「「「ごちそうさまでした」」」
美波も葉月ちゃんも僕が作ったお昼御飯に満足してくれたみたいで良かった。
「葉月は、お兄ちゃんとお出かけする準備してきますっ」
そう言うと、とととっと駆けて行った。
「じゃあ、僕はお皿を洗っちゃうかな」
「あ、お皿はウチが洗うわ」
「美波は午後も頑張るんでしょ?少し休んでなよ」
「でも……」
きっと自分の家で御飯を作ってもらって、その片付けまでしてもらうのは気が引けるんだろうな。
前に美波が朝御飯作ってくれた時に僕もそうだったし。
「僕は美波のお手伝いをするために来てるんだよ?遠慮なんてしなくて良いよ」
僕が笑顔でそう言うと
「そっか……そうよね。アキはウチのために来てくれたんだよね」
自分で言った言葉を噛みしめるように頷きながら僕を見る美波。
さっきまでの不安一杯の心配してた顔から何か吹っ切れたような……
とにかく、笑顔になってくれて良かった。
「じゃあ、アキが出かけるまで傍に居ても良い?」
僕の服の裾を引っ張りながら美波が見上げるようにお願いしてくる。
「うん。それで美波が頑張れるなら」
「ありがと」
美波がはにかむような笑顔を見せてくれた。
そして僕はお皿を持ってキッチンの方へ……
僕がお皿を洗っていると……いきなり美波が僕の背中に寄りかかってきた。
「わわっ、美波。どうしたの?」
「傍に居て良いって、アキ言ってくれたじゃない……邪魔になっちゃうからダメ?」
「そんな事は無いよ」
「じゃあ、良いわよね。こうしてると……すごく落ち着くの」
僕も美波が傍に居てくれるって感じられるから嬉しい。
何より美波が僕の事を頼りにしてくれてるって思うと……ずっとこのままでいたいな。
そして洗い物が終わったのでお湯を止めて……と。
「美波。終わったよ」
「うん」
返事が聞こえて、美波がスッと背中から離れていく……背中の重みが無くなってすごく寂しい。
「アキ。ちょっと耳を貸してくれる?」
「なに?」
美波の方へ耳を突き出すように顔を近づけると美波が小声で
(葉月の事、頼むわよ)
(了解)
僕が軽く一回頷くと、微かにシャンプーの良い香りがして……僕の頬に柔らかくて温かい感触が……
「アキの事、信じてるからね」
美波が笑顔で頬を少し染めて片目を瞑ってみせる。
僕は温かい感触があったところを手で押さえて、「うん」と言うのが精一杯だった。
僕と葉月ちゃんは出掛ける準備をして玄関に居る。
美波も僕たちを見送るために一緒に居る。
お昼御飯の時に見せていた心配してる様子が、今の美波には見られない。
「じゃあ、買い物に行ってくるね」
「お姉ちゃん、行ってきますっ」
元気よくドアから出て行く葉月ちゃん。僕もすぐに行かないと。
「いってらっしゃい…
「うん、行ってきます……って、何か言った?」
「ほら、早く行かないと葉月待ってるわよ?」
『バカなお兄ちゃん、早くですー』
「あ、うん。行ってくるね」
笑顔の美波に見送られて僕は出掛けた。
僕が外に出ると、葉月ちゃんが待ってましたとばかりに僕の手を取って
「えへへー。今日はバカなお兄ちゃんと手を繋いで歩くんです」
僕と手を繋いですごく嬉しそうな葉月ちゃん。
「葉月ちゃん、寒くない?」
「大丈夫ですっ。お兄ちゃんと一緒にお出かけ出来て楽しいですっ」
にこにこと笑顔で返事をしてくれる。ここまで喜んでくれると僕も嬉しくなっちゃうな。
「ありがとう。僕も葉月ちゃんとお出かけ出来て嬉しいよ」
「葉月も早く大きくなってお姉ちゃんみたいにバカなお兄ちゃんと腕を組んで歩きたいですっ」
「楽しみに待ってるね」
えっと……葉月ちゃんは今11歳くらいかな?
そうすると今の僕や美波くらいになるのはだいたい6年後か。
6年後を想像してみる…………
…………
……
「バカなお兄ちゃんっ。葉月と腕を組んでくれるって約束したよね?」
高校生になって身長も伸びた葉月ちゃん。
僕が良く見慣れた文月学園の制服を着ている。
手足がすらっと長くて、身体全体のバランスがモデルみたいにすごく綺麗だ。
勝気な吊り目が印象的で髪型は相変わらずツーテール。
そして今にもどこかに向かって全力で走り出しそうな元気な雰囲気。
…………でも、お姉ちゃんと一緒でごく一部だけ成長があまり見られない。
「お兄ちゃん、どうしたんですか?」
大きな吊り目で僕の顔を覗き込んでいる。
葉月ちゃんの可愛い顔がすぐ近くにあったので、僕は思わず
「わわっ、葉月ちゃん近付きすぎではっ!?」
少し後ずさりしてしまう。
「もぅ!葉月が大きくなってもバカなお兄ちゃんは全然変わってないですっ」
頬をちょっぴり膨らませて、怒ってみせる葉月ちゃん。
昔と変わらず、怒ってる姿も可愛らしい。
「ごめんね。葉月ちゃんが大きくなっててちょっとドキドキしちゃったんだよ」
僕がそう言うと葉月ちゃんが胸の前で指をもじもじさせ、頬を赤らめ少し俯いて上目がちに
「あ、あの……お兄ちゃん?」
「どうしたの?」
「葉月が大きくなっててドキドキしたって……ほんとですか?」
「うん」
僕が返事をすると、パッと花が咲いたように笑うと……いきなり僕に抱きついてきた。
「ありがとうっ、バカなお兄ちゃんっ!!葉月嬉しいですっ!」
そして僕の胸に頭を押し付けてきて、そのままぐりぐりと……こういうところも変わってないなぁ。
「ふふっ。バカなお兄ちゃんは全然変わらないです」
僕の胸に頬擦りをするように顔を押し付けてきて……ほんのり香るシャンプーの良い匂い。
「初めて会って葉月を助けてくれた時からずっと変わらない……優しい匂いです」
勝気な吊り目を潤ませながら僕の方を見上げると
「お兄ちゃん……」
と言って目を閉じる葉月ちゃん。
「わわっ、葉月ちゃん!?僕には美波が……」
「お姉ちゃんですか?」
「うん」
ひょっとしたら、6年後には僕は美波と結婚してるかもしれない。
でも僕はともかく、美波は多分進学してるだろうから……まだ早いかな?
