僕とウチと恋路っ!   作:mam

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僕とウチと奇妙な三角関係part06

 

 

--カランコロン

 

「いらっしゃいませ」

 美波が応対しているお客様は三人か。

 お冷を三つとメニューを用意して、と。

 あ、補助の椅子も置いとくかな……この辺に置いてっと。

 席に案内したみたいだな……よし、行くか。

 

「僕がお冷持っていくから美波は少し座って休んでてよ。椅子置いといたから」

「ウチは大丈夫よ」

「無理しない方が良いよ、先はまだ長いんだし」

「そう?悪いわね。じゃあ、お言葉に甘える事にするわ」

「うん」

 

 美波が案内していたお客様の所について……

 

「お冷お持ちしました」

 テーブルの上にお冷を置いて

「こちらメニューになります。ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

 メニューを渡してお辞儀をして戻る。

 

「ありがと。アキも少し休んだら?」

「大丈夫だよ」

「ウチのひざの上に座る?」

「どっ、どうしたのっ!?」

「前に玲さんに抱っこされてすごく気持ち良さそうにしてたからウチもやってみたくなったのよ」

「あれは忘れて……」

 そんな話を美波としていると……

 

「一人ずつで悪いけど、島田さんか吉井君、お昼にしてください」

 キッチンの方から清水さんのお母さんが声を掛けてくれた。

 

「美波、先に行ってきてよ。僕は後で良いから」

「ありがと。ちゃっちゃと食べてくるわね」

「ゆっくりしてきていいからね」

 美波が奥の方へ行くと、先ほどのお客様から、お呼びがかかった。

 

「ごチュッ!」

 『頑張って』の注文が、また三個増えた。

 

 そして今のお客様から普通にもらった注文を持っていって戻ってくると

 さっき美波が座っていた補助の椅子に清水さんが座っていた。

 

「そう言えば、こうやって貴方と二人っきりになる事は、あまりありませんでしたね」

「そうだね」

 たしか僕が美波の事を『魅力的な女の子』と言った時くらいだったかな。

 

「一つ聞きたい事があるのですが良いですか?」

「うん」

「貴方はお姉さまのどこに惹かれているのですか」

「それは……ちょっと恥ずかしいんだけど」

「無理にとは言いません。聞いたところで貴方を抹殺するのには変わりませんから」

 何をやっても僕は殺されるのか……

 

「美波って面倒見が良くて、すごく優しくて、いつも一生懸命頑張ってて……」

「お姉さまの外見とかじゃないんですか」

「もちろん可愛いし、スタイルも良いし……僕なんかじゃ全然釣り合わないと思うけど」

「それが判ってて何故お姉さまの傍に居るんですか」

 気のせいか今の清水さんには、いつもの殺気が感じられない。

 でも手に持っているアイスピックが少し気になる。

 

「美波が僕の事を好きって言ってくれた。そして何があっても僕の事を信じてくれるって」

「……」

「だから僕も何があっても美波の事を信じてる……誰よりも一番近くで美波の笑顔を見ていたい」

 

 

「清水さんもそうじゃないのかな?」

「美春が、ですか?」

「うん、美波って人一倍面倒見が良くて優しいからさ。ついつい頼っちゃうんだよね」

 この間の連休中に会った診療所の時もそうだけど

 家が喫茶店だから両親にもあまり相手をしてもらえずに

 清水さんは、たぶん自分の家でも一人で居る事が多くて

 学校でも誰かと一緒に居るのってあまり見ないし……

 そんな清水さんを美波も放っておけないんだと思う。

 

「それは貴方の考えすぎです」

 そう言って清水さんはそっぽを向いて会話が終わってしまった。

 

 

----キッチン

 

(貴方、吉井君にすごく大切に想われているのね)

(アキったら、こっちまで聞こえてるのに……でもアキの方がウチよりもずっとずっと優しいんです)

(そうなの?)

