そして食事も終わり、食器を洗うからと言う理由で
やっと僕はメイド服から解放された。
僕がキッチンで洗い物をしていると……
「玲さん、この後、アキをお借りしてもいいですか?」
「ええ、良いですよ。美波さんなら、お持ち帰りしても良いですよ」
「本当ですか?ありがとうございます」
「でもアキくんに可愛い格好をさせるなら私にも教えてくださいね」
「はい、わかりました」
「楽しみですね」
ちょっと待ってっ!僕の人権や拒否権はどうなってるのっ!?
あと可愛い格好って何?
メイド服以外にも何かあるのだろうか……そんな心配をしながら
洗い物が終わり、手を拭きながらリビングへ戻ると……
「アキ、悪いけどウチに付き合ってもらえる?」
「うん、いいよ」
美波と一緒に居る時間が増えるなら
むしろ僕のほうからお願いしたいくらいだ。
とりあえずさっきのお持ち帰りの話は忘れておこう。
「じゃあ、そろそろ失礼させて頂きます。お土産ありがとうございました」
「アキくんがご迷惑をお掛けすると思いますがよろしくお願いしますね」
「はいっ、頑張ります。アキよろしくね」
「うん」
すると姉さんが僕に紙袋を持たせてくれた。
「美波さんへのお土産です。何処かに忘れないようにするのですよ」
「わかったよ。じゃあ美波行こうか」
「うん、では失礼します」
「また遊びに来てくださいね」
姉さんに見送られて僕と美波は家を出た。
「ところで美波?僕と一緒に何処に行きたいの?」
「あのね……行きたい所がある訳じゃないんだけど、今日はアキとずっと一緒に居たいなぁと思って」
真っ赤な顔で俯きながら指をもじもじさせている美波。
「やっとウチの気持ちをアキに伝えられて……そしてアキに好きって言ってもらって……」
「うん」
「でも……二人っきりで居られたのって、すごく少なかったから……」
すごく寂しそうな顔で呟くように……
そう言えば、今週は二人っきりだったのって学校からの帰りくらいかな?
その学校から帰る時も僕に補習があったりして一緒に帰れなかった事もあったし……
後はいつも誰かしら傍に居たからなぁ。
「そうだね。僕も美波と一緒に居たいし……今日は美波が好きなだけ付き合うよ」
「ほんとっ!?アキっ、ありがとっ!」
ぱぁっと笑顔になって腕を組んできた。
「玲さんもウチなら良いって言ってくれたし……お持ち帰りしても良いって言ってたわよね」
「えっ……僕、今度は美波の家でメイド服着るのっ!?」
「それも良いけど……今日は葉月もお母さんも居るから二人っきりには、なれないわよ?」
「メイド服を着るところは否定してくれないんだ……」
「だって可愛かったんだもの」
手を口に当てて、くすくす笑ってる美波。
「じゃあ、今日はこのまま歩いていこうか」
「えっ?ずっとこのまま?」
「うん、美波と一緒に居れれば僕はそれで嬉しいし……美波は何処か行きたい所はあるの?」
「ううん、ウチもずっとこうして居れれば……」
美波が組んでる僕の腕に頭をもたげかけてくる。
ちょっと恥ずかしいけど、休日だからなのか人通りも少ないし……
何より僕も嬉しいから、このままでも良いかな。
この道は確か、この前美波に付き添ってもらって行った診療所に行く道だから
ショッピングモールの近くに行くんだっけ。
「そう言えば昨日葉月に結婚式の写真見つかっちゃったんだけど」
「うん」
「そしたら、あの子、お姉ちゃんばっかりずるいですって怒っちゃって……」
「葉月ちゃんもそんな事で怒るなんて可愛いね」
葉月ちゃんが、ぷぅっと頬を膨らませている所を想像したら可笑しくなってしまった。
「笑い事じゃないわよ?」
「そうなの?」
「うん、今度アキにあったら自分もウェディングドレス着させてもらうんだって言ってたわよ?」
