僕とウチとある日曜の午前part01
「…………アキ……」
「……ん…」
誰かに呼ばれてる気が……
「……アキ……」
……ゆさゆさ
誰かが僕を揺すってる?
「……ねぇ、アキ……起きて…」
ぼうっとする視界の中に……美波の顔が見える。
確か今日は……日曜だったよね。
美波とは昨日ちゃんと別れて家に帰ったから、僕の家に居る訳が無い。
…………と言う事は、これは夢なのか。
それなら……
「美波ぃ」
起きて美波を抱き締める。
「きゃっ……あっ、アキ?」
ほら、これは夢だよ……布団から出てるのにこんなに暖かい。
「あんまり一緒に居れなくてごめんね。ずっと……このまま離れたくない」
「あ、アキ……ウチも、このままで……」
夢の中でもやっぱり美波は優しいな……ずっとこうしていれれば……
「はい、アキくん。そこまでです」
何で僕の夢の中なのに姉さんが出てくるの?
しかもすごく怒ってるように見える。
「もぅ、姉さん。夢の中まで僕の邪魔をしな……」
……ぷちゅっ
いきなり視界が暗転し、その後……目に激痛が襲ってきた。
「アキくん、目が覚めましたか?」
「覚めるべき目が痛くて開けられないんだけどっ!?」
優しく起こせとは言わないけど、痛くない起こし方をして欲しい。
手探りでベッドの上に腰を掛けると隣から美波の声が聞こえてきて
「アキ、大丈夫?」
心配そうに僕の涙を拭いてくれる。
「ありがとう。でも美波がなんで僕の部屋に居るの?」
今日は起きてすぐに美波に会えるなんて……
目潰しはされたけど、きっと良い一日になるだろう。
「アキに早く会いたくて……それに約束したじゃない?」
「約束?」
「うん。今度アキの家に遊びに行ったら全部燃やすって」
何を燃やすんだろう?
「アキくん。正直に答えてくださいね」
「なに、姉さん?」
まだ目が開けられないので姉さんがどんな表情をしているのか判らない。
「アキくんの隠してある大事な参考書なんですが」
えっ!?……そう言えば、前に美波が言ってたのは僕の
「6冊は見つけたのですが後は隠してないですね?」
「あれ?僕が持ってたのは4冊だけだけど……」
「アキって本当に正直だから大好きよ」
そう言って僕の頬を優しく撫でてくれる。
「そうですか。アキくん、ごめんなさい。本当は3冊しか見つけていないのですが……」
「後1冊は何処にあるのかしら?」
頬を撫でながら聞いてくる美波。
僕の頬を撫でている手に力が篭って来ているのがわかる。
僕は、目潰しのせいじゃない涙を流しながら枕カバーを外して、最後の……
大切な
「うう……朝から酷いよ……」
いきなり起き掛けに大切な
せっかく朝から美波に会えて嬉しかったのに……
どう考えてもロクな一週間になる気がしない。
「アキくんが、きちんと年齢制限を守らないのがいけないのですよ」
「姉さんは厳しすぎるよ」
「当たり前です。姉であると同時に保護者でもあるんですから」
「そうよ、アキ。玲さんが居なかったらハメを外しすぎるじゃない」
慣れた手つきでフレンチトーストを作っている美波。
僕が朝御飯を作ろうと思ってたんだけど、美波がどうしても作らせて欲しいと言うので……
でも、じっとしてるのも落ち着かないな。
「ねぇ、美波?何か手伝わせて欲しいんだけど……」
「大丈夫よ。もうすぐ出来るから、ちょっと待っててね」
テーブルの上を見ると、僕と姉さんと美波の分の三枚のお皿があり
それぞれのお皿にスクランブルエッグとソーセージと彩りにプチトマトを加えたサラダが乗ってて
……あれ?僕が朝食用に買ってあった食材だと
このメニューで使ってるのは卵しかなかったはずだけど……
「ひょっとして美波が買い物もしてきてくれたの?」
「そうよ。昨日の夜、玲さんに電話して朝食を作らせて欲しいってお願いしたの」
「美波さんが是非にと言われるのでお言葉に甘えました」
「アキが起きるの待ってたら午前中会えないかもしれないじゃない」
「う……そうかもしれない」
僕と話をしながらも美波は手を動かしていて
「お待たせ。さぁ、食べましょ」
美波が三人分のトーストを持ってテーブルへ……
「「「いただきます」」」
「玲さん、ウチの料理おかしくないですか?」
「アキくんのと違った味付けがしてあって、これも美味しいですね」
「ありがとうございます。アキの方が料理うまいから、お口に合わないかと心配でした」
「美波の料理は美味しくて安心して食べられるよね」
時々激辛料理が混じるけど……この間買ってた激辛の食材がいつ使われるか心配だ。
「朝早くから、美味しい朝食を御馳走して頂いて本当にありがとうございます」
「そうだね。美波、ありがとう」
「アキにまで改まって言われると……照れるじゃない」
サラダに乗ってるプチトマトみたいに顔を赤くして俯いてしまった。
「ところで美波さん。このお料理の御礼と言う訳ではないのですが」
そう言って姉さんがチケットらしき物をテーブルの上に置く。
「頂き物で申し訳ないのですが映画の鑑賞券があるので良かったらアキくんと行ってみませんか?」
「ウチが頂いちゃって良いんですか?」
「はい。美波さんが行かれないなら私がアキくんに可愛い格好をさせて連れて行こうと思っていたのですが」
可愛い格好って、どんな格好をさせるつもりだったんだろう?
