僕とウチと恋路っ!   作:mam

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僕とウチとテスト勉強part10

 夕食の後、一休みしてまた勉強を再開する。

 今度は秀吉のたっての希望で僕たちと一緒に勉強をする事に。

 さすがに教わる人間が三人になると雄二一人だけだと大変なので

 霧島さんもこちらに来てくれた。

 向こうは美波と姫路さんと工藤さんの三人か。

 

「……でね、○▲×□の△●※■……」

「「ええっ」」

 工藤さんが何かを言って、それに二人が驚いているみたいなんだけど……

 何に驚いているんだろう?ここからだとハッキリ聞こえないな。

 

「おい、明久。ちゃんと集中しろ」

「あ、ごめん」

「……吉井。そんなにあっちが気になるの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

「仕方ねぇ。ちょっと休憩がてら風呂にするか」

「みんな、ごめん」

「……愛子たちに伝えてくる」

 霧島さんは工藤さんたちの方に行ってしまった。

 雄二は霧島さんがあっちに行ったのを確認すると小声で

 

(よし、お前らに話がある。部屋に行こう)

 

 

 そして部屋に着いて待つこと数分……雄二が僕たちに向かって

 

「さて、行くか」

「了解。覗きだね?」

「…………任せておけ」

「おぬしらは何処までバカなのじゃ……」

 秀吉が呆れ顔で僕たちを見ていたけど

 この面子の中で女子の裸に興味が無いのは同性の秀吉だけだろう。

 

「違うぞ、バカどもが。俺が行こうと言っているのは翔子の部屋だ」

「え?なんで?」

 あれ?まさか雄二が女子の裸に興味が無くなったとか?

 

「俺が何のためにあんな恥ずい思いをしてまで猫耳をつけて、お前らを待っていたと思うんだ?」

 そう言えば今日霧島さんの家に来た時、霧島さんは可愛いと思えたけど

 雄二には全然似合わない猫耳をつけていたな。

 

「全ては、この時のためだ……今日こそ、俺は自由を取り戻すんだっ!」

「自由って何さ?」

「翔子の部屋にある婚姻届だっ!あれをこの手に取り戻すためにお前らが来るのを待って居たんだ」

 確かガラス張りの中にあった奴か。

 でも、あれ一枚を取り戻しても雄二の立場は変わらないと思うんだけど……

 

「雄二よ。おぬしは霧島の家にはちょくちょく来ているのではないのかの?」

「ああ、ほぼ週一か二で来ているけどな」

「雄二専用の立派な部屋があるじゃないか」

「バカッ!あの部屋はな、中から開けられなくてトイレにも風呂にも行けやしねぇ」

 立派な鉄格子を付けてもらってるのになんて贅沢な事を言うんだ、この男は。

 

「…………なんで俺たちが来るのを待っていた?」

「俺一人で来ると気絶しているか、ぐるぐる巻きにされているかのどっちかなんだ。身動き一つ取れやしねぇ」

「なるほど。それでわしらと一緒に動ける今がチャンスと言うわけじゃな」

 秀吉があごに手を当てながら呟く。

 

「判ってもらえてなによりだ。それじゃ行くぞ」

「ちょっと待ってよ、雄二」

「何かあるのか?」

「僕とムッツリーニは覗きの方が大切なんだけど」

「(こくり)…………覗きが大事」

「本当にそう思うのか?」

 雄二が僕たちの方に向き直り、問い掛けてくる。

 

「うん」

「いいか明久、良く考えてみろ。俺とムッツリーニが島田の裸を見ても良いのか?」

 僕は答えるよりも早くチョキを雄二の目をめがけて差し出していた。

 

「うぉっ、あぶねぇ。何しやがるっ!?」

 雄二は、すんでのところで身体を反らし、かわしていた。

 ちぃっ、相変わらず反射神経の良い奴だ。

 

「良い訳ないだろっ!」

「それなら俺に協力しろ」

「判った、協力するよ」

 仕方が無い。ここは僕の欲望を抑えて美波を守ろう。

 

