僕とウチとテスト勉強part01
休み明けの登校は特に眠いな。
あくびをしながら歩いて校門までの長い上り坂に差し掛かったところで
「アキっ!」
少し離れたところから元気な声が……美波かな?
声のした方を見ると元気に走ってくる美波の姿が見えた。
「おはよう、美波」
「アキ、おはよう」
美波が僕の隣に並んで歩き出す。
「アキは学校行く時、いつも眠そうね?」
「昨日はちょっと調べ物をしてたから……」
「何を調べていたの?」
「今度の祝日にみんなにご馳走しようって言ったよね?」
「うん」
「それで何を作ろうか調べていたんだよ」
「アンタね……そんな時間があったら勉強しなさいよ」
美波が心配そうな顔で僕を見ている。
「そうなんだけど……」
机に向かうと、ついつい……他の事をしたくなるのは何でだろう?
「ウチも一緒に作るんだからね?忘れないでよ」
「うん。よろしくね」
「アキと一緒に何かをするのって楽しいから好きよ」
そう言って僕と手を繋いでくれる。
温かくて柔らかい手だな……と、思っていると
「危ないっ!お姉さまっ!」
「アキっ!」
「うひゃぁ」
美波が繋いでいる手で僕を引っ張る。
すると僕が居た場所に“ブォン”という風切り音がして……
後ろを見ると傘を構えた清水さんが居た。
「美春っ!危ないじゃないっ!アキに当たったら、どうするのよっ!?」
「当てるつもりだったのですが……さすがお姉さま。美春の動きに気付くとは……」
「そうだよ、清水さん。危ないお姉さまって美波は全然危なくないよ?」
「アンタは黙ってなさいっ!」
繋いでいる手が普通だと曲がらない方向へ捻られる。
今、僕は危なくないって言ったばっかりなのにっ!?
「痛ぁぁ。みっ、美波?」
「お姉さま、そのまま抑えていてください」
そういうと清水さんは構えた傘を僕めがけて突き出してきた。
“ガシィ”という音がして……美波が、持っている傘で清水さんの傘を弾いていた。
僕と繋いでいた手を外すと清水さんをビシッと指差し
「美春っ!これ以上アキに何かするならウチも本気で怒るわよっ!?」
「ですが、お姉さま……」
「ウチは誰にも邪魔されずにアキの傍にずっと居たいの」
と言って、僕の腕に自分の腕を絡めてくる。
「もしアキに何かあったら、美春の事を許さないわよっ!」
「くっ……わかりました。今日のところは引き下がりましょう」
出来れば、ずっと引き下がって欲しい。
「でも、いつかきっと美春の良さも判ってもらいます」
そう言い残して清水さんは走り去って行った。
朝からすごい疲れるなぁ。
「ありがとう、美波」
「美春にも困ったわね。この前の一件で少しはアキと仲良くなったと思っていたのに」
全く……これだと、ただ僕が女装してウェイトレスをやっただけになっちゃうなぁ。
「でも美波も傘を持っていてくれて助かったよ」
「そう言えばアキは傘を持ってきてないの?今日の天気予報で午後から大雨って言ってたのに」
「えっ、そうなの?」
言われてみれば、さっきの清水さんの攻撃も傘だった。
周りを歩いているみんなも手には傘を持っている。
そして何故か、僕と美波を見ると足早に行ってしまうか、顔を少し赤くしている。
「今日の天気予報見てこなかったの?」
「うん。さっきも言ったけど寝るの遅かったから起きたのぎりぎりでテレビ見てないし」
まぁ傘が無くても走って帰ってすぐシャワーでも浴びれば風邪も引かないだろう。
鞄は置いて帰っても家で勉強する分には問題ないはず……たぶん、そんなに長くやらないから。
「もぅ、風邪引いたらどうするのよ」
「大丈夫だよ。僕は滅多に風邪引かないから」
「この前、風邪引いてたのは誰だったかしら?」
「……ごめんなさい。美波には大変お世話になりました」
「もぅ、あんな心配をするのは嫌よ?」
ぎゅっと僕の腕を抱き締めてくる。
「ごめんね。面倒だけじゃなくて心配まで掛けちゃって……」
「判ってくれれば良いのよ」
そして、もう一つ判った事がある。
何でみんなが僕たちを見て逃げるように去っていくのかを……
「吉井ぃぃぃっ、貴様っ!性懲りも無く朝っぱらからイチャイチャとっ!」
「神聖なる学園内で腕を組むなど言語道断っ!」
「大人しく我々の恨みを……じゃない、裁きを受けろっ!」
いつものように黒装束のクラスメートが現れた。
「美波、ごめんね。僕、もう行かなくちゃ」
「なんか、かっこよく言ってるけど……アンタたちホント飽きないわね」
やれやれ、と言った感じで美波が僕の鞄を預かってくれる。
「じゃあ、教室で待ってるわよ」
「うん、また後で」
僕が走り出すと、追いかけてくる黒装束のクラスメート達。
しばらく校庭を走り回って校内に……
そろそろホームルームが始まるから教室に行かないと。
階段を駆け上がってFクラスに向かう廊下に鉄人の姿が……
こんなので遅刻にされたら、すごく悔しいので走って鉄人を追い抜くと
「こらぁ!吉井とその他大勢っ!廊下は走るなと何度も注意してるだろっ!」
何でいつも僕が最初に怒られるのっ!?
