--校門の前の坂道
今日から12月、今年もあと一ヶ月か。
今年はいろんな事があったなぁ……などと、考えて歩いていると
「アキっ、おはよう」
「おはよう」
今日も美波が朝から元気な挨拶と笑顔を見せてくれる。
やっぱり今年一番の出来事は美波の想いと僕の想いがお互いに判って付き合い始めた事だよね。
「どうしたの?ウチをジッと見たりして」
「ん……今日も可愛いなって」
「アキったら、こんな所で……みんな見てるじゃない」
僕の腕を捻りながら顔を真っ赤にして照れる美波。
この光景も見慣れてきたなぁ……腕が痛いのには全然慣れないけど。
「美波?ちょっと痛いかな」
「あ、ごめんね」
そう言って捻っていた手を放すと……僕の左手を取って
「昨日の怪我、大丈夫?」
僕の左手を確認するように見ている。
「ありがとう。おかげですっかり良くなってるよ」
「あまり心配させないでよね」
そう言うと、今まで見ていた僕の手と、手を繋いでくる。
「うん、ごめんね」
美波の手から色々な温かさが伝わってくる気がする。
このままずっと手を繋いでいたいなぁ。
「そう言えば今日から12月ね」
「そうだね」
「アキは今年のクリスマスは何か予定あるの?」
「んー、特に無いかな」
去年はずっと一人暮らしをしてたから、あまりそういうイベントで特に何かをしていなかったなぁ。
クリスマスケーキとか一人だと大きすぎて食べきれないし。
僕の返事を聞くと美波が顔を輝かせて
「じゃあじゃあ……うちでクリスマスパーティーしない?」
「え、良いの?」
「もちろんよ。葉月もきっと喜ぶわ」
両手を上げて満面の笑みで喜んでいる葉月ちゃんを想像すると……なんか嬉しいな。
去年は一人だったから誰かと一緒にクリスマスを過ごせるなら嬉しい。
それが美波なら尚更だ。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
と、言い掛けた時にふと思い出す。
今年は一人じゃなかったんだ……姉さんの事、すっかり忘れてたよ。
「そう言えば、今年は姉さんが帰って来てたんだ」
「何言ってるのよ、アキ?もちろん玲さんも一緒に決まってるじゃない」
「良いの?」
「良いも何も、ウチだって葉月も一緒なんだし」
葉月ちゃんは良い子だから問題は無いけど……
姉さんは普段から問題だらけだし、万が一お酒でも入ったらと思うと不安で仕方が無い。
僕が無言になったのが心配になったのか、美波が不安そうに……
「アキ?どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
「ひょっとして……ウチと二人っきりでクリスマスのお祝いしたいとか?」
美波が頬を少し赤く染めて僕を見上げるように尋ねてきた。
「えっと……姉さんがまた変な事しないか、ちょっと心配してたんだよ」
きっと姉さんの事だ。僕にクリスマス用に赤いメイド服か、女性用のサンタ服を着せてくるに違いない。
「違うんだ……」
ポツリと寂しそうに呟くと美波は俯いてしまった。
でも繋いでいる手をぎゅっと握り締めてきて
「そう言えばアキ?美春のところでバイトする前に約束していたと思うんだけど……」
「うん?なんだっけ?」
「もぅっ!忘れちゃったのっ!?ウチ楽しみにしてるのにっ!」
繋いでいる手をブンブン振ってきた。
「わわっ、みっ、美波!?ちょっと落ち着いてっ!」
「何よっ!アキに喜んでもらおうと思ってウチも準備してるのにっ!」
「ふぇ?準備って?」
美波がいきなり手を振るのを止めて
「なっ、なんでもない」
顔を真っ赤にして、また俯いてしまった。どうしたんだろう?
でも忘れちゃった事は、ちゃんと謝っておかないとダメだよね。
「ごめんね。美波とした約束を僕がちゃんと覚えてないのが悪いんだよね」
「ううん。ウチも、ついカッとなっちゃって……ごめんね」
二人で互いに相手を見ながら頭を下げる。きっと傍から見たら変な格好に見えるだろうな。
「ふふっ」「ははっ」
二人で繋いでいる手を見て、お互いに笑い出す。
やっぱり美波は笑顔の方が良いな。
ところで僕は何を約束してたんだっけ?