「あとムッツリーニ。お前も危険だぞ?」

「…………どうして?」

「覗きが成功したら、お前は出血多量で死ぬだろう」

「…………この俺が死を恐れるとでも?」

 無駄にかっこいい台詞だけど覗きをするんだよね……

 あ、美波をムッツリーニから守らないと。

 

「ムッツリーニ、覗きは良くないよ」

「待て、明久。その程度ではダメだ」

 雄二が僕を押しのけてムッツリーニに向き合い

 

「いいか、ムッツリーニ。強化合宿の時のババァの裸を『よく』思い出せ」

 やたらと『よく』を強調する言い方をする雄二。するとムッツリーニが……

 

「(ゴブァッ)…………なっ、なんてこと……を…」

 血を吐いて倒れてしまった。

 

「ふぅ、ここまではしたくなかったんだがな。仕方ない」

「何をしたのさ?」

「こいつの想像力は俺たちの想像を遥かに超える鮮明さを持っているはずだ。それを強調させただけだ」

 なるほど、きっとムッツリーニの頭の中ではババァの裸が3Dで見えていたに違いない。

 

「ムッツリーニ、僕たちに協力してくれる?」

「(こくり)…………うむ、覗きはよくない」

 まさかムッツリーニがこんな事を言うとは……よほどババァの裸が怖かったに違いない。

 

「わしに何か手伝える事はないかのぅ?」

「頼みたい事はあるんだが……良いのか?」

「良いも何もわしらは友達じゃろう。手伝える時は手伝いたいのじゃ」

「そうか、恩に着る」

「ありがとう、秀吉」

「何を今更……ただ、これが成功したら、おぬしらと一緒に風呂に入りたいのじゃ」

「ええっ!?まだ諦めてなかったの?」

「当たり前じゃ。おぬしらが、わしを男と認めるまで諦めんぞ」

 秀吉は可愛い顔に似合わず、かなり頑固だからなぁ。

 こうなったら意地でも引かないだろう。

 

「頼む、秀吉。今回だけは勘弁してくれ……明久とムッツリーニ、そして俺も命が惜しいんだ」

「何故じゃっ!?」

「ムッツリーニは秀吉の裸を見たら失血死するだろう」

「雄二と明久は大丈夫じゃろうが?」

「俺たちは島田と翔子に殺される」

「むぅ……たしかに、あやつらならやりかねん」

「判ってもらえてなによりだ」

「でも今回だけじゃからな?次は一緒に入ってもらうぞい」

 やっぱり秀吉は良い奴だなぁ。

 

「ああ、約束しよう。次は必ず明久と一緒に風呂に入れてやる」

「ちょっ、ちょっと、雄二っ!?何勝手に決めてるのさっ!」

「何か嫌なのか?」

「嫌って事は無いけど……」

「なら問題は無いな。見つかって処刑されるのは明久だけだからな」

「問題大有りだっ!このバカッ!!」

 やっぱり雄二は酷い奴だ。

 

「わしは何をすれば良いのじゃ?」

「とりあえず男風呂に入ってくれないか」

「なんじゃ、やっぱり一緒に入る気になったかの?」

「違う、男風呂を俺たちが使っていると思わせるだけで良い」

「雄二たちの声真似をしろと言うのじゃな」

「ああ、俺たちが風呂に居ると言う風に翔子たちに思わせて欲しいんだ」

「お安い御用じゃ」

 あれ?なにかを見落としている気がする。

 

「その間に俺たちは翔子の部屋に忍び込み、婚姻届を取り返す」

「判ったよ」

「…………了解」

「じゃあ、わしは風呂へ行くとするかの」

「よろしく頼む。それじゃあ、俺たちは翔子の部屋へ行くぞ」

 

 

 僕たちは霧島さんの部屋の前に来た。

 部屋のドアには鍵が掛かっていた。

 

「ムッツリーニ、いけるか?」

「…………30秒くれ」

 ドアに張り付く事30秒足らず……カチャ、と言う音がしてドアは開いた。

 相変わらずの手腕だ。きっと日々鍛錬しているんだろう。

 ……何処で鍛錬しているのかは聞かないでおこう。

 

