僕とウチと私part01
……ガラッ
「おはよう」
教室の扉を開けて元気良く挨拶をする。
一日の始まりは明るくしないとね。
しかし、教室の中は暗幕がひかれており真っ暗で
目を凝らして見ると、そこは……サバトの会場だった。
とりあえず静かに扉を閉めた。
僕は……入る教室を間違えたのだろうか?
それとも、入学する学校を間違えたのだろうか?
それとも、生まれる国を間違えたのだろうか?
そんな事を考えていると……
「「「吉井ぃぃぃぃっ!」」」
ガラッと前後の扉が開いて黒装束のクラスメイトらしき者が五、六人くらい出てくる。
さて朝のジョギングを校舎の中でするかな。
朝から身体を動かすのって気持ち良いなぁ……命が懸かってなければ。
「待ちやがれっ、吉井っ!」
「貴様、休みの間に島田と結婚しただとっ!?」
「なっ、なんでそれを知ってるのさっ!?」
「俺が見ていたからだっ!」
昨日如月ハイランドに来てたのか……そういえば一般の人も会場に入場してたしなぁ。
「昨日貴様と坂本が結婚するのを妹と手を繋いで見てたんだっ!」
「「「なっ、なにぃぃぃぃぃっ!!」」」
追いかけてくる黒装束のクラスメイトたちの気迫が充実してくるのが伝わってきた。
雄二、君も目を付けられてるよ。
「「「ゆっ、許せんっ!!」」」
黒装束のクラスメイトがいきなり立ち止まって仲間の一人を取り囲む。
「福村っ、貴様、妹と手を繋いでいただとーーっ!?」
そっちっ!?
「おっ、俺は妹が迷子にならないようにだな……」
「問答無用っ!」
ガシィッ……一撃で福村君は倒された。
一人が携帯で連絡を取っている。
「須川会長、異端者を一人確保しました」
「よろしい、すぐここへ連行しろ。即刻処刑だ……吉井への見せしめの為に念入りにな」
携帯を仕舞うと、すぐに福村君は僕の代わりに連行されていった。
ありがとう、福村君。
君の犠牲はきっと忘れないよ。
一時間目が始まるまで。
僕がほっと一息ついていると……
「おはようございます、明久君」
不意に朝の挨拶をされて振り返ると……姫路さんだった。
「おはよう、姫路さん」
今日も朝から癒しオーラ全開で心が落ち着くな。
「お久しぶりですっ。元気でしたか?」
「ほんと久しぶりだね。僕、連休中はちょっと風邪引いてたんだ」
「ええっ?もぅ大丈夫なんですか?」
すごく心配そうに僕の顔を覗き込んでくる姫路さん。
いつも優しいなぁ。
「うん、みんながお見舞いに来てくれたからね」
そう言えば美波が昨日の帰りに……
『いい、アキ?絶対にウチらが付き合う事を誰にも言ったらダメよっ!?』
『う、うん……でも僕、嘘が下手だし、すぐ顔に出ちゃうから……』
『とにかくウチが良いって言うまで絶対にバレちゃダメだからねっ!』
『判った……バレないように頑張るよ』
『特に瑞希には絶対言っちゃダメだからね!?』
『うん……でも何で姫路さんはそんなにきつく?』
『そっ、その……瑞希にはウチから言いたいの』
『そうなの?』
『そっ、そうよ……ウチら友達じゃない?ウチから言って驚かせたいのよ』
『判ったよ。美波がそこまで言うなら絶対黙ってる』
『約束よ?』
『うん』
「私もお見舞い行きたかったです……出来れば、あーんをしておじや食べさせてあげたり」
頬に手を当ててもじもじしている姫路さん。
ごめんなさい、それは美波にやってもらってたんだ……メイド服着てもらったりして。
「もぅすっかり治ってるから大丈夫だよ。心配掛けてごめんね」
「それなら良いのですが……今度明久君の具合が悪くなったら私に看病させてくださいね?」
「うん、ありがとう」
姫路さんの看病ならすぐ治る気がするけど……料理さえしなければ。
「あ、早く教室に行かないと遅刻になっちゃうよ?」
「そうでした。早く行きましょう、明久君」
僕たちはFクラスへ急いだ。
----お昼休み
「明久、今日は愛妻弁当じゃないのか?」
「雄二こそ、霧島さんの手作り弁当じゃないの?」
「お主らは作ってくれる人が居るだけでも羨ましいのぅ」
「…………(コクコク)」
今日は珍しく男四人で卓袱台を囲んでいる。
いつもなら、ここに美波と姫路さんもいるんだけど
何か話があるらしくて今日は屋上で二人っきりで食べるらしい。
「昨日、僕も美波も帰るのが遅かったからね。自分のお弁当を作るのも大変だったんだ」
「なんだ、明久。あの後、何処か行ったのか?」
「美波を家まで送っただけだよ」
「そしたら何で遅く……お前ら、何かあったな?」
「なっ、なっ、ななな何もないようなあるようなないような気がしなくもないような……」
ふいに雄二に昨日の記憶を思い出させられるような事を言われて
帰りに美波に告白しちゃってされちゃって、その後の事を思い出したら
……ヤバい、耳まで赤くなってる気がする。
「お前、すぐ顔に出るな……探る面白さが全くない」
「全くじゃな」
「…………隠し事が下手すぎる」
「じゃあ、聞かなくても良いじゃないかっ!」
真っ赤になって反論する。
「まぁそう怒るな」
「わしら友達じゃろう?何かあったら教えて欲しいのじゃ」
「…………手伝える事なら手伝う」
みんな……そこまで僕の事を……
思わず泣きそうになっていると
「この反応だと島田に告白されたとかじゃな」
「…………明久も告白したとか」
「そして思わずキスしちゃったとかだな」
三人ともニヤニヤしながら、そんな事をのたまった。
前言撤回……なんでこいつらこんなにカンが鋭いんだ。
ムッツリーニが僕に盗聴器でも仕掛けてるんじゃないのかっ!?