「昨日、バカなお兄ちゃんはお姉ちゃんを泣かしてたから別れたんじゃないんですか?」
何をいまさらと言った表情で僕に返事をする葉月ちゃん。
「ええっ!それほんとなのっ!?」
何をやっているんだっ!6年後の僕っ!?
「はいです。昨日お兄ちゃんと別れた後、お姉ちゃんは家を出て行っちゃったです」
葉月ちゃんが僕に抱きつきながら衝撃的な事を次々と言ってくる。
「だから……これでバカなお兄ちゃんは葉月のものですっ」
そう言って、また目を閉じてくる葉月ちゃん。
そんなバカな……これから、きちんと告白しようと思ってたのに。
あんなに美波も僕も楽しみにしてたのに……
こんな将来が待っているなんて……
葉月ちゃんに抱き締められたまま僕が呆然と立ち尽くしていると
背後から、いきなり……すごく聞きなれている声が聞こえてきた。
「葉月っ!何適当な事言ってるのよっ!?」
「あ、お姉ちゃん」
「『あ、お姉ちゃん』じゃないわよ」
……この声は美波だ。僕が後ろを振り返ると……
そこには紺色の女性用スーツに身を包んだ今よりもちょっと背の高い美波が居た。
ポニーテールじゃなく、髪を下ろしていて大人の女性として綺麗になっていた。
元々すらっとしてて長かった手足もタイトな服装のせいだろうか。
更にほっそりと見えている分…………胸がすごく成長しているように見える。
でも確か未来の召喚獣の時に胸パッドとか入れてたからなぁ。
成長してるとは思いにくいんだけど……
「アキっ!アンタ何処に行ったのかと思ったら……まさかこんなところで葉月と抱き合っているなんてっ!」
「ちょっ、ちょっと美波?何が何やら……」
「昨日アキがやっとウチにプロポーズしてくれて一緒に暮らすようになったのにっ!」
「えっ!そうなのっ!?」
と、言う事は美波は僕と別れて泣いてたんじゃなくて嬉し泣きだったんじゃ……
「そうよ。それで西村先生にウチらの結婚の報告に来たのにアキは会いたくないって逃げちゃうし」
そりゃ普段から近寄りたくないのに卒業したら、わざわざ会いになんて行く訳無いよなぁ。
「ずっと前にアキとウチが付き合うようになって……アキがやっと約束を果たしてくれたのに」
僕は何を約束したのだろう?
「そのアンタがなんでここで浮気してるのよーーっ!」
スッと美波の姿が見えなくなったと思ったら……
いきなり、あごにすごい衝撃が来て僕の身体は少し宙に浮き
そのまま美波が僕に全身を使った締め技を……身体中が密着してる分、嬉しいんだけど
全身の骨が
…………
……
「バカなお兄ちゃん?大丈夫ですか?」
気が付くと葉月ちゃんに服の裾を引っ張られていた。
「ごめんね。ちょっと考え事をしていて……」
想像の中だけど僕は美波にプロポーズしていたな……
でも、僕の想像と言う事は心のどこかにそういう気持ちがあるんだろうか。
「バカなお兄ちゃん。なんでお姉ちゃんに謝っていたんですか?」
「えっ。そうなの?」
「はいです。すごく一生懸命謝ってたです」
葉月ちゃんが不思議そうな顔で僕を見上げている。
手を繋いでいる相手が、この場に居ない相手に謝っていたらビックリするよね。
「ごめんね。僕がちょっと頼りなくて美波に心配掛けちゃうかなって思っただけだよ」
そう言って頭を撫でてあげると目を細めて喜んでくれて……
「葉月はお姉ちゃんもバカなお兄ちゃんも大好きだから二人も仲良くしてくれると嬉しいですっ」
満面の笑みで僕に話しかけてくれる葉月ちゃん。
「でもバカなお兄ちゃんは葉月のお婿さんなんだからお姉ちゃんとばっかり仲良くしちゃ嫌ですっ」
「ははっ。ごめんね」
「いつか葉月とも腕を組んでくださいです」
僕の手をぎゅっと握り締めてくる小さな可愛い手。
「葉月ちゃんがもう少し大きくなったらね」
「約束ですっ」
にこにこと笑顔で歩き出す葉月ちゃんに遅れないように僕も歩き出す。
「葉月ちゃんは夕飯何か食べたい物はあるかな?」
「何でも美味しいからお兄ちゃんにお任せですっ」
そんな会話をしながら二人で手を繋いでスーパーへの道を歩いていった。