 そして僕たち三人は部屋の中を進み、前回入った時に見つけた

 壁に埋め込まれた分厚いガラスの塊の先に……婚姻届があった。

 

「やっと……我が大願が成就する時が来たっ!」

 雄二はガラスの前で、そう言うとおもむろに何か道具を取り出す。

 

「…………ガラスカッター?」

「ああ、これがあれば、きっと……」

 以前、雄二がムッツリーニに借りていた物より三倍くらいは大きいガラスカッターだった。

 雄二がガラスにへばりついてカッターをこすり付けている。

 キィキィと言う甲高い音が部屋に響く。

 確かに、これは誰も居ない時じゃないと使えないな。

 

「くっ……なんで切れないんだっ!」

 ガラスを見ると傷一つ付いていない……結果は見るまでも無くガラスカッターの惨敗だ。

「雄二、それ何処で買ってきたのさ?」

「ネット通販だ。HPにアップされてるCMだと大統領専用車の防弾ガラスでも切れるって(うた)っていたからな」

 それは誰も試せないから言っていたのでは……そんな事にも気が付かないなんて雄二らしくないな。

 

「何で傷すら付かないんだっ!?」

 雄二がガラスを叩いている。叩いたくらいでは割れないだろう。

「ガラスより先に雄二がキレてどうするのさ?」

「そうだな。すまん」

 冷静さを取り戻したのか、ガラスの前であごに手を当てながら考え込む雄二。

 

「そろそろ戻らないとマズいんじゃ……」

 殺戮部隊が、いつお風呂から上がってくるか判らない。

「くっ……またしても目の前にあるのに退かなければならないとは……」

 雄二が悔しそうに呟きながら撤退を開始する。

 

 

 

--男子風呂前

 

「良いお湯でした」

「露天風呂って気持ち良いわね」

「あの開放感がボクは好きだなー」

「……楽しんでもらえてなにより」

 

「吉井君たちは、まだお風呂に入っているのかな」

 

「アキー?」

「なに、美波?」

「早く上がって一緒に冷たい物でも飲まない?」

「うん、ちょっと待っててね」

 

「……雄二」

……(あーあー)なんだ?」

「……今日は一緒に寝る?」

「悪い。今日は一人で寝たいんだ」

「……そう」

 

「ムッツリーニ君?」

「…………」

「あはは。やっぱりムッツリーニ君だと声が聞こえないね」

 

「木下君は、お風呂どうしたんでしょうか」

「わしなら、ここに居るぞい」

 

「「「「……っ!?」」」」

 

 

 

 

「作戦の建て直しをしなきゃな」

「雄二、諦めた方が良いんじゃ……」

「バカッ!このチャンスを逃すと俺は…俺は…」

「あれ?なんか、お風呂の前が賑やかだね?」

 女子がみんな揃っているな。お風呂上りだと、きっと色っぽいんだろうなぁ。

 あ、僕たちに気が付いたかな?

 

「アキっ!!」

「美波、髪を下ろしているんだ」

 美波が僕の方へ腕を横に広げて駆けてくる。

 まさか、みんなの前で僕に抱きつくのっ!?

 嬉しいけど……ちょっと恥ずかしいな。

 

「アキのバカーーッ!!」

「……っ!?」

 美波は僕に抱きつく事は無く、僕の横を駆け抜け様に横に広げた腕を僕の首へ……

 見事にラリアットが決まった。この衝撃は以前、雄二の召喚獣に姫路さんごと殴られた時以上だった。

 ……と、言う事は美波の攻撃力はダンプカー以上なのか。

 

 雄二も霧島さんにラリアットを喰らっていた。

 

 

 ガラッ

 

 ムッツリーニが風呂場の扉を開けると……

 

「あっ、土屋君!?中には、まだ木下君が……」

「んむ?ムッツリーニか。一足先にお風呂は頂いたぞい。後は身体を拭くだけじゃ」

 

 プシャァァァァァァ

 

「きゃぁぁ、ムッツリーニ君!?」

 

 結局、僕たち三人は……倒された。

 

 

 

「アキ、ごめんね」

「……雄二、ごめんなさい」

 僕は美波に、雄二は霧島さんに膝枕をしてもらっている。

 なんで、この二人は男である僕や雄二よりも攻撃力が高いのだろう?

