「ちょっと雄二。いきなり大声出してどうしたのさ?」
「この状況がおかしいと思わないのか?」
この状況って……
まず僕と美波は……
美波が顔を赤くして僕を見つめている。
さすがにみんなが見てる前で美波と二人で顔を赤くして
見つめ合っているのは恥ずかしいけれど……
あと、さっきから美波の声が直接頭の中から聞こえてくる気がするんだよね。
そして僕の思っている事が美波に伝わっているみたいだし……
去年のクリスマスに、お互いにきちんと告白して美波と本当の恋人になったから
言葉なんて無くても、気持ちが通じ合うようになったのかな?
――って、そんな訳ないか。
きっと雄二の言うとおり、ババァ長がなんかしたんだろうな。
頭の中で美波の声が聞こえるようになったのって召喚してからだし。
雄二と霧島さんは……
雄二の胸に顔を
そして雄二は、らしくないけど照れているみたいだ。
あんな美人に抱きつかれていたら普通は照れるよね。
ムッツリーニと工藤さんは……
妙に静かだと思ったら、ムッツリーニが幸せそうな顔で鼻血を出して倒れている。
ムッツリーニを膝枕しながら、必死になって輸血をしている工藤さん。
おそらく膝枕をされてるから幸せそうな顔をしてて鼻血が止まらないんじゃないかな?
あの出血量だと輸血パックは足りるのか、ちょっとだけ心配だ。
秀吉と姫路さんは……
召喚していないせいか、手持ち無沙汰なんだろう。
少し暇そうに子供の召喚獣を見ている。
みんなで話をしていた途中で付き合せちゃって申し訳ないな。
最後に子供の召喚獣三人を見ると……
ただ一人、男の子のムッツリーニと工藤さんの子供の召喚獣が
僕と美波の子供の召喚獣と、雄二と霧島さんのしょうゆちゃんに
文字通り、尻に敷かれている。
「お主ら……子供まで女子の方が強いんじゃな」
秀吉が呆れた顔でそう言うと、姫路さんが子供たちを指さして
「でも……すごく幸せそうですよ?」
ムッツリーニと工藤さんの子供の召喚獣は
鼻血を出しながら幸せそうな顔で女の子の召喚獣たちに敷かれていた。
親子揃って鼻血を出しながら倒れているのって……
しかも理由は、ほとんど一緒なのだろう。
そこまでそっくりな親子って言うのもすごいな。
「いつも通りっていう気がしなくも無いんだけど……」
僕が首を傾げて返事をすると
「お前らはさっきから自分の考えている事が相手に伝わってる気がしないか?」
「そう言えば……頭の中から美波の声がするんだよね」
「うん。ウチも頭の中からアキの声が聞こえるわよ」
僕と美波が顔を見合わせて頷いていると
「ボクもさっきからムッツリーニ君の声がハッキリ聞こえるんだよ」
工藤さんが輸血パックを持ちながら会話に混ざってきた。
「ムッツリーニ君がいつもよりハッキリ喋っているなぁと思って不思議だったんだけど……」
「ワシは何も聞こえんのじゃが……」
「私も……」
秀吉と姫路さんが不思議そうな顔で僕らを見ている。
そして雄二はババァ長に向かって
「また試験召喚システムの調整に失敗したんじゃないのか?」
「失敗とは酷い言い掛かりだね」
ババァ長がフンと鼻を鳴らして雄二を睨んでいる。
「召喚者同士が意識の共有を出来るようにしてあるのさ」
「意識の共有……ですか?」
姫路さんが頬に指を当てながら首を少し傾げて話を聞いている。
「ああ。今、考えている事が召喚獣を通して相手にも伝わっているんだよ」
「前の本音を喋っちまう召喚獣みたいに思った事が何でも伝わっちまうのか?」
「そうだよ。その方がお互いに何を考えているのか判って、召喚獣の操作をし易いだろう?」
片手をひらひらさせながら笑っているババァ長。
それってつまり……
さっきから頭の中で聞こえていた美波の声は、美波が思っていた事で
僕が思っていた事は全部美波に筒抜けだったって事!?
――ガシィッ
いきなり美波が腕を組んできて引きつった笑顔で僕を見ている。
“アキ?一つ、お願いがあるの”
なっ、なにかな?
“さっきのウチの悩みなんだけど……誰にも言わないって約束してくれる?”
もちろん……誰にも言わないよ。
今更誰かに言ったところでみんな知ってる事だと思うし……
たぶん、その事を知らないのは美波だけだと思うよ?
――――あ。
今は考えるだけでもマズいんだっけ!?
