……ガチャ
「ただいまー」
ドアを開けるとリビングの電気が廊下に漏れている。
きっと姉さんが居るんだろう。
「おかえりなさい。遅くまで大変ですね」
リビングから姉さんがエプロンをつけて出てきた。
珍しく夕飯でも作っていたのかな?
「う、うん……今日は姉さんが夕飯を作ってくれたの?」
「いえ、アキくんとちょっと新婚さんごっこでもしてリラックスしてもらおうかと」
優しくにっこりと微笑む姉さん。
前にも似たような事があって、あの時は減点されてたけど
今回は減点される事もないはずだし……よしっ。姉さんのごっご遊びに付き合うかな。
「鞄を預かりますね」
「ありがとう。はい、鞄」
前回は亭主関白を装ったから今回は優しい旦那を演技してみよう。
「はい」
姉さんは鞄を両手でしっかりと抱えるように受け取ってくれた。
「あー、疲れた。今日は何か変わった事は無かった?」
「お疲れ様でした。今日は特に無かったですよ」
リビングへと続く廊下を歩きながら、そんな会話をする。
そしてリビングに着くと……
「まずは口移しで食事にしますか?それとも私が背中を流すお風呂にしますか?」
あれ?普通の食事とお風呂は何処に行ったの?
「それとも、お帰りなさいのチュウをしますか?」
姉さんは、そう言うと目を瞑って妙な雰囲気を作って近付いてくる。
おかしい。まともな選択肢が一個もない。
「わわっ、ちょっ、ちょっと待って、姉さん」
「どうしたのですか?」
近付くのをやめて不満気に僕を見ている姉さん。
「僕、夕飯すぐ作らないとっ。姉さんもお腹空いてるでしょ?」
「そうですね」
「じゃあ、すぐ着替えて作るから、その場で動かないで待っててね」
僕は自分の部屋に戻って素早く着替えをしてキッチンへ……
そして何を作るか考えるために冷蔵庫の中を見ていると姉さんがキッチンへやってきて
「アキくん。エプロンをしますか?」
姉さんが、今まで自分がしていたエプロンを僕に渡してくれた。
「ありがとう」
そして僕がそのままエプロンをつけようとすると
「アキくん、違います」
姉さんに止められた。
「何、姉さん?」
「エプロンだけを身に着けるのですよ」
「ええっ!なっ、何言ってるのっ!?」
男子高校生の裸エプロンなんて誰が見たいのさっ!?
「男の子は裸エプロンなるものに大変興味があるって聞きました」
「違うっ!好きだからって自分がなりたい訳じゃないからねっ!?そこはかなり大事な所だから間違えないでっ!」
「ではアキくんは姉さんの裸エプロン姿が見たかったのですか」
「いえ。全く見たくありません」
「…………」
「あっ!痛っ!姉さ……っ!いきなりビンタするなんて……っ!」
両側の頬を腫らせながら夕飯を作った。
夕飯も終わり後片付けをして、お風呂に入ってリビングに行くと
姉さんはテレビでニュースを見ていた。
「姉さん、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「なんですか?」
テレビの音量を控えめにして姉さんが僕の方を見る。
「明後日なんだけど、雄二たちを招待してお昼をご馳走しようと思うんだ」
「アキくんが料理を作るのですか?」
「うん。僕と美波で作ろうと思ってるんだけど」
「そうですか。それで私は何をすれば良いのですか」
「出来れば、その後みんなに勉強を教えてもらえると助かるんだけど……」
「明後日でしたら仕事はお休みですから大丈夫ですね」
「ありがとう」
常識は全く無いけど勉強はすごく出来る姉さんに教えてもらえれば成績も上がるだろう。
「それと、もう一個お願いしても良いかな?」
「アキくんは欲張りですね。なんですか?」
「今から少し勉強を見て欲しいんだけど」
「珍しいですね。アキくんから言ってくるなんて」
「そうかな?でも来週から期末試験が始まるから少しでも勉強していた方が良いかなと思ってさ」
「来週ですか」
「うん」
「いつも言ってますが慌てて勉強しても身に付きません」
「ごめんなさい」
「まぁ今は勉強する気が起きたのだけでも良しとしましょう」
「ありがとう」
僕が勉強道具を取りに部屋に行こうとした時、いきなり姉さんが質問をしてきた。
「アキくん。なんでいきなり勉強をする気になったんですか?」
「うん。美波と一緒に……って、なんでもないっ!ちゃんと学校を卒業するためだよっ!」
僕は慌ててその場を離れて自分の部屋に行き
勉強道具を持ってリビングへ戻り……
日付が変わるまで姉さんに勉強を見てもらった。
珍しく姉さんが変な事を何もしてこなかった上に機嫌が良さそうだった。
いつもこうだと助かるんだけどなぁ。
--次の日
「アキっ!おはよう」
「おはよう、美波」
後ろから元気に挨拶をされて振り返ると笑顔の美波がいた。
