僕とウチと恋路っ!   作:mam

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1月19日(木)


僕らと清水さんたちと帰り道

――放課後。

 

 

 清水さんと平賀君の二人だけだと間が持てないからと言う事で

 僕と美波も一緒に帰る事に。そして校門の前の長い下り坂を……

 

 

「みっ、美春っ!なんでウチと手を繋いでるのよっ!?」

「お姉さまと手を繋いでいると心の底から安心出来るからです」

 嬉しそうな清水さんと嫌がる美波が手を繋いでいて

 僕と平賀君は後ろから二人を見ながら歩いている。

 

「ウチはアキと手を繋ぎたいのにっ!美春は平賀と手を繋げば良いじゃない」

「それならクズ野郎が平賀君と手を繋げば良いのでは?」

 美波が繋いでいる手をブンブン振って振り解こうとしているんだけど

 清水さんが美波の手の動きに合わせて一緒になって振っているから外せないみたいだ。

 そして僕の横を歩いている平賀君は、そんな二人を楽しそうに見ている。

 

「平賀、随分と嬉しそうね?」

 繋いでいる手をなかなか振り解けなくてイライラしているのか

 美波が今にも吠え出しそうな顔で僕らの方へ振り返る。

 

「いや、清水さんに元気が出たみたいで嬉しくて……最近の清水さんは、すぐ顔を赤くして何処か行っちゃうから、まだ風邪が治りきってないのかなって心配だったからさ」

「そっ、それはその……」

 平賀君が嬉しそうに話しかけると清水さんは少し頬を染めて俯いた。

 その隙に繋いでいる手を外す事に成功した美波は

 僕と平賀君の後ろに回り込み、平賀君の背中を軽く押す。

 

「ほら、美春は平賀と話したいんでしょ」

 美波はそう言って平賀君が居なくなって空いた僕の隣へ。

 そして僕と手を繋ごうとすると……

 

 

――清水さんは俯いたまま、僕の後ろへ回り込んだ。

 

 

 僕の背中をドンと勢いよく押したので、僕は前を歩いている平賀君の隣へ。

 清水さんは美波の隣へ行き、美波が差し出そうとしていた手を取ってまた繋いでいる。

 結局、前後が入れ替わっただけで隣に居る相手は元に戻ってしまった。

 

「お姉さま……いきなりあんな事をされても美春はまだ心の準備が出来ていません」

「美春っ!何、誤解を招くような事言ってるのよっ!?」

 美波も清水さんも顔を赤くして手を繋いでいるので……

 

 通りすがっていった帰宅途中の生徒たちが

 

『百合だわ』『百合ね』『……(ポッ)』

 

――などといった様々な反応を見せながら歩いていった。

 

 

 そして僕と平賀君が並んで、美波たちを見ながら立ち尽くしているのを見ると

 

『あの二人ってさっき噂になってた……』『吉井君って島田さんだけじゃなくて……』

『……(ポッ)』

 

――などといった散々な反応をしながら通りすがっていった。

 

 ポッと顔を赤くして僕らをガン見しながら行った女子は……

 さっき僕がDクラスに監禁された時、玉野さんと一緒にフリフリの服を

 僕に無理矢理着せていた女の子じゃないか。

 

 平賀君はその女の子(クラスメイト)と『じゃあな』『頑張ってね』などと挨拶を交わしていた。

 その『頑張ってね』は、ひょっとして僕との事なんだろうか?

 

 平賀君は挨拶を終えると、ため息を吐きながら僕を見て

 

「吉井との変な噂を無かった事にするには……どうしたら良いんだろうな」

「簡単です。そこのクズ野郎がこの世から居なくなれば噂もなくなります」

 清水さんと平賀君が不穏な会話をしながら僕を見ている。

 

「美波もなんとか言ってよ」

 僕が美波に助けを求めようとして振り向くと……あれ?