「きっと可愛いだろうね。でも葉月ちゃんに合うサイズってあるのかな?」
チャイナ服はすぐ作れるムッツリーニでもウェディングドレスは難しいだろう。
……時間があれば出来そうな気はするけど。
「アンタ、本当は葉月と結婚するつもりなのっ!?」
「いだぁぁぁぁぁぁっ、ぼっ、僕の左手がっ!?」
美波が僕の左手をぐるっと一回転するまで捻っている。
「アキってば最近葉月と妙に仲が良いと思ったら……」
「みっ、美波だけだよっ。ずっと隣に居て欲しいのはっ!」
「本当?」
「本当に本当だよっ」
「いいわ、信じてあげる」
このまま捻られて腕を引っこ抜かれるかと……
僕の腕をお持ち帰りする気だったんだろうか。
しばらく歩いていると……
「アキっ!ほらっ、可愛いわよ?」
ペットショップの前で美波がウィンドウ越しにペットを見ている。
どれどれ……ポメラニアンとかヨークシャーテリアとか可愛いな。
「可愛いけど……ウチの家じゃ飼えないなぁ」
「そうなの?」
「そうよ。昼間はいつも誰も居ないし……一人ぼっちじゃ可哀想よ」
そっか。そういう事なら、うちも飼えないなぁ。
僕も一人だと寂しいし。
「でもウチにはアキが居るし……ずっと一緒に居てくれるんでしょ?」
「うん、もちろんだよ」
「でもアキは躾けるの大変そうね」
「ちょっと待ってっ!?僕ってペットなの?」
「そうね、アキって小動物っぽくて、御飯を食べさせてあげてる時すごく可愛かったし」
あーんをしてくれてたのって餌付けだったのか……
「ふふっ、冗談よ。アキはウチにとって、かけがえの無い大切な人よ」
そう言って、また腕を組んでくる。
組んでもらってる腕が暖かくて心地いい。
「でもじっとしてないし……やっぱり首輪くらいしてた方が良いのかな?」
気のせいか最近美波の僕への扱いが、霧島さんの雄二への扱いと似てきた気がする。
そしてショッピングモールの入り口が見えてきた。
「あっ、アキ?ちょっと寄って行きたい所があるんだけどいい?」
「うん、いいよ」
美波と腕を組んだままショッピングモールに入って行き、少し奥の方の店へ……
ここは何の店だろう?
お店の中には粉末っぽい物や植物の破片らしき物が入ったケースが所狭しと並べられており
なんか色々な匂いがするけど……
「ねぇ、美波?ここは何のお店なの?」
「アキも良くお世話になっているところよ」
美波に手を引かれて店の奥の方へ……
僕もお世話になっている?ここに来るのは初めてなんだけど……
商品説明のカードに書いてあるのは何語だろうか?
なんか見慣れない言葉の横には……唐辛子の絵が何個か描いてある。
そして美波が見ている棚においてある商品にはドクロマークが描いてある。
物凄い寒気が……
「ねぇ、アキ?どれが一番効きそうかな?」
「効くって?」
恐る恐る聞いてみると……
「アキが一番食べたくないって思う物よ」
まさか、ここって……自分で拷問を選べとっ!?
「ねぇ美波……これってひょっとして僕が食べるのかな?」
「そうよ。アキが悪い事したらね」
結局、美波はドクロマークが三個描いてあった香辛料みたいな物を買っていた。
一口で三回死ねると言う意味だろうか。
……未来の僕、辛いだろうが耐えてくれ。
店を出て少し歩いていくと……
むっ、これはバカの気配っ!?
ヤバい……美波と腕を組んでるところをクラスのバカに見つかったら
また朝からマラソンをする羽目にっ!!
そんな事を考えながら、きょろきょろと周りを探っていると……
「アキ?そわそわしてどうしたの?」
美波が心配そうに声をかけてくる。
「静かに……バカの気配がする」
「バカ?」
美波が頭に『?』を浮かべて僕を指差していた。
多少は自覚があるけどそんなハッキリ、と思いながらガックリしていると……見付けたっ!