そして僕の隣に並んで二人一緒に歩き出す。
「明日の材料の買い物はいつするの?」
「今日の学校の帰りに行こうと思ってたんだけど……美波も一緒に来てくれるかな?」
「もちろんよ。付いて来るなって言っても付いて行くからねっ」
僕と手を繋いでくる……いつもの温かくて柔らかい手だな。
「そう言えばウチ、今日は日直だったの。アキも付き合ってくれる?」
「うん、いいけど……って、美波っ!?」
僕の返事を最後まで聞かずに手を繋いだまま美波が走り出す。
とにかく繋いでいる手を離したくないから頑張って走らないと……
最近、朝は学校に着いてから走っている気がする。
--お昼休み
今日は、いつもの6人と霧島さんと工藤さんを合わせて全部で8人で卓袱台を囲んでいる。
「明久。明日は何時にお前の家に行けば良いんだ?」
鎖でぐるぐる巻きにされている雄二が僕に質問をしてきた。
何でお昼休みに鎖でぐるぐる巻きにされているのか僕が質問したい。
「だいたい12時くらいかな?」
「御昼御飯に相伴させてもらえるのは嬉しいのぅ」
「また吉井君と美波ちゃんの料理を御馳走してくれるんだね」
「…………楽しみ」
「あ、あの……私もお手伝いしましょうか?」
おずおずと姫路さんが手を上げてくれた。
「瑞希、ありがとう。でも今回はアキとウチでみんなに御馳走してあげたいのよ」
「そうなんですか?」
「うん。この間、二人でちょっとバイトして臨時収入があったからさ」
「駅前の喫茶店かな?」
なんで工藤さんがそれを知ってるのっ!?
「そうだけど……なんで愛子が知ってるの?」
「えへへ……実は久保君から聞いたんだ」
「ははぁ……先週の清水の話って、それの事だったのか」
手が使えない雄二は、お弁当を霧島さんにあーんされながら会話に混ざってきた。
なるほど、雄二が手を使えないようにするのと逃げ出さないようにぐるぐる巻きにされているのか。
「そうよ、坂本。何か悪い?」
「いや別に悪くは無いが……あそこでまたバイトするとは明久も懲りてないな」
鎖でぐるぐる巻き状態の雄二の方がよっぽど懲りてないと思うんだけど。
「しっ、仕方ないじゃないか。お父さんが居なくて清水さんの家が大変そうだったから……」
「清水の父上がどうかしたのかの?」
「検査入院で週末居なかったらしいから手伝いに行ってたのよ」
「普段あんな事をされていながら手伝いに行ったのか」
「ほんとよね。アキのお人好しにも程があるわよ……でも、そこもアキのいいところなんだけど」
美波が
「はいはい、ご馳走さんっと」
ニヤニヤした顔の雄二。
くっ、コイツに何か仕返しを……そう思っていると霧島さんが
「……雄二。もっと食べないとダメ」
「むがぁっ。今のは、そういう意味じゃないっ!」
霧島さんが雄二の口におかずを突っ込んでいる。
霧島さんありがとう。
「それでね?ボクが久保君から聞いた話だと二人ともウェイトレスだったって聞いたんだけどホント?」
うわぁぁぁぁぁ、久保君なんて事をっ!?
すると、それまで静かだったムッツリーニがいきなり僕の肩を掴んで
「…………写真はっ!?」
何で、この男はこういう時だけ物凄く反応するんだ?
「もっ、もちろんある訳無いじゃないか」
「…………何故っ、写真で残さないっ!?」
ムッツリーニがすごく落ち込んでしまった。
「ちょっと土屋っ!アキはウチの物よっ!絶対に渡さないわっ!」
美波が、落ち込んでいるムッツリーニから僕を引き剥がすと
両手で僕を抱き締めて『う~』って威嚇するように小さく唸り声を上げている。
「あはは。やっぱりみんなは面白いねぇ」
「いつも賑やかで楽しそうです」
「そうかのぅ。たんに落ち着きが無いだけだと思うのじゃが……」
可愛い女の子三人が思い思いの感想を言っている。
「ところで明久。たしかお前の家で勉強すると言ってたが何の科目をするつもりなんだ?」
「姉さんに勉強教えてもらうようにお願いしてあるんだけど……何が良いかな?」
「明久の姉貴か。それなら英語が良いんじゃないか?」
「そうかな?じゃあ英語で」
「ちょっとアンタ、そんな簡単に……たしかに玲さんの英語は判りやすくて良いけど」
そんな事を言っている美波が、僕の両手ごと抱き締めてくれているのでお弁当が食べられない。
「……雄二。あーん」
「翔子?そろそろ俺はお腹一杯だから、これを
「……ダメ。帰りも逃げないようにこのままにしておく」
「ばっ、バカ言うなっ!午後の授業もこのまま受けろと言うのかっ!?」
「……うん」
「まともに授業を受ける格好じゃないだろっ!」
「……大丈夫。授業が遅れた分、私が雄二に教えてあげる」
「代表?そろそろお昼休みが終わるから教室に戻らない?」
「……もぅそんな時間?じゃあ、雄二。また放課後に迎えに来る」
「
雄二がちょっとだけ可哀想だと思った。