「ふむ。こいつは是非試してみたいね」
「学園長。どうかなさいましたか?」
「ああ、高橋先生。来年度の学園祭にやる召喚大会用に操作系統を弄っていたんだが」
「またですか?」
「それでちょっと面白い事になってね。実際に召喚獣を喚び出してデータを採りたいんだけどね」
「それでしたら私が協力致しましょうか?」
「いや、今回のも二人用なんだよ。だから高橋先生一人だけじゃ……」
――コンコン
「どうぞ」
――ガチャ
「失礼します。高橋先生いらっしゃいますか?来週の小テストの事で……」
「おや、西村先生。ちょうど良かった」
「どうされましたか?」
「西村先生、ちょっと高橋先生と手を繋いでくれるかい?」
「いきなり何を仰っているんですか……って、高橋先生は何を照れているんですか」
「(ポッ)……私はいつでも大丈夫です。パパ先生」
「その言い方はやめて頂きたいと何度も……失礼。ちょっと急用を思い出しましたので」
――バタン
「西村先生も固いねぇ。もうちょっと融通を利かせてくれれば良いのに」
「いつもすぐ逃げるんですよね」
「いつもって……アンタら、いつも何をやってるんだい」
「それより、召喚獣の試運転は如何致しますか?」
「ふむ……いつもの連中に頼むとしようかね」
僕らと子供と召喚獣part01
「アンタらに頼みがあるんだけどね」
「「「「お断りします」」」」
「――つれないねぇ」
放課後。
先週の土曜にみんなで食べに行ったお店のスイーツが結構美味しかったので
また食べに行こうか……なんて、教室に残って話をしていた僕らのところに
ババァ長がやってきて頼みがあると言ってきた。
今までのババァ長の頼み事って言うのは、ろくな結果で終わった
僕ら男子の方は絶対に引き受けたくないんだけど……
女子の方が妙に乗り気だった。
「ダメよ、アキ。ウチら、学園長先生と約束したじゃない」
「……雄二。学園長先生の言う事には従わないと」
「面白そうだから学園長先生のお手伝い、ボクもしてみたいなー」
僕は美波に頚椎を、雄二は霧島さんに顔面を掴まれて
ムッツリーニは工藤さんに袖を引っ張られている。
「でっ、でも……また、ろくでもない頼み事なんじゃ……」
「アキ……ウチが約束を破るの嫌いな事、知ってるわよね?」
美波の声のトーンが下がり、手に力がこもってきている。
そう言えば去年、恋愛禁止の校則をやめてもらうようお願いした時に
美波がババァ長に、召喚獣の試運転とか僕と一緒に手伝うって約束してたんだっけ。
「しっ、しかしだな……きっと、またトンでもない事を頼んでくると……」
「……いつもお世話になってる学園長先生と愛してる私の言う事が聞けないの?」
「愛してるってお前、こんなところで何を言って……ぐぁっ!?」
霧島さんの愛の強さが雄二の歪んだ顔から伝わる。
雄二の頭蓋骨からミシミシという音が聞こえてくるようだ。
「…………そんなにやりたければ、工藤一人でやれば良い」
「ええ~。ボクはムッツリーニ君と一緒が良いんだよっ」
工藤さんはちょっと寂しそうな顔をして
プイッと横を向いたムッツリーニの袖を引っ張っている。
僕と雄二は、いつもの光景なんだけど……
こう言う時だけは比較的常識のある工藤さんが相手のムッツリーニがすごく羨ましい。
姫路さんと秀吉は苦笑いを浮かべて僕らを見ていた。
――――
―――
――
「学園長先生。ウチらは何をすれば良いんですか?」
美波と霧島さんが(僕と雄二の)命を懸けたお願いを聞いて
僕らもババァ長の頼み事を引き受ける羽目になってしまった。
「アンタらが居てくれるおかげで実験台に困らないよ」
ババァ長は、鼻歌が聞こえてきそうなくらい上機嫌のご様子。
…………って、今僕らの事を『実験台』って言ったよねっ!?