恐る恐る美波を見ると……
大きな目に涙を溜めてすごく悔しそうな顔をしていた。
「アキのバカァーーッ!!」
「みぎゃぁぁぁぁぁ!!」
――――
―――
――
「やれやれ……アンタら、何をやってるんだい?全然データが採れないよ」
ババァ長が顔をしかめて文句を言ってきた。
最初から、こうなってるって言ってくれれば
僕もこんな痛い目に会わないで済んだのに。
「このままじゃ埒が明かないから仕切り直すよ。次は相手を変えて試してもらおうかね」
召喚フィールドが消されて僕らの子供の召喚獣が居なくなってしまう。
美波と霧島さんがすごく悲しそうな顔をしていたけれど……
そしてまた召喚フィールドが張られて
「じゃあ、違う相手と召喚しておくれ」
「あの……ボクとムッツリーニ君は今回はパスでもいいですか?」
「その様子だと仕方ないさね。無理はするんじゃないよ」
「ありがとうございます。学園長先生」
少し緊張した感じでババァ長にお願いをしていた工藤さん。
ババァ長の返事を聞いてホッとした顔になり、視線を寝ているムッツリーニに向ける。
ここから見ていても判るくらい出血量がいつもの比じゃない。
声には出していない、あの二人の考えていた事はそんなにすごい事だったんだろうか。
僕なんかじゃ想像も出来ない、世界最高水準の
――幸せそうな笑顔で死にかけているムッツリーニを見てそう思った。
「……学園長先生」
「なんだい?」
「……もう一度、私と雄二でもいいですか?」
「出来れば、相手は変えて欲しいんだけどねぇ」
ババァ長がそう言った瞬間――
――メキョッ
「ぐぁっ!?」
雄二が一瞬叫んだかと思うと……
霧島さんが、ぐったりした雄二の顔面を右手でつかんだまま
「……すみません。雄二の具合が悪いみたいなので私たちも今回は見ています」
「しっ、仕方ないさね……あまり無茶はするんじゃないよ」
ババァ長が顔を引きつらせて少し震えた声でそう言うと
「……ありがとうございます」
雄二を寝かせて膝枕をしている霧島さん。
そんなに雄二が他の誰かと子供の召喚獣を喚び出すのが嫌だったんだ……
今、残っているのは……
僕と美波、秀吉と姫路さんか。
僕と美波で今召喚したから、次は秀吉か姫路さんと召喚しないとね。
僕はどっちと召喚すればいいんだろう?と考えていると
「今度はアンタらにも召喚して欲しいんだけどね?」
ババァ長が秀吉と姫路さんに向かってそう言うと、二人は何かを決心したような……
僕と美波の方を真っ直ぐ見つめて傍まで来ると
「ワシは島田と召喚させてもらうかの」
「私は明久君と……」
二人がそれぞれ口にしたパートナーの肩に軽く手を置くと
「「
幾何学模様が二つ現れて、その中から出てくる子供の召喚獣たち。
僕と姫路さんの子供の召喚獣は女の子だった。
先端に軽くウェーブの掛かった亜麻色のロングヘアー。
ちょっとおっとりした雰囲気だけど可愛らしい笑顔を僕らの方へ向けて
《こんにちは》
にこにこと元気良く挨拶をしてくれた。
「へぇ……アキと瑞希だとそういう子供になるんだ」
美波は少し機嫌が悪そうだな。
腕を組んで僕と姫路さんの子供の召喚獣を見ている。
「目元は明久似じゃな」
「瑞希の天然のところとアキの鈍感な部分が全体に現れているわね」
目元が似ているのは自分だと良く判らないけど
雄二とムッツリーニの子供の召喚獣も目は父親似だったから
きっと僕と姫路さんの子供の召喚獣も僕に似ているんだろう。
天然のところは全体の雰囲気がおっとりとしているから見れば大体判るけど
美波の言っている鈍感な部分って見ただけでどうやって判るのっ!?
――それに僕はそんなに鈍くないと思うんだけどなぁ……
そして秀吉と美波の子供の召喚獣はパッと見、男の子だった。
サラサラの髪に勝気そうな目で周りをきょろきょろ見ている。
なんて言うか……
目と鼻が美波似なら、口と髪は秀吉似といった具合に
見事なまでに秀吉と美波を足して2で割った感じがする。
二人とも顔立ちは可愛いから、男の子だけど見た目がすごく可愛い。
そして以前、秀吉と秀吉のお姉さんの木下さんが子供の召喚獣を喚び出した時
どっちがお母さんだったか判らなかったみたいだしなぁ。
まさか今回も……
「ア~キィ~~。何か失礼な事、考えてないカシラ?」
「そっ、そんな事ないよっ!」
美波が僕を睨んでいる。
今僕の考えている事って、美波にバレてないよねっ!?
―― 美波side ――
あの顔は絶対に何か考えていたわね。
アキが何か変な事を考えていたらすぐ顔に出るんだからっ!
ウチがそう思っていると、ふいに木下が……
“学園長も便利な物を発明してくれたのう”
便利って何よ?
