「……雄二」
「なんだ?」
「……雄二もこれを着てくれる?」
「これって、なにをだ……って、メイド服じゃねぇかっ!?」
「……うん」
「バカを言うんじゃねぇ!俺のガタイで無理があるだろっ!?」
「……大丈夫。きっと似合う(ポッ)」
「地球上で勘違いしてるのはお前一人だけだっ!明久じゃあるまいし俺にはどう考えても似合わないだろ」
「……今度の招待で吉井も何か着ていたら雄二も着てくれる?」
「ちょっと待て。その手には乗らねぇぞ。明久があの姉貴と島田に何か言われて断れる訳が無いからな」
「……じゃあ、吉井の家の人が全員何か着ていたら雄二も着てくれる?」
「明久の姉貴と島田もか?島田は明久とペアルックだって喜ぶかもしれんが姉貴の方は何か着るとは思えないしな」
「……なら、約束してくれる?」
「ああ、良いだろう……ただし、メイド服じゃなくて執事の格好くらいならしてやろう」
「……それならタキシードにして欲しい」
「似たような格好だから別に良いが……何故だ?」
「……私はウェディングドレスを着るから(ポッ)」
「この前、着ただろうがっ!」
「……そのまま本当に式を挙げよう。きっとみんなも祝福してくれる」
「すまん……俺もメイド服を着るから我慢してくれ……」
「……じゃあ、猫耳も頭に付けて、語尾に『にゃん』をつけて欲しい」
「…………タキシードかメイド服か、どっちか選ばないとダメか?」
「……うん。おすすめはタキシードとウェディングドレス(ポッ)」
「それ両方とも俺が着るのか?」
「……それはいくら温厚な私でも許せない」
「うぎゃぁぁぁぁ。かっ、顔をつかむなっ!?」
「……雄二はどっちを着たいの?」
「メイド服とタキシードならタキシードしかないじゃねぇか」
「……わかった。じゃあ、雄二はタキシードと猫耳をつけて語尾に『にゃん』をつけて」
「なんで、そこを混ぜるんだっ!?」
「……子供に可愛いお父さんの姿を見せたいから。ねぇ、しょうゆ」
「普通はかっこいい姿じゃないのか……あと、その名前はやめろと何度も言ってるだろ」
「……雄二は、わがままさん」
「お前よりはマシだと思うんだがな……判った、猫耳まではつけてやるから語尾は勘弁してくれ」
「……本当?」
「ああ、そのかわり俺が執事の服で、お前がメイド服な」
「……判った。二人とも猫耳をつけて執事とメイド服の格好で結婚式を挙げる」
「…………お前、それ本気で言ってるのか」
「……私はいつでも雄二の事は本気」
「ごほっ、げほっ」
ピンポーン ピンポーン
みんな来たかな。
「葉月ちゃん。お出迎えしてくれるかな?」
「はいですっ」
葉月ちゃんはエプロンドレスに着替えて御機嫌な様子。
「今開けるですっ」
……ガチャ
「いらっしゃいですっ」
「おっ、ちびっ子。元気か」
「はいですっ」
「葉月ちゃん、すごく可愛いです」
「ありがとうですっ、綺麗なお姉ちゃん」
「じゃあ、ちびっ子。ここで立ち話もなんだから案内してくれるか」
「こちらへどうぞですっ」
「みなさん、ようこそいらっしゃいました」
姉さんがみんなに挨拶をしている。
僕と美波が料理を持ってリビングへ行くと……
「明久君っ、可愛いですっ!!」
目をキラキラさせて僕に今にも飛び掛らんとばかりに身構えている姫路さん。
一体何が彼女をそうさせているのだろう?
「明久よ。やっぱりおぬしの方が女装は似合うぞい」
にこにことした笑顔で秀吉が言ってるけど、100人に聞いたら絶対100人とも
秀吉の方が似合うと答えると思うんだけどな。
「吉井君と美波ちゃん、それに葉月ちゃんもすごく可愛いね。ボクびっくりしちゃったよ」
そんな事を言ってる工藤さんの方が僕より似合うと思うんだけどな。
「あ……明久……俺に何か恨みでもあるのか……」
ガックリとした表情の雄二が何か呟いている。
日ごろの恨みは今日の料理で味わわせてやるから楽しみにしておいて欲しい。
「……雄二。私嬉しい」
霧島さんは雄二と対照的に満面の笑みだ。
あれ?ムッツリーニの姿が見えないな?