「何、簡単な事さね。以前、試した子供の召喚獣を覚えているかい?」
「「「「はい」」」」
「あの時と同じ様に召喚をして、動かしてもらいたいのさ」
ババァ長が言い終わると……
美波と霧島さんが顔をパァッと輝かせて
「今度こそ、ウチとアキの子供が見れるんですかっ!?」
「……また、しょうゆに会える」
「ただ前回と違うのは、召喚者二人の意識がシンクロした時だけ操作出来る様にしてあるのさ」
美波と霧島さんは子供の召喚獣が見れると言うのだけで嬉しくなったのか
その後のババァ長の説明が耳に入っていないみたいだけど……
「シンクロって、どういうことだ?」
雄二が渋い顔をしてババァ長に質問をしている。
確か前回は召喚者同士の命令が干渉しあわないように自律行動を取っていたから
僕らの操作は省かれていたんだっけ。
「言葉通りさね。二人の息が合えば、いつもみたいに召喚獣を思い通りに動かせるのさ」
「それって、二人が同時に前に進めって思えば、前に進むって事ですか?」
今まで黙っていた姫路さんが首を傾げながら質問をしている。
「そうだよ。二人同時に同じ考えをした時だけ、命令に従うようにしてあるのさ」
「普段は勝手に動いて二人の意識が同じになった時だけ操作出来るって事か」
「ああ。だから特に意識しなければ勝手に動き回ってるんだから楽だろう?」
ババァ長は、ニィッと笑いながらそんな事を言っている。
雄二の方はあごに手を当てて、何か問題が無いか考えているみたいだ。
子供の召喚獣を見るだけなら前回と一緒なんだろうけど……
でも、召喚した僕らが意識を合わせようとしない限り、結果は前と一緒なんじゃないかな。
僕も雄二も、どうなるか考えていると……
「アキ。どんな結果になってもウチは受け入れるから……ちゃんと二人で責任取ろうね」
「ふぇ?なんのこと?」
スッと美波が僕の手を握ってきて優しく微笑んでいる。
ババァ長の実験に付き合ってあげるのは僕らの方なのに……
何の責任を取らされると言うのだろうか?
「……雄二。また、しょうゆに会えばきっと雄二も早く子供が欲しくなるはず」
「お前はまた何を馬鹿な事を言って……」
霧島さんは頬を染めて雄二の手を握っている。
「ムッツリーニ君。ボクたちも代表たちに負けてないところを見せてあげようよ」
「…………何の事だ?」
工藤さんは袖を掴んだまま、首を少し傾げて微笑みながらムッツリーニを見ている。
そして……
「「「
☆ ☆ ☆
《わぁ~。きゃっきゃっ♪》
《おもしろーい》
《…………》
僕らの目の前で楽しそうに卓袱台で遊んでいる子供の召喚獣たち。
公園にあるジャングルジムのように上に乗ったり、下をくぐったりしている。
雄二と霧島さんの子供の召喚獣のしょうゆちゃんは
綺麗なショートの黒髪で(昔の)雄二似の可愛い目をしている。
ムッツリーニと工藤さんの子供の召喚獣は
全体の雰囲気が工藤さんで目だけムッツリーニそっくり。
そして僕と美波の子供の召喚獣は……
「よかったな、明久。お前に……」
「そうじゃのう。明久に……」
「…………本当、明久に……」
雄二と秀吉とムッツリーニがすごく楽しそうに……
「「「まったく似てなくて」」」
可愛い顔立ちに、目はパッチリと大きくて少し吊り上っている。
今すぐにでも駆け出して何処かに行っちゃいそうな元気な雰囲気。
髪は亜麻色でツーサイドアップ。
髪型や見た目だけでなく、全体から受ける印象も葉月ちゃんに本当にそっくりだ。
「この子がアキとウチの……」
隣を見ると……
美波が頬を少し染めてすごく優しい笑顔で子供の召喚獣を見ている。
そして召喚した時から繋いでいる手を更に握り締めてきた。
“いつか、きっと……こうやってアキと二人でウチらの子供を見る日が来るのね”
「美波?何か言った?」
僕がそう聞くと……
「え?声に出てた?」
美波は少し恥ずかしそうに首を傾げて僕を見ている。
何か言っていた気がするんだけど……僕の気のせいかな?
しかし、僕と美波の子供の召喚獣は女の子か。
でも雄二やムッツリーニの子供の召喚獣は目だけ男子に似ているのに
僕と美波の子供の召喚獣は100%美波似かぁ。
可愛くて良いんだけど……女の子だからかな?
「アキ」
「ん?どうしたの?」
「ウチもそう思うわよ。きっと男の子ならアキにそっくりで優しい子になると思うの」
美波は微笑むと僕を見つめて、そう言ってくれた。
――――あれ?
僕、今考えていた事が声に出ていたのかな?
それにしても女の子だと大きくなったら美波と同じように胸の事で悩むんだろうか?
ムッツリーニが以前言っていたけど、そういうのって遺伝するみたいだしなぁ……
――ゴキッ
「痛ぁぁぁっ!?」
「アキのバカっ!!」
繋いでいる手の手首の関節を一瞬で外すと、さっきまでの優しい笑顔から一転して
美波が大きな目を吊り上らせた怖い顔で僕を睨んでいた。
“アキのバカバカっ!ウチがいつ胸の事で悩んでるなんて言ったのよっ!?”
「えっと……直接聞いた事は無いけど……」
美波の(胸の)悩みは、もはや公然の秘密になっていると思うんだけどなぁ。
“なんでっ!?どうしてっ!?誰にも言った事無いのにっ!?”