携帯電話のショップの前に……そいつは立っていた。
ライオンのたてがみの様な髪型。
野性味溢れる顔立ち。
頭の悪そうな雰囲気。
間違いない……僕の大敵、雄二だ。
「あれ……坂本?」
あ、美波も気が付いちゃった。
と言う事は……
「ん?明久に島田……学校だけじゃ一緒に居るの足りないのか?」
くっ……よりにもよって一番倒しにくいヤツに会うとはっ!?
でも今は僕より攻撃力のある美波も居るし、二人がかりならアイツを始末出来るかも?
そう思っていると携帯電話のショップから一人の女性が出てきて……雄二の腕にしがみついた。
「……雄二、私を置いていくなんてひどい」
「お前のせいで、こんな所に来る羽目になったんだろうが」
雄二が、しがみついてきた人のおでこをコツンと軽く叩く……霧島さんだった。
「明久を登録するたびに携帯を壊されるんだぞ。お前の名前、新手のウィルスじゃないのか?」
「雄二は存在がウィルスじゃないかっ!」
「なんだとっ!?」
「なんだよっ!?」
僕と雄二が互いに掴みかかろうとした時……すごい力で引っ張られた。
「アキっ!ウチの目の前で坂本と抱き合うつもりっ!?」
「……雄二、私の前で吉井と浮気は許さない」
「「この状況で何でそんな事が……うぎゃぁぁぁぁぁ」」
僕は肘関節を決められて、雄二がアイアンクローをされている。
いつもの事ながら雄二と居ると、ろくな事が無い。
雄二たちと別れてショッピングモールの二階へ行く途中
美波は不機嫌そうだった。
二階に上がって美波に引っ張られるように小物を扱っているお店へ……
「美波、何か欲しい物があるの?」
お店の中を何かを探しているように歩いている美波に話しかける。
美波が欲しがっている物があれば、それをプレゼントしたら機嫌をなおしてくれるかもしれない。
「ちょっと写真立てを……」
そう言って美波が立ち止まり、写真立てを手に取って見ている。
ムッツリーニから貰った写真は何枚かあったから僕も一個くらい買っておいた方が良いかも?
僕も手に取って見ていると美波が
「アキも買うの?」
「うん。せっかくだから、、この前の写真を何枚か飾ろうかなって」
「じゃあじゃあ……アキもウチと同じ写真立てにしてくれる?」
「うん、いいけど……なんで?」
「もぅ、ほんとにアキは鈍いんだからっ」
ぎゅーっと頬をつねられる。
「いひゃい」
「少し反省しなさい」
しばし頬をつねられ続けた。
でも……笑顔だったから機嫌直してくれたのかな?
美波と同じ写真立てを買ってショッピングモールを後にした。
美波を家まで送っている途中……
「ねぇアキ?」
「なに?」
「もしも……もしもよ?」
「うん」
「もしも……玲さんにウチとキスしたのが知られたらどうなるのかしらね?」
「うーん、相手が美波だったら……チュウされる程度で済むかなぁ」
「アキっ!?」
いきなり首を真横に向けられた。
「いたたたた、美波いきなりは痛いよ?」
「いい、アキ?実のお姉さんとそういう事をしちゃいけないのよ?」
「僕もやりたくはないよっ!」
「あと……相手がウチだったらって、ウチ以外の人ともするつもりあるのっ!?」
「なっ、ないよっ!」
可能性としては姉さん以外まず無いだろう。
その姉さんが一番心配なんだけど……いつ襲われるか。
そして美波の家の前まで来て……
「あ……」
美波がふっと視線を逸らす。
「どうしたの?」
僕も美波が見ている方へ視線を向けると……
「隙ありっ」
美波がそう言うと……頬に柔らかくて温かい感触が……
「アキ?ウチ以外の人に隙を見せたら怒るからね?」
「う、うん」
頬を押さえながら返事をすると……
「また明日学校でねっ」
そう言って美波は走っていった。
家に帰るまでに火照った顔が戻るかなぁ。
……ガチャッ
「ただいまー」
「お帰りなさい、アキくん……あら、その袋は何ですか?」
「あ……」
家を出る時、姉さんに渡された紙袋を
何処にも忘れないようにしっかりと抱きかかえたままだった。