パシャッパシャッパシャッパシャッ……
やたらと眩しい……あまりにも眩しいので目を細めて光っている方を見ると……
膝を床についてカメラを構えているムッツリーニの姿があった。基本はローアングルから撮るらしい。
友人の家に来て、いきなりその友人の写真を撮るのも、どうかと思う。
やはり、ここは友人として一言、言っておかないといけないだろう。
「ねぇ、ムッツリーニ?美波と葉月ちゃんの写真は全部買うよ」
「…………まいどあり」
目をキランと光らせて親指をグッと立てているムッツリーニ。
うんうん、僕も良い買い物が出来た……と、思っていたら
「アキっ!写真を撮るの注意するんじゃないのっ!?」
美波に右の頬を
(それになんでウチだけじゃなくて葉月のも買うのよっ!?)
小声で怒られた。
「アキくん。なんで姉さんの写真は買わないんですか?」
姉さんに左の頬を抓られた。
だって姉さんは毎日見てるし……
「…………三人とも目線をこっちへ」
僕たちに気兼ねする事無く写真を撮り続けるムッツリーニ。
いい加減止めるかな。
「ねぇ、ムッツリーニ?女の子が嫌がっているのに写真を撮るのは良くないと思うよ」
「…………誰が嫌がっている?」
「美波とか葉月ちゃんとか……」
「バカなお兄ちゃん?葉月は別に嫌じゃないですよ?」
首を傾げて、どうしてですか?と、聞かれた。葉月ちゃんはそんな事は気にしないらしい。
「美波は嫌だよね?」
葉月ちゃんは気にしないみたいなので美波に振ってみる。
「そうね。ウチも写真を撮られるのは気にしないけど、知らない人に見られるのは嫌かな」
「ほら、美波が嫌がってるからその写真は全部僕が貰うからね」
「……でもアキが欲しいって言うなら、ちょっと位は撮られても良いかなって……」
両手を少し赤く染まった頬に当ててもじもじする美波。
それじゃあ、僕がムッツリーニを説得してる意味が無いんじゃないかな?
女の子と言う点では姉さんはだいぶ無理がある気がするからスルーして……
「アキくん?何で姉さんの事は言ってくれないんですか」
「だって姉さんは女の子って言うにはちょっと年齢的に上じゃ……」
「姉さんだって、ぴちぴちの女の子です」
「その言い方で判って欲しいんだけど……じゃあ、聞くけど姉さんは写真を撮られたら嫌なの?」
「いいえ、全然気にしません」
「だったら言わないでくれるかなっ!?」
姉さんに関わると時間が無駄になる事が多い気がする。
「とにかく僕が嫌なんだから止めて欲しいんだけど……」
「…………明久は女じゃない」
「くっ……確かに僕は男だけど……この格好は女の子だし」
「…………じゃあ、最後に一枚撮るから笑って」
そう言うと近寄ってきて僕の顔のアップを撮った気がする。
これで終わりなら良いかな。
「……玲さん。これ、家から持って来た物ですけれど」
霧島さんが木箱を姉さんに渡している……何が入っているんだろう?
「あら、これはなんでしょうか」
「……お招きに預かったのでみんなで飲もうとシャンパンを持ってきました」
「「それはダメだっ!!」」
僕と雄二がハモってダメだしを……アルコールはヤバい。
姫路さんと霧島さんは、この前のトランプの時に僕と雄二は心に刻み込まれた傷がある。
そして姉さんは酔うと僕に絡んでくるし、おそらく美波は僕に攻撃する時のリミッターが外れるから
僕が何か美波の気に障ることを言ったりやったりしたら、また死んだおじいちゃんに会いに行く羽目に……
工藤さんは酔ったところを見たことが無いけど、この流れから行くとたぶん変な事をするだろう。
普段の言動から考えると絡み上戸とか脱ぎ上戸になるかもしれない。
…………それはそれで見たいかも?