 

「まったく、代表も美波ちゃんも早とちり過ぎるよ」

「そうですね。お風呂に居る筈の明久君たちが歩いてくる訳無いんですから」

「「……ごめんなさい」」

 雄二がお願いしていた、秀吉に返事をしてもらっていたのは、秀吉の悪戯と言う事にしてもらった。

 後で秀吉には御礼しないとね……一緒にお風呂に入る事以外で。

 

 結局、後でする予定だった勉強は、僕たちがお風呂から上がってきたら

 日付が変わる寸前だったので中止になって、そのまま寝ることに……

 部屋割りは、この前と同じく男子&秀吉部屋、女子部屋だ。

 

「アキ。判ってはいると思うけど、万が一にも何かあったら……」

「大丈夫だよ。美波は心配し過ぎだって」

「だって……坂本と木下が居るし」

 

「……雄二。私以外の人と何かあったら……」

「何かある訳無いだろ。男しか居ないんだし」

「……吉井と木下が居る」

 

「「ちょっと待てっ!何でこいつとっ!?」」

 お互いに相手の頬を指で突付いている僕と雄二。

 

「その姿を見ていると余計心配になるんだけど?」

「……雄二の一番の浮気相手は吉井じゃないの?」

 

「「こいつとだけは勘弁してくれっ!!」」

 

 

 そんなワケで就寝時刻。

 

 

--女子部屋での会話

 

『そう言えば、美波ちゃんは明久君と何処まで進んだんですか?』

『なっ、なによ。瑞希、いきなり!?』

『ボクも気になるな~』

『……お泊り会ならではの会話』

『二人の仲が少しは進んでくれてないと、私が身を引いた意味が無くなります』

『進むも何も……その……き、キスしたところまで……』

『……それは二人が付き合い始める前では?』

『付き合い始めてからキスしたのカナ?』

『した事はあるけど……その、ほっぺに……』

『美波ちゃんっ!全然進んでないどころか後ろに行ってるじゃないですかっ!』

『だって仕方ないじゃない。アキなんだもん……』

『吉井君は、そういうの奥手そうだもんね~』

『明久君は鈍感で女心が全く判ってはいませんけど……美波ちゃんがもっと積極的にならないとダメですっ』

『……瑞希のためにも美波が頑張らないと』

『……わかったわよ。うん、ウチ頑張るっ。みんなありがとね』

『……ところで愛子の方は進んでるの?』

『ふぇ、ボク?進むって何が?』

『決まってるじゃないですか。土屋君との仲、です』

『ええっ!?ボクもムッツリーニ君もそんな気は全然無いから何も無いよっ』

『ほんとにそうかしら?学校だと良く二人で一緒に居るじゃない』

『そうですね。何かイベントがあると二人いつも一緒になりますし』

『……愛子、隠し事は良くない』

『隠し事も何もホントに何も無いってば』

『向こうの部屋でも土屋君が何か言ってるかもしれませんよ』

『向こうでも、きっと土屋が尋問されているだろうし、素直になったほうが楽よ?』

『ホントに何も無いんだってば~』

 

 

 

--同時刻、男子部屋

 

「今からブリーフィングを始める。アテンションっ!」

 雄二が立ち上がって、いきなり指揮を取り出した。

 

「婚姻届を奪取するまで今日は寝れないと覚悟しておけ」

「もう諦めて籍を入れるべきじゃ」

「…………(コクコク)」

「だいたい雄二が持ってきた物は全然役に立たなかったじゃないか」

「ぐっ……それを言われると言葉が返せないが」

「だったら、もう諦めようよ。どうせ雄二に戻ってきた所で何も変わらないと思うよ?」

「それでも……俺は取り戻したいんだっ……俺の自由と未来をっ!」

「一応聞くけど、今度は何をするつもりなのさ?」

「あのガラスを物理的に破壊するのは俺たちには無理だ」

「それは良く判るけど……」

「だから、あれを開閉するスイッチを探す」

「「「ええっ!?」」」

 ただでさえ何処にあるか判らないスイッチなのに

 あんな殺人マシーンだらけの部屋で探すのっ!?