まさかスカートって事は無いよね……
「ありがとうございます。喜んで頂きます……じゃあ、アキ?今日行かない?」
「うん、いいよ」
美波と映画か。何の映画か判らないけどホラーじゃなければ僕の身体も大丈夫だろう。
「どういたしまして。アキくんも最近はお説教ばかりだったので少し羽を伸ばしてきてください」
「ありがとう。姉さん」
「でもお説教されるのはアキくんにも問題があるんですよ。節度を持った行動をお願いします」
「はい。気をつけます」
姉さんはいつも僕の事をちゃんと見てるからなぁ……ちょっと見過ぎの気がしなくもないけど。
「ちなみに姉さん。万が一だけど、もし美波とキスしたら、僕どうなるの?」
美波なら腕を組むまでは許してもらえてるけど
その先に進んだ場合……もう三回ほど進んじゃってるんだけど。
美波も興味津々といった感じで姉さんの顔を見ている。
「そうですね。頬までなら姉さんとチュウで許してあげます」
ちょっと釣り合わない気がするんだけど……なんで美波が頬で姉さんが唇なのっ!?
「ちなみに他の人だと……男性以外では一族郎党、皆殺しです」
「いやそれ、姉さんも死んじゃうから……って、男なら良いのっ!?」
何で僕の周りには性別の違いをおかしな捉え方でしている人が多いのだろう。
美波は姉さんと目を合わせないように顔を伏せたまま食べていた。
「「「ごちそうさまでした」」」
「じゃあ、洗い物は僕がするね。美波はゆっくりしてて」
「ウチがするわよ。鍋とか、ウチが使ったんだし」
「せめてこれだけは僕にやらせてよ。お客様にそこまでやってもらう訳にもいかないし」
今の僕に出来るのは洗い物くらいしか、ないしなぁ。
「じゃあじゃあ……ウチ傍に居ても良い?」
「いいけど……美波は朝早くから働いてるんだから少しゆっくりしたら?」
「今日はアキと一緒に居たいの……ダメ?」
僕の袖を引っ張りながら上目遣いに僕を見上げてる美波。
そんないじらしい美波の頼みを断れるわけ無いじゃないか。
「じゃあ、僕の隣に居てくれるかな」
「うんっ」
満面の笑みで返事をしてくれて
「早く終わらせて一緒に遊びに行こうね?ウチも手伝うから」
「そうだね」
さっさと洗い物を終わらせよう。
洗い物を終わらせた後、美波と出掛ける支度を済ませて
リビングに居る姉さんに声を掛ける。
「じゃあ、姉さん。僕、出掛けてくるね」
「あまり遅くならない様にしてくださいね」
「うん」
「玲さん。映画の券、ありがとうございます」
「こちらこそ朝食ご馳走様でした。あとアキくんをよろしくお願いしますね」
「はい。ウチがしっかり見張ってますので安心してください」
僕は別に脱走しないけど……美波がずっと傍に居てくれるのは嬉しい。
「「いってきます」」
「いってらっしゃい」
姉さんに見送られて美波と家を出た。
駅の方に向かう途中……
「ところで何ていう映画なの?」
「えっと……この前、話題になってた恋愛映画ね」
美波がチケットを出して見せてくれた。
姉さんは恋愛映画を実の弟に可愛い格好をさせて一緒に見に行くつもりだったのか。
美波と一緒に見に行けて本当に良かった。
「アキは、その……誰かと二人っきりで映画を見に行った事あるの?」
何かを探るような目で僕の顔を見ている美波。
「昔一度だけ姉さんに連れられて行った事あるけど……」
ああっ!姉さんが言ってた可愛い格好って……
その時、頭にリボン付けられてスカートはかされて行ったんだっけ。
危なかった……もし美波が行ってくれなかったら、またあの格好させられてたかも!?
僕がそんな事を思い出していると……
「大丈夫?」
美波が不安そうな表情で僕を見ている。
多分僕が不安な顔をしちゃってるんだろうな。
「ごめんね。ちょっと昔の事を思い出してて」
「アキ、心配しないで……」
僕の手をぎゅっと握り締めてきてくれた。
「ありがとう」
「ウチはずっとアキの隣に居るから」
そう言って繋いでる僕の手を頬擦りしてくれる。
この手をずっと繋いでいたいな。