「で、姫路と島田は屋上か……修羅場だな」
「んむ、修羅場じゃな」
「…………修羅場」
「え?あの二人、喧嘩でもしているの?」
そんな素振りは全く見えなかったんだけどな。
僕たちがお昼を食べながらそんな話をしていると美波が教室に戻ってきて……
「アキ、瑞希が話があるって……屋上で待ってるわ」
「そうなの?僕一人で行った方が良いのかな?」
「うん、早く行ってあげて」
「判った、ありがとう」
僕が美波の傍を通る時、小声で……
(ウチ信じてるからね)
僕は小さく頷いて教室を出た。
「島田、明久と姫路を二人っきりにして良いのか?」
「良いも何も、何を心配してるのよ?」
「おそらくだが昨日お前らに何があったか想像はついているんだがな」
「なっ……アキったら喋ったのっ!?」
「明久は何も言っておらぬ」
「アイツ隠し事下手だからな。すぐ顔に出てな……だから推測の範囲だがな」
「もぅアキったら……でも大丈夫。ウチ信じてるもん」
さて姫路さんが待ってる屋上へ……
門扉を開けると階段から少し離れた、校庭が見えるフェンスの近くに姫路さんは立っていた。
「姫路さん、ごめんね。待たせちゃって」
そう言って姫路さんに近付く。
「いえ、お呼び立てしたのは私ですし……わざわざ来てくれてありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をしてくれる姫路さん。いつも礼儀正しいなぁ。
「それで僕に話って?」
「はい、その……」
もじもじして俯いてて姫路さんの表情が全くわからない。
「どうしたの?何か言いにくい事なのかな」
「はい、その……」
しばらく沈黙が続く。
うーん、美波と何を話していたのだろうか。
そういえば僕たちに相談する前に美波と相談していた事があったっけ。
あれは確か……
「ひょっとしてまた転校の話が出てるのっ!?」
たしか清涼祭の時に姫路さんが転校させられそうになったね。
姫路さんのご両親と面識があるのは僕だけだったっけ。
そうか、それで僕だけ話があるって……きっとみんなに相談しにくかったんだな。
「それなら今日の帰りにでも僕が話に行った方が良いのかな?」
「違うんですっ!」
姫路さんにしては珍しく強い口調で……
「あのっ……美波ちゃんから聞きました。明久君から……告白されたって」
「ええっ!?」
美波が言っちゃったんなら良いのかな……友達に嘘をつくのは嫌だし。
「うん……僕も告白したし美波からも告白してもらったんだ」
「そう……ですか」
俯いたまま少し……ほんの少しだけ震えている気がする。
「あっ、あの……もし……もし、私が……」
そう言って一瞬だけ僕を見る姫路さん……でもまたすぐ俯いて
「もし、私が……明久君に……」
「僕に?」
またしばらく沈黙して……何か決心をしたような表情で僕を見て
「もし、私が明久君に……おめでとうって言ったら……嬉しいですか?」
姫路さんの目には今にもこぼれんばかりに……涙が溜まっている。
「うん」
友達に祝ってもらえるなら、すごく嬉しい。
……けど、心がちょっとだけ針で刺されたような……少しだけ痛い気がする。
「そう……ですよね。嬉しいですよね……私も逆の立場なら……」
姫路さんは、そう言うと門扉の方へ走り出し……すぐ止まり、下を向きながら
「あのっ……一つだけお願い聞いて頂けますか?」
「うん、僕に出来る事なら」
姫路さんのお願いなら、多少無理な事でも聞いてあげたい。
「……ありがとう……10分位してから教室の方へ戻ってもらえますか?」
「うん、お安い御用だよ」
「ありがとうございます」
そう言って姫路さんは門扉の向こうへ……
姫路さんが立ち止まっていた所には水滴を垂らしたような跡がいくつか……
僕が教室へ戻ると姫路さんは体調不良とのことで早退したとの事だった。
そして僕は……
午後の授業に遅刻した為、補習の時間が30分延びた。