--Fクラスの教室
……ガラッ
「「おはよう」」
美波と一緒に教室に来ても、今日は文房具の使い方を間違えて覚えてる奴も
黒装束で追いかけてくる奴も居ない。しかも普段は男だらけの教室が今日は……
「おはようございます。明久君、美波ちゃん」
「おはようじゃ」
今日も笑顔が可愛い姫路さんと秀吉が居て
「……おはよう」
「うーっす」
雄二と霧島さんが居て
「…………おはよう」
「おはよっ。美波ちゃん、吉井君」
工藤さんとムッツリーニが居て
これに僕と美波が加わって、男子三人に女子四人と秀吉一人か。
今日はすごく華やかで良いなぁ。
「愛子が朝から居るのは珍しいわね」
「この前ムッツリーニ君に撮ってもらった写真を取りに来たんだよ」
工藤さんが美波に写真を見せている。
「何の写真ですか?」
姫路さんが美波の見ている写真を覗き込んでいる。
「わぁ、可愛いですね」
「そうね」
「ムッツリーニ君の腕が良いんだよね」
女の子三人で、楽しそうに話しているのを見ていると
「……愛子。そろそろ時間」
「あ、もぅそんな時間なんだ。じゃあ、ボクたち教室に戻るね。ムッツリーニ君、ありがとう」
そう言うと霧島さんと工藤さんはAクラスに戻っていった。
「ねぇ、ムッツリーニ?工藤さんのところで何の写真を撮ったの?」
「…………犬」
「犬?」
「何だ、明久。犬も知らないのか?四本の足で歩いて、ワンと鳴くんだぞ」
「犬くらい知ってるよっ!」
「計算できる犬も居るらしいぞ。明久より頭が良いかもな」
僕を見ながら雄二が笑っている。すると美波が……
「坂本、失礼ねっ!」
「ん?なんで島田が怒ってるんだ?」
「アキの事をバカにするからよっ!」
「美波……ありがとう」
「アキは犬に計算で負けるかもしれないけど、可愛さなら負けないわっ!」
そう言って僕の頭を抱きしめてくれる。
良い匂いがして温かくて嬉しいんだけど……何故か涙が止まらない。
そんな話をしていると……ガラッと扉が開いて、鉄人がやってきた。
「よし、ホームルームを始めるぞ」
そして鉄人が僕と雄二を一睨みすると
「吉井と坂本。お前ら二人、このホームルームが終わったら俺と一緒に学園長の所に行くからな」
「「ええっ」」
「昨日の試召戦争の事で話がある」
「俺たちがなんかしたのか?」
「馬鹿者っ!あんな大きな穴を開けておいて、とぼける気かっ!」
うっ……やっぱり問題になっちゃったのか。
「あの、先生」
恐る恐る、といった感じで姫路さんが手を上げる。
「どうした、姫路?」
「昨日の試召戦争の事でしたら私たちも一緒に行った方が……」
「そうね。アキと坂本が何をやろうとしていたか、ウチらは知ってたんだし」
「そうじゃな。雄二と明久だけ処分されるのは納得できん」
「…………(コクコク)」
みんなが今にも鉄人に詰め寄りそうな雰囲気だ。
持つべきものは友達だなぁ。
「ちょっと落ち着け。学園長が二人に話を聞きたいと言ってるだけだ」
「まぁ指揮を執っていたのは俺だし、実行犯は明久だしな」
実行犯って……僕が悪い事をしたみたいじゃないか。
良い事をしたとは思ってないけど。
「じゃあ、行くぞ」
鉄人はそう言うと教室を出ようとしている。
「アキ……」
美波がすごく心配してくれてるのが痛いほど良く判る。
僕は出来るだけの笑顔で、大丈夫だよ、と言って教室を出る。
--学園長室
鉄人がドアをノックをしてから、「失礼します」と言って学園長室へ入る。
僕と雄二もその後に続く。中には学年主任の高橋先生も居た。
「やっと来たかい、クソガキども。あんまり待たせるんじゃないよ」
「そいつは悪かったな。棺桶で運ばれる前に間に合ったから良いじゃないか」
「雄二が部屋の中に偉そうに置いてある醜悪な妖怪の置物に話し掛けている」
「明久。声に出てるぞ」
「あれ?」
「あんな事をしでかしておいて反省一つしてないのかい、このクソジャリどもは」
明らかに僕たちの挨拶が気に入らない、と顔をしかめる学園長。
「ところで昨日の事で話があるって聞いているんだが?」
雄二が問いかけると
「昨日の事って簡単に言うんじゃないよ。床を壊すって事が、どれだけ大変な事か判んないほどバカなのかい」
僕と雄二をバカを見るような顔で見ている学園長。
くっ、このバカと同じ扱いをされるのは許せん。
「どうせ、あの状態じゃ一回壊さないと修理出来ないだろ。その手間を省いただけじゃないか」