 

「雄二……そんな事出来ると本気で思ってるの?」

「当たり前だ。俺たちはFクラスの精鋭だぞ。不可能は無い」

 Fクラスって成績の悪い方から数えて一番目のクラスだよね?

 そんな物が何の根拠になるんだ。

 

「探しに行くって僕たち全員で探しに行くの?」

「いや、人数が増えると見つかる確率が上がるからな。俺と明久の二人だけだ」

「ちょっ、ちょっと待ってよっ!何で僕と雄二なのさっ!?」

「簡単な消去法だ。ムッツリーニは鼻血の危険があるから無理だし、それに他に気が散って探し物なんか出来ないだろ?」

「…………(コクコク)」

 こういった潜入作戦は僕よりムッツリーニの方が適任だと思うんだけどな。

 

「秀吉は万が一あいつらに見つかった時の言い訳を考えてみるんだ」

「言い訳とは何じゃ?」

「俺たちに襲われそうになって逃げてきたとか言ってみろ。俺と明久は明日の朝日を拝めないぞ」

「それなら僕が見つかった時は、なんて言い訳すれば良いのさ?」

「安心しろ。俺とお前は言い訳する間もなく殺される」

「全然安心できないよっ!!それに秀吉の言い訳と結果は一緒じゃないかっ!!」

 その場で殺されるか、後で殺されるかの違いだけだ。

 

「まぁ、それは冗談としてもだ」

 全然冗談に聞こえない。まるで予言を聞いているみたいだ。

 

「こういうのは俺と明久が行くのが一番確率が高いだろう」

 それは死ぬ確率なのでは……

 

「頼むぜ、相棒」

 ぽん、と僕の肩を叩く雄二。いつのまに僕が相棒になったんだ。

 

「じゃあ、あいつらが寝静まるまで適当にダベるか」

「そうじゃな、小一時間もすれば眠っておるじゃろう」

「…………お題は?」

「そうだな。この前は恥ずかしかった話だったから、今度は嬉しかった話にでもするか」

 それなら何回回ってきても良いかな。

 

「それじゃ、どうやって話す順番を決める?」

「またトランプで良いだろ。ハートが俺、ダイヤは秀吉、クラブがムッツリーニ、スペードが明久で良いよな」

「「「オーケー」」」

 

 ………………

 …………

 ……

 

「なんか納得いかないっ!」

 前回はスペードしか出なかったから僕だけが話した。

 今回はスペードだけ出なかったから僕だけ話が出来なかった。

 やっぱり途中から僕が引いたんだけど、それでもスペードだけ出なかった。

 僕はどこまでついてないんだろう。

 

「何で今度はみんなの自慢話ばっかり聞かなきゃいけないんだ……」

「明久のヒキが弱いからいけないのじゃろう」

「…………驚異的な弱さ」

「どうせ、お前の嬉しかった事って島田とのノロケ話だろ」

「そっ、そんなこと……」

 そんな事しか、ないかもしれない。

 

「いいから行くぞ、明久」

「うぅ、判ったよ」

「二人ともしっかりやるのじゃぞ。廊下から見ておるからの」

「…………面白いハプニング、期待している」

「ハプニングなんて冗談じゃないよ」

 おそらく何かあったら僕と雄二は生きて帰ってこれないだろう。

 

 光量を落とした電灯に照らされる、シンと静まり返った廊下を

 雄二と二人、忍び足で歩いていく。目的の部屋の前に着き……

 

(明久、準備はいいか?)