美波は僕から手を離して自分の胸を隠すように手で押さえ
吊り上げていた目を見開いて動かなくなってしまった。
自分の秘密が皆にバレていたのが、そんなにショックだったんだろうか。
ところで……
さっきから美波の声が、なんとなく頭の中から直接聞こえてくる気がするんだよね。
「えっ!アキも?」
「うん」
正気に戻った美波が驚いた顔で僕を見ている。
なんだ、美波も僕の声が頭の中から聞こえているのか。
良かった。僕だけ、おかしくなったんじゃなくて……
――――ええっ!?
どういう事なんだ!?
召喚獣とは言え、子供が出来ちゃったから
僕と美波が本当の夫婦みたいに以心伝心とかになっちゃったんだろうか?
でも、それなら前回の時にも雄二や秀吉と、そうなっているはずだよね。
“アキぃ?ウチじゃなくて、坂本や木下と夫婦になりたかったのっ!?”
不意に頭の中から響いてくる声に驚いて横を見ると……
美波が指をポキポキ鳴らしながら僕を睨んでいる。
「美波、ちょっと待ってっ!」
僕は両手を美波の前に突き出して……
おかしい。
なんで僕は、いつも美波に勘違いをさせちゃうんだろう?
僕は世界中の誰よりも美波が一番―――
魅力的な女の子だと想っているし……
かけがえのない大切な存在で……
傍に居て欲しいと想っているくらい大好きなのに……
僕が美波の怒っている顔を見ながらそう思っていると
美波は表情を和らげ、握っていた拳を開いて僕の左手を包むように握り締め
「アキ……本当にそう想ってくれているのよね?」
頬を少し染めた、何かを探るような顔で僕を見上げている美波。
僕は美波への想いだけは絶対に嘘や誤魔化しはしたくないんだ。
「うっ、うん。本当だよ。僕は美波に嘘なんか吐かないよ」
「ふふっ、そうよね」
美波は嬉しそうに微笑んで僕を見つめている。
すると僕の頭の中から美波の声が……
“ウチも優しいアキが大好き。ずっと……ずっとアキの傍に居たいの”
「美波……」
僕が美波の視線から目を逸らせずにいると……
「ババァっ!これはどういうことだっ!?」
―― 雄二side ――
しかし、明久と島田の子供はほぼ100%島田のコピーじゃないか。
明久は遺伝子まで島田に頭が上がらないのか。
そんな事を考えていると……
「……しょうゆ、楽しそう」
翔子が俺の袖を引っ張りながら子供の召喚獣を幸せそうに見ている。
「だから、その名前はやめろと何度も言ってるだろ」
「……どうして?」
「どうしてって……」
いつも同じ事の繰り返し。
大体、子供の名前なんて俺たちにはまだ早いだろ。
「……そんな事は無い。私はいつでも雄二の子供を産むつもり」
「ちょっ……お前は何を言ってるんだっ!?」
まったく、こいつは……いつも俺の考えている事を見透かしているみたいだ。
「……そんな事は無い。私の頭の中に雄二の声が届いているから」
翔子は頬を少し染めて俺を見つめている。
そんな顔で見られたら……いくら俺でも、恥ずかしくなっちまうだろうが。
翔子の視線に耐え切れなくて子供の召喚獣の方を見ると楽しそうに三人で遊んでいる。
翔子が前に言っていた三十九人は多過ぎると思うが二人や三人くらいなら居ても良いかもな。
「……私、頑張る」
翔子は小さくガッツポーズをしている。
何を頑張るつもりなんだ、こいつは。
聞くのが怖いからやめとこう。
すると翔子が首を傾げながら俺を見上げて
「……もちろん、雄二の子供を産む事」
「なっ……バカな事、言ってるんじゃない」
翔子の頭に軽くチョップを落とす。
――――ん?
さっきから翔子との会話がおかしい気がする。
なんて言うか……
俺は声に出していないのに翔子が返事をしている感じだ。
それとも……
去年告白したから、本当に翔子が俺の考えている事を判るようになったんだろうか。
「……そうじゃない。本当に雄二の声が頭の中で聞こえてる」
「そんなバカな……」
そんな事がある訳が無い。
翔子が超能力でも使えるようになるなんて……
俺は前と変わらない……俺の事をいつも見てくれている普段の翔子が好きなんだ。
「(ポッ)……私も雄二の事が大好き」
そう言って俺の胸に飛び込んでくる翔子。
みんなの前でそんな事をするなって……
「……大丈夫。私と雄二の事はみんな知ってるから」
全然大丈夫じゃない。
これでハッキリした。
今は俺と翔子の事よりも……
「ババァっ!これはどういうことだっ!?」