(はい。ウチが日本に来て一人ぼっちだった頃、ウチが何度怒っても友達になろうって言ってくれて……)

(吉井君って結構一途なのね。貴方の事がよほど気になったんでしょうね)

(そっ、そうなのかな?ウチの方こそ、アキの優しさに励まされてばっかりです)

 

 ……しばらくすると美波が戻ってきて

 

「アキ、先に頂いたわ」

「清水さんは?」

「美春は貴方の次で良いです。お先にどうぞ」

「そっか、ありがとう。じゃあ、遠慮なく」

 キッチンの方へ行き、食事をしていると……後ろの方から

 

「さぁ、お姉さま。邪魔者は居なくなりました。美春と思う存分抱き合いましょう」

「ちょっ、ちょっと美春!?こんなところ、誰かに見られたらお店潰れちゃうかもしれないのよ?」

「そうしたら美春はお姉さまのおうちに居候させてください」

「だっ、ダメよっ!ウチはアキと一緒に住みたいのっ!?」

 

 ブバァッ

 

 みっ、美波、なんて事言うんだっ!?

 

「あら?お口に合わなかったかしら?」

 清水さんのお母さんが申し訳無さそうに……

 

「いえ、すいません。すごく美味しいんですが……美波がすごい事を言ってたもので」

 …………あれ?ここって美波と清水さんの会話が良く聞こえるな?

 僕が首を(かし)げながら御飯を食べていると

 

「さっきの吉井君と美春の会話も全部聞こえてるわよ」

 そうすると、さっきの清水さんとの会話が全部聞かれたっ!?

 うわぁ……すごく恥ずかしい。

 

「あらあら、耳まで真っ赤よ?」

 くすくす笑いながら僕の顔を見る清水さんのお母さん。

「吉井君の想いを聞いた時の島田さん、すごく嬉しそうだったわよ」

「そっ、そうですか……」

 恥ずかしくて下を向いて御飯を食べるしか出来ない。

 

「あの子が友達を家に連れてきたのは貴方達が初めてなんですよ」

「そうなんですか?」

 初めて連れてきた男の友達が女装している事は、お母さんは気にしないのだろうか。

 

「美春がどうやって貴方達を今日ここに連れて来たのか判りませんが、きっと貴方達と一緒に居たかったんでしょうね」

「そうでしょうか……」

「ええ。今日はいつもより楽しそうに仕事してますから」

 清水さんのお母さんと話をしながら御飯を食べ終えた。

 

「美味しかったです。ご馳走様でした」

「お粗末様でした」

 僕が清水さんと交代するために美波と清水さんの方に向かおうとした時

 

「これからも、美春と仲良くしてあげてくださいね。よろしくお願いします」

「はい」

 清水さんと仲良くなるのが目的だけど、気を許すと殺すって言われてるしなぁ……

 

「清水さん、ありがとう。お先に頂いたよ」

「美春が居ないからと言ってお姉さまとイチャイチャしていたら今日の貴方の写真をばら撒きますからね」

「ええっ?いつのまに写真撮ったのっ!?」

「それが嫌なら大人しくしている事です」

 そう言ってキッチンの方へ行ってしまった。

 

「美春っ!貴方まだそんな事してるのっ!」

「お母さん」

「せっかく来てくれてる友達に失礼でしょっ!」

「で、でも……」

「謝ってきなさい。さもないと、またお灸を据えるわよ?」

「は、はい……」

 清水さんが僕と美波の前に来て……

 

「……ごめんなさい」

 頭を下げる清水さん。

 そしてキッチンの方へ行き……

 

「美春。吉井君と島田さんの写真は全部没収しますからね」

「ええっ……お姉さまのだけは許してくださいっ」

「だめです」

 良かった……今日の僕のウェイトレス姿は流出されなくて済みそうだ。

 でも美波の写真は欲しかったな。

 

 清水さんの食事が終わってしばらくすると……

 

「すまないけどコーヒーのおかわりもらえるかな?」

「はい。(かしこ)まりました」

 久保君から、コーヒーのおかわりの注文をもらった。

 伝票に書いてある数が正と丁で次で8杯目か。

 ここはファミレスみたいに飲み放題じゃないからコーヒー代だけで

 久保君が買おうか悩んでいた参考書が何冊か買えるのではないだろうか。

 

 久保君の席へ行き、ポットからコーヒーを注いでいると

 

「ちょっと聞きたいんだけど……良いかな?」

「なんでしょうか?」

「吉井君は悩んだ時に、そのまま言うのとずっと黙ってるのとどっちが良いと思う?」

「?やっぱり勇気を出して言った方が良いと思うけど……」

 何が欲しいか言わないと参考書買えないと思うんだけど?

「やっぱり勇気を出さないとダメか……」

 勇気を出すって……ひょっとして久保君も僕と同じような参考書(エロ本)を買う気になったのかな?

