運が悪ければ死んでいたかもしれないのに。

 

地面に這いつくばって顔を上げると、パパズの背後で、かつての仲間たちがそろって残虐な笑みを浮かべていた。

 

「そんなやつに負けたら許さないぞ!」

 

サマンサの悲痛な叫びに、ダニエルの胸が震え立つ。

 

決めた。

 

ベスとして生きていこう。

 

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