(大丈夫)

 

 ギィ…………

 

 なるべく音を立てないように静かにドアを開ける。

 誰かが部屋に居る時は鍵を掛けてないみたいだ。

 

(よし、明久。こっちだ)

(オーケー)

 

 先ほどの分厚いガラスの前に来た。

 問題は、これを開けるスイッチが何処にあるかだけど……

 

(ねぇ、雄二。これ何かな?)

(なんかあったのか?)

 僕が指をさしたその先には……

 

 【押すな(特に雄二)】

 

 と、書かれたプレートがあり、その下にはボタンがあった。

 さっき来た時は、このボタンの上のフタが閉まっていて壁と同化してて気が付かなかったのだろう。

 それにこんなプレートなんか無かったし。

 

(そんなの、あからさまに罠だろ。他のところを探せ)

(そうかな?)

 雄二が後ろを向いて歩き出そうとした時……

 

「明久、すまん」

「どうしたのさ?」

「この作戦は失敗だ……俺たちの未来もな」

「失敗なら、このボタン押しちゃっても良いよね?どうせすぐ逃げないといけないんだし」

 そう言って僕がボタンを押そうと伸ばした手を……ガシッと掴まれた。

 

「雄二、まだ止めるの?」

「明久君、何を止めるつもりなんですか?」

 あれ?明久……くん?

 

「ねぇ、アキ?どうして翔子と坂本の邪魔をするのかしら?」

「それは雄二に頼まれた……からで……」

 そうか……この部屋に侵入した時点で僕たちの運命は決まっていたのか。

 

「誰かっ、たっ、助けっいやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 僕は雄二と一緒に霧島さんの家にある雄二の部屋に招待された。

 

 

 

 そして翌日の昼過ぎ。

 霧島さんの家での勉強会を終えて美波と一緒に帰る途中……

 

「アキ。明日からの期末テストは大丈夫?」

「うん。今度はかなり自信あるよ」

 あれだけ勉強したんだし、教えてくれた雄二や姫路さんのためにも結果を出さないと。

 

「そっか……そうよね。ウチも頑張らないと」

 美波がグッと両手を握り締めている。そして……

 

「えいっ」

 いきなり美波が僕の腕に自分の腕を絡めてきて身体を寄せてきた。

 

「ふふっ。ウチにも出来る事で頑張らないと……瑞希のためにもね」

「姫路さんがどうしたの?」

「アキがもっと……ううん、なんでもない」

「?」

「そう言えばアキ、ちゃんと覚えてる?」

「なにを?」

「忘れちゃったの?ウチと葉月と三人で遊びに行こうって約束してたのに……葉月すごく楽しみにしてたわよ?」

「あっ……大丈夫、ちゃんと覚えてるよ」

 そう言えば、この前三人で帰る時に約束したっけ。

 

「『あっ』て何よ?」

 美波が腕の関節の周辺に力を込めてきているのが判る。

 

「あはは。やだなぁ、忘れる訳無いじゃないか」

「本当でしょうね?」

「……ごめんなさい。少し忘れてました。でもテストの事で頭が一杯で……」

「もぅ、ほんとにダメなパパね」

「へっ?パパ?」

 何かの暗号だろうか?

 

「なんでもないわ。それならテストが終わった後、ウチと二人で何処に行くか考えましょ」

「うん」

 テストが終わったら葉月ちゃんが喜びそうな所をちゃんと考えてあげないとね。

 美波の家が近くなって組んでいた腕が離れていく。

 心地好かった温もりが無くなると、寒さが一段と強くなった気がする。

 

「じゃあ、アキ。テスト頑張ってね」

「うん、美波もね」

 そう言って僕が振り向いて帰ろうとすると……

 

「あ、アキ。ちょっと待って」

「どうしたの?」

 

 美波が人差し指を自分の唇に当てて、それを僕の唇に……

 

「テストで頑張れるおまじない」

「う、うん。ありがとう」

「じゃあねっ」

 美波は走って帰っていった。

 

 さて明日からのテストは頑張らないと。

 

 

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