そして、この黒い格好の奴等が僕を追いかけて来るのは何も言わないのっ!?
色々と言いたい事はあるけど、ここはおとなしく……
「すいません、鉄人。気を付けます」
「鉄人ではない。先生と呼べといつも言ってるだろう」
“ゴンッ”と出席簿で頭を叩かれた。
--お昼休み
「今日も朝から酷い目にあったよ」
「アキも毎朝大変ね」
そんな話をしながら、いつものように美波とお弁当のおかずを交換していると
「あの……私もおかずを交換しても良いですか?」
おずおずと姫路さんがお弁当を差し出してきた。
「ええ、もちろん良いわよ」
美波も自分のお弁当を差し出している。
一応確認しておかないと……
「今日の姫路さんのお弁当はお母さんが作ったの?」
「いえ、今日は私が作りました」
ビクゥッ
一瞬固まる僕と雄二とムッツリーニと秀吉の四人の必殺料理処理班。
御飯以外は、きっと地雷と言うより核ミサイルくらいの破壊力があるだろう。
姫路さんのお弁当箱の中が世紀末の荒野の様に見える。
そんな僕たちの思惑に気付かずに
美波が姫路さんのお弁当から唐揚げを取り
今、まさに口へ運ぼうとしていた。
「美波っ!それは僕がっ!」
美波が……僕の大切な美波が死ぬくらいならっ!
僕の叫びで美波が一瞬動きが止まり
僕は美波から唐揚げを取り、それを口へ……
「明久……お前、それほどまでに島田の事を……」
「…………男らしい」
「明久の勇姿、忘れぬぞ」
男二人と秀吉が涙を流している……僕、まだ死んでないからねっ!?
「ちょっとアキっ!お行儀悪いわよ?後、アンタたちもなんで涙流してるのよ?」
美波に怒られたけど……良いんだ、美波が僕の分まで生きてくれれば……
もぐもぐ……もぐもぐ……
来たるべき衝撃に身構えているけど……全然来ないな?