「アンタらが修繕費用出してくれるのかい?それならアタシも文句言わないんだけどね」
「「……」」
確かにそんなお金を僕たちが持っている訳が無い。
「アンタらが、しでかしてくれた事で下げなくても良い頭をあちこちに下げないといけなくなったんだがね」
そう言って僕たちをまるで石にでもしたいってくらいの勢いで睨んでくる。
どうせ普段、人に頭を下げる機会が少なそうなんだから、こんな時くらいまとめてしておけば良いのに。
「でも試召戦争に勝つ為に仕方なくやっただけだ」
「そうですよ。僕たちが人数少ないのに戦争を仕掛けてくるから」
「試召戦争はあくまでも学力向上の為のプログラムの一つだよ。学校を壊してまでやれなんて言ってないさね」
「「ぐっ……」」
確かにテストとか自習とか、普通勉強に関連ある事で学校を壊すなんて無いよね。
「戦争とは言ってるが実際にはルールがあるし、何でも有りにしたら本当の戦争になっちまうだろう」
「確かにそうだが……それで俺たちをどうするつもりなんだ?」
「本来なら前科もあるから相当な罰を覚悟してもらう所だがね」
そう言うと、ちらっと鉄人の方を一瞬見る学園長。
鉄人の方は気にした様子もなく部屋に入ってきた時と変わらず直立不動だ。
「とりあえず吉井の召喚獣は年内一杯使用不可とし、坂本は準観察処分者扱いにするかね」
「「なんだとーっ」」
「こらっ、お前ら静かにせんかっ!」
部屋に入った時の挨拶以来の鉄人の発言。
「でも僕の召喚獣が使えなくなったら先生たちの雑用はどうするんですか?」
「アンタらが自分の身体を使ってするこった」
「アンタらって……ひょっとして俺も含まれるのか?」
「そうだよ。今さっき、準観察処分者に任命してあげたじゃないか」
「ぐっ……このバカと同じ扱いにされるとは……」
雄二が心底嫌そうな顔をしているけど……それはお互い様だ。
「とりあえず今年一杯の仮処分だがね。正式な処分は来年にまたするよ」
「「ええーっ!」」
「馬鹿者っ!お前ら、自分たちがどれだけ大変な事をしたのか、良く考えて反省しろ」
鉄人が僕たちを恫喝する。ただでさえ見た目が怖いのに……いろんな意味で。
「今日はとりあえずこれくらいかね」
「よし、お前ら早く授業に戻れ」
「ちっ、仕方ねぇ。明久戻るか」
「う、うん」
雄二と部屋を後にする。
「西村先生。忙しい所悪いけどFクラス全員のテストの今までの結果を集計したものを用意してくれるかい」
「はい、学園長」
「あと、高橋先生は各クラスのテストの平均点と最低と最高得点の集計をお願いするさね」
「はい」
「まったく普通の学校だったら、あの二人は間違いなく退学なんだが……この学校の成り立ちの関係上おいそれと退学者を出せないからねぇ」
「でも、この試験召喚システムのおかげで、あの二人の成績が伸びているのも事実です」
「西村先生、そうは言うけどねぇ。まさか学園初の観察処分者があんなにバカだとは思わなかったよ」
「学園長。単純に数字の上だけですがテストの点が伸びている生徒はFクラスに集中しています」
「そうなのかい、高橋先生。まぁ元々の点数が低いから伸びしろもあるんだろうが」
「はい。姫路さんは振り分け試験の時退席したので0点扱いでしたが、それを除くと点数が伸びた生徒の学年のトップ3は坂本君、島田さん、吉井君です」
「島田は帰国子女なので問題文が読めれば学力は高いと思われます」
「そう言えば、そうだったねぇ」
「吉井と坂本は試召戦争に勝つという目的でしょうがテストの時は頑張っています」
「ふむ」
「特に吉井は今回の期末試験の成績が著しく伸びています。何か良い事でもあったんでしょうが」
「おや、西村先生。その言い方だと何か知っているのかい?」
「いえ。生徒間の事には私は首を突っ込む事はしたくないので」
「ふむ。まぁいいさね。じゃぁ後の事はよろしく頼むよ」
「「はい」」
「さて、そろそろ出掛けるとしようかね。まったくクソガキどものせいで面倒くさいったらありゃしないよ」
--お昼休み
いつもの僕たち六人と霧島さんの七人で卓袱台を囲んでいる。
でも、いつもよりみんな元気がない気がする。
やっぱり僕と雄二が学園長に呼び出しをされたからだろうか。
「アキ。本当に大丈夫なの?」
美波が心配そうに聞いてくる。僕が戻ってきてから、これで三回目だ。
「たぶん大丈夫だよ。停学とか退学とか言われてないし」
「でも召喚獣が使用禁止って……試召戦争の時はどうするの?」