 

「そう言えばお昼休みが終わってから、アンタが平賀と付き合うとか言う噂を聞いたんだけど、一体どういうこと?」

 口の端が引きつっている美波の笑顔が怖い。

 

「そっ、その件に関しましては、僕もどうしてそうなったのか知りたいくらいで……」

「まぁ、その事は良いとして――ちょっと話があるの。こっちに来なさい」

 と、言いながら美波は待つ気が全く無いらしく僕の方へやってくる。

 怖い笑顔で近付いて来る美波を見ていると、どうみても無事に済むとは思えない。

 

 

――ので、僕は逃げ出した。

 

 

「ちょっと、アキっ!何処行くのよっ!?」

 僕を追いかけて来る美波と、その後ろから美波を追いかけてくる清水さん。

 さらに後ろから清水さんを追いかけてくる平賀君。

 

 さっき僕らを見て色々な反応を見せていた生徒たちを追い抜いていく。

 

『痴話ゲンカ?』『浮気がバレたのね』『……アキちゃん、頑張って』

 

 

――最後に掛けられた声が一番応えた。

 

 

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

 

 

 僕は駅前の広場まで来て何処か隠れる場所でも……と、思って周りを見ていると

 すぐに美波が僕の目の前にやってきた。

 

 そして美波がスッと僕の方へ手を出してきたので

 来るべき衝撃に備えて目を瞑って覚悟を決めた。

 

 しかし……

 

 いつまで経っても衝撃らしき物が来ないので恐る恐る目を開けると……

 走ってきたからか顔を赤くして肩で息をしながら美波は僕のマフラーを緩めてくれている。

 

「アキ、もういいわよ。ここまで来れば……ほら、マフラーをしていると暑いし息苦しいでしょ」

 そう言いながら僕の首からマフラーを外して……

 さっきの怖い笑顔が嘘みたいに、僕の目の前には頬を仄かに染めた優しい笑顔の美波が居た。

 

「えっと……ここまで来ればってどういう事なの?」

「美春と平賀にゆっくり話をさせてあげたいって思っていたんだけど、あの坂道だと結構知り合いも通るじゃない?」

 美波は自分のマフラーを外しながら話を続ける。

 

「だから早く坂道(あそこ)から離れたかったのよ。それでさっさと行こうって言おうと思ったらアキが逃げ出しちゃうんだもの」

「なんだ、そんな事か」

 てっきり美波が噂を信じてお仕置きされるのかと思っちゃったよ。

 僕がホッと胸を撫で下ろしながら深呼吸をしていると

 

「何よ、そんな事って?」

「いや、美波が僕と平賀君の変な噂を信じちゃって腕の一本や二本、折られるのかと」

 僕がそう言うと美波は微笑み

 

「バカね。ウチはアキが浮気なんてするわけないって信じてるもの」

 そう言ってくれる美波の笑顔を見ていると……

 ちゃんと確かめないで逃げ出しちゃった自分が恥ずかしくて情けなくて

 胸が締め付けられるように苦しくなってくる。

 僕はまた美波を信じてあげられなくて間違いを……。

 

 美波は頬を仄かに染めたまま僕をジッと見上げている。

 僕はもう美波を疑うような事はしないって決めたじゃないか。

 美波のこの笑顔に誓って絶対に逃げないし

 美波が望む事なら何でもしてあげたい。

 

 僕がそんな事を考えながら美波の笑顔に見蕩れていると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、もしアキが浮気したら腕の一本や二本で済ませる訳ないじゃない。手足の五、六本ヘシ折ってやるんだから」

 

 

 屈託のない笑顔で死の宣告をする美波。

 どうやら僕の両手両足だけじゃ気が済まないらしい。

 そもそも五本目と六本目って何っ!?

 治してからまた折るつもりなんだろうか。

 

 僕が美波の笑顔に怯えていると……

 

 

「はぁっ、はぁっ……やっと追いつきました……はぁっ…はぁっ…」

 清水さんが肩で息をしながらやってきた。

 

 そして清水さんが顔を下に向けて荒い呼吸をしていると平賀君もやってきた。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……おっ、お前ら…足がっ……はぁっ、はぁっ、速すぎだろ…」

 清水さんの隣で平賀君も膝に手を当てながら下を向いて呼吸をしている。

 

「そうかな?」「そう?」

 僕と美波が顔を見合わせて

 

「「これくらい、うちのクラスだと普通(だよね)(よね)」」

 