「アキ?何か、いやらしい事を考えてるんじゃない?」
美波にまた頬を抓られた。
最近、僕に対する美波の洞察力が鋭くなって来た気がする。
「……大丈夫。これはノンアルコールだから」
霧島さんが僕と雄二が怯えているのを見て、何か察知したのだろう。
「本当だろうな?」
「……雄二は心配しすぎ。少しくらい飲んだって私は変わらない」
「そう思ってるのはお前と姫路だけだっ!」
「私がどうかしましたか?」
いきなり名前を呼ばれたので、きょとんとした表情で何事か尋ねてくる姫路さん。
普段の可愛らしい性格や外見からは想像もつかないくらい、しつこく絡まれる。
霧島さんも同じだ。姉さんもしつこく絡んでくるし……頭の良い人はみんなそうなんだろうか。
「わしらは一応未成年だしの。飲酒はマズいだろうて」
「…………(コクコク)」
「そうだね。アルコールが入ってないなら大丈夫だと思うけど」
「ありがたく頂きますね」
そう言って姉さんは霧島さんから木箱を受け取ると
「では、アキくんがみなさんに
僕は、その箱を手渡された。
「じゃあ、葉月ちゃんと美波でグラスの用意してくれるかな」
「はいですっ」「わかったわ」
二人がキッチンの方へグラスを取りに行き、僕はその後を追うようにして木箱を持って移動した。
リビングに元からあるテーブルと予備のテーブルの上に所狭しと料理が並べられ
みんなに渡したグラスの中には霧島さんから差し入れてもらったシャンパンが注がれている。
「「「「いただきまーす」」」」
みんなで手を合わせて楽しいお昼のひととき。
「これ、すごくおいしいですっ」
葉月ちゃんがグラスを両手に持って、にこにこと笑顔でシャンパンを飲んでいる。
「これ、ごぼうを揚げた物ですか?」
「うん。そこにあるディップをつけて食べてみて」
姫路さんに質問をされたので簡単に答える。
「美味しいですね。たらことマヨネーズでしょうか」
良かった、気に入ってもらえたみたいだ。
「このキッシュうまいのぅ」
「そうだね。ほうれん草にも味がついてて」
「…………(コクコク)」
「それはほうれん草を先にバターで炒めて……」
美波が作ったキッシュも大人気みたいだ。
「この鶏肉、中が柔らかくて皮がパリッと香ばしくて美味いな」
「……うん。かけてあるタレもピリッと辛くて美味しい」
「それは一回蒸してから表面に焦げ目がつくように焼いてあるんだ」
みんなも笑顔で食べてくれている。作った甲斐があるなぁ。
「僕、ちょっと追加の料理作ってくるね」
キッチンへ行き、手早くパスタを茹でてボロネーゼを作る。
みんなの分を皿に取り分けて、昨日買ったタバスコを取り出す。
そして少し多めに盛り付けた雄二の皿にタバスコ一瓶全部掛けた。
良く混ぜてっと……これを食べた雄二の顔を見るのが楽しみだ。
「ウチも手伝うわよ」
僕を心配してくれたのか、美波が手伝いに来てくれた。
「ありがとう。そっちの二皿は僕と美波の分だから最後に持って行けば良いかな」
「わかったわ」
美波もボロネーゼの乗ったお皿を持ってリビングへ……
二人で何回か往復してみんなの所に追加で作った料理が運ばれる。
間違えないようにちゃんとタバスコ入りのお皿は雄二の前にある。
「ほう、ボロネーゼか」
「うん、僕の自信作なんだ。食べてみてよ」
雄二が食べた感想をぜひ聞きたい……食べた後に答えられるものならば。
「……雄二は私が食べさせてあげる」
霧島さんが雄二の前にある皿からフォークにスパゲティを巻きつけて雄二の口元へ……
「俺は自分で食えるぞっ」
「……雄二が自分で食べられなくなってから食べさせてもらうほうが良い?」
「…………いや、ぜひ食べさせてもらおう」
素直に食べさせてもらえば良いのに。
「アキはウチが食べさせてあげるわね」
そう言って美波がフォークにスパゲティを巻きつけて僕の口元へ……
「ありがとう」
雄二がちゃんと食べたのを確認してから美波に食べさせてもらう。
もぐもぐ……
「「
僕と雄二がほぼ同時に
おかしい……確かに雄二の前にタバスコ入りのボロネーゼを置いた筈なのに。
その証拠に雄二は、かなり
だけど何故僕のも、こんなに辛いんだ?