“これならば、言い
言い難い事って……なんの事かしら?
木下は子供の召喚獣の方を見ながら
“まさか明久の目の前でお主にこんな事を伝えるとは思わなかったのじゃが……”
何か言いたい事があるならハッキリ言えば良いじゃない。
ウチと木下のどっちがお母さんでお父さんか判らないとか……あっ!
アキがさっき考えていたのはたぶんそれねっ!
どうしてそう思ったのか、後でちゃんとお仕置きして……
――――じゃない、確かめてやるんだからっ!
ウチがそんな事を考えていると
『――――ええっ!?』
アキが何か驚いて声を上げたわね。
そしてアキを見ると……
なんであんなに顔を赤くしてるのよっ!?
一体、瑞希が何を……
ウチがアキの方を見ていると、木下が袖を少し引っ張って
“すまんが、折角の
仕方ない。
アキには後で色々確認するしかないわね。
必要があっても無くても身体に直接聞いてやるんだからっ!
“すまんのう……それで、お主とは一年の時からクラスが同じじゃったが”
そうね。アキや坂本、土屋も一緒だったわね。
“お主は明久や雄二たちと一緒に居ようとして、ずいぶん男っぽい振る舞いをしておったのう”
まさか言い難い事ってウチが男みたいだとでも……
“ワシが……お主を一人の異性として意識しだしたのは二年になってからなんじゃ”
――――っ!?
ちょっ……木下はいきなり何を……
“お主が明久に振り向いてもらおうと
子供の召喚獣を見ている木下の横顔は
笑顔でもなく悲しそうな顔でもなく……
普段通りの、ウチから見ても可愛らしい顔だった。
“二年になっても初めのうちは、相変わらず明久に対して男っぽい時もあったが”
“強化合宿の後からかのう……時折見せる、お主の女子らしい立ち居振る舞いに心魅かれだしたのじゃ”
木下は子供の召喚獣の方を向いているけど、召喚獣を見ている感じがしない。
何か……
ここには無い、違う物を見て話している気がする。
“そしてワシは、明久にも雄二やムッツリーニと違う……特別な感情を持っているのかもしれん”
“あやつの……バカが付くほど優しいところを見てしまうと放っておけなくなるのじゃ”
そしてウチを見て……優しく微笑むと
“明久がお主のためにバカ正直に頑張っているのを見て”
“お主が明久と一緒に居るために一生懸命なところを見て”
“明久のひたむきな優しさと、お主の一途な思いやりから目が離せなくなって……”
それって、ウチとアキのどっちを……
ううん、どっちか片方でも両方でも一緒よね。
二人とも木下の気持ちには……答えられないもの。
“明久とお主が付き合うのは羨ましいとか妬ましいと言うより、素直に嬉しいんじゃ”
“お主ら二人になら……ワシが気になる二人を任せられるのでな”
木下は、子供の召喚獣の方に視線を移して――
“今なら、まだ泣くほど辛くは……少しだけ、心が痛むくらいで済みそうじゃからのう”
また子供の召喚獣ではない、何か別の物を見ているような表情をしている。
そして……
“ワシは何も言っておらぬし、お主も何も聞いておらん”
“ワシが勝手に思っただけじゃからな。決して気にするでないぞ”
いきなり、そんな事を言われて……じゃない、伝えられて気にするなって――
“んむ?お主が気に病む事ではないのじゃが……ならば、お願いを聞いてはもらえぬか”
お願い?
“今まで女子と付き合った事のない明久が、お主と付き合うようになったのじゃから……”
木下は可愛い顔を真剣な表情にして両手をグッと握り締めると
“ワシの事をきちんと男として見てくれるようにしてもらえぬか”
そうね。ウチもそう願っているわ。
だって……
アキが木下と仲良くやっているところを見せつけられて
アキに酷い事をしたくないもの。
“そうならないように……お主と明久がうまくいく様に陰ながら応援するとしよう”
そんな風に思われちゃうと……判ったわ。
木下の為って言うのもあるけど……
ウチもアキもその方がきっと幸せになるわよね。
アキの木下への見方を変えてみせるっ!
“そうか……ワシに何が出来るかは判らぬが協力させてもらうからのう”
木下は安心したのか、表情を和らげた。
でも木下がウチらのことを……これ以上考えても結果は変わらないわよね。
“そうじゃな。ワシは伝えたい事は伝えたからのう。後は……”
ウチも……
木下がウチとアキの事を応援したいって思ってくれてるのが嬉しくて……
そして遊んでいたアキと瑞希の子供の召喚獣と
ウチと木下の子供の召喚獣がこちらを見て……
―― 明久side ――
僕と姫路さんの子供の召喚獣が、美波と秀吉の子供の召喚獣と
楽しそうに遊んでいるのを見ていると……
“私……明久君にどうしても伝えたい事が二つ、あるんです”
伝えたい事?