 

「そうだね。僕は勇気を出して言わないと何も買えないと思うよ」

「そうか…勇気を出せば性別なんて些細な事は気にならないか」

 僕が持ってるのと同じような参考書(エロ本)は性別を気にしたほうが良いんじゃないかなっ!?

 

「ほらっ、アキっ!向こうでお客様が呼んでるわよ?」

「あ、ごめん……久保君、悪いけど、そう言う訳だから僕もう行くね」

「ああ、引き止めてすまなかったね」

 そう言って席を離れる時、久保君に背中を向けると寒気がするのは何でだろう?

 

 

--カランコロン

 

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「おう。二人だ……って、お前吉井か!?そんな格好で何やってるんだ!?」

 やってきたお客様が僕の姿を見て驚いている。

 そう言えばこの二人組、見覚えがあるような無いような……

 坊主頭……ソフトモヒカン……二人組……頭にブラジャー……ゴスロリ……ポエム……

 うわぁ……気持ち悪い物を思い出してしまった。

 

「えっと……豚骨コンビの変態先輩でしたっけ?」

「それ、人の名前じゃねぇ!今はお前の方が変態じゃねぇか!」

常村(つねむら)夏川(なつかわ)だ!お前は一体どういう記憶力してるんだっ!?」

 そういえば、二人合わせて常夏コンビだったっけ。

 最初の『と』と最後の『つ』が合ってただけでも感謝して欲しいくらいだ。

 

「失礼致しました。お席へご案内します」

「本当に失礼だぞ……」

 相手は変態でも一応お客様。きちんと頭を下げて席まで案内する。

 二人の変態を席へ案内する途中、すれ違おうとした美波が

 くるっと向きを変えて逃げるように離れていった。

 そして二人にお冷とメニューを出して戻ってくると

 

「アキっ!ウチ今日きっと怖くて寝れそうに無いからずっと一緒に居てくれるっ!?」

 ガタガタ震えながら僕に抱きついてくる美波。

 そう言えば肝試しの時、ゴスロリ仕様の坊主先輩を見て

 『夢に出て寝れそうに無い』って言ってたしなぁ。

 これはこれで嬉しいんだけど……

 

「お姉さまっ!今すぐ豚野郎から離れてくださいっ!」

 声の方向には手に持ってるポットから出てる湯気より、頭から湯気の出てる清水さんが居た。

 

「美春は今から、この熱湯が入ったポットを持っている手がすべる予定なのです」

 そんな予定は組まないで欲しい。

 

『おい、注文いいか?』

 あ、変態のお客様からお呼びがかかった。

 

「ごめん、美波。後でいくらでも付き合ってあげるから。僕、注文聞いてくるね」

「ほんとっ?約束だからねっ!」

 美波が、ぱぁっと笑顔になって僕を放してくれた。

 

「お姉さま。怖くて寝れないのなら美春が寝なくても良いようにしてあげますっ!」

「ちょっと美春っ!?アンタは別の意味で怖いから結構よっ!」

 後ろから、そんなやり取りが聞こえた。

 

「ところで先輩達はどうしてこんな所に?」

「俺らは大学に願書取りに行ってたんだよ」

「だから落ちるとか滑るとか言うなよ?」

「それは難しいですね。先輩のギャグはいつも滑ってばっかりですよ?」

「俺たちゃお前に一度もギャグを言った事はねぇっ!!」

 いつも可愛い後輩である僕を笑わそうとして

 変な事を言ってると思ってたのはギャグじゃなかったんだ。

 

「いいから注文を取れよ」

「あ、はい。ご注文をどうぞ」

「俺はブレンドとチョコレートパフェ」

 坊主先輩の注文をメモに書いて……コーヒーはいいとしても

 

「パフェって顔じゃないですね」

「大きなお世話だっ!じゃぁ俺の顔だと何になるんだよっ!?」

「え~っと、たこ焼き?」

「お前っ!それ俺の顔と髪形で決めてるだろっ!?」

 見た目で何かって聞いてきたくせに……

 

「俺はアイスコーヒーと……秀吉で」

 ソフトモヒカン先輩の注文をメモに書いて……秀吉っ!?

 

「あのお客様。本日は秀吉は切らしておりますが?」

 例え秀吉が居たとしても先輩の前には絶対に出しませんよ?