「明久は即補習室送りだな」
雄二が両手を縛られているため霧島さんに食べさせてもらいながら答える。
だんだん雄二の自由が無くなっている気がするけど……まぁ雄二だから良いか。
「うっ……勝負を申し込まれないようにしないと」
「大丈夫だろ。あれだけ派手にやったんだ。しばらく、うちに試召戦争を吹っかけてくるバカは居ないと思うぞ」
「そうじゃな。根本はしばらく立ち直れんじゃろうし、小山は風邪を引いて休んでおるだろうし」
「…………問題はDクラスくらい?」
そう言ってみんなが僕と美波を見てくる。
「なっ、なによ?」
「僕たちがなんかした?」
「なんかもなにも、おぬしらのせいでDクラスと試召戦争になった事があるじゃろう」
「…………(コクコク)」
「「うっ……」」
僕も美波も箸が止まってしまう。
「まっ、まぁ二人とも退学とかにならなくて良かったじゃないですか」
姫路さんが僕たちに助け舟を出してくれた。
本当にいつもお世話になってるなぁ。
「そうだな。退学だったら親も呼ばれてるだろうし」
僕の両親は今外国だから姉さんが呼ばれるのだろうか。
あの姉さんが学校に来たら……僕の平穏な学校生活は終わりだ。
……って、元々平穏な学校生活じゃないし、僕の退学で呼ばれるんだからどっちにしろ終わりだ。
姉さんに何をされるか考えるだけで恐ろしい……肉体的にも精神的にも。
「どうしたの、アキ?」
「これがバレたら姉さんに何をされるか、ちょっと心配してただけだよ」
「さっきも言ったが退学は無いと思うぞ」
「そうだと良いけど……」
「この学校は世間に注目されている試験校だからな。下手に退学者とか出したら評判はガタ落ちだ」
雄二はそう言って平然と霧島さんに御飯を食べさせてもらっているけど……心配だなぁ。
やっぱり御飯は楽しく食べたいなぁ。
--放課後
学校からの帰り道、美波と二人並んで歩いている。
「ねぇ、アキ。もしもよ?もしもなんだけど……」
「うん?」
美波が真剣な顔で僕の顔を見て
「アキが退学になっちゃったら……ウチも一緒について行くからね」
「ええっ!?
「もしもの話よ。坂本も言ってたけど親が呼ばれてる訳じゃないから退学は無いと思うけど」
美波が俯きながら僕と手を繋いでくる。
そして繋いでる手を見ながら……
「この手と手を繋げる距離にずっと居たいの」
「美波……」
「アキがなんと言おうと絶対ついていくからねっ!」
美波の真剣な目を見ていると……僕もしっかりしないとね。
「うん。ありがとう」
「ふふっ。アキならきっと判ってくれると思ってたわ」
美波は笑顔になって繋いでる僕の手に頬擦りをしてくる。
そう言えば、今朝美波が言っていた約束って何だったっけ?
清水さんのところでバイトする前に言っていたって……確か、何でも言う事を聞くって言ったような?
その時、美波は今より無理難題を言ってきた気がする。
「どうしたの?」
美波が首を傾げながら僕を見上げてる。
「今朝美波が言ってた約束ってなんだったかなぁって」
「まだ思い出せないの?しょうがないわね。アキが思い出すの待ってたらクリスマス過ぎちゃうわよ?」
「覚えていなくて、ごめんね」
ん?クリスマス?
クリスマスって言えば、今朝美波が二人っきりでとか何とか……
朝から夜までずっと二人っきりで居られれば最高なんだろうけど……
朝から夜まで?おはようからおやすみまで?
「ああっ!」
「どうしたの?いきなり大声出してビックリするじゃない」
「ごめん。でも思い出したよ」
「ほんと?」
美波が期待するような目で僕を見ている。これは絶対に間違えられないな。
「うん。美波が僕を一日自由にするって言ってたよね」
「アキっ!」
美波が繋いでいた手を放して、両手で僕にしがみついてくる。
「思い出してくれたのねっ!ウチ嬉しい」
「みっ、美波?みんな見てるよ」
いくら学校から離れてるとは言え、一応通学路だから多少は人通りもあるんだけど……
「あ、ごめん。嬉しくて、つい……」
美波が舌をぺろっと出して照れている。
でも美波がここまで喜んでくれるなら思い出せて本当に良かった。
「アキが思い出してくれて良かった……ウチも準備してる甲斐があるわ」
「準備って?」
今朝も言っていたような?
「ウチ、クリスマス楽しみにしてるからアキも楽しみにしててね」
「うん」
美波の満面の笑みを見ていると今年のクリスマスは良い事がありそうな気がする。