姫路さんが胸の前で両手を組んで見上げるように僕を見ている。
気のせいか、頬が少し赤いような?
“はい。振り分け試験の時、倒れた私のために先生に怒ってくれました”
あれは……
先生の態度がどうしても許せなくて、つい……
“こんな私のために一生懸命になってくれる人が居るって言うのがすごく嬉しかったんです”
姫路さんに見つめられると……
美波が近くに居るけど、なんか照れちゃうな。
“それで同じクラスになってから、試召戦争も私のために坂本君にお願いしてくれて”
確かに姫路さんの身体が心配で雄二にお願いもしたし
試召戦争も頑張ってきたつもりだけど……
僕は自分に出来る事をやっただけで姫路さんの方こそ、すごく頑張っていたよね。
“それでも……明久君が私のために頑張ってくれたって言うのがすごく嬉しいんです”
姫路さんが……屈託のない笑顔で僕を見上げて
“そのお礼と……そして二つ目は、今だから伝えられるんですけど”
今だから?……去年だと言えない事ってなんだろう?
“ふふっ、違いますよ。恥ずかしくて声に出せないような事でも今なら考えるだけで伝えられるから……”
一瞬……
ほんの一瞬だけど……
姫路さんの笑顔がすごく眩しくて……
美波に告白された時のようにドキッとして見蕩れてしまった。
“私の初恋って明久君だったんです”
「――――ええっ!?」
いきなり姫路さんにそんな事を言われた……じゃない、思われたので
ビックリして声が出ちゃったよ。
――――ん?
何か……突き刺さるような痛い視線を感じる。
……って、美波が物凄い顔で僕を睨んでいるんだけどっ!?
すると秀吉が美波の注意を引いてくれたみたいだ。
でも後で美波に絶対何か言われるな……
僕が美波に何を言われるか考えていると
“そんなに美波ちゃんの事が気になるんですか?”
姫路さんが何か探るような顔で僕を見ていた。
いけない。今は姫路さんと話し……ては、いないな。
何を伝えられたんだっけ?
えっと……ええっ!?
“そんなに驚いてくれるんですか?”
姫路さんはすごく嬉しそうな顔で僕を見ている。
いきなり初恋の相手が僕だったなんて教えられたら……
――――どんなに記憶力の悪い僕でも覚えている。
僕は昔、一人の頑張り屋の女の子が……すごく気になっていた事を。
“それって……ひょっとして私の事……”
――たぶん。
いや、きっと僕も初恋の相手は姫路さんだったと思う。
いつも一生懸命に取り組んでて頑張っている姿を見ていたら……
僕に出来る事、何か手伝える事を探して一緒に居たかった。
でも……
僕と姫路さんは、その後学校はずっと一緒でも一度も同じクラスになる事は無く……
姫路さんが頬を染めて少し潤んだような目で僕を見上げている。
“やっと伝えられて……そして昔の明久君も同じ様に想ってくれてたなんて嬉しいです”
また、思わず見蕩れるほどの眩しい笑顔を見せてくれる姫路さん。
その笑顔を見ていると……
――何故か、申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。
二年になったばかりの頃……
姫路さんと、また同じクラスになった時だったら、きっとすごく嬉しかったと思う。
でも、今は……
“ふふっ。判ってます”
姫路さんは笑顔を崩すことなく僕を見て……
“今、私の初恋の話をしたのは……昔の自分の願いを聞いてあげたかったからなんです”
“あの時の私は勇気がなくて……いじめられやすかったのを明久君に助けてもらって”
“そのお礼を言う事も出来ずにクラスが別々になっちゃって……”
そして優しく微笑みながら
“先ほどの伝えたい事が二つあるっていうのは……”
“今の私と昔の私……二人分のお礼を言いたかったんです”
姫路さんは笑顔のままなんだけど……
――手はギュッと握り締めている。
“いつも私のため……誰かのために一生懸命な明久君に本当に幸せになって欲しくて……”
“でも、明久君を幸せにしてあげられるのが私じゃなくて美波ちゃんなんだって……”
そして僕の方を見ている姫路さんは笑いながら少し涙ぐんで
“それが判った時、二人を応援してあげなきゃって……”
姫路さんが僕と美波の事を……
何故か、その気持ちに申し訳ない気がして……
でも僕が好きだった幼馴染の女の子がそんな風に思ってくれているのが嬉しくて……
そして姫路さんが……
“今まで私のために……”
――――すると
今まで遊んでいたはずの美波と秀吉の子供の召喚獣と
僕と姫路さんの子供の召喚獣が……
僕と姫路さん、美波と秀吉の四人の方を見て
にっこり微笑むと口を揃えて
《《 ありがとう 》》