「アキ、美味しい?」
美波がにこにこしながら聞いてくる。
僕の今の状態で美味しいと言うのは無理だと思うんだけど……
「ちょっ、ちょっと待って……なんで僕のこんな……」
僕が頭に『?』を浮かべながら噎せているのを見て
「あれ?アキ、タバスコが好きだったんじゃないの?」
「ごほっ……すっ、好きじゃないよっ」
「昨日たくさん買ってたから、てっきり好きなのかと思って……一瓶全部掛けてあげたの」
美波が笑顔で……くぅっ、可愛いから文句も言えない。
「明久っ、てめぇ、何て物を作りやがるっ!?」
「雄二に僕の心からのお礼を食べてもらおうと思って作ってあげたんだよっ」
僕のは不幸な事故だけどね。
「……雄二。あーん」
「しょっ、翔子。これは辛くて食えたもんじゃ……」
「……せっかく吉井と美波が作ってくれた物を残すのは良くない」
「明らかにこれは食わせる為に作った物じゃ……」
「……食べ物を粗末にするように育てた覚えは無い」
「俺はお前に育ててもらった覚えは……うぎゃぁぁぁ」
雄二の口に無理矢理詰め込んでいる霧島さん。
とりあえず目的は果たせたし良いかな。
「ほら、アキも……残したら葉月が真似するでしょ?」
「「「あーん」」」
あれ?葉月ちゃんと姉さんは昨日もやっていたから、まだ判るんだけど……
なんで姫路さんと工藤さんも僕にあーんをっ!?
それを見た美波が僕の口に詰め込めるだけ詰め込んできた。
なんか美波がちょっと不機嫌みたいだった。
結局、僕もタバスコ入りボロネーゼを完食させられた。
タバスコ一瓶は一度に食べる量ではないと言うのを
喉と口の中が染みて痛いほど判った。
デザートを食べ終えて僕と美波がお皿とか洗い物を終えて
メイド服を着替えてきてから、みんなで姉さんに勉強を見てもらった。
その間、葉月ちゃんはお腹が一杯になったからか、お昼寝をしていた。
そして陽が落ち始めた頃、解散となった。
美波の家まで二人を送っている途中……
「今日は大変だったわね」
「そうだね。でも二人とも手伝ってくれて本当にありがとう」
「葉月とっても楽しかったです。またバカなお兄ちゃんの家にお泊りに行っても良いですか?」
「うん。僕も楽しかったから、またいつでも遊びに来てね」
そう言って葉月ちゃんの頭を撫でると、んにゅ~と言って喜んでくれている。
「でも勝手に行ったらダメよ?お母さんもウチも心配するんだからね」
「じゃあ、今度はバカなお兄ちゃんが葉月たちの家にお泊りに来てくださいですっ」
僕の袖を引っ張りながら葉月ちゃんがお願いをしてくる。
「機会があったら、そうさせてもらうね」
「そうね。いつもアキの家にお邪魔させてもらってるし……今度はウチの家に挨拶に来て欲しいわね」
「挨拶って?」
「ちゃんとお父さんとお母さんにウチを……って、なんでもないっ」
美波が顔を真っ赤にして手をばたばたさせている。いきなりどうしたんだろう?
「変なお姉ちゃんです」
「そっ、それより、アキ。来週から期末テスト始まるんだから、ちゃんと勉強しなさいよ」
「うん、今度のテストはちゃんと頑張るから大丈夫だよ」
「じゃあ、テストが終わったら葉月と遊んでくれますかっ」
「また美波と三人で何処か行こうか」
「本当ですかっ!?葉月、嬉しいですっ」
「ふふっ。ウチも楽しみにしてるわよ」
「う、うん…あまり変なプレッシャー掛けないでね」
「バカなお兄ちゃん、ファイトですっ」
そう言うと葉月ちゃんは走り出してしまった。
「あ、葉月ちゃん。危ないよ」
「ホント、楽しみね……
「え?美波、何か言った?」
「ううん、何でもない……ほら、早く追いかけないと」
美波が僕の手を取って二人で葉月ちゃんを追いかけた。