 常日頃、追う者と追われる者で命のやり取りが日常茶飯事となっているFクラス。

 この程度で()を上げていたら生きてはいけない。

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

 清水さんもだいぶ落ち着いてきたみたいだけど、平賀君がまだ肩で息をしているので

 平賀君の息が整うまでしばらく待つ事に。

 

 そして清水さんが僕と美波を見ながら

 

「そう言えば、お姉さまはクズ野郎といつもどのようなお話をしているのですか?」

「いつもって……特に気にした事無いわね」

「普通に話しているよね」

 僕と美波が首を傾げながら考えていると……

 

「学校の中での会話は大体盗ちょ……いえ、なんでもありません」

「美春っ!今『盗聴』って言おうとしてたでしょっ!?」

 あからさまに視線を逸らす清水さんに美波が掴みかかっていると

 だいぶ落ち着いた感じになった平賀君がグッと小さく手を握り締めて話しかけてきた。

 

「清水さん。もし良かったらなんだけど……今度の日曜に何処か行かないか?」

「「ええっ!?」」

 まさか平賀君がいきなりそんな事を言ってくるなんて想像もしていなかったんだろう。

 清水さんはビックリしている。

 

 そして一緒に驚いている僕は……

 

「アンタが誘われてるんじゃないのになんで驚いているのよっ!?」

「痛ぁっ!?」

 口を尖らせた美波に頬を抓られている。

 

 清水さんは顔を真っ赤にして俯いちゃってるよ。

 美波は僕の頬から手を離すと優しく清水さんの肩に手を置いて

 

「美春も平賀にお礼したかったんでしょ?良い機会じゃない」

「それはそうなのですが……あの、平賀君。お姉さまが一緒でも良いですか?」

「島田さんも?」

「はい。美春一人だと心細いので是非お姉さまも一緒に」

「清水さんがそこまで言うなら……吉井も来るのか?」

 チラッと僕の方を見る平賀君。

 僕としては他人(ひと)のデートの邪魔をしたくないんだけど……

 僕がどうしようか考えていると

 

 

――ガシィッ。

 

 

「もちろんアキも行くに決まってるじゃない。ねぇ、アキ」

 にっこりと微笑む美波の手が僕の頚椎を押さえている。

 そして小声で

 

(もし断るなら六本目を今ヘシ折るわよ?)

 どうやら六本目は首の骨らしい。

 五本目って何処の骨なんだろう……と考えながら返事をする。

 

「是非僕も一緒に行かせてください」

「まぁ、お前らならこの前も付いて来てもらったし、それほど恥ずかしくないから良いか」

「じゃあ何処に行くか、ゆっくり出来るところでお話しましょ」

 美波が清水さんと平賀君を見ながら提案をする。

 

「では、美春の家に来ますか?すぐそこですし、何か飲みながらお話出来ますし」

 清水さんがそう言って指差した方向には『ラ・ペディス』と書かれた看板がある。

 

「お姉さまに口移しで飲ませてもらいながらお話したいです」

「清水さん。口移しで飲んでいたら喋れないよ?」

「アキっ!突っ込むのはそこじゃないでしょっ!?」

「心配しないでください。うちには売るほど飲み物があるのでお姉さまの好きな物で良いです」

「美春っ!ウチはそんな事を心配してるんじゃないわよっ!?」

 

 ここからだと、すぐそばなのでみんなで歩き出す。

 そして清水さんが入り口のドアの前に立ち

 

「お父さんがうるさくてあまりゆっくり出来ないかもしれませんけど」

 清水さんがそう言ってドアを開けると……

 

 

――カランコロン

 

 軽快なドアベルの音と。

 

 

『娘を(たぶら)かすのはキサマらかぁ――っ!!』

 

 豪快な狂戦士(バーサーカー)の叫び声が開けられたドアから発せられる。

 

 

『あなたっ!』

 そして清水さんのお母さんらしき声がして

 何かが飛ぶ音とぶつかる音と怒号と悲鳴が聞こえてきて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――清水さんはドアをそっと閉めた。

 

 

 

「ごめんなさい。今日はこれくらいにしましょう。今度の日曜のお姉さまとのデート、楽しみにしてます」

 

 そう言って清水さんはお店の裏手の方に走っていった。

 清水さんは平賀君じゃなくて美波とデートするつもりなんだろうか。

 

 

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