「お前が居るから秀吉も居るかと期待したんだが……居ないならアイスコーヒーだけでいい」

「はい。(かしこ)まりました。少々お待ちください」

 秀吉を出したら何をする気だったんだろうか。

 

 そしてその後は特に問題となるお客様も来なくて無事に僕たちのバイトは終了した。

 結局久保君はあの後から更に2杯、コーヒーをおかわりして帰っていった。

 

 僕と美波が着替え終わって……

 

「清水さん今日はありがとう。面白かったよ」

「美春、今日はありがとうね。楽しかったわ」

「豚野郎はとっとと帰ってもらって結構ですが……」

 そう言えば清水さんとは仲良くなれたのだろうか?

 そんな気が全然しないんだけどな。

 

「お姉さまは、この後美春と一緒にお風呂に入って今日の疲れを癒しましょう」

 美波と清水さんのお風呂……

 

「アキっ!アンタ、何を想像して鼻血出してるのよっ!?」

「くっ!美春の裸だけならまだしもお姉さまの裸まで想像しましたねっ!?」

 美波がハンカチを、清水さんが包丁を手に持って僕に迫ってくる。

 仲良くなれたかどうかは判らないけど

 殺すつもりがあるのだけは変わらないってのが判った。

 

「あら、賑やかで楽しそうね」

 清水さんのお母さんが封筒を手に持ってやってきた。

「吉井君と島田さん、今日は本当にありがとう。これ少ないけど……」

 そう言って手に持っていた封筒を僕と美波にそれぞれ渡してくれた。

 

「「ありがとうございます」」

 美波と一緒に御礼を言って……

 

「あの、せっかくなんですが……僕たち今日は友達として来たので」

「ウチらの給料は半分で良いです」

 そう言って僕がもらった封筒を返す。

 

「でも……」

「次来る時はちゃんと頂きますので」

「よかったら、また呼んでください」

 美波と一緒にぺこりと頭を下げる。

 

「そうですか……今日はすごく助かったわ。今度は普通に友達として遊びに来てね」

「はい、今日はありがとうございました」

「楽しかったです。ありがとうございました」

「ほら、美春も」

 お母さんに促されて

 

「今日はお疲れ様でした」

 清水さんは、そう言って僕と美波を交互に見て……

 

「美春が居ない時はお姉さまの隣に貴方が居ても気にしない事にします」

 少しは認めてくれたのかな?

「でも美春が来た時はお姉さまの隣から涙を流しながら走り去ってください」

 清水さんと友達としての仲が前に進んだのか後ろに下がったのか良く判らない。

 

「また頼むかもしれません。その時は女装しなくても良いです」

「そっか、ありがとう」

「じゃあ、そろそろ失礼します」

 僕たちは喫茶店を後にした。

 

 

 

 美波を家まで送っていく途中……

 

「そう言えば、アキ?さっき、ウチにずっと付き合ってくれるって言ってたわよね?」

「そっ、そうだっけ?」

 そんなこと言った気がしなくもないけど……

 

「言ったのよっ!また頭を振って思い出させてあげましょうか?」

 僕の頭を両手で掴んで来た。

 美波の力で頭を振られたら記憶を取り戻すより、脳みそがビックリして記憶を無くす気がする。

 

「わぁ、言ったよ……だけど、今日はもう遅いよ?」

 バイトは午後8時までやってたから、もうそろそろ9時になる頃だろう。

 

「判ってるわよ。本当ならアキをお持ち帰りしたいところだけど我慢してあげるわ」

「ありがとう……なのかな?」

「今日、アキが美春と仲良くしてるの我慢してあげたんだから」

 何回か清水さんの殺意が見え隠れしてたんだけど……あれでも仲良く見えたんだろうか。

 

「明日はウチと仲良くしてくれるのよね?」

 腕に抱きついてきて頬を染めて見上げるように僕を見ている美波。

 

「う、うん」

「ありがと……明日が楽しみね」

「僕も楽しみだよ。でも何処に行こうか?」

「ウチはアキと、こうしていれるなら何処でも良いわよ」

 ぎゅっと僕の腕を抱き締めてくる。

 

 美波の家の前に着いた時……

 

「じゃあ、また明日連絡するよ」

「うん、なるべく早くしてね?少しでも長く一緒に居たいから……じゃあねっ!」

 そう言って美波は走っていった。

 

 明日は休みだけど早起きしないとね。

 

 

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