むしろ普通に漬け込んであるタレの味が鶏肉にあってて美味しい。
「明久君、美味しいですか?」
「うん、すごく美味しいよ」
「そうですか」
満面の笑みの姫路さん。
いつのまにこんなに料理がうまくなったのだろう。
「明久。何ともないのか?」
「うん、漬け込んであるタレの味が効いててすごく美味しかったよ」
「もう、アキったらウチの分だったのに……代わりにアキのおかずもらっちゃうからねっ」
美波が僕のお弁当からおかずを持っていく。
「あ、姫路さんもどうぞ」
姫路さんにお弁当を差し出す。
「ありがとうございます。それでは失礼しますね」
姫路さんは、僕のお弁当からおかずを一つ取るとそのまま口へ。
それを食べ終わるのを見計らって
「姫路さん、料理が大分上手になってるみたいなんだけど……」
「そう言われるとちょっと複雑ですが……最近はレシピ通りに作っているんです」
少し困ったような笑顔を見せて話してくれる姫路さん。
「ちょっと前までは明久君に元気になってもらおうと思って色々アレンジを加えていたんですが」
うん、そのアレンジのせいで僕たちは何度死に掛けた事か。
「最近は基本に返ろうと思って、なるべくレシピ通りに作るようにしています」
なるほど。元々素直な姫路さんだから本当に忠実にレシピ通りに作っているのか。
「やっぱり料理も勉強も基本が大事ですね」
「そうだね」
僕が、うんうんと頷いていると
「前までの瑞希の料理をアキが気に入っていたら……ひょっとしてアキも瑞希にイチコロだったのかな」
美波がすごく寂しそうに僕の方を見てそう言った。
気に入る前に本当に命がイチコロだったので、それは無いけど……
とりあえず、そこについては後でフォローしておこう。
「なんだ、明久が悪かったのか」
「…………とばっちり」
「そのせいでわしらは何度死線を彷徨った事か……」
男二人と秀吉の恨めしそうな視線が痛かった。
お昼御飯を食べ終えて
「そう言えば来週から期末テスト始まるよね」
「そうだな」
「またテストの出題範囲の勉強を教えて欲しいんだけど……」
「なんだ、またか」
「うん」
「今度は台形の面積の求め方に
「(上辺+底辺)×(高さ)=(台形の面積)!いい加減、僕をバカ扱いするのはやめてっ!」
「よしよし。良く出来たぞ、明久。後は最後に、二で割る事を覚えたら台形の面積は出せるからな?」
………………
「ちょっと、アキっ!?アンタ本当に大丈夫なんでしょうね」
「だっ、大丈夫だよ。今のはちょっと勢いで答えただけで」
「あっ、あの明久君?私で良かったら……美波ちゃんも一緒にお勉強しませんか」
「ありがとう、姫路さん」
「瑞希、いつもごめんね」
「良いんですよ。二人の力になれるのは嬉しいですし」
姫路さんは、そう言って微笑んでくれている。
いつもお世話になっちゃって申し訳ないなぁ。
「あ、そうだ。今度の祝日にみんなをうちに招待したいんだけど」
「何か、お祝いでもあるんですか?」
姫路さんが首を傾けながら質問をしてきた。
「そう言う訳じゃないけど、いつもみんなにお世話になってるし、その後勉強も教えてもらおうと思ってさ」
「アキもウチも、いつもみんなにお世話になってるからね」
「そういうことなら是非お邪魔させてもらおうかのぅ」
「…………行かせてもらう」
「なんだ、新婚生活の予行練習に遊びに来いって事か」
ニヤニヤとした顔の雄二。
くっ、貴様の料理だけタバスコを大量に混入してやる。
「……それなら雄二も私と一緒にみんなを招待するべき」
「うわっ!翔子っ!?」
いきなり雄二の後ろから霧島さんが現れた。
「翔子も来てくれるわよね?」
「……うん、雄二と二人でお邪魔させてもらう」
「ありがとう、霧島さん」
「愛子にも声を掛けておいてね」
「……判った」
こくん、と頷く霧島さん。そして……
「……じゃあ、今度の土曜は私と雄二でみんなを招待する」
「ちょっと待てっ!俺は一言も……」
「……一言も?」
ガシッと雄二にアイアンクローが極まっている。
「…………一言も反対する気は無い」
「……良かった。夫の了承が出て」
「誰が夫だっ!?」
「……雄二が照れると私まで照れる」
ポッと頬を染める霧島さん。
「今の会話の何処に照れる要素があるんだっ!?」
「……私は雄二が傍に居るだけでドキドキする」
「奇遇だな。俺も翔子が傍に居るだけでいつも心臓が止まりそうになる……物理的にな」
「……雄二。そんなに私の事を……」
「俺が言ってるのは違うからなっ!?」
とりあえず雄二はほっといて……
「じゃあ、今度の土曜は霧島さんの家にお邪魔しても良いのかな?」
「……うん」
「ありがとう。だいぶ勉強できそうね」
「そうだね」
「じゃあ、明後日は僕の家で、土曜は霧島さんの家で勉強会だね」
「みんなもよろしくね」
「「「うん」」」
「うぎゃぁぁぁぁ」
結局、雄二は残りの昼休みの間、ずっとぐったりしていた。